●リプレイ本文
アイーダ・ノースフィールド(ea6264)と、イリア・アドミナル(ea2564)は冒険者ギルドに掛け合って、自分たちが冒険者ギルドから来たものだという事を証明する書類を作るよう要請したが、冒険者ギルドの対応ははかばかしくなかった。
「── そういう書類を作っても、相手が信じるかが疑問です。何しろ紙に書いただけですから」
「でも、何もしないよりはいいと思います‥‥」
イリアがそう語るが、一方のアイーダはそっけなく。
「で、書くか、書かないか?」
「偽造を防ぐための方法を何か考えないと、冒険者ギルドを騙って、悪事を働く輩が出る事が十分に考えられますので、時間を下さい」
「時間ですか? 今、一番欲しいものですけれど」
どうやら、イリアの交渉は無駄になりそうであった。
「じゃあ、旗貸してください。ギルドの旗を── 依頼をギルドから正式に請け負った請負人として、スムーズに事件を解決する義務がギルドにもあるはずです」
「無事返還して下さいよ── 」
イリアはずっしりと重い、古びた旗竿を渡されて、たじろぐのであった。
「どうだイリア、一筆はもらえなかったみたいんだな。ま、ドンマイ、ドンマイ」
ラシュディア・バルトン(ea4107)がひたすら明るく、そして、それに正比例するかのような自己への嫌悪の中で、旗竿を受け取る。
身はウィザードなれど、心は騎士故の、女性への奉仕精神からであった。
「しかし、こんなものを抱えていては、重すぎて魔法は唱えられないな、コンビを組む身だ。持っていてやるか」
アイーダがそこに割って入り。
「馬はこちらのに乗っていかないか? 旗竿もどうにかなるだろう」
「いや、こちらの驢馬に。どうせ同じ事だ── しかし、そろそろ春だが、山はまだ寒いのかねぇ」
と、クルディア・アジ・ダカーハ(eb2001)が促す。
そして、高尾山について行動開始。
馬を預けると、雪はなく、芽吹く時を待っている木々のみが、冒険者を待ちかまえていた。
刀根要(ea2473)が桃色の淡い光に包まれると、愛鳥の羽生に指示を出す。
「羽生、先に十郎防を探して飛んでください」
と念じるが、羽生からの返答は── 。
「十郎坊それは誰だ?」
「だから、烏天狗の‥‥駄目ですか。修験者に化けているし、そもそもどこにいるか判らないでしょう── 過大な期待を寄せすぎましたね」
予め足には、羽生の足には自分達がこれから向う事。作戦行動の概要。接触したいとの旨をを手紙にしたためてあったが、
「似顔絵でも描いてもらうのでした」
要は苦笑いを浮かべつつ── 。
「烏天狗ですか、懐かしいですね。那須の白狼神君様に烏丸の事知っていてくれると嬉しいですね。
最近、那須には私は近寄れないですから、せめて結界破壊や鬼、九尾に関るなら蒼天十矢隊の一人としての活動をしたいと思います」
緋邑嵐天丸(ea0861)は要のその曰くありげな、発言を聞いて── 。
「ずいぶんと派手な活躍をしてるじゃん。ま、話は後で聞かせてもらうぜ」
風を司るイリアとラシュディアは、その会話の中、霊山高尾のむせ返る様なパワー、有り体に言えば、膨大な風の精霊力を感じていた。
残念だが、炎の志士である日向大輝(ea3597)はその息吹を感じ取れず、勇んで山道で修行途中の山伏などに異変や怪しげな連中がいないか、聞いて回っている。
その中で、嵐天丸少年の方をちらっと見て、
(十郎坊‥‥俺と同じくらいか小さかったらお前も苦労してんだなの意味で肩叩き。
大きかったら‥‥・、まぁ、いつものことだし気にしないさ)
と苦笑を大輝少年は心の中で浮かべる。そして── 。
むしろ年下より同い年のほうが気になるよな、背だけじゃなくて体つきも二回りは違うし‥‥。
嵐天丸少年の逞しい肢体を見て思うのだった。
(どうして、俺はこんなにちっちゃいんだろう‥‥)
「あっしに今出来る事を、全力でやりやしょう」
一方で、以心伝助(ea4744)は結印と詠唱の後、ポンと煙に包まれると立派な山伏姿に姿を変えていた。
「しかし、困ったものだ。十郎坊殿の位置が判らぬとはな── 知らせてくれてから、行っても良さそうなものを‥‥」
ラシュディアが冒険者ギルドの旗竿を立てて山中に歩み出ると、単なる修行者達が何事かと集まってくる。
営業と勘違いされたようだ。
一方で、大輝少年は聞き込んでいる山伏のひとりに、それは十郎坊の事かと、問い返される。
「そうそう! 十郎坊から依頼を受けてきたんで、今、どこにいるか探して居るんだ、俺たち」
「それは本当か、確かめてもらうぞ。何、手荒な事はせん。少々霊力をふるうのみだ。ナウマクサマンタバサラタセンダマカロシャダソワタヤウンタラタカンマン」
不動明王の真言を唱えると黒い淡い光に包まれて、山伏は大輝少年の頭に数珠を翳す。
「なるほど、冒険者ギルドから依頼を受けてきたというのは本当のようだな。青竜大権現を本尊とする蛇滝水行道場という滝を探すと良い。大抵は天狗に追い払われるが── そう言えば、この前も異国のシフールが追い払われていたな。そこに行けば霊山の守護者たる天狗の眷属に会えるだろう」
「ありがとう、これで楽になれるよ」
「山の主、天狗が呼んだのなら、女人とて、お山には入れよう。修行場に女性は禁物だがな」
「うん、今回は特別だね」
言って走り出す大輝少年。
「おやおや、これは大輝少年のボン、どういたしやした?」
突然、見慣れない山伏から伝助の声で話しかけられた大輝少年は一瞬身構える。
「いや、忍法でげすよ。人遁の術と言いやして── 」
「いいなぁ、そんなに大きくなれるなんて、俺も忍者になれば良かった」
「忍者が良いことばかりとは限りやせんよ」
「そうそう、修験者の人に蛇滝水行道場っていう滝の場所を聞いてもらって── そこに十郎坊に会えるみたいだよ」
「判ったでやす。じゃあ、そこで落ち合いましょう」
言って伝助は他の山伏を捜して、ついでに情報収集に乗り出す。
大輝少年は麓の仲間と合流すると、修行者達からも蛇滝水行道場の位置を聞き出すのだった。
一同が落ち合ったのは滝から、結構手前の位置であった。
立ち入り禁止と大書された立て札がいかにもいかめしい。
ラシュディアは冒険者ギルドの旗を振る。
「十郎坊さん、冒険者ギルドから来た。顔を出してくれ」
しばらく間を置いて、滝の中から、白狼天狗(初めて見る者が多かったが、要が説明してくれた)が太刀を片手に現れる。続けて修験者の少年が出てくる。
それを見た大輝少年はちょっとがっかりする。
(やっぱりそういう事か── 140はあるんじゃないか)
ともあれ、ギルドで報告のあった様に葉団扇を片手に携え、空いた手には錫杖を携えていた。
「大山伯耆坊に変わり、この場を預からせてもらいます。高尾山の十郎坊と申します。江戸からようこそいらっしゃいました」
と、囂々とした滝の大音量に負けぬ声で答えを返す。
「住み家はこの滝の裏の洞窟となっております。ご面倒をおかけしますが、水を止める技はなき故、濡れながらお入り下さい。
── 一同が山道を下り、大質量の水に打たれながら、滝を潜ると、そこは開けた空間であった。
ラシュディアとイリアはその空間が風の精霊力の溜まり場であることを認知する。
ヒカリゴケか、天井のあちらこちらから光が提供されるのを見て取れる。
そして、どうやって木材を運び込んだものか、小さな屋敷がその空間の一隅にあるのを視認した。
「あそこに、そのとある“もの”があります。風神、長津彦からあえて、この地に収まる様に命じられた方でして」
「風神か── 嵐の一字を背負う俺としては気になるじゃん。天狗に対しては色々興味があるんだぜ人間から天狗になった聖職者等の話もあるし、『人間から天狗になれるモノなのか?』」
「いいえ、天狗は天狗として生まれて天狗として死んでいきます」
「ふーん、何か奥歯に物が挟まったような感じじゃん。ま、初対面じゃしょうがないか?」
「人間が間違って天狗になるという事はありませんよ」
「どういった魔法が使えるんだい」
「オーラを少々。大山伯耆坊様は天の霊力をいささか使えますが。またこの天狗の葉団扇にはストームの魔法が込められてひと扇ぎすれば突風が巻き起こります」
「すげーな! 貸してくんない、やっぱ駄目か。じゃあさ、空飛び回るのってどう言う感じなんだい」
「疲れますね。やっぱり、走る位には── 」
「ふーんそんなものか」
嵐天丸少年が興味津々と言った感じで鼻の下をこする。
要も──
「皇虎宝団についての情報はどの程度あるのでしょう?」
と、十郎坊も確認を取る。
「虎など聞くと那須・上州で活動した虎獣人を思い出しますが彼等は殲滅したと聞いてますしね、彼等の活動藩がわかれば潜入をこれ以上増やさないように監視できそうですね」
「あちこちの修験に縁の深い霊山を求めている様です。それも白虎を求めて。もっともこれも廻国修行をしている行者からの話なのですが」
イリアも十郎坊に訪ねる。
「封印を開放する危険を考えているのでしょうか、教団の考えは判りませんが危険ですね」
神と聞いてもアイーダとイリア、それにラシュディアは西洋人らしく割り切って要は風の上位精霊か。と、神は聖なる母と、大いなる父、そして異教の阿修羅しか認めないいう世界観で割り切った。
大いなる力を持った精霊を崇拝するという心理は判らないでもないが、世界創造に関わった訳ではない。
「方というからには人格があるのですね?」
イリアが人間の領域ではない、という事にいささかの興奮を感じながら訪ねる。
「太田道灌の前に敢えて姿を現し、彼が達成しようとしていた四神相応を完全にするよう敢えて高尾の山と街道の守護者となられた── 白虎の白乃彦(しらのひこ)様です」
声を潜めるように十郎坊が囁く。
「皇虎宝団── だから白虎。何だトラキチか‥‥」
ちょっとがっかりしたように大輝少年が肩を落とす。
「単に太田道灌に封じられた白虎を解放しようとするのか、それともその先に何かあるのか? それは判りません。
ただ大山伯耆坊様の余命幾ばくも無い時に白虎の白乃彦様まで去られては、この風の精霊力と、それで封じているものが‥‥いえ、これ以上は人の領域ではなく、長津彦様よりこの霊地の掌握を預かった自分たちの職域。皆様がたのお力をお借りするわけには行きません
語りつつ、屋敷に通されると、西洋人達も靴を脱いで、板敷きの床に上っていく。
大広間の一隅を紗で囲い、ミトラの香が焚かれた一角から声がする。
「江戸からのご一行か、老体故この様な形で失礼する。大山伯耆坊だ。我が身の不甲斐なさ故、巻き込んでしまい申し訳ない」
「いやー、『皇虎宝団』四神相応の封印を解こうとする連中が出てくるなど‥‥今、ジャパンで何が起ころうとしているのでしょうか?」
ラシュディアが明るく訪ね、更に自己嫌悪を深くする。どうしようもない連鎖。
「おそらく。最初の千年紀が終わり、新たな時代の幕開け。それは光に生きるものにとっても、闇にいきるものであっても変わりはないのだろう」
一方でアイーダは滝の外で、良きパートナーの愛鳥ヘイゼルに周囲の警戒を命じている。しかし、怪しげな鳥を捕まえろという命令は可能でも、虫を捕まえろというのは流石に性分に合わなかったようだ。
デビル対策を考えていたが、デビルではヘイゼルが頑張っても、傷ひとつつけられない。
傷を付けられなければ警告しろとも命令したが、これも複雑すぎる命令だろう。
(デビルが『四神相応』を狙っています。『皇虎宝団』にも関わっているかも知れません。お気を付けて)
と、他の四神相応の事件に関わっているらしい(詳細は依頼人の関係で教えてもらえなかった)彼女の友人である神聖騎士を務めているシグル少年からその様に警告を受け取ってはいたが、デビルが虫に化けて接近してきてもそれを見切る目は彼女にはない。
隣に太刀を携えた白狼天狗が無言のまま番をしているが、その実力の程は判らない。
互いに自己紹介も、何もしていないが、とりあえず連帯意識というものは自ずから芽生えてきた。梓弓に矢をつがえたまま、しばしの時間が経つが、皆は聞きたい事は聞いた。十郎坊を介して修験者に助力を請える、という線で話は終わったらしい。
それからしばらく、一同はあちこちの修行場を訪ねては、自ら不動明王の化身たらんとする修験者の、話を訪ねて回った。そして、見慣れない顔はいないか首実検する。
そこで伝助が役に立つ。
また、人遁の術で姿を変え、畏怖堂々たる武家上がりの修験者を演じる。
「安全の為に宝を他所に移すらしいが、我々は敵の目を欺く為しばしこの場の警備を続けろとの事だ」
といった怪情報や── 。
「宝の移送は烏天狗殿が江戸で雇った冒険者に委任したそうだ」
等々虚実入り乱れた話をもっともらしく話す。
もっとも伝助の忍法の未熟さ故、あまり長い間、会話は続けていられず、早々に会話を切り上げざるを得なかったが、これは仕方のないこと。
そして、廻国修行の最中だという30人ばかりの集団が、蛇滝水行道場近くの山小屋に集まると、柿色の衣装に姿を変え、蛇滝水行道場(一同が場所を聞き回っていたのが裏目に出たようだ)近くを捜索しようとする。
BOMB!!
忍者がある岩に触るとそこから舐めるような炎が吹き出し、周囲の皇虎宝団を襲う。
予めイリアとラシュディアが、忍者の集結をブレスセンサーで察知し、火の精霊魔法を覚えたての大輝少年が全ての魔力を振り絞ってファイヤートラップを十数カ所、設置しておいたのだ。
しかし、相手もさるもので、とっさに片手で印を組み、呪文を唱えると一瞬の内に炎の間合いから離れる。
微塵隠れの術だ。
しかし、それを契機としたかの様に、滝の上からは、アイーダが次々と矢の雨を降らせ、滝を突破して、クルディアが野太刀と十手という破壊と盾だけあればいいというスタイルのままウォーくライをあげて飛び出してくる。
出鼻をくじくかの様にラシュディアも高速詠唱の二乗でトルネードを2連発する。
霊力あふれる土地だけあって威力も上がった様な気がする。
天狗の隠れ屋敷に3人いた白狼天狗も変幻自在の太刀はこびから空中からソニックブームをぶちかます。烏天狗6人は戦力的に問題有りという事で、十郎坊の指揮の下、滝を突破された場合の最終防衛線として滝のすぐ内側に詰めている。
それに気を良くした滝から飛び出したクルディアが相手が返し技を放つのが楽しみで、一気に間合いに突入。
しかし、その忍者は高速詠唱で煙に包まれると、自分を中心に大竜巻を発生させる。忍法の竜巻の術だ。全身をカマイタチでズタズタに切り裂かれた挙げ句、紙切れの様に空中に放られ、背中から地面にたたきつけられるラシュディア。
しかし、不敵な表情をその瞳に宿らせて、立ち上がるが、相手はもはやそこにはいない。ソニックブームの追撃を受けつつ、滝を離れて森の中へと入っていく。
「忍びの者か‥‥想定外だったな。ちっ、こちらと同じ土俵で戦わない汚い連中め。デビルはいないのか、デビルは鬼霧雨の錆にしてやる!」
デビルならもっと、正面切って戦わないだろうが、戦う事を── 特にデビル相手にというのを期待していた身には拍子抜けであった。
おまけに手傷まで負わされる。
忍者たちにより、大輝少年の設置したほとんどのファイヤートラップの罠が発動したが、魔法そのもは発動しても相手は術で相殺、もしくは逃走といったパターンを繰り返す。
嵐天丸もソニックブームにスタンアタックを上乗せして放つが、相手も闘気を練ることに長けている集団である。ダメージらしいダメージを与えられないままでは気絶するチャンスは無かった。
それは伝助も同じである。相手の速度に追従しても余裕で木剣と小柄の双頭のスタンアタックは耐えられてしまうのだ。
要も相手の攻撃を受けきって、そこからパワーチャージで押し倒したが、相手は倒れたと思った瞬間に微塵隠れの術で爆炎を浴びせながら、100メートルの彼方に消えてしまう。
イリアが逃げを打つところへアイスブリザードを淡い青い光に包まれながら発生させるが、相手のほとんどは相殺する。
しかし──
「‥‥セカンドアイス」
大輝少年がアイスブリザードが止んだ所へ飛び込み、チャンバラを始めた忍者を、続くアイスコフィンで凍りづけにしてしまった。
「しかし、五行星呪符の結界に反応が無いという事はデビルの眷属ではない── ?」
クルディアは戦いが終わると欠伸して、もちろん骨などは折れたままであり、ポーション等での回復は欠かせなかったが、アイスコフィンの2時間後の解凍を待つ。
「しかし、白狼天狗も戦いぶりをみていると、楽勝で倒せそうだ。ま、あの3人が全員でかかってくるなら話は変わるがな。だが、しかし十郎坊の聞くところでは天狗の技もブラインドアタックだそうだ。俺のこの目なら、十二分に見切れるし、それに老いぼれの杖など痛くも痒くもないだろうな──闘気を込めた攻撃なら話はまた話は変わるがな。単純に立ち会いなら俺の方が天狗より上じゃないか?」
そして、2時間後、解凍され、アイスコフィンの封印が解けた瞬間──忍者は舌を噛み切った。アイスコフィンで一瞬にして封印しようとしたが、魔法を耐えきられてしまう。
そのまま気道に舌は縮み込んで忍者は窒息死する。
結局、ブレスセンサーの検知では29名の忍者を逃がし(戦闘ではなく、逃走用に特化した集団だからというのが要因としては大きいが)1名の忍者を自害させるという結果に陥った。
苦笑いする十郎坊。何とかこの場はしのいだ。後は時がくるのを待つだけだという。
それが何の時かは明かされなかったが。
その時までの時間稼ぎには十分らしかった。
「小太刀だけで戦うのには── そして、今度本当にデビルが来た時の布石として」
と十郎坊は小太刀で果敢に戦っていた大輝少年に一降りの無銘の小太刀を渡した。
触るとしっくりとなじむ感触。まるで手が吸い付くかの様である。
「自分たちは闘気が使えますから── でも、あなたの使うファイヤートラップの術は受けや仕掛けをする為の術の術でしょう。武人として戦うには生中な大降りの武具よりも、体格上、そちらの方がいいかと思いまして」
「ひょっとした、霊刀ってヤツ?」
「ええ、そうですね、そうなりますか」
「ありがとう。この礼は忘れないよ」
正式の武家の正式な礼をして大輝は小太刀を受け取る。
「白虎には会えないのかな?」
嵐天丸は興味津々に訪ねる。
「ひとりで風の精霊力溜まりの制御を行ってますから、会って気を散じられると困りますので、ご遠慮下さい」
「タイミング悪いな、全く残念だ」
十郎坊の説明には何でもこの風の精霊力溜まりは、昔は陰陽師に渡す式神として扱われるエレメンタルビーストの養成に使っていたという、もちろんその陰陽師は“風神”長津彦縁の家系に限られるが。
単純に魔力の源泉としての価値もあるのだろう。
要は十郎坊に訪ねる。
「やはり、この山の天狗様はもう先が長くないのか?」
「そうですけれど、そうではありません」
「禅問答か?」
「天狗は永遠に生き続けるのですよ。ジーザスの教えでは、兄弟殺しの汚れた者の末裔。仏陀の教えでは餓鬼道に落ちた者」
そして、紗の奥から大山伯耆坊の重々しい声が聞こえてきた。
「しかし、それでも我らには誇りがある、六道の辻から外れた天狗道を生きる者としての誇りが」
そして、紗を通しても見える赤ら顔と大きな鼻を大輝に向けて。
「童よ、どうか願わくば語り伝えて欲しい。天狗道には天狗道なりの誇りがある事を」
「俺は子供じゃない。でも、小太刀と共にその誇りは共にあるよ、たぶん、きっと」
そして、一同は高尾を後にした。
クルディアは結構居た── どころか保存食を持ってこなかった者に自分の持ってきた保存食を時価で売りつけ、利ざやを稼いでいた。
街道を進んでいく一同の前には、ついに相まみえなかった白虎に守られた江戸の町が横たわっていた。
白虎は道の守護者であるという伝承を大輝は思い出した
これが大山伯耆坊の最期に関わる冒険の最初の顛末である。