●リプレイ本文
「ワザワザ、自分から人前に姿を現して崇めたてろって、怪しいよな‥‥ああ長千代も怪しいと思ったわけね、納得」
冒険者ギルド近くの茶店で、龍深城我斬(ea0031)が、依頼人とその黒幕(笑)を目の前にして言い放った。
さすが、天下の浪人、龍深城我斬であった。神皇の従弟を呼び捨てにする。
もっとも、今回の冒険の『黒幕』である、当の長千代君は武家の装束はせず、毛皮の上下に身を包み、腰の帯には鉄扇という野性味溢れる格好であった。
一方、その使いっ走りという形になっている侍従の柳生左門は赤を基調とした、振り袖姿に帯に小刀を一本落とし込んだだけの『微妙』な装束である。
ともあれ、我斬の言葉に長千代が答えて曰く。
「いや、怪しいかどうかではなく、面白いかどうか──だ」
「長千代様──この天下の動乱時にそんな事を源徳家の若君が言っていては鼎の軽重が問われます──どうか言葉にお慎みを」
慌ててフォローというか窘めに入る左門。
「面白いかどうか──って事は本物とは思っていないわけなのか? 本物ならば礼を尽くして頼み込むだろうとおもったがな」
「いや、俺は神主でも坊主でもないし──まあ、別の意味では坊主だが、念仏を唱える趣味はない、という意味では坊主じゃない。まあ、ジーザスの教えとも縁遠いしな」
と、言っていると後ろか奇声が上がる。
「けひゃひゃひゃ、ジーザスの教えとは縁遠いかねぇ? まあ、我が輩も聖なる母に最近脚を向けまくって寝ている様な気がするが。ともあれ、我が輩のことは『ドクター』と呼びたまえ〜」
この様な奇声と奇態の持ち主はジャパン広しと言えどもトマス・ウェスト(ea8714)以外に誰を連想できようか?
辛うじて十字架のネックレスが彼をジーザス信者ではないか? と思わしめるよすがとなっている。本当に辛うじて‥‥ではあるが。
「お久しぶりです、トマス様‥‥ではなくドクター」
「そうそう、我が輩のことをドクターと呼ぶのが正しい。左門君?」
「あれから、何か面白い話はあったか?」
「おや、長千代君こそ、面白い話はあったのかねぇ? もっとも、疑問系に疑問系で返すのはあまり知性に溢れた返答ではないようだ。だから、含みを持たせて返事をさせてもらうとだね──まあ、あの満月の晩から半年も経ったのだ、ジャパンという国が如何に興味深いかを堪能させてもらったよ〜」
「左門も、長千代も久しぶりだな。俺にとっては相手の真偽はともかく、『自称』大物主のもの言いは脅迫以外なにものでもない。ゆえにほっとくわけにはいかない」
槍を携えた青装束のその姿はカイ・ローン(ea3054)その人であった。
「俺は『自称』大物主を鎮めることを目的として動く。具体的に人のことは言えんが、冒険者は冒険者でしかないということだな。崇める三つの方法はどれも冒険とは関連が薄いゆえに、求める基準に達している面々は集まらなかったが」
そのカイの言葉に被せるように、山本建一(ea3891)曰く。
「これは戦いになりそうですね」
「──というか、聞き直して良いか? 冒険者即ち殺戮者でいいというのなら、俺は最初から大物主討伐の為に奉行所の方に話を持って行くぞ。如何なる益荒男ですら、軍勢に責め立てられ続ければ、槍折れ、霊力は尽きていつしか落ちる。千人を相手にしても万人は相手にできまい──あれ、左門は?」
「すいません、ゲレイ様。その様な異形と江戸市中で練り歩くのは止めてくださいませんか?」
ゲレイ・メージ(ea6177)がペットのウッドゴーレム、木人1号を連れて、一同に合流しようとしたのを左門が止めていた。
「ふむ。左門氏が止めるのならば諦めよう。木人1号、『私の家に帰れ』」
と、ゲレイが隠しでメダルを握り締め命令する。魔力の籠もった指示に木人1号は雑踏の中に消えていった。
そこへ鷹見仁(ea0204)が現れ──。
「やれやれ、相変わらず騒がしいな。
で、件の蛇さんだが、もしも戦いが起こらないなら、俺は大人しく傍観させてもらうよ。
だが、もし戦いになるならば前に立って戦わせてもらう。
強い相手と戦うのは不謹慎かもしれないが心が浮き立つ。
神を名乗るような相手ならば相手にとって不足は無い。
なんだったらお釣りもくれてやるさ。もっとも蛇だけにお足はでないだろうがな」
「いやいや、神を名乗る相手即ち強いとは限らない」
とゲレイがウンチクをタレ出す。
「ジャパン固有のモノらしいが、夜刀神というものがいる。蛇神の類だが、これが非常に弱くて、長千代の様なものでなくとも、子供が5、6人寄って集って闘えば撃破できる程度のシロモノだ」
「まあ、八百万の神々と言うからには、様々な神はいらぁな。そんな弱いのでも、神扱いされるのなら、『確かにこいつには神を名乗れるだけの力があったかもしれない。だが人に敗れた時点でこいつは神ではない』とでも勝ち名乗りを上げてやるつもりだったが‥‥宣伝効果は薄いな──」
「そんなややこしいジャパンの神と違って、我が輩を見捨てないでいてくれる神は『聖なる母』だけだが、ジャパン人はそんなに神が居て、困らないのかねぇ?」
と、トマスが問いかける。
「1年で全部祀るにしても、1日で2万柱以上は祀らないといけないだろうにねぇ〜。そんなに祀っている様子は見えないのだが〜?」
左門は顔を綻ばせて──。
「祀りたい神だけ祀っています。要は自分に都合のいい神だけ」
「ふむん、ジーザス教の聖者みたいなものかねぇ?」
(そういえば、構太刀も国津神だと言っていた記憶があるな──あれもどこかで祀られる様な存在か?)
カイが自分の追憶に浸っている間に、一仕事終えた、アイーダ・ノースフィールド(ea6264)が、服を着替えて現れた。
「神様を名乗ってる大蛇が居るなんて、ジャパンってつくづく不思議な所ね。
まぁ、偽物なら狩りのターゲットが増えるだけ。
どっちにしても、力ずくで行くしか無い面子が集まっちゃったけど。
とりあえず、蛇の這いずった後をこっそり調べてみたけど、隅田川の中に消えていたわね。それ以上は辿り様が無かったわ。すくなくとも自分の痕跡を隠すという事はしていないようね」
結局の所、神としての真贋は判らないままであった。
そして、旗指物が縦横無尽に並んでいる隅田川近辺まで一同は移動した。まあ、道中の光景はアイーダが以前見たものと変わっていなかったが。
その中央に白い蛇が巨体で蜷局を巻いて、鎮座している。
あれが大物主(自称)という事らしい。
囲むように氏子の集団が幾重にも連なっている。
我斬が一同を囲みを割ってはいるのを先導し、白蛇の目前に立つ。
白蛇は片眼を開いて、問う。
「何用だ?」
「いや色々聞きに。ただ加護を与えるとか言われても、それだけで納得できるのはただのお人好しだね、そこんとこもうちょっと詳しく言ってみ? ほら、何かあるだろ?干ばつ時に雨を降らせるとか、食糧難の時には山の幸を届けるとか村で酒を作ったりしてたらその発酵具合が良くなる様にするとか‥‥そういった事、出来る?」
「我は軍神なるぞ。いくさ場においてこそ力を振るう。まあ、雨を降らせる程度はできるがな」
そこへトマスが。
「ふん、所詮、軍神。その程度か〜」
と、オーバージェスチャーに薄ら笑いを交え──。
「けひゃひゃひゃ、では神の力とやらをみせてもらおうかね〜。我が輩が願ってやまぬ物の目的の達成に必要なものの場所を教えたまえ〜」
「知らん。オモイカネにでも聞け?」
「何かね〜? それは」
と、トマスが問い返す。
「まあ、言いたいことはこうだね? 判らん。と」
「献げものも持たず、現れては無礼であろう」
周囲の氏子が騒ぎ出す。
ゲレイは──。
「神に近い存在には出会った事があるが、人が悪さをしない限り、人に要求などしなかったぞ」
と、胸を張り、説得しようとするが、それは神じゃないからだ、と一蹴される。
カイは打って変わって白蛇に問いかける。
「御身には自身を崇め奉る神社がちゃんとあるのに、何ゆえに江戸に訪れ申したのか?」 ゲレイもそれに乗じて──。
「三輪大神をまつる大神神社があるのに、なぜ江戸に来たのです?
たとえ神でも祟り神ならば、剣と魔法で合戦を挑むまで」
「ああ、気まぐれ。神を祟り神だの、なんだのというのは崇める側の勝手な都合。本当に祟りを為すならば、ここまで氏子が集まろうか?」
そこでゲレイは今まで調べた白蛇の正体を氏子に話し、もし証拠がなかったら、話をでっち上げようとしたが、調べた材料にも乏しく、話をでっち上げようにもその方面の才能はなかった。
カイは白蛇に向かって──。
「私は異国のものゆえに御身のすばらしさを知りません。よりよく崇め奉る為に御身の偉業をお教え願えないでしょうか?」
「異国? まあ、判らんが、周囲の氏子に聞け。我よりも詳しく教えてくれるぞ。時が流れると色々と尾ひれ羽ひれがつくものだ」
「おや〜、もしかしてただ飯食いに来ただけ?」
と我斬が挑発しようとするが、カイとゲレイが氏子を巻き込まないように、との配慮を見事なまでに台無しにしている。
「我は何も食わなくても平気だが? 献げたられたものをただ腐らせるのも忍びないので、食しているだけの事。酒も同じ。我は酔いたい時に酔える、人の子の手により醸した酒などなくてもな──まあ、もっとも女の腹から生まれようと、天地の精気が凝り固まって生じようと、悠久の時を経て変化しても、天から墜ちて天を恨むモノでも、死んで怨念により生きる者でも、この国の神である事に変わりはない」
そこへトマスはけひゃけひゃと笑いながら。
「人でも出来ることをやれるという、実りも癒しももたらさないものが“神様”ね〜、けひゃひゃひゃひゃ」
「ほう? では、こちらに何か尋ねないと、目的も達成できないものが、どんな癒しを見せてくれるかね?」
「ふむん。怪我人がいると手っ取り早いのだが──いやぁー居なければ作ればいいのだがねぇ〜? 誰か怪我人はおらんかねぇ? 生きていれば、どんな傷でも治してみせようじゃないか。まあ、お代はタダという事にしておくがねぇ〜?」
すると氏子の中から手を挙げて、足首を挫いたものが脚を引きずりながら、前に出てくる。
「まあ、我が輩の医術をもってすれば、聖なる母の奇跡に頼らずともいいのだが、世の中にはデモンストレーションという言葉もあるのでねぇ〜」
と十字架を握って聖句を唱えるトマス。
白く淡い光に包まれて、傷が癒されていく。
「どうかね? こんな事が出来るかね?」
「まさか? そんな他人の怪我を癒す等という芸当は闘気の技を人外まで極めたものしか識らぬはず──」
白蛇は狼狽える。氏子はそれに同調するかのようにざわめいた。
「さて、そろそろ馬脚を現してもいいのではないかねぇ? 傷は浅い内に舐めた方がいいからねぇ」
「軍神の数の内であるのは確かだが──まあ大物主というのはハッタリだ」
氏子達の間をさざ波の様に波紋が走っていく。
「昔、色々と暴れていたので、他の神々に封じられていたのだが、どうした拍子か、最近封印が解けて、物珍しさにこの街で活動していたら勝手に“あの”大物主と祭り上げられていたので、調子に乗って──」
「昔ねえ、どれくらい前?」
と、我斬が問うが、この白蛇には暦という概念が存在しないらしい。少なくとも神聖歴がジャパンに伝播する以前の存在らしい。
らしいばかりだが、少なくとも古事記や日本書紀が成立したり、仏教が渡ってきて、神聖魔法『白』や『黒』が流布したり、江戸の街が出来たり、刀が出来る前の存在というのは確実である。
「えらく昔という事だけは判った──」
と、仁が頭を掻いた。
「で、強いのか? 強い奴と見れば──血が騒ぐんでな。モノ──精霊に属しているとあれば」
「多分、一対一ならば勝てる。全員が総掛かりならば‥‥消滅するだろうな」
「よし、一戦交えようや! なーに、怪我したってドクターがどうにかしてくれる‥‥よな」
トマスは親指で喉首を掻き斬るジェスチャーを交えて。
「まあ、手足だの首が飛んだりしなければ、我が輩の『薬草』で治してあげるがね? 何もかも神に頼るのは良くないのだよ〜」
「‥‥魔法で頼む」
「まあ、気が向いたら‥‥そこの蛇? そちらが傷を負ってもまあ、頼み方が面白ければ治してあげるがねぇ」
ともあれ、仁と白蛇は向かい合う。仁は胴田貫と、雷切の双刀を構えた二天一流の構えである。
「行くぞ!」
仁が気が十分に満ちた頃合いを見計らって間合いを詰める、次の瞬間、白蛇が淡く青い光に包まれて尾っぽをくゆらせていた‥‥。
「あれ?」
思いっきり踏み込んだ瞬間、心配げな一同に仁は囲まれていた。
十字架を翳した、トマスが笑みを口の端に浮かべている。
「いやぁ、アイスコフィンで封じられていたようだねぇ? 怪我はないが、わざわざ魔法を解除したんだ、少しは感謝してくれたまえよぉ?」
「次は勝つ! いや、戦場に次はないか──青い光という事は水の精霊魔法だな‥‥そういえば、雨を降らせる事も出来るとか言っていたっけか」
仁の呟きをよそに──。
「しかし、驚いた。我が氷の封印を魔法でもって打ち消せるとは、世の中は広い」
生まれて(?)初めて見たニュートラルマジックに驚く白蛇。更にトマスからレジストマジックという完全に魔法を遮断する力もあると識らされ、まだまだ驚きは隠せないようである。
「なーに、聖なる母のご加護の賜物。我が輩の力じゃないよ〜」
「まあ、この精霊魔法は専門家の領域に留まっているようだが、肉弾戦にもつれ込めばひとりずつしかアイスコフィンで封印できないだろうし、後ろの術者は魔法がかかりづらいだろうし、戦術さえ間違えなければ、十分に封殺できるだろうね? もっとも手の内が判ったから言える事だけど」
と、ゲレイが分析を隙あらば差し挟む。
アイーダの見立てでは、この白蛇の実力は牛鬼程度ではないか? という事だった。
「まあ、牛鬼とは実際に闘ったけど、この蛇とは戦いを横から見ていただけだし」
多分、戦闘開始時の間合い次第で、自分と白蛇の戦いは既に決まるだろう。
魔法の射程外から、矢を射かければ、アイーダの勝利。魔法の範囲内で抵抗に失敗すればアイーダの敗北。
もちろん、これは一対一の場合であって、トマスの魔法の援護などがあれば、どう転ぶかは判らない。
「で、これからどうする?」
とは白蛇に長千代が問い質した言葉。
あくまで軍神として振る舞いたいならば、上州の動乱に殴り込んだりすれば、源徳の手勢にとって大きな援助となるだろう。
とはいえ、この白蛇に神聖歴ジャパンの常識を叩き込んだ上で、複雑極まる現在の軍事情勢を教え込むのにどれだけ時間がかかるかは甚だ疑問であるが。
その問いかけに対して白蛇は首を横に振ると、感服したので、自分も是非とも聖なる母の霊力を得たいので、霊山に籠もって修行したいとの旨を告げる。
まあ、ここにいる誰しもが精霊が神聖魔法の力を得たなどという話は聞いた事がないので、それが果たして単なる夢で終わるのではないかという危惧を抱いてはいたが──。
「ふむ。ではヨブ記十四章十四節を送ろう“人もし死なばまた生きんや。われは我が征戦(いくさ)の諸日のあいだ、望みおりて、わが変更(おわり)のきたるを待たん”」
トマスの言葉を背に受けて、隅田川をゆっくりと白蛇は遡っていった。
アイーダはぽつりと呟いた。
「そういえば、あの白蛇、なんという名前だったのかしら?」
「言われてみれば確かに、聞きあぐねてしまいましたね‥‥」
モノのたとえとはいえ、八百万も神様が居れば、名前を判らないまま、神格の調査をするのは困難を極める、というより不可能に近い。
という事で白蛇の素性改めは機会があれば、いつか──という話になった。
そして、白蛇を崇めていた氏子達は奉納した品を担いで帰り、皆それぞれの生きるべき場所へと戻っていくのである。
奉行所にも特に淫祠邪教だという報告はなく、氏子達はひとりひとり名前などの聞き取りの後、穏便に日常に復することを許されていく。
白蛇がもはや見えなくなった隅田川を眺めながら──。
「これは迷えるモノを聖なる母の教えの元、ジーザス教に帰依させた事になるのか?」
カイは何かが微妙に間違っている様な気がする、白蛇の行動に対し、僅かな疑問の念を持ったが、神聖騎士を導く筈の、クレリックであるトマスは──。
「いやー、教義も教えてないし、洗礼も施してないしのないないづくしでねぇ。向こうが現世御利益目当てに聖なる母の霊力を会得しようとしたのだから、かなり間違っているんじゃない〜。ま、どれだけ修行するか、見所ではあるが、研究のせいで見物に行けないのは悲しいものだぁ〜」
一方で、我斬が仁と飲み交わす。
「仮にとはいえ、白蛇と戦えた仁は羨ましいな」
「それは氷漬けにされていないから言えるんだ。少なくとも負けたんだ。気分は良くない」
「まあ、仮に再戦を考えて対抗を練ってみるとすれば、ソニックブームのひとつを覚えてもみようか。間合いを広げないと、魔法主体で戦ってくる相手には一発で行動不能にされる可能性もある訳だ」
互いに刃を交える間ならいざしらず、魔法を交えての搦め手が出てくれば、幾らでも逆転の目が残っている。救いはそういった一撃逆転の魔法は間合いが短い事であった。
浪人が得物に頼らずして、間合いを伸ばすには事実上ソニックブームとソードボンバーしかない。
一方、ゲレイは聞き忘れていたことがあった──それは白蛇の言う神々は神と『成る』──言わば高次の存在となるのか、それとも単に人々の礼拝の対象となるのか? 女の腹から生まれた、と言っていた。それは人が神に『成る』事もあるのを示唆しているのか? オーガの部類に入る天狗はどう位置づけられるのか? やはり、女の腹から生まれた、と位置づけられるのか? 知らないかもしれないが、聞くくらいは許されることだろう。
「ふむん、聞くべきかも知れん事か──しかし、あの白蛇に聞くのはあまりに時代差がありすぎて、相互理解するには自分のジャパン語の語彙ではフォロー仕切れない様な気がする。まあ、いいとしよう。向こうがジャパンから出そうにない──何しろ異国というものを識らないで居た位の世間知らずだ。今は、今だけはコレで満足しようかな‥‥。いや、ここは‥‥うーむ、やっぱり探求心が疼く」
ゲレイは自分の言葉によって、探求心を一層、駆り立てられるのを感じていた。
そして、冒険者ギルド──。
「皆さんには大儀をおかけしまして」
振り袖姿のまま、左門が一同に礼をする。
「肝心の白蛇の前じゃ、何もしていないけどね」
謙遜したアイーダがはにかんだ笑みを浮かべる。
「なーに、不思議な事があったら、呼んでくれ。できれば、刀剣関係の事がいい」
とはゲレイがパイプに草を詰めながら返したその蘊蓄に関する情熱は変わらない。
「やれやれ、左門が本当に女だったら絵の題材になってもらいたい所だったがな。まあ、こちらは呼ばれる身、贅沢は言えないけどな」
とは仁の言葉。
「やはり、ジャパンの宗教は難しい‥‥ジーザス教だけに凝り固まっていると、いつか致命的な事態になりそうだな。国ではアーサー王が精霊信仰とジーザス信仰の融合を図っているというのに」
カイが神多き国にまた振り回された事への恨み言を述べる。
「いえ、ポーションも使わずに済みましたし。安全は良いことです」
損得勘定も含めて健一が感想を漏らした。
「まあ、ジーザスの福音を“神”に伝えたのは〜、まあ、大きな一歩じゃないかなぁ。後は知らないけど」
トマスがオーバージャスチャーを交えながら、左門に返す。
「みんな、ありがとう!」
まだ、声変わりしない、長千代が一同に礼を述べた。
そして、一同は日常へと戻っていく。戦乱の世の中を切り取った日常に。
これが白蛇を巡る冒険の顛末である。