●リプレイ本文
童顔で年を間違えられても、異性とは間違えられない女装若人、結城夕貴(ea9916)は初っ端からトラブルの種であった。自慢の理美容の腕を活かし、狐耳の少女の扮装をする。巫女さんルックに狐耳である。一部のものには、何とも知れぬ感情をかき立てようとしたが、夕貴自身のマイ設定。妖怪種の狐☆ 魔法は苦手だけど‥‥武芸は得意なの☆
は高尾山の修験者に通用しなかった。修験者は武芸の達人もいるが、闘気の技に秀でた者も、天の法力を振るう者もいる。
洒落では済まなかった。
霊地で妖怪を自称するのは止めよう。
そう思ったのはブラックホーリーやら、オーラショットを手加減無しで食らってからであった。
そして、高尾山の滝を潜ると別天地。
小天狗、烏天狗の長である少年『十郎坊』は新年の宴? に一同を引き連れながら、にこやかに──。
「いやぁ、大山伯耆坊様が復活なされて良かったですよ。一応、亡くなったという事でもありますので、喪が明けた事も含めての祝いですから」
「いやぁ、拙者、本物の天狗を見るのは初めてですが、見事にばけますのう」
パラのあきんど、神谷潮(ea9764)が禿頭に頭巾をつけた十郎坊を見下ろしながら物珍しそうに語り出す。
ちなみに彼は山登りするのに多大な荷物は邪魔なので、下の宿に餅などと交換した、破魔矢などの縁起物を荷造りしてある。
「いやー、どっちが本当の姿やら? ともあれ、上州の動乱が年末まで長引かなくて良かったですよ。これで万が一、江戸に家康様が留守の時にまで、長引いて、大山伯耆坊様が復活なされていなかったら──ああ、正月ですし、辛気くさい話は後にしましょう」
「私も高尾山に行くのも、隠里に行くのも初めてだが、天狗殿に会うのも初めてだな。様と言い直した方がいいか、な?」
語りながら、叶朔夜(ea6769)も道中でシードルを渡していた。
ありがたく受け取りながら、十郎坊は──。
「とりあえず、般若湯という事で」
便乗して潮もセールスチャンスを逃さない。
「では、ノルマン産のワインと発泡酒ならどうかのう?」
「ありがたく受け取っておきます」
そんな十郎坊に軽く上目遣いで日向大輝(ea3597)は──。
「解説されるまでピンと来なかったけど、天狗も宴会なんてするんだ。修練の場の元締めだから正月とか厳かに過ごすんだと思ってた」
「まあ、何百年かに一度の出来事ですからね。少なくとも古事記が出来る前に、先の大山伯耆坊は転生をなされたそうですから、歴史に残った最初の転生? かもしれませんよ」(そういえば、おのも参加するのかな。天狗の宴だし、酒も出る宴席だからどうなるんだろ。 というか、おのっていくつなんだろ、気にしたことなかったな。俺の歳も勘違いしてるだろうな・・・)
と、自分が以前にこの霊山に落ちのびさせた少女、一角馬の枝理銅(えりどう)と共に辛い道中をした挙げ句、浪人集団に襲われ、危うく助ける事になった『おの』の事を思い返した。
「大輝?」
と、素朴な衣装を身に纏った黒眼の大きな少女、おのが歩み寄ってくる。
「き──」
綺麗になったな、の一言が言い出せない大輝少年。
とりあえず、照れ隠しにおのの髪に手をやると、笑みを浮かべて──。
「晴れ着は流石にちょっともう、無理だけど──月道渡りの綺麗な布飾りが手に入ったから、その‥‥・似合うかなーなんて」
「ごめん。自分、もらってばかりで──何も返せない」
「いや! いいんだ受け取ってくれ」
その言葉に無言で自分の胸元に反物を押しつけるおの。
(かんざしの時はさっと渡せたのに今はなんか意識しちゃうな、俺どうしちゃったんだ‥‥)
「あ、あのさ。前に着いた時は、後のことは考えてなかったって聞いたけど、もし宝団からのちょっかいが無くなったら、どこか行きたいとか江戸に戻りたいとかあるのか?」
「江戸には戻りたいけど‥‥‥‥枝理銅がいるし──」
一方、質素な建築物の中に一段高い護摩団があり、その前でかつて大樹少年であった、大天狗大山伯耆坊が以前の若さとは打って変わった白い総髪に髭の姿で何か念じていた。
その傍らに横たわる巨体。全身白く。一毛の曇りもない。そして黄金の鋭くも優しげな目。これが冒険者達が初めて目にする白虎であった。
道の守護者、西の四神──。
彼が無言で、大山伯耆坊と護摩団の担当を変わると、宴が始まった。
白狼の首を持つ者、烏の頭を持つ者、まさしく異形の集団である。
早速に宴は盛り上がり、異国の酒という刺激も加わると、大山伯耆坊以外収拾がつかなくなってきた。
「一番大輝! 一筆書きで大山伯耆坊を描く!」
言って諸肌を晒すと、ここまで苦労して持ち運んできた小柄な少年の体より大きな木の板に向かって、たっぷりと墨汁を染みこませた大きな筆で、墨痕淋漓と大天狗の姿を描き出す。
さすが、武士の嗜み百般に通じているだけあって、大輝少年の絵は見事な出来映えであった。
「二番手は私ですか──」
では、と朔夜はロープを建物から建物へと張り巡らせて貰うと、茶碗をみっつ、お手玉して登ろうとするが、
(普通にやっても面白くないし、綱渡りしながら一寸よろけてみたりとか、いつもより多く回しておりますとか言ってみたりしてみようか)
という時点で見事なまでに酒が回っているのであった。隠密には大道芸は含まれていない。手品は含まれているが、さすがにこれは違うだろう。
という所で最初の一歩で、茶碗を全て落とし、自らもナマケモノ状態に──。
しかし、そのままの形態でロープを渡りきる。
テンションの上がる天狗達。
最早、何をやってもおかしいという状態である。
「むう、汚名返上!」
淡い煙に包まれ、水遁の術で滝を駆け上がろうとするが──まあ、受けた、とだけは言っておこう。
潮は十露盤の球を弾きながら──。
「ご破算にして、にじゅうはちまんきゅうひゃくごじゅうにえん也、足しましてはじゅうにまんさんぜんごじゅういちえん也‥‥」
と、十露盤での読み上げ算を披露するが、イマイチ華がない。
「では、ゲルマン語で書道かのう。大輝貸して貰うぞ」
と、筆を借り、板を裏返しにし、大きく『lever du soleil』と認める。
ゲルマン語で『朝焼け』の意味である。
しかし、夕貴は自分の理美容の腕をフルに活かす! とは言って人間に化けた烏天狗の女性達を鮮やかに彩り、人間に化けられない白狼天狗──頭が狼な天狗である──の女性の嫉妬を買った。
さすがにもふるような狼頭では夕貴は手の出しようがなく、彼は視線を感じつつ、おのに手を伸ばした。
「あ」
大輝少年が言葉を失った。
にんまりと笑う夕貴。
「数えでじゅうさんでも、化粧なんて初めてだけど、へん?」
これが『女性』に向けてしまう視線なのか──はっきりと大輝少年は意識した。
途中で、白虎と大山伯耆坊が入れ替わったりしたが、
大晦日から正月ふつかまでの宴会は続き通しであった。
そんな中、大輝少年とおのは、ふたりで初日の出を見に行ったりと色々あったようである。
ともあれ、皇虎宝団も正月祝いなのか、そもそもデビルらしい連中が新年を祝うのは激しく謎であったが、宴会は無事終わり、一同は丁重に送り出された。
「今年の春までを無事乗り切れれば、封印はあと百年はもつだろう。夏まで無事なら、次の転生までぶじだな」
大山伯耆坊は意味ありげに呟いた。
これが山の新年の顛末である。