【怪盗3世】高尾の薬師堂侵略者作戦
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■ショートシナリオ
担当:成瀬丈二
対応レベル:12〜18lv
難易度:やや難
成功報酬:4 G 44 C
参加人数:8人
サポート参加人数:1人
冒険期間:04月02日〜04月07日
リプレイ公開日:2006年04月10日
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●オープニング
高尾、そこは最も東京に近い霊山にして、単に登頂するだけなら、子供出来る山並みである。
しかし、そこは修験道の盛んな地域として──天狗の篤い加護を受けていた。
それが脆くも崩れようとしたこの神聖歴1001年。
高尾の頂上にある薬師堂の前に一枚の和紙が貼り付けられていた──近日中にご本尊頂きに参る。
『怪盗3世』
何と罰当たりな、捕まえて頭を坊主にしてくれようぞ、といきり立つ侍上がりの修験者もいれば──。
呪詛のひとつもかけてやろう、と物騒な事を語る『天』への帰依篤き修験者もいた。
「まあ、待て怪盗三世といえば、どこぞの忍者の出。志士と浪人を従えて、海外でも悪さをし、この前の富士の竜脈騒動でも先に動いていたと聞く」
と、男盛りの修験者『畑団十郎(はた・だんじゅうろう)』が知恵を出す。
「で、それがどうした」
「うむ、富士の竜脈騒動で八俣遠呂智の尾に刺さっていた霊刀を盗もうとしたが、冒険者達によって阻止されたそうな」
「畑殿、つまりはこう言いたいのだな、冒険者を以て事に当たれ、と」
「うむ、精鋭を8名も雇えば、後は天狗様達のご助力もあろう、鴉天狗と言えども、生中な冒険者よりも腕は立つ、伊綱大権現の像を任せても、我々は修行者として御山を歩けば良い、不必要に試み出す事なかれ」
まさしく、不動明王の化身の如き勢いで高尾を冒険者に任せる事にしてしまった修験者達であるが、これで正解だったろうか?
高尾の冒険の幕が上がる。
●リプレイ本文
「冒険者ギルドより参った、モンドです。なに、我々が来たからには、ご本尊には指一本振れさせません! 大船に乗った気持ちでいてください」
ジェームス・モンド(ea3731)がシリアスに宣言する一方。
「イギリスから来た、アルテスっていいます。宜しくお願いします」
銀髪紅眼のへそ出しエルフ、アルテス・リアレイ(ea5898)は、集まっている坊主頭の修験者ににっこり微笑んで挨拶をする。
「これこれ、お山は女人禁制であるぞ」
と修験者の団十郎が諭すと、アルテスは反論した。
「え? 僕、男だよ」
「これは失礼」
団十郎が詫びると修験者達から軽い失笑が漏れる。
龍深城我斬(ea0031)が──
「修験者の人達? 天狗の加護があると言ってるが、彼らは人同士の争いには介入しないんじゃないか?」
「確かにそうかもしれんな── 」
「それは置いといて先ずは薬師堂の構造把握からかな、そんな広いもんじゃないと思うが一応な、それと罠の仕掛け等の手伝いをしようか、ご本尊がどの程度の重さか知らんが」「高尾の諸君、ごきげんよう。私がデュランだ!」
と、空中から声が響き渡り、修験者達の指さす先には、デュラン・ハイアット(ea0042)の姿があった。
風にマントを大きく広げる姿に──。
「あ、怪しーぃ!」
「あんなに怪しいヤツは高尾山史上初めてです」
「撃て、撃て、全魔力打ち尽くせ」
と、整然と臨戦体制を整える修験者を制するように、鷹見仁(ea0204)が──。
「あいつは莫迦は莫迦でも、見事なまでの大莫迦で、それでも冒険者ギルドから回されてきたヤツだ。単に力を誇示したいだけだろう」
「そうか──しかし、己の神通力を誇示したいが為に、あの様な行為に走るとは‥‥天狗道に陥らなければ良いが」
「ま、異国には異国の『すたいる』ってヤツがあるのさ、郷に入っては郷に従え、という言葉もあるけどな」
「いやぁ、何。風の精霊力の強さに当てられて──」
デュランは何食わぬ顔で地面に降り立つが、風の精霊力が強いという事は嘘ではない。「なあ、修験者ってみんな、あんな風に、上空にいる相手に対して対応できるものかい?」
と、緋邑嵐天丸(ea0861)が訪ねる。
「大抵が法力なり、闘気に通じているものでな。童(わっぱ)、修験道に興味があるのか?」
嵐天丸は身長が150センチを越えた所である。団十郎から帰ってくる言葉は。
「ん。頭を剃らなくて良いならな」
「修験道は周囲からは半俗半聖と見られる。修行を通じて、生きながらにして山の息吹に触れることで不動明王と一体化するのが目的。まあ、西の都の方では逆に伸ばすのが教えの流派があるが、こちらでは生憎と剃るのが戒律でな」
嵐天丸は筋肉が良く発達した肩を竦めながら首を横に振り、とりあえず、この山で修験者になる事はあきらめた。
山本建一(ea3891)も加わって、本堂の警備体制を敷き直した上で、ジェームスは──。
「では、俺はお堂に鍵をかけ、ご本尊の側で警備に当たります。いいですか、奴らがどんな手を使ってくるかわからん以上、不用意に扉を開けてはなりませんからな」
「そもさん!」
ゲレイ・メージ(ea6177)が声をかける。
「南無!」
ジェームスが返す。
「今のは一体?」
団十郎が訪ねればゲレイは笑って。
「予め、合い言葉を決めておいたのですよ。普通、仏教に囓っていれば問答で『そもさん』と、くれば『説破!』と返すでしょう」
そこで、敢えてずれた言葉で真偽を見極めるのだという。
一同はその機転に感心し、修験者はジェームスに本尊を任せるのであった。
「ほい」
仁が1冊の本を投げ渡す。
『姫艶事始』
と墨書されたその本をジェームスは振り向きもせずに受け取った。
そして、本堂に入っていったジェームスの声が響く。
「何ーっ!」
どうした、どうした、と昼番の冒険者が乱入し、夜番は体勢を崩さないようにする中、盾を構えたアルテスと、嵐天丸と仁、そして団十郎が見たものは、軽々とご本尊の不動明王像を抱えている、全裸のジェームスの姿であった。
「凄い怪力だな──って何だ、その本は!?」
不動明王像の脇侍に烏天狗と大天狗の像があり、更にその脇に春画が(アルテスと、嵐天丸基準では)しどけなく広げられている。
仁がその反応を見て──。
「そうか、それなりに効果があったか。しかし、既にすり替えられていたのか? まあ、あの連中、野太刀を持ったら、それでもう魔法が使えない程度の体力しかなかったからな、最初の潜入で工夫していたのか、金のかかる事だ」
「既にすり替えられていたというのか?」
不動明王像に手を伸ばそうとする団十郎に、仁はにやりと笑い、その赤面はなーんだ? と悪戯っけたっぷりに赤面した彼に手を伸ばす。
「若いね、まだ尻が青いんじゃないか? ──怪盗3世」
「ちぇっ、みんな罰当たりだな」
君に言われる筋合いはないよ──と、アルテスが呪文の詠唱を始める。白い淡い光に包まれていくアルテス。
偽物の像に、手を伸ばす怪盗3世に文字通り、腕を伸ばすジェームス。
腕を捕まれる、怪盗3世。
「げっ、黒の神聖騎士!?」
「その通り。言っただろう、目の黒いうちはさせん、とな。いつから入れ替わっていた?」
「すり替えに入った時さ、意外と内輪はばれないものでね」
「さぁ怪盗3世。この私を楽しませてくれたまえ」
デュランが手を伸ばした先にいる
そうか、と無造作に一本背負いの姿勢で投げ飛ばすジェームス。
「アイスコフィンを使うには間合いが遠すぎるか‥‥」
デュランが呟く。
石畳に叩きつけられる前に一瞬の結印と詠唱で煙に包まれる怪盗3世。爆炎が包み込み、煙に包み込まれると、怪盗3世は屋根の上にいた。
だが、屋根瓦は油が塗り込まれており、怪盗3世は転倒して、落下する。
アルテスはホーリーの間合いから外れた事で、呪文の詠唱を断念する。
しかし、怪盗3世は、一瞬の結印と詠唱で、巨大な布地を作り出すと両手両足でそれを掴んで山沿いに滑空していく。
「甘い!」
デュランが追い打ちをかける様に、緑色の淡い光に包まれ、ストームの呪文を成就。
暴風できりきり舞いになる怪盗3世。
しかし、闘気使いだけあって、中々に乱降下という訳にはいかない。
「12歳か──。
俺にもそんな頃があったなぁ。
当たり前だが」
仁が感慨深げに呟くが、怪盗の挑戦を退けたことで、一応の戦いは勝った事になる。
何故か浮かない顔で怪盗3世の去った方角を見つめるジェームス。
「やつめ、とんでもない物を盗んでいきました‥‥俺の褌です」
モンドの日輪の褌は後に、栄誉を称えられて、高尾の修験者達から改めて贈呈される。
本物の団十郎は、一応、追撃しようとした所で、高尾の山の登り口で縛られたまま、健一に発見される事になる。
周囲の人々の証言によると、軍馬2頭に牽かれた馬車が置いていったという。
その軍馬はふたりの少年によって操られ、途中から高尾山から降りてきた少年と合流したという。
結局、本尊を取り返す前に一同は馬車に追いつけなくなり、本尊を取り戻すには至らなかった。
勝負は先に決していた。
故に修験者達も冒険者を責める事はなく、依頼料は払ってくれた。
かくして、怪盗3世はまんまと逃げおおせたのである。
これが冒険の顛末であった。