けいじおぶあいあんまうす
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■ショートシナリオ
担当:成瀬丈二
対応レベル:6〜10lv
難易度:難しい
成功報酬:3 G 60 C
参加人数:6人
サポート参加人数:3人
冒険期間:12月30日〜01月04日
リプレイ公開日:2007年01月06日
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●オープニング
もはや、過去の事になっている江戸の大火災、その爪痕が未だ生々しい寺、私はそこの住職として再建するように命じられた。
人は誰もおらぬが、生きているものの気配はする。
「ひょっとして、どなたかおらっしゃいますか? 私はここの寺に弥勒の加護を降ろすべく、新しく参ったものです」
しばらくして、足音が聞こえてきた。そして、布を何か引きずる音が‥‥。
「作麼生!」
教義問答でもしようというのか?
私は反射的に説破と返そうとするが、廃寺ともいうべき寺の門を突き破って何かが私の股の間を駆け抜けていった。
お化け鼠である。鼠が年を経て、天地の精気を吸って大きくなったものとされるが、それが十匹以上、門の穴から飛び出してくるのだ。
「どうしました。お若い方よ?」
襤褸をひっかけただけの饐えた匂いを漂わせて、剃髪もロクに行っていない、僧侶の風体をした男が現れた。
「な、なんですか、今の鼠は?」
「可愛い私の宗徒ですよ。もっとも経巻を食い散らかすのが好きなので、やや手を焼いていますがな」
「わ、私はこの寺を預かりに来た‥‥」
「そんな事知るか!」
獅子吼であった。
「長い間放置しておいて、仏門の輩とは聞いて呆れる、これからはこの私が、これまでそうして来たように、采配を振るわせてもらう」
「その様な横車が通じるとでも──」
その僧侶らしき男はにやりと笑うと、門の向こうに消え、同時にお化け鼠たちも追う様に寺の中へと入っていった。
「という事で、是非とも寺を手中に収めたいので、胡乱な怪僧を追い払っていただきたい。もちろん、お化け鼠も」
「寺は江戸からあるいて2日でしたね? 仕事を1日で終えるとしても、5日分の旅程となりますか」
江戸の冒険者ギルドの受付は鷹揚に算盤を弾いた。
「できるだけ、安くつけば──傷は自分が命さえあれば癒して見せます」
私──玄道乗雲斎は冒険者ギルドの受付に少しでも経費を安くあげるため、提案をしてみた。食料もクリエイトハンドの法力でどうにかしよう、食料が無くなれば、少しは身軽に動けるはずだ。
そんなこんなで──寺を巡る冒険が始まる。
●リプレイ本文
「柚衛秋人だ、よろしく頼む
神も仏も今のところ用はないが、貸しを作っておくのは悪くないな」
と、柚衛秋人(eb5106)は自己紹介するが、依頼を請け負った身で言うべき台詞ではない。只で参加していれば言葉に千金の重みもあったろうが。
とりあえず、玄道とその一行はひとりをのぞいて江戸を発った。
「その寺は前にも増して傾いていると、言うのかしら?」
狭霧氷冥(eb1647)が言う。遠くに見えてきた寺を見ると玄道の態度は明らかに変わった。
そんな玄道に対して、冰冥は鬼面を食事時以外被り、表情を見せない。
一方、陰陽師のマッチョパラ、上杉藤政(eb3701)は周囲から話を聞こうとしたが、玄道曰く、火事騒ぎの時以来、人は絶えたそうで──と返される。
民草がいれば、とっくに再建運動は起きているだろう。
ともあれ、藤政は。
「鼠を従える怪僧か。
いかなる存在か見極めたうえで対処せねばな」
説得の条件に関しては玄道と詰めた際、泥棒に追い銭はやれぬ、と意外に厳しい言葉が返ってきた。
その時に居合わせた空間明衣(eb4994)も寺の仏閣を巡っていた際、最たる情報は出なかった。
その後、セブンリーグブーツで何とか追いつき、急患が‥‥と言い訳したが最早、冒険者ギルドから仕事を請け負った身、許されるモノではない。玄道は許してくれたが。
「よろしく頼む
勝手に住み着いて居直りか‥‥やっかいだな。ただ、放置してた方もどうかと思うがな」
組織には優先順位というものがある。焼け出された人々の救援の方が先で、寺院の再興は二の次だったという事だろう。
──と玄道は語った。
「まあ、最後には腕づくになりそうな気がしないでもないでございまするが‥‥」
と、河童の磯城弥魁厳(eb5249)が身も蓋もない言葉を返す。
「酷いな‥‥。
こんな廃寺、くれてやったらどうだ?」
猪神乱雪(eb5421)が逆の意味での正論を発した。
「出来れば坊主など斬りたくはない。寝覚めが悪いからな‥‥」
おや、験かつぎか? と秋人。
「単なる感想だ」
さて、廃屋が見えてくると、一部の面々が先立って偵察に入り、玄道と藤政が正面だって、怪僧を呼ばわった。
「もうしわけありません、話をもう一度聞いていただけませんか?」
「頼む。話し合いに望んでいただけないか?」
くくくく、と含み笑いと共に怪僧が現れると──唐突に。
「茶でも入れようかのう」
と言い出す。
「廃寺に近い状況とはいえ、寺が末寺である以上は、その本山より派遣されてきた玄道乗雲斎殿が管理をすべき寺であろう。
貴殿が空いていたからと入るのは筋違いな話だ。
新しく寺を開くならわかるが、既存の寺を乗っ取るのは、仏門のものとして正しき行いであろうか?
一から作るのが大変なのであれば、玄道乗雲斎殿も物件を探すのには協力もしてくれよう。
共に手を取り合い寺を大きくするのも一つの策だ。考えては見ていただけぬか?」
「しかし、のう後ろの方々が得物に手をやっていれば、狭い部屋で人を制するの兵法であろう。それとも拙僧の入れた茶が呑めぬ──」
「茶飲み話に来たわけではありませんので」
「そうか、それは残念残念」
氷冥が寺の中を漁っているが、煮炊きした様子はないが、黴びたり萎びたりした食料を囓った形跡もある、更にどう見てもお化け鼠のたっぱでは囓れない所を囓られた形跡が残っている。
それを見て取ると境内を駆け抜け、怪僧の後ろに位置する。
「何か判らないけど、やばいわ、そいつ!」
「ほっほっほっほ、剣呑剣呑」
と言う後ろから、一斉に夢想流の面々が間合いを詰める。
氷冥が一刀を放つが、まるで鎧を着込んだかのような一撃に弾き返される。
藤政が金色の淡い光に包まれながら空中に印を描き、太陽の光を一条の槍と変えて一気に打ち込む。
しかし、結果は同じ事。
明衣も見事な抜き打ちを見せるが──結果は氷冥を再現した。
「貴殿らの言い分もあるだろうが、退いてくれないか? 私は強いぞ。この髪の緋色のような紅蓮のごとくな」
「紅蓮の意味も知らぬか? 大寒地獄にて、罪人の肌があまりの寒さに避ける。その紅き地の様を示して紅の蓮、紅蓮というのだ──!」
「ふん、長い間放置しておいたら、勝手に住み着くのは仏門か? 挙げ句に説教!」
秋人が槍で突きかかるが、あまりに軽い一撃は結果を同じくした。
「天女の舞には及びもせぬが、河童と犬の剣舞をござんなれ」
魁巌が愛犬のヤツハシと連携して、周囲のお化け鼠たちを放逐していく。
乱雪も居合い抜きを仕掛けるが、まるで無駄。
秋人が最終的に相手の耳の穴を狙ってねらい澄ました一撃をしかけるが、それに即応して怪僧は呪文を唱え、数珠を手繰る。
解き放たれる破壊の力が彼の河伯の槍を襲うが、秋人はそれに耐え抜いて耳の穴に一撃を叩き込む。
「おのれ──」
言いながら、怪僧の姿がまるで襤褸袈裟を着込んだ、直立したお化け鼠──しかし、人間サイズの──に姿を変えていく。
「人外!」
おのれ、この恨みは忘れぬぞ、と。怪僧だった怪物は高い鳴き声をあげると、お化け鼠たちは雪崩を打ったように逃げ出していく。
「夢想流の使い手は多かったものの、相手が自分から手を出してこなければ‥‥というスタイルの方が多かった様で」
秋人も決して、本気を狙っていたわけではないが、結果だけ見ると彼だけが切り札を持っていたことになる。
ともあれ、お化け鼠たちは追い払われた。
これが寺を巡る冒険の顛末である。