落城
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■ショートシナリオ
担当:成瀬丈二
対応レベル:11〜17lv
難易度:やや易
成功報酬:12 G 48 C
参加人数:6人
サポート参加人数:1人
冒険期間:10月21日〜11月05日
リプレイ公開日:2006年10月29日
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●オープニング
摂政源徳家康は資金不足と諸侯の足並みが揃わない事から反乱を起した上州攻略に着手できずにいた。
秋になり、このまま年越しかと思われていたが、
新田義貞に敗れて流浪していた上州国司上杉憲政が越後の上杉謙信を頼り、謙信は同族の憲政の説得に応じて打倒新田に名乗りを挙げる。
源徳に急使を送った謙信は越後勢を率いて上州へ出発。
越後兵は三国峠を越えて支城・砦を難なく落とそうとしていた。
「お頼みいたす」
その侍は血臭を携えていた。上州訛りが感じられる中、依頼したのは──。
沼田城の大蓮支城のひとつに『黒那姫(くろなひめ)』という武家の者が率いているものがある。
この今年で14になる姫が、20になる兄の『伯頼(はくらい)』を良く支えているが、謙信のいくさ上手の前に大蓮支城がおそらく──落城するのは目に見えている。
そこで伯頼は黒那姫だけでも本城に落ち延びさせようとしたが、彼女は頑として首を振らない。兵糧の事を持ち出せば──。
「ならば腹を召しましょう。食い扶持がひとり減る分、兵は飢えますまい」
と、即座に脇差しを抜く始末。
慌てて止めたモノの余計意固地になってしまっている。
人質にされる位なら割腹は当然するだろう。だが、それを止めさせられれば突撃を戦闘に立った行いかねない。
「そこで伯頼様は、今の内に支城から黒那姫さまを密かに馬で逃がそうと試みているのです。血を絶やさぬ為、とあれば、姫も納得するかと──そう、約して、私を使者に出したわけです。おそらく、冒険者ギルドの方々が上州についている頃には馬で走っていっても、おそらく落城には間に合うか間に合わないか怪しいでしょう。
しかし、黒那姫が先に落ち延びていれば──その可能性はまだ捨てきれません。些少ですが、手間賃も弾みます。どうか、黒那姫を謙信の手の届かぬ江戸までお運び下さい」
言って使者は事切れた。
死者からの依頼が始まる。
●リプレイ本文
三笠明信(ea1628)は落胆していた。
準備としては‥‥時間が無い為に最低限の時間であるが、駄目で元々で冒険者ギルドに偽名の通行手形の発行を頼んだのだ。
侍と聞いただけで源徳方と見られるのと、ジャイアントは珍しい為にマークされるので、偽名として相州浪人『三坂昭信』(間違って本名を言ってしまっても勘違いで済ませる為)とまで、リクエストしたのだが、冒険者ギルドの受付嬢が──。
「冒険者ギルドは違法な仕事は受け付けていません」
──歴戦の勇士である明信を言葉の斬馬刀で一刀両断。
とはいえ、双海一刃(ea3947)が、自分たちの身分を証し立てるため、使者である家臣の遺体から遺品の一部を借り受けた。
「荼毘に伏す時は戻す。然らばご免」
(大事なものが失われるのに、自分には止める力が無い。
これほど辛いこともないだろう‥‥)。
と、過去に似たような立場を経験しているので複雑な気分を黒衣に押し隠す、アンドリュー・カールセン(ea5936)は友人から上州に関する情報を記した手紙を受け取ったが、渋面を作る。広範囲の情報を簡潔に体系的にまとめようとした文章は、読み手にも知識を要求する。ジャパン語に堪能でないイギリス出身のアンドリューには酷だろう。
山下剣清(ea6764)がそんなアンドリューの肩をどやしつけ──。
「おいアンドリュー黄昏れるな。入れ込みすぎだぞ。今回は黒那姫を江戸まで連れて行くのが目的だ。
落ち武者狩りとか謙信側にも気をつけないといけないがな。
相手もそれなりの使い手だろうがこちらも精鋭。油断はできないがそれなりになんとかなるだろう」
「‥そうだな」
我に返るアンドリュー。
「ま、色々借りるが、依頼が終わったら確実に返す。なに、持ち逃げしたところで、江戸の冒険者ギルドに睨まれて益があるとは思えん」
剣清は剽げて。
「ま、黒那姫の身の回りの世話はロゼッタにしてもらおうかな?」
ロゼッタ・デ・ヴェルザーヌ(ea7209)はその一方的な決めつけに、櫛で豪奢な金髪を梳く手を止め。
「残念ね。ジャパンの礼儀作法に詳しくないの。女性が皆、淑やかと思っていると勘違いしているわね」
「そ、そうか」
「しまった。出遅れてしまったか」
と、石動悠一郎(ea8417)は場が険悪になっている事を感じつつも、ギルドに来るまでに散々迷ったタイムロスを補うべく語り出す。
「兎に角まずは現場に急いで向かわねば。幸い拙者には戦闘でも怯えない駿馬がいる、とはいえ、仲間のこともある故にはぐれぬ程度に急いで向かうといたそう。落城前に黒那姫と合流出来れば良いのだが‥‥っとそうそう、自分たちがギルドの依頼で来た事を証明する物を何かギルドに用意して貰わないと‥‥それとも事切れた使者が何か持ってたのか?」
ともあれ、人事を尽くして天命を待つ。まずは人事を尽くすために上州に向かう一向であった。
自分たちが冒険者ギルドから任務外で来ましたよ──等とアンドリューが言っても、謙信の配下達が──。
「そうすっすか、冒険者ギルドも大変ですね。じゃあ、お仕事頑張って下さい☆」
等とフレンドりィに通してくれる筈もなく、間諜扱いされて、足止めを食らいそうになる事幾たびか‥‥。
しかも、一刃が使者から借り受けた、黒那姫に対応するため、身元証明の品を持っているため、荷物改めを受けるわけにはいかない。
明信が顔を隠していれば、ジャイアントならずとも怪しさ倍増。
チャンバラ十数回。落ち武者狩りを振り切る事数回。
これから得られた結論は城は既に落ちており、黒那姫の行方は知れぬ事であった。
無論、ロゼッタが数人を凍り漬けにして見せしめにした後、得られた情報である。
アンドリューは見せしめにしようと強攻策に出ようとしたが、誓いをかけた愛槍『レイ』をもってしても、当人にそれだけの殺傷能力が足りず、豪語しても実行するのは他の面子であった。
しかし、アンドリューの判断である騒ぎの中心に黒那姫はいるという読みは正しく。人には得手不得手があるものだと、一同は納得する。
周囲に首が晒された、森を抜けると、ぼろぼろのいくさ装束を纏った一団が、大弓を携えた、みどりの黒髪美しい少女を取り囲み、そこを取り囲む謙信の家紋をつけた一団が包囲している。圧倒的に少女を取り囲む一団が不利であった。そこへアンドリューが『レイ』を投げつけひるませると、一団は乱入し、当たるを幸いなぎ払った。
乱戦は終了し、アンドリューは『レイ』を回収。
「これなるは黒那姫か? 冒険者ギルドより依頼を請け負い、落ちのびる助けとなってきた。疑わば、これを拝見あれ」
と一刃が使者の遺体より借り受けた印籠を見せる。
「今この時よりの討ち死には犬死と同じ、生きて血を繋げてほしいという兄君様の御意志を尊重なされませ」
「姫様──あれは」
と、周囲の家臣達が取りなす。
「江戸に届けに来た臣下の方も、己の命を捨てて姫様の命を拾おうとなさっておりました」
続けて、ロゼッタも──。
「ここまで落ち延びていらっしゃるということを良く考えて下さい。
もし、死を望んでしまえば、貴方を逃す為に犠牲となった方々の行いは無駄になってしまいますわ。
皆さんの事を悔やむのでしたら、一刻も永く生き延びるべきです」
と告げる。
「そなた等の口上良く判った。わざわざ、精鋭を潰してまで謙信も、この身を引き入れる程の回りくどい策を取るまい」
こうして、黒那姫は供回りからその身を委ねて(供回りの一部は黒那姫より弓、武者甲冑を譲り受け、自らを囮にして、時間を稼ぐ事になった)、旅装束に小太刀姿で戦場を駆け抜けた。
もちろん、帰り道でも冒険者ギルド云々という口実が通用する訳はなく、馬が疲労したタイミングで襲撃を受ける。
それを力任せで切り抜け、江戸の冒険者ギルドで使者の密葬に加わる一団。
一刃は沈黙の元、印籠を遺体に戻した。
葬儀を終えて黒那姫は──。
「さて、江戸の大狸とも謁見せねばな」
「生き延びた命──どう使うかは自由だが、武運を祈る」
アンドリューが言えなかった言葉を込めて、彼女を送り出した。
これが上州の姫を巡る冒険の顛末である。