●リプレイ本文
「人(?)の物を取る者には、相応の罰を与えるべきですが、フンドーシ一丁とは、何とも故郷を思い起こす事件ですね。
噂では、故郷は平和になったと聞きますが、フンドーシは相変わらず輸入されているのでしょうか?」
多分、されているだろう──エチゴヤがある限り、イギリスはネギリスと呼ばれ続けるだろう。
ルーラス・エルミナス(ea0282)の故郷であった。
「噂からだと、妖弧が月魔法を使って悪戯をしていると推測出来るんですが‥‥お供え物を盗んで食べようとした方も悪いと考えれば、ほんとのお稲荷様なのかなぁとも。元々、神皇陛下の一族がこの地にいらっしゃるまでは、力ある妖怪等の類をその土地の神としてあがめていたとも言いますし‥‥まぁ、何にしても後は実際あってみるしかないですね」
沖田光(ea0029)の確実な知識に裏付けされた話とは裏腹に。
(‥‥相手が何にしろ、向こうが説得のみで引くほど聞き分けがいいとは思えないからな‥‥。
如何言う経緯でも戦闘は起こるだろう‥‥)
勘で動く、ロックハート・トキワ(ea2389)は、気が妙に引き締まり‥‥でも‥‥何か、下半身に違和感が感じながら聞き込みをしていた所、目標の稲荷にはあっけなく到達した。
無論、依頼人の源徳長千代と、旅姿の柳生左門も一緒である。尚、長千代は平服に鉄扇ひとつ。左門は女官服に小太刀を2振り落とし差しにしているだけである。
シフールのアルフレッド・アーツ(ea2100)は街道筋に沿いながら歩いてきて、これまでの行路を地図として書き留めている。
酒場で聞き込みをしてきた、神楽聖歌(ea5062)の証言とピタリ一致する。
「で、ここがそうか──」
長千代が鬱蒼とした林の中に伸びた、小道に街道が分岐点する筋にある2体の向かい合わせになった稲荷地蔵像を見て呟く。
聞いてきた聖歌も、周囲の木の枝に残っている、稲荷泥棒扱いされて、見せ物にされた被害者(?)を吊した荒縄の痕跡を見ると同意する。
アイーダ・ノースフィールド(ea6264)の愛犬ティグレッドが唸りをあげ出す。
「やはり、魔物ハンターの嗅覚に間違いはないわね── いるわよ」
では、とイリア・アドミナル(ea2564)が稲荷像に礼を以て当たり、真意を確かめる。「月夜に並ぶ、お稲荷様、果たしてその正体は、不心得者を諌めんとする稲荷神様か、はたまた妖狐か、いざご照覧かな」
だが、その前に光の独断専行による笑えない一幕があった。
ひとり行くは、夜の街道筋。
「うん、まだお稲荷様はあるよね」
代わりに稲荷寿司がそこにあった。
「頂きまーす」
持参した立派な稲荷尽くしの弁当を食べる直前に一瞬の結印と詠唱と共に士気を高め、精神魔法への防御を得る光。
「待て、それは私のおいなりさんだ」
女の声が声が聞こえて来るのを待って光はおもむろに──。
「えっ、このおいなりさんは僕のですよ。ほら、お供え物よりおっきいし種類も多い」
と、女の声が焦りつつ。
「ええい、神罰覿面!」
銀色の淡い光が振り向く間もなく、降ってくる。
スリープなのかな? と思いつつ眠ったふりを光はした。
そこでまた短い詠唱がして、今度は金縛りにあっていた。
(シャ、シャドウバインディング?)
まぶたひとつ動かせない。
子供の声がふたつ。
「魔法を使っていたし念には念をね」
「じゃあ、いつものようにやっちゃおうよ」
「でも、『これ』女じゃないのかな?」
光は小柄で容姿は女性めいている。
「確かめようよ」
「でも、何なんだ、この格好?」
どうやらハーフパンツを見るのは初めてらしい。普通の非イギリス、非ノルマンの人間が褌を見たのと同じ反応だろう。
「案ずるより産むが易しってね♪」
光のハーフパンツはずりおろされ、更に男女別の混乱を呼んだ、レースの褌も──。
きっちり光が男である事を確認され、元に戻されていた。
「まあ、稲荷寿司盗んでないし、縛らなくていいんじゃないの?」
光の動きが元に戻ったときには、稲荷寿司はそこにはなく、稲荷弁当も手つかずであった。
カイ・ローン(ea3054)が調べてきたところの狐が盗み食いをするくらい美味しいと、評判の店でイリアが買ってきた稲荷寿司と厚揚げを出し、ラシュディア・バルトン(ea4107)が虚ろな眼と、光の報告を聞いた事による異様なテンションで。
「‥‥まあ、下手をしたら褌一丁で縛られるんだし、まさか女の子にこの役をやらせるわけにはいかないよな。
それに前に立って戦うような人は精霊魔法への抵抗力が低いのが常だし‥‥ああ、囮の役はオレが適任だな‥‥」
と、遠い目で微笑む。
「それに褌一丁で縛られるくらいの恥なんて今更だしな‥‥」
そんな自分への嫌悪をパリでの日々で昇華したラシュディアであった。
近づいていく。
「気配は13? アルフレッド、向かって左から3番目の木の梢!」
ラシュディアがブレスセンサーで検知した呼吸者がいると思しき、木々の茂みにアルフレッドが確かめに木々の茂みの中に入る。
皆は何か起きるかと備える。
「何だ、この影は? 女の子?」
梢から飛び降りた童女の影が林の奥深くへと走っていく。
アイーダが追って走る。
ラシュディアが稲荷寿司を備えると、カイも稲荷寿司を供え──。
「今、江戸は大火にて飢えで喘いでいる人達が多くいる。ゆえに天の助けと思い手を出してしまうこともある。考えあっての事だと思いますが、どうか弱っている人達をいたぶるような真似は辞めていただけないだろうか?」
──と祈願する。
まだ、セーフの様だ。
カイとイリアとルーラスは運ばせてきたお稲荷様を綺麗に掃除する道具を見せ、掃除を始める。
「稲荷様、日々の健やかに感謝し、そのお礼に参りました」
と、ルーラスは丁寧に礼を以て、当たる。騎士としての礼儀がジャパンの神仏にそぐうかはおいといて。
だが、あろう事か、3名が、稲荷様を布で磨き出すと、石像の筈のふたつの稲荷像が身をくねらせ出し、10秒ほどの時間をかけてそれぞれ、二叉尻尾の子狐に姿を変えたのだった。
「やーん、やめてー、くすくすくすくす」
「あー、くすぐったい。きゃははははは」
「む‥‥始まったか」
結構、離れた距離から様子を伺っていたロックハートは銀のナイフを逆手に懐手に握り締め、飛び出す絶好のタイミングを見計らう。
驚いたのはイリアとルーラスである。
一瞬の闘気の集中で左門は淡いピンクの光に包まれると、オーラソードを形成していた。
覇気に満ちた淡い桃色の光に包まれた長千代はおそらくオーラで士気を高めたのだろう。
ふたり共に尋常ならざるオーラである。
「尻尾が2本! やはり、妖孤の仕業でしたか──」
光が予想通りと、淡い茶色の光に包まれながらも、結印と詠唱から一振りの水晶の剣を合掌した掌から形成する。
「でも、どうしてこんな事件を起こしたんですか? ‥‥あんな物を見せられて、通行人さんも迷惑なのに、それにあんな事まで‥‥」
アルフレッドも書きかけの地図を置くと、ダガーを両手で構え、投げの体勢に入る。
「あの‥‥論点‥‥ずれていると‥‥思います」
「そうですか、噂では吊された男を見た子供が夜泣きや疳の虫で困っているって」
(疳の虫‥‥どういう虫だろう? ‥‥キャプテン・ファーブルが聞いたら‥‥どういうリアクションするだろう‥‥)
光の言葉にアルフレッドはあらぬ方向に思考を飛ばしてしまう。
「さて、腹を割って話そう」
長千代は座り込んで、子妖孤達と視線を合わせる。
「ひとり捕まえてきたわ。こいつも月の魔法を使ってきたわ、妖孤の類? どうするかは依頼人に任せるわ」
アイーダが林の奥から戻ってきて、童女をひっ転がした。
「ええと、僕たちは稲荷大明神の使いっ走りで、江戸の大騒ぎに大明神が手を貸す謂われがあるか否かを──」
「確かめていた訳です。いなり寿司に眼がくらむ様なら、手を差し伸べる価値無しという事で、神罰を」
「何が神罰だ。何が手を差し伸べるだ。人が何千何万と飢え死にした冬に、その様な人を試すような救いなどいらない──左門、斬れ」
そこへラシュディアが──。
「俺としてはできる限り相手を話し合いで何とかしたいと考えている。
なるべく傷つけないようにしたい
犯人だってたぶんそんなに悪気があってのことじゃないんだろ、きっと。まあ、光が許すと言ってやるならの話だけどな」
「──許すと言ってあげましょう」
イリアは慈悲というか──そこまでする事はない、と言い放つ。
「では、こうしましょう、狐達が子供の場合は、逆さ吊りで反省させ保釈を希望します。女性では服剥いで放置。男性は去勢として、お仕置きをします」
最後の言葉を聞いて子妖孤達はその場で失禁した。童女はあまりの恐怖に変身を10秒かけて解除し、子妖孤の本性を露わにする。
「わ、私、子供だもん、まだ女じゃないから、服は剥がないでね? ね? ね?」
「む、出遅れたのか? これが今度の騒動の本性か?」
ようやく到達したロックハートは皆に尋ねる。
「問題ない‥‥ジャパンの事は良く判らん!」
という事で3匹の子妖孤達は仲良く一本の木に吊される事になった。
後にイリアが釈放しようと通りかかったときにはムーンシャドゥの呪文で抜け出した後であった。
人間に恐怖を持った無害な妖孤に育ってくれればいいのであるが──。
これが冒険の顛末である。