●リプレイ本文
ウェス・コラド(ea2331)思いては──。
ギルドにいるとよく思うことだが‥‥、50匹の鬼に襲われたことよりも、相模から江戸まで来なければすがる相手がいないということに同情を禁じえない。
「‥‥なんにせよ仕事を持ってきてくれるというのは喜ばしい事だ。冒険からしばらく遠ざかっていたからな‥‥」
言いつつ愛馬、アローヘッドに跨って移動する。
「モンスターなどに名前をつけて怖がってる暇があったら、もっと早くに助けを請えばいいものを‥‥」
ウェスがひとりだけ飛ばし気味になるものを、馬足を押さえさせて、エルリック・キスリング(ea2037)は皆と、歩調を合わせさせていた。
エルリックは愛馬、トゥルーグロリー号の後ろにアリエス・アリア(ea0210)を乗せていた。最初、エルリックはアリエスを女性と勘違いしていたのだ。
アリエスは、その量感たっぷりの赤毛と、面立ちは如何にも少女めいて見えた。
「村を助けたい、その思いは強くあります。
ですが、だからこそまずは全力で人喰鬼を射抜き、止めて見せます。
容易な相手ではない事は判っています、けど、村の人々を助ける為にも、必ず‥‥依頼を果たして、私の願いも叶えるんです」
誤解はピアレーチェ・ヴィヴァーチェ(ea7050)からの突っ込みがあるまで、続いていた。
まあ、もっともエルリックも聡明だ。一緒に乗れば気がついた事であろうが。
ともあれ、最初に救援を訴えに来た使者の先導で一同は寺から一里ばかり離れた林に愛馬達を繋いだ。
鋼蒼牙(ea3167)は、愛馬の十字の馬面を撫でて。
「しばらく待っているんだぞ」
と声をかけ。神楽聖歌(ea5062)は──。
「安全を確保しないと‥‥」
と、恵果の手綱を木に結びつける。
一方、石動悠一郎(ea8417)は疲れた足を大地に投げ出す。
亀五郎も、駿四郎も自宅に置き去りにしてきたのだ。セブンリーグブーツという魔法の支えで強引に馬の足についてきたのだ。
陸堂明士郎(eb0712)は堂々と、愛馬、飛龍乗雲に乗ったまま村に向かうつもりのようだ。備えのない歩兵であるオークに対して蹂躙戦を挑むつもりだろうか?
「みんな、揃ってるー? うん、オッケー!」
悠一郎が跳ね起き、しばしの休息の後、ピアレーチェが指差し確認。
「じゃあ、レッツゴー!」
使者は村の地理を詳しく説明すると、一同の足手まといになるまいと、馬の番に徹した。
一同は出陣する。
「命に貴賎は無い、と思いたいが全てを救えると思うほど自惚れてるつもりもなし、出来る事をやるだけか」
悠一郎は呟いた。
村を見下ろす形の寺院に繋がる石段は僧兵達の死体(損傷が激しいのは、やはり“食われた”からであろうか?)で埋め尽くされていた。
「烏合の衆でも、これだけ数がいれば、慢心もするか──」
そう、ウェスは結論づけると、寺門を遮るようにして、豚鬼が5匹ばかりいるのが見えた。
後ろでエルリックが松明を照らし出し、戦場を明るく照らし出す。
ウェスが一瞬で褐色の光に包まれ、結印と共に、呪文を成就し終えると、オーク達は石畳もろとも空中に舞い上がり、次の瞬間落下してきた。
「次はこちらだぜ!」
蒼牙が闘気を高め、予め高めておいた闘気のまま、闘気の固まりをオークに叩きつける。
「あなた!」
聖歌は豊かな胸を揺らしながら、明士郎が手にする、己が闘気を付与した胴田貫が閃くのを見た。
この一連の騒動によって、中庭まで進入していた人喰鬼達が、豚鬼達に任せていた防御ラインが突破されるのを知り、境内にその巨躯を露わにする。中央に十尺棒を両手にそれぞれ構えた卯狩。左右には巨大な斧を己の体で隠して現れた、巣刈と核矢である。事前の情報がなければ、体で隠していた得物が何であるかさえ判らなかっただろう。
卯狩の巨躯目がけてアリエスがキューピッドボウに3本の矢を番えて、射放つ。
両手に持った棒でそれぞれ受け止めようとする卯狩であったが、アリエスの矢の鋭さには適わず、直撃を受けてしまう。しかし、アリエスの非力さ故、深刻なダメージにはならなかった。
「これが、非力な弓の持つ鋭さ‥‥」
しかし、卯狩が迫ってくるのを蒼牙は気を練りつつ見やりながら──
「あれが人喰鬼か‥‥しかし、この距離なら!」
と裂帛の気合いと共に淡い桃色の光に包まれながら闘気の固まりをぶつける。
「やはり筋肉ダルマ──闘気への抵抗力も無視できないか──」
アリエスの矢と同程度しか損害を与えられない現状を直視する蒼牙。
「手ごわいですけど、好きにはさせませんよ」
聖歌は剣筋を見切られて反撃されない様、気をつけながら斬りかかる。しかし、並の日本刀では人喰鬼の巨躯に掠り傷をつけるのが精一杯。
しかし、剣の腕は互角以上に戦える。
手数と人海戦術で押せば、いつかは倒れるかもしれない。
ビアレーチェは巣狩の方に、核矢へは悠一郎が向かいながら、高レベルな戦いを広げる。
「見切った!」
悠一郎は核矢の素早い、巨大な斧の一撃を避けようとするが、避けきれず直撃を受けながら、斬られた脇腹からの出血も厭わず、右手のティールの剣で返す!
「その隙は逃さん! ‥‥‥‥返し刃、飛動烈震斬!」
魔力と闘気の籠もった一撃が核矢の胸を深々と抉るかに見えたが、寸手で肋一寸斬らせるに止まる。
「迂闊──急所逸らしの技も持っていたか」
互いに負傷は五分五分。しかし、相手も体の影に再び斧を隠し、次の攻撃を見切れるかは──。
「博打だな」
お約束の先に動いた方が負ける、という状況に悠一郎は追い込まれていた。
ビアレーチェの方は完全にピンチに陥っていた。手数の少なさ、巣狩の戦闘力の読みの甘さ、共に致命的であった。何より自分が巣狩より格下であるというのに、見切られるレベルの大技を連発すれば、いい的であった。
もはや、命は風前の灯火である。彼女自身のリカバーももはや発動しないレベルまで痛めつけられている。
「ちょっと逆転の手、思いつかないね、ここまで来ると」
今にも途絶えそうな意識を全力でつなぎ止めながら、最後の瞬間まで意識を保ち続けようとする彼女であったが、悠々と、重斧を振りかざし、首級を上げようとする、巣狩の姿にこう結論づけざるを得なかった。
自分はもう助からない──。
しかし、次の瞬間、エルリックが燃え盛る松明を投げつけ、隙を作り。注意がそちらに向いた瞬間に別方向からのアリエスの最後の一矢が巣狩の眼を射抜く。
次の瞬間、ビアレーチェのいくさ人としての本能が彼女の体を動かし、胴田貫の頑丈な刃が巣狩の心臓に滑り込んだ。
どうと倒れ伏す巣狩。
それに気を取られた核矢。
しかし、悠一郎が飛び込もうとしたところに、より素早い速度で斧が走る──かに思えたが、ウェスがアースダイブで石畳を潜り、後方に回り込んだ所で、斧の柄を掴む。
出来た隙は小さかったが、悠一郎にとっては十二分な刹那であった。
「返し刃、飛動烈震斬!」
ついに今までのダメージの積み重ねが核矢を打ち倒した。
「貸しだからな」
地面に波紋を作りつつ、ウェスが地上に上がってくる。
「死に挑みし修羅の名、その身に刻んで地獄へ行け‥‥!」
卯狩の両の手から繰り出される一撃を圧倒的な力量差で盾と胴田貫で受け止め──。
「‥‥どうだ、陸奥流の蹴りの味は‥‥?」
返す足刀を金的に叩き込む明士郎。
「我行くは修羅の道、死に挑みし者──。陸堂 明士郎だッ!」
「聖歌推参──」
動きの止まった所へ、聖歌が確実に日本刀で打撃を入れていく。
負の闘気で相手の動きを縛る呪力をで蒼牙が流し込み、更に動きを縛る。
一同の包囲網の前に卯狩は胴田貫で幕を下ろすのであった。
そして、寺院で僧侶等に傷を癒してもらうと、3匹の人喰鬼の首級を上げ、村を襲っている豚鬼達の頭上にエルリックと、ビアレーチェ、そして悠一郎が、霊験あらたかな護符の様に翳していくのであった。
「お前達の頭は討ち取ったぞっ! 我々に敵うと思うかっ!?」
エルリックが威圧するが、豚鬼は人間の言葉が判らず、エルリックにもそれは判らなかった。
しかし、43匹の豚鬼達は算を乱して逃走に移った。
「ここで村人見捨てるのは、己が矜持が許んのでな」
言いつつ、明士郎が軍馬で、アリエスが乱射で豚鬼蹂躙に移行し、10匹近くの豚鬼がその矢と蹄にかかって、新たな六道へと歩み出した。
こうして、僧兵達の多大な犠牲の下、僧侶達の命は救われ、依頼は無事達成されたのであった。
これが冒険の顛末である。