●リプレイ本文
高尾の山は霊峰と言えども、決して高くはない。麓から頂上まで道なりに行けば、一刻半もあればつける程度である。
しかし、山の本尊以外にも、修行場は点在し、この源徳長千代が一心不乱に流水に打たれている琵琶滝は、高尾山中興の祖、俊源大徳師は琵琶の音に誘われて不思議な老人に出会ったという修行所で、俊源大徳師以来、ここで熱心に修行する者には滝の音が琵琶の音に聞こえるという。
ムーンリーズ・ノインレーヴェ(ea1241)はこの山に入って以来、風の息吹を感じていた。
「楽器の音色と言えば、月の精霊力とも縁が深いのか? それとも単なる伝承なのでしょうか? 何にしてもこの山は風の精霊力が強い── 。にしても尋常ではありませんが」
「残念だが、風と契約したのは後はあなたとアルルだけだ── そろそろ、長千代君が上がる頃だ
応えるコトセット・メヌーマ(ea4473)はいつ群がるか判らない敵に警戒しつつ、周囲の警戒。
「あ、左門さん、長千代君が風邪をひくといけませんから──」
「お心遣い有り難うございます」
修行場に直接は入れない、アルル・ベルティーノ(ea4470)は柳生左門という、滑るような白い肌と、女性のように美しいかんばせを持つ長千代の侍従に、体を拭くための乾いた布を大量に渡しつつ、周囲に充ち満ちた風の精霊力に高揚を隠せなかった。
逆に長千代の褌一丁に、鉄扇を挟んだだけの格好の、肌が良く灼け、14、5歳に見える外見の少年は、お年頃のアルルには少々目の毒だったかもしれない。
ルーラス・エルミナス(ea0282)はそんな少年の褌姿にいささか懐かしげな感情を喚起される。
左門がやんわりと肌を拭おうとするのを拒み、長千代は自ら肌を強めに拭いつつ、岸にあがる。
真っ先に鉄扇に油を塗る長千代君にルーラスは── 。
「どうした、この鉄扇がそんなに珍しいか? 俺の恩人たる奥山休賀齊からの形見の品なのだが?」「いえ、違います。長千代様、私が面白いと思ったのはその褌の方で」
「様はいい。何か、面白そうな子細が── 」
「イギリスです。アーサー・ペンドラゴン王が君臨なさるイギリスでの事ですよ」
、と言ってルーラスは、円卓に連なる騎士達の話と、街の暮らしぶりを語り、ジャパンに来てどの様な文化の違い驚いたか伝える。
「もしキャメロットへ参られましたら、この様な事に驚かれると思います」
「それでは褌を見た時の変化とは結びつかないな、まだ話半分なのだろう?」
「ええ、そうです。ですが、少々お付き合いください。
乗馬しての突撃を主眼とする、キャメロットの騎士の戦い方と、それを最大限に活かすべく生まれた流派、騎乗を活かしたウーゼル流の技を話す。
「故郷のキャメロットでは、ウーゼル様の名を頂く技を伝えています」
ルーラスは山中に馬を連れてこられない事で悲しげに呟き。
「ウーゼルの真髄は騎乗での戦闘で発揮されます。正に騎馬一体」
そして、多数対一を主眼としたジャパンの流派の技の方法論の違いを語り、その上で、ジャパンの品が、キャメロットでは珍妙に取られている事を語ります。
「本来はノルマンからの輸入品の筈なのですが、高名な騎士の方々もつけ、フンドーシと、ネギと言えば、ジャパンの代名詞となった感があります。男も女も、老いも若きもフンドーシを身につけ、その美を誇ります」
「男の褌は白無垢でいいではないか? 最後に己を包むものだ、その心の様に白くあるべきだ」
「ああ、イギリスではその様に考えないのであります。あ、ムーンリーズ、あなた木の芽を摘もうとするのはやめてください。命あるものは平等に慈しまれるべきです」
その言葉に、ムーンリーズは、森の様子を見、土地勘を頼りに植物の群生などを見ながら食用に成りそうな野草は摘む手を止める。
「‥‥私達エルフに取って森とは、母であり、また最愛の相手なのですよ」
「その母親の体を摘もうというのですか、浅ましい魂胆ですよ」
「と、まあノルマン人とイギリス人には差がありまして。いえ、人とエルフの間には深くて長い溝がありまして」
「あ、僕‥‥そういう話知っています」
少年シフールのアルフレッド・アーツ(ea2100)が高尾山の地図をまとめつつ(無論禁所はあるのだが、そこは聞かせてもらえる範疇で、地図を作った。しかし、青竜大権現を本尊とする蛇滝水行道場という滝に関しては、自分と同年代に見える山伏の少年太郎坊から、頑として出入りを止められた。出入りできる自信はあったが、NO−MAPPINGと書き込まざるを得なかった。中から虎? らしい吠え声がしたのも一因だろうか?)、以前に彼の体験したエルフのカップルにまつわる話を切り出し始めた。
「一昨年の秋の事でした。‥‥60年越しの恋の話が実ったのは‥‥‥。
昔々‥‥と言っても60年ぐらい前ですけど‥‥
エルフの女性と少年がいました‥‥。
女性は人間で言うところの30歳ぐらいで‥‥少年はまだ10歳ぐらいでした‥‥」
尚、この部分はアルフレッドの勘違いで── 10代半ばが正確である。
「その時、彼女は家督争いに巻き込まれて‥‥ひどく疲れていました‥‥。
それは‥‥どこかに身を隠したい‥‥と思うぐらいでした‥‥。
そこに‥‥彼は‥‥若さで‥‥情熱的に愛を囁き続けました‥‥。
すると‥‥彼女はある氷穴へ彼と赴くと‥‥。
『私と同じ歳になっても‥‥60年経ってもまだ同じく私を愛してくれるのなら、その時迎えに来てください』
と遺して‥‥自らを氷の中に封じました‥‥」
手段は流れのウィザードのアイスコフィンであるが、そのあたりの事情はつまびらやかではない。
「彼は‥‥エルフ‥‥人間の3倍の時を生きます‥‥。
でも‥‥エルフと言えども‥‥60年は長いのです‥‥。
しかし‥‥彼はそれでも何時までも‥‥彼女のことを思い続け‥‥愛し続けました‥‥。
60年間‥‥待ち続けたのです‥‥。
そして‥‥時が流れて60年‥‥。
少年は大人になり‥‥社会的な地位も財産も手に入れ‥‥彼女を迎えに行き‥‥氷の中から救って‥‥。
その場で‥‥結婚しました‥‥60年越しの恋が実ったのでした‥‥」
「それは── いい話だな。俺も恋をした事はないが、愛する相手を60年も待ち続ける事など出来はしないだろう」
「私も60年経っても、愛する人を待ち続けられる、そんな者になりたいものです」
ムーンリーズは誓いの指輪を愛おしげに撫でると話を切り出した。
「長千代君はパリや、キャメロットで高名なファンタスティック・マスカレードと言う怪盗をご存知ですか?」
「名前と悪魔関連で動くという事は風の噂で聞いた」
「そうですか、それなら話は早い。かの君は顔を隠して人目を忍んでいるのですが、実に会話や所作が洗練された素晴らしい方で、私も彼の君と数多くの冒険を共にしたのですがね‥‥」
そこまで言ってムーンリーズは声を潜めて── 。
「彼の君もやんごとなき身分の方でしてね」
── 低めた声を元に戻すと。
「中々の腕前を持っているのです‥‥彼には良い仲間が沢山おりましたよ。
ホリィ嬢などそれはたおやかで麗しい方でした‥‥おっと話題がそれましたね、しかし命を賭しても彼の君を救う勇気を持っている素晴らしい方でしたよ」
と、愛おしげな笑みを浮かべる。
「‥‥ですから、私は長千代君も、彼の君の様に良い仲間を沢山見つけて欲しいのです」
「仲間か、俺も秀康兄君となら、一緒に冒険に出ても良いと思っている。あ、もちろん左門も一緒だ」
トール・ウッド(ea1919)はそろそろ自分の頃合いだろうと、巨躯を乗り出す。
彼が語り出すのは依頼人の父親の形見の竪琴に取り憑いたポルターガイスト退治&謎解き。
「『我が最愛の息子ファラへ、私は旅先の村で病にかかり、もう助からないそうだ。
いつか私の墓を訪れることがあれば、形見の竪琴を受け取ってくれ。
我が生涯最高の曲を残す。
♪空色兵士は西に井戸掘れファラと見ろ‥‥♪』」
さっぱり判らない、先の読めない展開に一同は引き込まれる。
「オレにはさっぱり分からなかったが仲間が謎を解いたよ。
ジャパンでの音階は『ハニホヘトイロハ』‥‥。それを西洋の音階、ドレミに置き換えると『ソララシファラシドレシレラドミレファラソミシ』
置き換えると依頼人の父がジャパンに渡って音楽を勉強し、ジャパンの文化を取り入れた曲、『オリエンタルメロディー』が‥‥不思議な雰囲気な曲だったよ。
ま、ポルターガイスト退治はおまけだったな」
「それは弾いてみたいな。音階── えーと、確か、こうだったな」
と、荷物から横笛を取り出した長千代君は、横笛の穴を押さえつつ、音を出していく。
「音階なんて、初日に師匠から聞いて、笛を弾くのに必要あるか── と、2日でその師匠を叩き出して、後は即興で、笛を弾いていましたから── 理論面に疎いのですよ、長千代君は」
と、怪訝気なロックハート・トキワ(ea2389)と、レジエル・グラープソン(ea2731)に説明する左門。
ようやく、ドレミとイロハの違いが判ったらしく、エキゾチックなメロディーを奏で出す。
「そうだ、この曲だ。冒険をしているとこんな事もあるのか── だが、報酬は負けられんな」
唇を綻ばせるトール。
「では、イギリス人の番ですね── 去年の暮れごろに悪魔がらみの依頼を受けたのですが、その話でもいお聞かせいたしましょうか?」
レジエルが一同の感慨が終わったのを確認して、話を始める。
「場所は農場なのですが、そこのお嬢さんが『アムドゥスキアス』という、イギリスにも10体ほどしかいないという、高位の悪魔の笛の音で強制的に踊らされるという連絡がギルドにもたらされたのです」
「それは悪魔のする事にしては滑稽だな」
「いえいえ、急ぎ農場に向かいお嬢さんを助けようとしたのですが、笛の音に邪魔をされて容易には近づけませんでした。なんとかアムドゥスキアスを引き摺り出して笛を破壊したのですが、それだけで悪魔はおとなしく引き下がるような相手ではないわけでして、15人がかりで何とか撃破したのです。あれはホントに死ぬかと思いました‥‥」
トールは呟く。
「死ぬような目か── その程度で珍しい話とは思えないな」
「当事者の言葉ですから── 」
レジエルの物語に左門がフォローを入れる。
「過日は失礼。私は、<星の探求派>は『破魔の炎』、コトセット・メヌーマ。
ノルマンでモンスター退治に纏わる日々を過ごしていた。
軽く、挙げるなら、トロル、ミノタウルス、オーグラなど。
1体で村を全滅させうる。
しかし、これらより質の悪い魔物がいる。
既に他の者から話を聞いているかもしれない。
『デビル』
人を殺めるのではなく、人に殺めさせようとする。
私の任務は魔物を捉え、これを破する為に動く事。
直接彼等を倒す術を持たず、勇者を見出し、力を託してきた。
ジャパンに渡ってきても変わらない。
私が『破魔の炎』である限り‥‥」
「うーん、宗教とかそういう話? 宗教は心の支えになっている内はいいけど、心を支配するようになると、やっぱり、悪魔と変わらなくなってくると思うんだ。ま、左門みたいに女の形しているけれど、心根は勇者っていう奴もいるだろうけれど」
「ま、微妙に違います故、そのあたりはご安心を」
ロックハートは悪魔、かと。呟いて最後に語り出す。
「まあ、ノルマン、巴里で受けた依頼。ギルドで【破滅の魔法陣】天に星、地に花というタイトルで記録されている話なんだけど。
そこから、ジャパンにはあまりいないであろう上級デビル、『アスモデウス』を討伐した話。その背景は一つの街を壊滅させることも可能な、『破滅の魔法陣』の発動を阻止した話になるかな。
まあ、人から‥‥魔王殺しと呼ばれても‥‥斬った覚えはないのだがな‥‥」
他人に託した愛剣は確かに斬ったのだが。と青年は遠い目をする。
「あまり詳しく話すと、余計な事も話してしまいそうなので‥‥いや、確かに結果は思っていた以上に成功したけどな? ‥‥人に話しづらいことなんだ。
破壊の魔王とか自称していた上級デビル『アスモデウス』。
――みっつある首の、ひとつからは炎は吐き、その腰布の下には毒蛇を隠し‥‥神聖魔法黒で武具を破壊し、デビル特有の魔法で炎の結界を作り攻撃を無効化して、一度受けた魔法は全て無効化する魔法で、己の身を鎧う為、一撃必殺に全てを賭ける羽目になった。
とまぁ、こんな奴を仲間と倒したことがある。デビルについて語り出すと人を堕落させかねないので、俺の口からは此処までだ、とでも」
帰り道、頃合いを見てアルルが話を切り出す。
「私を本格的に冒険の世界へ引き込んだ方のお話ですわ。
初めてお会いしたのは故郷セーヌ川が見える教会。
囚われの身の花嫁を救出に向かった時の事です。
相手は貴族ですし、盗賊団を装って式に乱入したんですよ。
教会の外では日本刀や、氷の魔法が舞い衛兵を失神させていき、中では呪歌が響き渡り騎士との戦いが始まりましたその中には、夢想流のジャパンの剣術も見られましたわ。鬼十郎という名前なのに、とてもたおやかな女性の方──。
ともあれ、隙を見て何とか花嫁を救出しほっとしたのもつかの間。
その花嫁は聖遺物専門の怪盗だったのです。
教会の挙式で使われる聖遺物を狙っていたのです。
それに気づき、止めようとした仲間の攻撃も見事な体術でかわされ盗まれてしまいましたわ
以降、私は捕まえる為、と言うより彼の事が知りたくて追い続けました
変装と体術、スクロールを駆使し『誰も傷つけず』を貫く彼に尊敬の念も持つくらい‥‥」
言ってアルルは悲しげに目を伏せる。
「おかげで冒険者仲間以外にも素敵な出会いが沢山あったんですよ。
ノエル君っていう弟みたいな男の子、いまは雲の上でがんばってると思うわ。
それに彼の意思を継ぐ人達もいるんです、確かジャパンの方もいらっしゃいましたわ」
「雲の上か‥‥相当敬虔なジーザス信者だったのだな。異国の話を聞きたいと言って、心の傷を抉ってしまってすまない」
た長千代が頭を下げる。
「あ、すいません。誤解なさる様な言い様をして、ノエル君って天使だったのです。一番下っ端のロー・エンジェルという階級だそうですけど、きっと会えたら、長千代君とはいいお友達になれますよ」
そう、我々はエンジェル達の良い友でなければならない、とコトセット。
「エンジェルか一度── ‥‥」
と、長千代君が言い出しそうになるのを一生懸命押さえる左門であった。。