どんぐりいっぱい集めよう

■ショートシナリオ


担当:成瀬丈二

対応レベル:1〜5lv

難易度:易しい

成功報酬:4

参加人数:4人

サポート参加人数:-人

冒険期間:11月27日〜11月30日

リプレイ公開日:2006年12月05日

●オープニング

 薄汚れた小判が一枚、江戸の冒険者ギルドのカウンターに置かれた。
『俺』こと、冒険者ギルドの受付はカウンター越しに純粋な瞳を浮かべている、薄汚れた服の裾から可愛い脚を丸出しにした7、8歳ばかりの男の子に向かって首を横に振った。
「悪いな、坊や──冒険者ギルドはこれだけの金では動かない、冒険者を仲介する為の手数料を取って動いているんだ。これだけの金子じゃ、冒険者ギルドを動かすには力不足だな」
「だめ?」
 言って男の子は小首を傾げた。
「そう、足りない」
 そのやり取りの間に物見高い冒険者がこちらに視線を向けているのを感じる。だが、ギルドの看板をタダで降ろす訳には行かない。
「もう少し、持ってくるんだな。でなければ奉行所にでも駆け込むか」
「ガン、これしか持っていない、これしか。奉行所、何? 困った事があったら『ぎるど』来ると良いって聞いた」
 どうやら、この子はガンと呼ばれているらしい。何の字を当てるのかは判らないが。
「冒険者はヒマじゃないんだ? なあ」
 とは言うものの、暇そうにしている駆け出しは何人かいるようだった。
 ガンは涙をにじませて、此方を見上げる(無論パラ用の足台に乗ってだが)。
 俺は最後の手段に出る事にした。
「あーあー、冒険者ギルドから急ぎの仕事。この煩い小僧を連れ出してくれ」
 大義を得た冒険者達はその男の子に集まってくる。
「あのね、あのね、ガンどんぐりいっぱいほしいの、それないと冬こせない。できればリンゴも食べたい」
 俺はおもむろに懐中火から煙管に火を落とし、一息吸い込む。やれやれ、一仕事終えた後の一服は旨いぜ。
 若手の冒険家はこんな他愛もない冒険からでも何かをつかみ取るだろう。
 報酬はあの小判一枚を分け合うのが精々、保存食費も持ち出し。しかし、経験を積む事には変わりない。
 どんぐりを集めるとなれば森や山に分け入るだろうが、熊や猪にでも出くわさなければ平気だろう。
 ま、世の中には万一という言葉もあるがな。
 これが若手の冒険の始まりってやつさ。

●今回の参加者

 eb0112 ジョシュア・アンキセス(27歳・♂・レンジャー・人間・ビザンチン帝国)
 eb7311 剣 真(34歳・♂・志士・人間・ジャパン)
 eb7708 陰守 清十郎(29歳・♂・陰陽師・人間・ジャパン)
 eb8813 極楽 火花(25歳・♂・忍者・河童・ジャパン)

●リプレイ本文

 江戸の冒険者ギルドで、受付のひとにけんもほろろにされて途方に暮れるガンくんに、ジョシュア・アンキセス(eb0112)が話しかける。
「ん、なんだ? 冷たいおっさんはほっといて俺らに話してみなよ」
「ほんと?」
 そこで話の糸口を見つけた剣真(eb7311)が──。
「自分も一枚噛ませてもらっていいか? 剣だ。よろしくな」
「ツルギ?」
「そう、ツルギだ」
「まあ、そう急かさず、のんびりいきましょ〜」
 と姿勢を正した、筋肉質の比較的大男の、陰守清十郎(eb7708)の声がする。
「韋駄天の草履が二足余ってますので、持ってなければ使って下さい。女性の方にはあまりお奨めできませんけど」
 ジョシュアの方をちらり、見やりながら清十郎。
「男だって‥‥」
「失敬、失敬」
 言っている言葉の割りには表情は笑いのまま。どうやら清十郎はこういうタチらしい。 真は自分は持っているが、とんでもない方向音痴なので、皆と一緒に行動しないと、一生ガンくんに会えないかも──と、危惧を漏らす。
 この方向音痴という病は、どんなに経験を積もうが、危険な目に合おうが、決して治らない。多分草津の湯でも、500年ほど浸からなければ治りそうにない、シロモノである。
 こうしてガンくんに無償で助太刀する事になった、ジョシュア、真、清十郎の3人は冒険者ギルドや、江戸の冒険者酒場といった妙な知識に詳しい面々に、厚意を前提とした聞き込みに及んだ。
 そして、林の一角でカランコロンと、木の欠片ふたつを紐で繋げた、熊よけの仮ごしらえな道具の音が響き渡る。
 ジョシュアの提案で、沢山取りすぎて林の獣が減り、餌を求めて大型肉食獣が里に出てきても難なので、程々にし、一カ所のドングリをごっそり持っていくのではなく、満遍なくチョイチョイと取っていくという方針で一同は動いていた。
 さすがの冒険者ギルドの暇人やら、酒場の飲んべえでも、子供連れと見ると、人跡未踏の霊山やら、経験を積んだ冒険者でも生還は困難といった難所は紹介せずに、江戸市中の熊も猪も出そうにない、代わりに沢山の箇所をこなす必要のある小さな林ばかりが推薦された。
「これ楽器の代わりになりませんか〜」
 楽器演奏を呪文の詠唱の代用に出来る、月の精霊魔法の陰陽師、清十郎はのんびりと楽器演奏のつもりで欠片を打ち鳴らし、精神集中を図るが、残念ながらこれでは代用になりそうにない。
「へ〜、魔法使いなんだ」
 と、真はその様を見て驚き、ガンくんも目を丸くして見入っている。
「陰陽師です」
「へえ、じゃあお公家様か」
「はっはっはっは。いやあ、使える手妻も相手を眠らせるだけなんですけどね。呪文の補助に『神仙の杖』使っても、魔力を爆発的に上げる訳ではないですし、結局は地力の勝負です。それに咄嗟に魔法を発動させるにはまだ未熟ですし、相手も抗うから、必ずしも勝負の決め手にはなりません、はい」
 等という幕間劇の中、五つ六つと、林を巡る中でもジョシュアの手にした袋は確実に膨らんでいく。
 夜になると解散するが、ガンくんは人里離れた方向にいつも向かっているようであった。
「家、どこなんだろうな?」
 誰ともなく呟いた。
 そして、3日目の昼間。
「おい、ガン君、手を広げてみな。‥‥ほらっ」
ある程度取れたら、ジョシュアがガンくんの掌を広げさせ、そこにドングリを渡す。喜んだ顔が見たいのだ。
「わあ、いっぱいだ」
 ガンくんは零れるような笑みを漏らす。
「後は林檎か?」
 釣られて笑うジョシュアの囁く様に、真が告げる。
「ガン君が持ってきた小判一枚で林檎は買えると思うんだけど‥‥どうだろう?」
「農家などを訪ねるのが早いと思う。交渉して少し分けてもらおう」
「そうですか、じゃあ急ぎましょうね」
 清十郎が告げると予め尋ねておいた農家へと、一同は脚を運ぶのであった。
 真が先導して、林檎の値切りを始める。巧みな弁舌に、一同は相場より二割ほど安く林檎を手に入れた。
「ガンくんともこれで最後か──」
 清十郎が告げる。正規の依頼で無いとはいえ、動ける時間には限りがある。それぞれの生業もあるのだ。
 最後にはガンくん自らが小さな森に案内した。
 大きな樹に洞が空いている。
「ここにどんぐりと林檎入れて?」
 清十郎が土台となり、真が洞に戦利品を注ぎ込む。
「これで冬をこせる。どうも、ありがとう」
 言って、ガンくんは蕩けるように姿を変えて、一匹の『ももんが』に姿を変える。

「冬を越すための食事が欲しかったのか?」
「うん。残ったお金いらないから」
 ジョシュアが呟く中、がんくんは器用に手と脚の間の皮膜を広げて、樹から樹へと器用に滑空、跳躍を繰り返し、樹の洞へと潜っていく。
 清十郎はほとんど判らなかったが、長年天地の精気を帯びた動物が『化ける』事があると知っていた。
 ともあれ、彼らの手元には幾ばくかの金が残り、心には想いでが残った。
「春になったら、またあいましょう」
 清十郎はそう告げる。
 これがどんぐりを巡る冒険の顛末である。