10人の浪人── 高尾へ‥‥

■ショートシナリオ


担当:成瀬丈二

対応レベル:12〜18lv

難易度:普通

成功報酬:4

参加人数:10人

サポート参加人数:4人

冒険期間:04月14日〜04月19日

リプレイ公開日:2006年04月24日

●オープニング

 それを見たのは江戸から離れていく、下りの山中であった。
 手早く言えば高尾山に向かう道中である。
 ひとりの浅黒い肌の10にはなっていないであろう子供── 耳は尖っていないからパラやエルフ系ではないだろう──が1頭の白馬の脇で、とぼとぼと裸足のまま頼りなく歩いている。
「大丈夫だよ、きっとオイラが高尾のお山まで送り届けてやるから」
 道行く人々は誰しもその白馬の精悍さと、そして額から生えた一本の角に、目を吸い寄せられる。
「一角馬── 」
 霊力を操り、その角は万病を癒す万能薬になるという瑞獣であった。
 子細は知られていないが、噂のみは先行する。
 冒険帰りの一同がそのふたり連れ? に注目したのは梢の羽音が止んでからの事であった。
 一角馬を目指す一団の剣気に当てられ、小動物の動きが動きが止んだのである。
「そこな一同、剣を抜かないで戴こう」
 一角馬を捕まえようとする一団であった。
 皆、軍馬に跨る10人の編み笠で顔を隠した一団である。腰にはそれぞれ二本差し。中には野太刀を刺している者もいる。
 どうやら、冒険帰りの一団を、競争者、あるいは妨害者と見なしたのだろう。
「我が輩は雇われて、そこな一角馬の角を貰い受けに来た者。我ら10名の剣客を相手にするなら、かかってこい。それがいやなら── 」
 と、言って小判を2,3枚地面に放る。
「無益なケンカをせぬ為の駄賃だ。取っておけい。おっと、取ろうとして我が輩を斬ろうとしても無駄だぞ、我が輩の神想流の冴えをその首で知る事になるぞ。我が輩以外の皆も主君はあぶく銭の浪人揃いだ。その変幻自在の太刀さばき、その身で知りたくは無かろう?」
「畜生、こんな所で死んでたまるか! 逃げるよ枝理銅(えりどう)!」
 子供はそう一角馬に呼びかける。
「童(わっぱ)── 名は?」
 冒険者のひとりが訪ねる。
「お‥‥おの」
「そうか‥‥変わった名だ。だが、義によって助太刀いたす!」
 冒険帰りの冒険者と、浪人の密猟者の戦いがここに幕を切って落とされた。

●今回の参加者

 ea0031 龍深城 我斬(31歳・♂・浪人・人間・ジャパン)
 ea0204 鷹見 仁(31歳・♂・パラディン・人間・ジャパン)
 ea0548 闇目 幻十郎(44歳・♂・忍者・人間・ジャパン)
 ea2473 刀根 要(43歳・♂・侍・人間・ジャパン)
 ea2564 イリア・アドミナル(21歳・♀・ゴーレムニスト・エルフ・ビザンチン帝国)
 ea2884 クレア・エルスハイマー(23歳・♀・ウィザード・エルフ・フランク王国)
 ea3167 鋼 蒼牙(30歳・♂・侍・人間・ジャパン)
 ea3597 日向 大輝(24歳・♂・志士・人間・ジャパン)
 ea3731 ジェームス・モンド(56歳・♂・神聖騎士・人間・イギリス王国)
 ea8714 トマス・ウェスト(43歳・♂・僧侶・人間・イギリス王国)

●サポート参加者

グラス・ライン(ea2480)/ 李 雷龍(ea2756)/ イフェリア・アイランズ(ea2890)/ 桂 武杖(ea9327

●リプレイ本文

「は! 神想流とは大きく出たもんだ。大方、稽古が嫌で逃げ出したか。素行が悪くておん出された食詰め者って所だろ? そっちこそ弱い物苛めはやめて尻尾巻いて逃げ出すってんなら刀の研ぎ賃くらいは恵んでやるぜ」
 龍深城我斬(ea0031)は余裕綽々で、愛馬『我王丸』からひらりと降り立つと、中身のたっぷり詰まっている財布から、10人の浪人目がけて小判を投げ捨てる。その数、20余枚。
 先に投げられた浪人達の小判と触れ合い、軽い音を立てる。
 それを見て含み笑いをする闇目幻十郎(ea0548)。
「やれやれ、此方の気を逸らしたいなら、桁が2つ足りませんよ」
「何だと!」
 いきり立つ浪人達。
「貴方達を奉行所なりギルドに突き出して、報奨金でも貰った方が儲けになりますし、気分もいいですよ? ああ、身包み剥ぐのもアリですね」
「残念だが、奉行所に突き出される謂われがない、その小童が身分不相応なものを連れて歩いているので、我ら『無天十人衆』が依頼の元、回収しにきただけだ。抵抗する方が悪い」
 刀根要(ea2473)は、おのには事を起こす際、オーラテレパスで素性を教え、安心させる。
(私は那須藩士『蒼天十矢隊』の刀根要です、大丈夫私達の後方に下がっていれば安全ですから)
「む、やる気だな!」
 生憎と要は詠唱が無ければ大丈夫と思っているようだが、オーラテレパスを使う時でも淡い桃色の光に包まれるのであった。バレバレである。
(ここであったのも何かの縁って奴だ)
 ジェームス・モンド(ea3731)は無天十人衆から、おのを護るように立ちはだかると。
「まてい! どんな事情かはわからぬが、大の大人がよってたかって子供を追い回そうとするなど、捨て置くわけにはいかん‥‥さぁ、少年、ここはおじさん達に任せなさい」
「いい大人が子どもひとりを取り囲んで、それが武士のすることかよ。
 どんな道だろうとその道を生きる者としての誇りを忘れちゃいけない、そうだよな」
 日向大輝(ea3597)は、自身の得物を見るつつ。
「ありがたく使わせてもらうぜ」
「トロ石、我王丸、お前らは童と角馬の護衛に回れ」
「無天十人衆──そんな名前覚えている価値は有りませんね、今です!」
「大輝は下がれ、こっちは構わん、撃て!」
 ジェームスが叫び合掌し黒く淡い光に包まれる。
 後方で様々な色の淡い光が立ち上る。その一本からイリア・アドミナル(ea2564)の青い光に包まれながらの氷雪の嵐と、クレア・エルスハイマー(ea2884)が赤い光に包まれながら放った火球の炸裂した爆風が入り交じるようにして『無天十人衆』全員とその軍馬を巻き込んでいく。
 ジェームスとトロ石が魔法に巻き込まれながらも、おのと一角馬をがっちり守護する。「何か巻き込まれちゃったなー‥‥まぁ、いっか」
(珍しい一角馬連れてる少年に恩売って、損する事は無いだろうし)
 鋼蒼牙(ea3167)は後方で闘気を高めながらも呑気してぎる。
 破壊の嵐が吹き荒れる。
 だが、ジェームスは無傷。レジストマジックである。さすがにミミクリーで手足を伸ばして間合いを6メートルにしているとはいえ、アイスブリザードとファイヤーボムの間合いに入り込むため、やむを得ない処置である。
 大いなる父の加護があってか、成功したが、幸運の領域である。
 しかし、『無天十人衆』は馬との縁が薄いのか、深手を負った馬たちを御せずに、その場から退いていく。
「ほぅ、一角馬か‥‥」
 以前、鷹見仁(ea0204)は、その角を狙われた一角馬を知り合いのエルフの隠れ里に紹介したことがあり、そのことを思い返す。
「どうせ、馬が深手を負ったので、どこぞに置いて逆進してくるのだろう──、しかし、今の内に体勢を整える良い機会だ。
 おの、一角馬か‥‥俺も以前、角を狙われた一角馬に安住の地を紹介したことがあるよ。
 お前にも紹介してやりたいがヘタをすればその一角馬もあの隠れ里も危険に晒すことになりかねない。すまんな」
「でも、高尾まで行けば──」
 おのが必死に食い下がろうとする。
「ああ、遂に念願のユニコーンさんと会えました。
 清純な乙女と言うには、遠ざかりましたが、憧れのユニコーンさんと出会えた事は、一生の宝物です。
 必ずおふたりを高尾まで送り届けます」
 枝理銅は感激するイリアにすり寄る。
「けひゃひゃひゃ、我が輩のことは『ドクター』と呼びたまえ〜」
 トマス・ウェスト(ea8714)が意味ありげな視線を枝理銅の角に向けながらにじり寄っていく。
「我が輩はユニコーンを見たことがあるからね〜、君が我が輩たちと話せることくらい判っているよ〜。で、だ? ほんのちょっとでよいから、角の粉末を分けてもらえないかね〜?」
 次の瞬間イリアが邪悪な視線を向けると一瞬にして、結印と詠唱を完了させ、淡く青い光に包まれる。
「うひゃひゃひゃひゃ。我が輩の探求心の前には、魔法など利かないのだよ、イリア君?」
 アイスコフィンの魔法を凌いだトマスは悪びれた様子がない。
「まあ、好奇心で言ってみただけで、角は植物でも毒草でもないので、使い道はさっぱり判らないから。まあ、どうでも良いと言えばいいのだが」
「また高尾に逆戻りとは‥‥これも縁という奴か」
 ジェームスの呟きに大輝少年は、おのと向き直り。
「高尾まで送るのはここまで関わった以上やらさせてもらうけど。なにか、当てはあるのか?
 修験者の人たちはいい人たちだったし、俗世から離れてる人たちだから、他の山の中よりは安全だろうけどさ。
 とりあえずその角は目立つから馬に載せてある毛布かけて隠させてもらうぞ」
「珍しいものが見れたのはいいが‥‥余計な霊力使ったなぁ。なんかこのままじゃ治まらん」
 蒼牙がぼやくが、浪人達が歩行で向かってくるのを見て我斬の刀に闘気を付与する。
 ポーションの類で治したのか、服は襤褸だが、傷は癒えている。
 我斬曰く。
「んん── ‥‥ま、アレだ。こういう偉そうな連中は気兼ねなく斬りとばせるから嫌いじゃないぞ、うん」
 太刀を蜻蛉の構えにした、先ほどまで講釈を垂れていた男が裂帛の気合いと共に刀を切り下ろす。
 しかし、相手の太刀筋は鋭く、ギリギリの回避は出来ず。脇まで切り下げられる。
「──!」
 しかし、返す小太刀の技は見切れず、問答無用で斬り上げる。
 闘気を帯びた一撃が相手を行動不能にした。
 一方、仁は。
「ほう、同門か」
 日本刀と小太刀の双剣を構えた相手に正対する。
「これは考えていなかったな‥‥やっかいだ」
 互いにカウンターの読み合いで動きを封じられる。
 そこへ蒼牙がオーラショットを放ち、均衡を崩す。
「顔に決めたいのですが、制御しきれませんね」
「闘気でそこまでされたら、剣士の立場がないだろう?」
 しかし、崩れた均衡は日本刀二刀という膂力に任せた太刀筋の元、仁に勝利をもたらした。
「さて、取られるのは首とお足どっちがいい?」
 と訪ねてみる仁。
 戯れに編み笠を胴田貫で跳ね上げる。ひげ面の男だった。
「首を取れ」
「悪いがそんな汚い首に興味はないな」

 一方で、混戦にもつれ込みアイスブリザードを放てなくなったイリアに迫る影。
 しかし、音もなくその後ろから小太刀とパリーイングダガーで忍び寄る幻十郎。
 一撃を浴びせようとするが、技量の差で避けられる。
「術者を狙う判断は正しいですが。当然、此方も対処しますよ?」
 済まして言ったのは良い物の相手の猛攻に深手を負う。大技を使う前に体勢を確実に崩しに来る嫌な相手だ。
「我流ですね」
「いずれかの道場の道を叩いていれば、お主の胴など両断しておったろう」
「全く」
「おふたりは僕達が必ず守ります」
 次の瞬間、浪人は氷漬けになった。
 イリアのアイスコフィンである。
「枝理銅には指一本触れさせない」
 しかし、続けて迫る影は剣を振り上げたまま動きを封じられた。
「けひゃひゃひゃ。これだから、洋の東西を問わず、剣術莫迦は魔法にかかり易い」
 トマスであった。
 要は際どい均衡の元にあった。相手の一撃を十手で受けて、そのままねじ伏せようとしたのだが、膂力はほぼ同じ、いや若干分悪い。
「こちらも退けないんで全力でいきますよ、死ぬなよ」
 要の吹き上がる士気により徐々に押し返していく。
「な、何!」
「少し本気で行きます、覚悟してね」
 同時に淡い褐色の光が立ち上る。
 地面に倒れ伏した所へ、要の必殺の一撃。
 イリアがかけたアグラベイションの賜物であった。立ち上がる手順より先に据え物斬りの如く血霞が吹き上がる。

「何だ、この浮遊感は!」
「うわーっ!」
 クレアに斬りかかったふたりは、ギリギリで行使が間に合った彼女のスクロールから発動するローリンググラビティの魔力によって、大地から解き放たれ、続けて大地に叩きつけられた。
「一角馬‥‥ユニコーンを捕まえようとするなんて‥‥許せませんわ。二度とそのような考えを起こさないように、懲らしめて差し上げますわ」
 周囲に人がいなくなったのを確認して、クレアは最大出力で魔力を放つ。
「受けなさい!! “我は導く魔神の息吹!!”」
 爆風が吹き荒れ、浪人達は絶命した。

 大輝少年は一番厄介な相手と相対していた。野太刀を持った相手である。
 背中を預ける蒼牙が武術の腕が難有りな為、防戦一方になる。
 炎の士気が自らを支えているが、相手は小太刀を狙ってまずは防壁を破壊しようとする。
 燕返しの秘太刀が、完全に大輝少年の防御を崩し、スマッシュを交えず確実にバーストアタックで仕留めようとする。回避は出来ず、一方的に小太刀を狙われる。しかし、霊力が籠もっているせいか存外に小太刀は頑丈であった。相手が大技を繰り出そうとすれば、そこにつけ込む隙も出来る。
 避けて着実に攻撃を入れる。当たるのは3割程度であったが、その確率も徐々に上がっていく。
「いつまでも子どもじゃないぞ!」
 しかし、相手の凶刃が大輝少年を襲った。為す術無く、振り下ろされる白刃が肋まで抉る。
「けひゃひゃひゃ。ここにドクターがいる事を感謝するのだね。まあ、子供を救おうとする我が輩を、聖なる母が見捨てないからこそ出来る事だが」
 トマスの魔法により相手の動きは止まり、刃は心臓までは達していなかった。
「退くか? 今なら見逃す」
 ジェームスが両手両足を伸ばして行う、変幻自在、というより化け物じみた攻撃に辟易していたふたりの浪人はその誘いに乗って、逃亡した。
「あ、得物は置いてけ」

 こうして、命を拾った者、落命した者合わせて10の浪人は撃退された。
 要の高尾山まで羽生の警戒を頼りに護衛し、天狗によろしくと枝理銅に伝える。
 そこまでの行程でトマスが──
「我が輩の薬草と我が輩の起す奇跡と、どっちがいいかね〜、けひゃひゃひゃひゃ」
 と、誰も間違えようのない選択を行い、奇跡の力に縋り、皆、傷を癒された。
「ひとりくらい、薬草を選んでもよかろうに」
 一方、深手を負って、おのの膝の上で目覚めた大輝少年は呟いた。
「ひょっとして、女の子?」
「普通気づかないか?」
 とは、おのの弁。
 ともあれ、高尾に近づくと烏天狗が3人ばかり、飛んで来るのが羽生の警戒網で判った。
「あれ? あれは太郎坊かな。おーい」
 少女と一角馬は無事、高尾へとたどり着いたのであった。
 これが冒険の顛末である。