本当にあったら寒い話──魔の山へ飛べ

■ショートシナリオ


担当:成瀬丈二

対応レベル:11〜17lv

難易度:普通

成功報酬:5

参加人数:8人

サポート参加人数:-人

冒険期間:08月18日〜08月27日

リプレイ公開日:2006年08月26日

●オープニング

「その時、ワシは見たのじゃ──」
 猟師の善蔵じいさんは江戸の冒険者ギルドで冒険を依頼に来たものの、いきなり語りモードに入った。
「──山の上流から流れてくる川にたゆたう、氷漬けの鹿の姿を‥‥」
 何もそこまで演出過剰にしなくても、いいと思うが、光源を顎の下にあて、ムードだけはばっちりである。
「で、その鹿は?」
 受付嬢はごくりと唾を飲み込みながら、話の続きを促す。
「うむ、氷は鉈で幾ら小突いてもビクともしなかったが、しばらくしたら勝手に無くなったので、逃げられる前に脚に斬りつけ、動きを封じ捕まえて、皮を剥ぎ、美味しく頂いたのじゃよ」
「情報源を食べてどうするんですか!?」
「──まあ、そう言うな。猟師は得物を捕まえてナンボじゃ。ともあれ、それから、3日と置かず、氷漬けの『何か』が流されてくるようになったのじゃ」
「心当たりは?」
「うむ、山頂に高徳の僧が雪女を封じたとされる祠があったのと、しばらく前に村の若い衆が山に肝試しと言って入り込んだのだから、多分関係があるのだろうが、無学な猟師には判らん。という事で、冒険者を雇いたい。
まあ報酬は出来高払いという事で。よろしく頼む」
 そういって善蔵じいさんは仲介の料金をギルドに支払った。
 魔の山を巡る冒険が始まる。

●今回の参加者

 ea1249 ユリアル・カートライト(25歳・♂・ウィザード・エルフ・イギリス王国)
 ea1605 フェネック・ローキドール(28歳・♀・バード・エルフ・イスパニア王国)
 ea1628 三笠 明信(28歳・♂・パラディン・ジャイアント・ジャパン)
 ea4927 リフィーティア・レリス(29歳・♂・ジプシー・人間・エジプト)
 ea5557 志乃守 乱雪(39歳・♀・僧侶・人間・ジャパン)
 ea6226 ミリート・アーティア(25歳・♀・レンジャー・人間・イギリス王国)
 eb1421 リアナ・レジーネス(28歳・♀・ウィザード・人間・ノルマン王国)
 eb2257 パラーリア・ゲラー(29歳・♀・レンジャー・パラ・フランク王国)

●リプレイ本文

「コレッって雪女さんかな?? なんだかわくわくするよね。
 でもでも、悪戯好きのひとが雪女さんのふりをして悪戯してましたでも、面白いとおもうんですにゃ♪
 ねえ、ちろ?」
 パラーリア・ゲラー(eb2257)、彼女がわくわくするのはいいのだが、頭上を自分が乗って飛んでいくロック鳥──ちろ──が及ぼす人々の恐怖は顧みない。
 その後方に位置する、リアナ・レジーネス(eb1421)は、パラーリアが置いていった災厄に驚きながらも──。
「話を伺った限りでは、上流、恐らく山に何かがいるのは確かでしょうね」
「氷漬けの何かですか‥‥涼しそうで良いですけど、ちょっと不気味ですよね。鹿以外には何が流れてくるのでしょう? ひとまず、村の人にお話を聞いてみないといけませんね」
 隣にいるユリアル・カートライト(ea1249)と言葉を交わす。ふたりは善蔵爺さんのいるであろう村に向かう。
 フェネック・ローキドール(ea1605)は徒歩で山に先行する前に、ふたりに──。
「氷漬けの『何か』についての詳細や、肝試しを行った村の若者に関する情報などは他の方々も聞いて回るとのことですので、私は氷が流れてきた川の上流まで川沿いに歩いてみて、何か痕跡や手がかりが無いか確認します」
 旨を告げた。
「『何か』を生み出した存在──ですか」
 三笠明信(ea1628)が育ちのよい顔立ちを夏の陽射しに歪めながら。
「本当にこの山に、その存在『雪女』が居たら‥‥それは説得して然るべき時期まで眠っていてもらうしかないのですが、どうも話を聞いていると、眉唾物なので、一度しっかりと調べる事としましょう」
 その言葉にミリート・アーティア(ea6226)は間延びした口調で──。
「はやぁ〜‥‥氷漬けがどんぶらこっこ‥‥。
 狩りに出なくていいし、ある意味、ありがたい気もするや」
 明信が──何が起きているか、判らないんですよ? と諭せば、彼女は──。
「だよね、何も分からないままじゃ、危なっかしくて山に入れないもんね。なんとかしないと。フェネック、豪毅だよね〜」
「とはいえ、村の若い衆が封印を壊してしまって、解放された雪女がアイスコフィンで動物を凍らせて流している‥‥とすると、もっともらしいようですが。雪女がなぜそんなことをするでしょうか?」
 志乃守乱雪(ea5557)が自説を述べるが、リフィーティア・レリス(ea4927)曰く。
「ならば、まずは情報収集だな。いくらなんでも現状じゃ情報少なすぎるし。
ってことで俺は川に流れて来るって言う氷漬けの何かについ聞いてみるか。今までどんな物が流れてきたかと大きさとか。実際どんななのかも見てみたいかな。しょっちゅう流れてくるみたいだし、行ったときに流れてくるといいんだけど」

 ユリアルが村にはいると、早速に村人が遠巻きにしていた。江戸市内ならいざ知らず、歩きで4日もかかるような田舎では、異種族に加えて異国人は相当珍しい存在である。
 流暢にジャパン語で話し出し、自分は高僧と祠に関して聞きたいのだと延べ、長老か村長に話を聞きたい旨告げると、子供のひとりが比較的大きな屋敷を指さした。
 祠に封じたのは何時の頃で、どうして封じたのか? そして高僧は誰なのか、といった事を村の長老や村長さんに聞いてみるユリアル。こういった事には一番詳しいと思っていたものの、返答は祖父が祖父がそういう伝承を残した、であり実入りはなかった。場合によっては、高僧はもう生きてはいないかもしれないとユリアルは覚悟していたものの、やはりショックであった。‥‥寺に何か残っている可能性がないか尋ねてみたが、長老の父親の代に一度火事で焼け落ち、最近の資料しか残っていないという。
 一方、世界に名だたる英雄のリアナと、ジャイアントならではの体躯のがっちりした明信は肝試しに向かった者の話を聞きたいと切り出す。
(さて、本当に『雪女』か?)
 明信は疑いながら切り出すが、気の良い若者は、世界的な英雄らしいリアナと、ジャパンのどこでも噂になっているらしい、明信と話を出来たことに感激し、肝試しの時、石造りの祠を誤って損傷し、急いで直したという話を聞き出せた。
 ミリートは相変わらずマイペースに──。
「ん〜‥‥もう、祠が駄目とかかないよね? もしそうなら、どうやって直せばいいんだろう‥‥」
 それはこの場の誰にも判らなかった。

 リフーティアを女性と思ってか、集まってくる女性衆の話によると、氷漬けを直接見たことがあるのは善蔵爺さんだけだという。
(最終的には山に行かなきゃいけないんだよな。ホントに雪女とか居るモンなのかな? 本物の雪女だったら話とか通じそうなもんだけど)
 その頃、乱雪は小屋の前でぽつねんと佇んでいる、パラーリアと合流した。善蔵爺さんは留守らしい。パラーリアは全身を熊の着ぐるみで着込んで、ぐったりとしている。遠目には熊に見えるので、善蔵爺さんから誤射の可能性もあっただろう(パラーリアの技量なら十分に避けるだろうが)、
 一方、山に向かったフェネックは猟の最中の、善蔵爺さんと途中で合流し、川沿いに遡上し始めた。
 フェネックの予想通り、村にほど近い川岸で、何か重いものを引きずった痕跡を複数発見した。
「やはり、アイスコフィンの魔法‥‥」
「なんでい、その、あ何とかかんとかってのは?」
「水と氷を司る魔法の奥義で、氷の中に目標を封印する魔法です」

 結局、一同が合流したのは陽が落ちてからであった。
 合したのは善蔵爺さんの家である。
 善蔵爺さんの見立てでは、川岸の付近の痕跡で、もっとも見分けられる古いものでも、肝試しより古いものはないという。
 改めて翌朝から、痕跡付近で何かいないか、調べる事となった。
 リアナが予めレジストコールドの魔法を皆にかける。
 そして、雪女と思しき白装束の若い女の影が日陰でだれている様は、乱雪をして『寒っ』と言わせしめる。
「妾に何のようじゃ?」
「こんにちは、ミリートだよ。
 色々と話をしたくて此処に来たの。川に色々流してるのって、お姉さんのしてることなのかな?」
「如何にも。妾の眠りを妨げた故、川に流して人の子に任せていた。お主もそうしようか?」
「いや、いいよ‥‥」
 ミリートが慌てて打ち消す。
 そこへパラーリアが──。
「そのうち冒険者っていう残酷で欲深な人類が押し寄せて来るから、もっと深い山に行ったほうがいいと思うのっ☆」
──と提案する。
 その提案に乗った雪女──自分でそういった──だが、パラーリアのつれてきた『ちろ』の元へ案内されると、態度を豹変し。
「己、謀ったな!」
 善蔵爺さんも──。
「この辺を騒がせていた化け物鳥はてめえの仕業か?」
 話がこじれる一方であった。
 どんなにペットが飼い慣らされていようとも、主人以外がそれを見て納得するとは限らない。他人から見れば卑しい魔獣使いであった。
 結局の所、パラーリアの提案は実を結ばず、善蔵爺さんと、雪女は山に戻り住み分けて、手打ちという事になった。
 祠を修復しようにもそれだけの技術を持った者が居らず、それをやれば雪女が猛抵抗するであろうから、真夏の陽の中に放置せざるを得ない。
 これが真夏の奇譚の顛末である。