●リプレイ本文
「お久しぶりです‥‥キャプテンさん‥‥。
でも‥‥今回は巨大昆虫じゃないのですか‥‥?」
シフールのアルフレッド・アーツ(ea2100)がジャパンに来て再会した、キャプテン・ファーブルこと温泉宿に逗留して、浴衣姿のシャルル・ファーブルに訥々と話しかける。
「おお、古ワイン友の会のアルフレッドくんではないか? ジャパンでも元気にしていたようだな」
「はい‥‥」
「初めまして、キャプテン・ファーブル。僕は沖田光っていいます。同じ冒険家として、ご高名な貴方にお会い出来て光栄です」
と、沖田光(ea0029)はとても嬉しそうに、握手を求める。
すると、キャプテン・ファーブルは、光の指にしたマジックパワーリングに口づけて──。
赤面する光。アルフレッドはあわてて──。
「キャプテン‥‥ジャパンではその風習、余り伝わっていないと思います‥‥」
とうっかりな返事をするが、更に突っ込みを入れるコトセット・メヌーマ(ea4473)。「アルフレッド、あなたも勘違いをしているようだ。光は男性だという事を言い忘れていたようだな
また逢えると思っていましたよ、ファーブル殿。
ジャパンも色々なモンスターがいるようで研究に事欠かないでしょう?」
一方、アルフレッドは自分のミスに気づく。
「あ」
「いえ、間違えられるの慣れていますから」
「これは失礼、いやー日本人の名前は難しい」
と、光は改めてキャプテン・ファーブルと熱い握手を交わす。
「君のモンスターに関する博識ぶりは私も噂で良く聞くよ。頼りにさせてもらっていいね。ただ、私は冒険者ではなく、学者なんだ。冒険者を送り込んだり、冒険者の収集したものを分別するのが仕事でね。インセクトに関して研究している。それ以外は扱いたくないのだが、たつきの道を立てる為、他のモンスターに関する知識を披露する事もある。今回がそのケースなんだ」
「で、あなたが依頼人?
私は弓騎士のアイーダ、魔物ハンターの称号を持つ者よ。
今回のターゲット、バジリスクについてなるべく詳しく聞かせてもらえないかしら」
アイーダ・ノースフィールド(ea6264)がバジリスクに関する依頼人からの知識を要求する。オーラテレパスの対象にすべく、相手を知る為だ。
だが、この場合、うんちくを知ったからと言ってオーラテレパスの対象になる訳ではない。
その個体を知っているか、否かが問われるので、山の様な知識を語ろうとするファーブルであったが、その知識は専門的に語るため、ラテン語にシフトしてしまい、完全に理解できる者は居なくなってしまった。
「一番肝心な事ね──相手の凶眼の間合いが15から30メートルまでというのはね」
まあ、それくらいはキャプテン・ファーブルも日本語で伝えられる。
困惑するアイーダに、ラテン語が完璧なイリア・アドミナル(ea2564)は──。
「八足岩大蛇、噂には聞いていましたが、石化を得意とする強敵ですね。
溜めていた全ての力を使い、必ずや打倒しなければならない相手です。
一人の死者や石化者を出さずに勝利を目指します」
と決意を口にし、妖しく微笑む。裏に何が潜んでいるかは謎であるが。
「うむ、さすがジャパン最強のウィザード、心強い言葉だ」
「明信殿と戦場をともにしたくて参りました。バジリスク退治、力を尽くします。
キャプテン・ファーブル殿、ノルマンでお名前はお聞きした事もあります、よろしく」
と礼をするのは、ルミリア・ザナックス(ea5298)。
その言葉に三笠明信(ea1628)は照れながらも。
「ファーブル氏に会うのはパリ以来の事ですけど、元気で何よりです。
ただ、今回の獲物は石化能力を有する『バシリスク』なので、見た事も無い様な代物と戦う以上──作戦としては‥‥まずは、先手を取る為に囮の動物を確保して縄張りに投げ込み、襲いかかってきた所を取り囲んで足止めを行うという段取りで動く事となります。どうですか?」
「縄張り意識を利用するというのは確かに面白いですね‥‥人の通わぬ山道の話しから、習性を考えると、大体の縄張りはこんな所でしょうか」
と、光が好奇心に目を煌めかせながら、キャプテン・ファーブルに話しかけたところで。
「うむ──」
話に口を挟んですいません、と刀根要(ea2473)。
「まだこの様な見た事もない魔物がいるのですね。
キャプテン・ファーブルさんに確認事項があります」
(この人がファーブルさんか? 南天輝が、筋肉質なのに面白い学者を見た、と言っていた人ですね)
と思われているのを知りもせず、ファーブルと要は視線を合わせる。
「バジリスクの情報を何処で誰から仕入れたのか?」
「うむ、ジャパンを放浪していたら、偶然だ。自分は運が良いよ。コカトリスやゴーゴンはジャパンには生息していないからね、そこからの消去法と、独特の叫び声だ」
「うーん、では‥‥」
その地に行ったら、その者にどの位置で見かけたのか、その周辺の地理を聞いて、視界が開けているか馬で乗り込めるかを確認しておきましょう、と続けたかったのだが、話の矛先を変える要。
「石化されたとして、その魔物は石化を砕くほどの攻撃力はあるのか? と、砕かれたものはどうなるのかを確認しておきたいですね」
「噛みついても砕きは出来ないから、おそらく、単純に押し倒して、破壊するという方法を取るだろう。もちろん、砕かれた者は聖なる母か弥勒の神聖魔法、クローニングを英雄的な力量でかけなければ、再生は不可能だろうがね」
「英雄的──では、事実上不可能という事ですね」
「昔からいたというから、そうでなくても風化して、表面の──おっと子供の前では刺激の強い表現になりそうだから、控えておこう。どちらにしても高いレベルのクローニングが出来なければ、かなり悲惨な状況になるだろうね、一応、現場を遠くから見てきたが、石像は全て倒されていたよ」
「で、復活は事実上不可能であるな──」
ルミリアは悲しげに呟く。
(紅葉ちゃん、ご免)
光の胸中である。
「相応の資金が必要だろうね、寺院に頼むにしても──とりあえず、明信くんの案で問題ないと思うよ。自分も別方向から鶏をけしかけて、食べている隙に、観察したんだ。相手の行動は十二分にコントロールできると思うよ」
そして、アルフレッドが生け贄用の山犬を捕まえてきて、作戦は開始される事になった。
その山犬は解放されると全力で一同から走り去り、八足岩大蛇の住む、砕かれた石像が転々とする領域へと突入していった。
「絶対大丈夫、炎は石よりも強いんですから!」
と光が、コトセットが中心になってフレイムエレベイションをかけるのに、西洋の精霊魔法の理論を持ち出す。
そして、キャプテン・ファーブル言うところの独特の鳴き声(形態模写は余り似てはいなかったが)が聞こえると、士気が高まった所で恐れは感じなかった。
光は印を組み、淡い赤い光に包まれると、指先から火球が飛び出す。
着弾地点から爆風が吹き荒れる。
「ファイヤーボム来たな、行くぞ! みんな声を出し合っていこう!!」
明信が自分から声を出していく。
しかし、存外に八足岩大蛇の速度は速い。馬並みとは言わないが、回り込むには人の足では少々無理がありそうだ。
「矢、入ります‥‥気をつけて‥‥」
アルフレッドの言葉に明信は大声で返す。
「外れたら、斬り伏せる‥‥安心しろ」
「行きます」
しかし、我流の技では目玉を射抜く程の精密射撃を期待できず、外れはしなかったものの、アルフレッドの視線が八足岩大蛇のそれと合う。
(石化し始めたら‥‥すぐに地面に降ります‥‥落下して‥‥パキッとかは‥‥絶対に嫌だから‥‥)
アルフレッドの矢は、一本だけ付与されていた、コトセットのバーニングソードがかかった矢であった。
鱗の隙間を狙われ、八足岩大蛇が悲鳴をあげるる
一方、要はルミリアに付与されたオーラパワーと、予め発動させておいたオーラシールドを頼りに前進する。
「行くぞ、3方向から挟撃だ、目を見るな!(潮風、来るな!)」
最後の念は愛馬へのオーラテレパスである。主人の危機にはせ参じようとしたのを思考が繋がっている内に、まだ危険すぎるとして止めたのだ。
人馬一体とは言い条、まだ乗馬の腕は槍のそれに達していない。
イリアとは打ち合わせ通り、後背からアイスブリザードが来るのは判っているので、シールドは後ろに向けている。
一瞬の詠唱で、淡く青い光に包まれたイリアは、水の精霊力を、氷と冷気に変換して解き放つ。
全身を襤褸にされる八足岩大蛇。
ルミリアは青い眼を輝かせつつ、八足岩大蛇の間合いに飛び込むが、その不吉な冠を抱いた頭が彼女に向けられる。
「ルミリア!」
「踏み込みすぎ!」
コーン状に伸びた3メートルの射程というブレスが解き放たれるが、ルミリアは無傷。
もっとも当人はソードボンバーで吹き飛ばせると思っていた様だが、剣技はそんな便利に使えない。
そして、ブレスも原則モンスターは1日1回しか吐けないと、彼女も聞いている。首が何本もあるモンスターは別格だが、八足岩大蛇の首は1本しかない。
「その程度で我とやり合おうつもりか! 笑止千万!」
アイーダはオーラセンサーでバジリスクの位置を探ろうと、眼をつぶり精神集中したが、戦ってしばらくして。
「駄目、シンガンは無理そう。矢一杯、行く!」
と、開き直り矢を3本同時につがえ、打ちまくる。
「あ、視線が──」
しかし、その前にルミリア、要、明信の得物が全力で振り下ろされた。
コトセットはすかさず近寄り、あふれ出る鮮血を革袋に詰めていく。
「まずはアルフレッドからだ」
キャプテン・ファーブルの処方箋通り、コップ一杯分の血を、半ばまで石化したアルフレッド少年に注ぐとじわじわと体の自由が取り戻されていく。
「助かった、ふうー!」
しかし、百体に及ぶこれだけの石像、既に壊されており、高徳の僧が偶然通りかからぬ限り、まず修復は無理であった。
「残念だったけど‥‥時間がもう経ち過ぎてますね」
自分が幸運だったのだと、アルフレッドは呟く。
そして、温泉宿に戻る。
アルフレッドは流石に頭から血を被っている凄絶な様だったので、温泉で羽根を傷つけないよう、注意しながら入り、体を清めた。
そして一同が揃った所で、キャプテン・ファーブルはユニコーンの角の石化解除が目的であったと告げられる、光は微笑む。
「‥‥僕、コカトリスの瞳持ってたんですが、これでも治せたんじゃあ? でも、めったに会えない怪物に会えて、僕は嬉しかったです」
それに対し、キャプテン・ファーブルはエチゴヤがどうのこうのと呟く。
ルミリアは──。
「あと又聞きで‥‥言い辛いのだが‥‥キャプテン・ファーブル、ユニコーンの角が万病に効くというのは、全くのデタラメだ‥‥確かに珍しい品だが、薬にはならん、と知り合いから聞いたのだが」
と、告げるのだが、キャプテン・ファーブルは元気いっぱいにそんな事はない、と断言する。
光も同調し、どうやらルミリアの知り合いは半可通な知識を得ただけの様であった。
イリアは、ユニコーンさんの蘇生に賛同した、だが──。
「いや、そのユニコーンはとうに亡くなっているよ、思えばドレスタットで角が無い、ユニコーンの骨格標本を見たときから、この角の欠片の正体に気づくべきだったけどね」
そんな──よよと、イリアは崩れ落ちる。
乙女の彼女としては、前にユニコーンに会う機会を一度、逃しているので、ユニコーンさんへの憧れが募ったのだろう。
しかし、現実は非情。ユニコーンは既に輪廻の輪を潜ったか、死霊と化して、六道の辻を踏み外している事になる。
ともあれ、キャプテン・ファーブルが大金でこの角を売りさばいて、冒険者達を雇う為の新たな、活動資金としたのであった。
これが冒険の顛末である。