●リプレイ本文
「これでラスト!」
淡い緑色の光に包まれたアルス・マグナ(ea1736)の掌から黒い線が一直線に伸び、ズゥンビの残骸の山を粉砕した。
「かったり〜、まぁ、絵の捜索よりはマシか〜? 捜索班は頑張ってこいよ〜」
一応、村の周囲を闊歩し、処分した死人は十三体、この数に含みがあるか、否かは不明である。
「とりあえず、絵の探索が試練じゃない『だろう』と依頼人も言ってたけどね、やっぱり不安だからアルスも来てよ」
と、シフールのリル・リル(ea1585)は彼を引き留めようとするが、馬車の護衛に残っているのが少ないと心配だろう、とアルスは振り切った。
そして馬車に着くや否や専属の料理人に今まで食べた料理のレシピを聞き出そうとするが、主婦の手料理ならいざ知らず、飯の種のネタを教えてくれる料理人はおらず、知りたければ弟子入りしろと一喝された。
「敵の狙いが我々の二分化だとまずい。あまり戦力を分散させたくないが‥‥」
一方でひたすら悩むリュシアン・ベイル(ea4950)。
依頼人の『だろう』という言葉に彼はひたすら振り回されている。
シフールのシリン・シュトラス(ea1996)は(今回が自分が受ける初めての依頼だね。結構難しいらしいけど、少しでも役に立てるように頑張っていこう!)と意気を高めていたが、ひょっとして難しいのは、こういう先輩冒険者のサポートをしなくちゃいけないから? と一抹の不安に駆られていた。
そんな光景を仕切る羽目になったジャイアントのアウル・ファグラヴェール(ea1882)は(この任務失敗するかもしれん‥‥)と行き詰まり。次の温泉巡りはどこに行こうか、と思考を虚空の果てに飛ばしていた。
全員、魔法を使えるだけあって、魔力の回復には安息が不可欠である、そのローテーションも組んでいたが、緊張が持続するかが非常に微妙なところであった。
マリウス・ゲイル(ea1553)は馬車の護衛班の一員として馬車の周囲を騎馬で巡回していたが、ふと疑問に思った。
「ところで、何であんなアンデッドがいたのに鵞鳥の鳴き声がするんでしょうか? 廃村では──」
「何もわざわざ、こんなところで絵を描かなくたっていいと思うんだけどね、僕は。
それとも、それが選民思想っていうものかな。
吾らが愛しのローマに限らず、どこにでもいるものだね、あのタイプの輩は」
ため息と共に苦笑いを浮かべるユージィン・ヴァルクロイツ(ea4939)。
「‥‥‥‥え? 愛しそうに見えない?
これでも僕は生まれ育った国を深く愛してるんだよ。
行きすがりの女の子を戯れに口説く程度には」
女の子扱いされた群雲蓮花(ea4485)はにこりと笑って。
「あなたの愛国心と女の子を口説く事にどう関係あるか判らないです。とくにこんな寂れた所では」
と、朽ち果てた村を示す。
だが、その広場には十数体の石像があった。老若男女を問わないモチーフ。
「こういう所だからこそ愛が必要じゃないか?」
と、返すユージィンの言葉は蓮花の耳にはもう届いていなかった。
「何かから逃げようとした石像が何個もある──これも芸術家の作品なのでしょうか? あのズゥンビの像なんか腐敗の具合まで精密に彫ってある‥‥技術は凄いけど、あんまりお友達になりたくないです。
ともあれ今回はどうも、依頼人に一杯食わされてるような‥‥‥‥な〜んか私達って、試されてる感じがするなあ‥‥‥‥」
「何、何があっても粉砕し、前に進むだけだよね。臆する所なしさ」
と、蓮花ほどではないが、小柄な、しかし、筋骨隆々とした肉体をローブに潜めたレイ・コルレオーネ(ea4442)が声をかける。
スタッフを持っていなければウィザードとは見えないだろう。更に30を越えている様には見えない。下手をすれば十代半ばでも通じるだろう
「いま、鵞鳥の鳴き声が──?」
小柄な影が彫像の脇から出てきた。それはシフールよりは大きいといったサイズであったが、鶏と蛇の合いの子のような姿をした大きな鳥であった。牡鶏の頭と足を持ち、胴体は鱗で被われそのまま蛇のような長い尾につながっていた。
翼はコウモリの如く。耳障りな音を立てて羽ばたき、鵞鳥の様な鳴き声を上げた。
脚はその場にいた誰よりも早かった。まさしく駿馬を思わせる加速ぶり。
「何故、鶏なのに鵞鳥の声?」
レイが驚嘆の声を挙げる。利き手をスタッフ、逆手をナックルで装備していては魔法が使えない為、ナックルを外してはいたが、スタッフでその『つつき』を受け止める。
スタッフが徐々に石に変わっていった。
「石化‥‥この石像はこの怪物の仕業?」
「助太刀ぃ!」
一声叫ぶとタイミング良く現れた永倉平十郎(ea4799)が抜刀しながら斬りかかる。
相手も避けようとするが、それも叶わず、返す刀を浴びせた。
体格からしてかなりの深手を浴びせた筈なのに狂戦士の様につついてくる。
怪物が狙うのは3人ではなく、もちろんひとりだ。手傷のせいで動きそのものは鈍っているため、かわすのは比較的、楽となった。
しかし、それでもまだ突き進んでくる怪物。
レイは脚にバーニングソードをかけ、蹴りかかる、踏みつける様な感じ。
そして、ユージィンの術で金縛りとなり、身動きできない所を一同に袋叩きにされた。
「早くみんなにも知らせにいかないと。アンデッドより厄介だよこれは!」
「何か今の俺ってコソ泥の気分か‥‥?」
天井裏を調べる稜王寺条(ea4938)はジャパン語で呟く。
「あの手の選民意識の強い人間って、余り好きにはなれないけど‥‥‥‥仕方ないか!」
空き屋の煙突や梁の上などの予想外の場所に無いかを重点的に調べていると、自虐的にもなってくるのだろう。
一方で、気楽に物事を単純化できる男がいる。
「で? 見ただけで気が滅入る絵を探せばいいんだな?」
シン・ウィンドフェザー(ea1819)はこの一言で全てを済ませてしまった。
「‥‥さぁて、陰気臭ェ場所からはとっととおさらばしようじゃねぇか。全く変な彫像ばかりの村だ」
「じゃーん、こういう時は冒険者の伝統に則って『十尺の棒』、これと鏡があればダンジョン突破の生還率は百%アップ」
と、パラ浪人の響清十郎(ea4169)は馬小屋からでも引きずり出したのか、3メートル程の棒を持ち出してきた。
それを見たシンはぼやく。
「何が『ジュッシャクノボウ』だ? ただの十フィートの棒じゃないか」
「これが古来よりの浪漫というものだよ」
と言って清十郎は周囲をつつき回す。
妙な手応えと鵞鳥の鳴き声。
「ん?」
「退け!」
殺気を感じたシンが剣を抜き放ち、間に飛び込む。
小柄な怪物が飛び出してきた。
十フィートの棒も石と化していく。
飛び込んだシンに怪物はつつきかかるが、シンは華麗な脚裁きから反撃に転じ、剣が鮮やかな一撃を決める。
戦いが始まった事に、エルフのゼルス・ウィンディ(ea1661)は、だから最初に教会に行こうと苦言した事を思い出すが、それより仲間の危機の方が大事である。
もう少し、風の精霊魔法自体の腕があれば、ブレスセンサーの長期使用で今のトラブルを防げたかもしれないと思いつつ、魔法の詠唱に入る。
「なかなか興味深い趣向の絵を描く人物だと聞いていたが‥‥ならば私を興ざめさせる事はないだろう。なかなか楽しめそうだな‥‥こういう試練も含めて、な」
リュミエル・フォレストロード(ea4593)も魔法を唱える。もっとも彼の知っている術はひとつしかなかったが。
淡い青い光に全身が包まれた次の瞬間、氷点下の冷気を浴びた手刀が振り下ろされる。
だが、怪物は造作もなくその手刀を避けてしまう。しかし、シンの剣と清十郎の刀が確実に相手の体力を削っていく。
条も天井から飛び降りて斬りかかり、清十郎の連撃に、更に追い打ちをかける。
最後にゼルスの放った真空の鎌が止めとなり、怪物は息絶えた。
「こんな事をしていても仕方がない、本命の教会に行こう」
ゼルスは急を告げにやってきたレイ達と合流した。
「ようこそ来訪者よ。試練である二匹のコカトリスを見事抜けてきたようだな」
熟年の僧服に身を包んだ男は教会の門扉を開け放った一同に告げる。
一部で予想された、依頼者=クレリックという意見は外れたようである。
教会の内部はセーラのそれであったものを、こつこつとタロンのそれに合わせて半ば改装されており、そのちぐはぐさ自体がクレリック、神聖騎士には不安さを感じさせた。
これが『鈍色の天使』だ、と示されたのは大振りな額に飾られた絵であった。
かつてタロンの使徒でありながら、神々を裏切ったデビルを救いにセーラ神がデビルの住む地獄に降りていこうとする。
それを止めようともせず、喪服に身を包みながら涙を流す天使達の群像がその主題であった。
地獄巡りという主題に、敢えてセーラ神を選んだ事に不敵さと、その目を回すような筆さばきに支えられた構成力に、一部では吐き気をも催すものが現れた。
「さあ、持って行くがいい」
その前にゼルスはひとつの頼み事をした。
「実は最近、そろそろ称号の一つも欲しいと思うようになりまして‥‥。けれど、ただ格好をつけただけの称号や、ウケ狙いの称号じゃ、つまらないんです。あなたの独特の感性で、その名を聞いた者が二度と忘れないような、印象的な称号を、私のために考えてはいただけませんか?」
「よろしい、ならば『──』だ」
クレリックは彼の耳に囁いた。
「そうですか──」
ゼルスは表現しようのない表情を浮かべ、レイは教会からスタッフを一本拝借する。
布に被われた『鈍色の天使』を受け取り一同は馬車へ、そしてパリへと戻る。
尚、この絵の消息はようとして知れなかった。