そこのLadyに告ぐ、ただちに武装解除せよ
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■ショートシナリオ
担当:成瀬丈二
対応レベル:1〜4lv
難易度:やや難
成功報酬:1 G 0 C
参加人数:15人
サポート参加人数:-人
冒険期間:07月19日〜07月24日
リプレイ公開日:2004年07月26日
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●オープニング
「ご免なさい、ご免なさい。本当はそんな事の出来る娘じゃないんです──」
そう言って顔を覆ったまま髪の毛を振り乱すジャイアントの老婦人。その老いて尚烈しい踏み込みで冒険者ギルドの床は荒らされ放題だった。
「お待ち下さい‥‥今、受付嬢に変わります」
とギルド長が受付嬢をフロントの前面に出すと、強張った表情は一瞬にして営業スマイルに代わる。
「いらっしゃいませ。戦場から教会まで幅広いジャンルのエキスパートの百貨店冒険者ギルドでございます。金貨1枚にも満たぬはした金で命のやりとりをするエキスパートから、1万ブランで世界を救う英雄まで選り取り見取でございます。変態から聖人までがモットーの冒険者ギルドに不可能は多分ありません」
蕩々とまくし立てる受付嬢の接客振りに少々落ち着いたのか、ジャイアントの老婦人はひとりツイスターゲームを中断した。
「本当ですか、本当にできるんですね。では、娘の名誉と、その主人の貞操を守って下さい」
そして話は始まる。
このジャイアントの娘はゼラといい、年は20才相当。武器を好まず、オーラを良くするという事以外は平均的な花鳥風月を愛するナイトである。
そして主人とは夫という意味ではない。主君である。
ノルマン独立戦争の時に小さな領地を拝領した小貴族の息子ミッシェル君だという。
問題はその主君に報われぬ恋をした事であり、もっと報われないのはそのミッシェル君が『12才』の『パラ』の少年だという事だ。
今まではミッシェル君の利発さ、主君としての度量を家でも自慢げに母に語っていたが、最近では愛らしさ、思慕の念が主君の話題の中心へと移っていったのだ。
これがジャイアント同士なら、いつかは年の差を解決できようが、いかんせん異種族ではどうしようもない。
が、ある月夜の晩を境にがらりと彼女の思慕は決意へと形を変えた。
現在はミッシェルの館の屋上に立てこもって、ふたりの仲を認めぬなら塔から落ちて心中すると言っているらしい。
「あああ、やっぱり私は育て方を間違ったのでしょうか? これでは死んだ主人に申し訳がない」
ちなみにその塔まではパリから馬を飛ばして四半日といった所だろうか、田舎である。
「とにかく急ぎで冒険者お願いします」
「では、30分以内に召集できる冒険者を集めます。もっとも大仕事が入ったので、精鋭という訳にはいきませんが、悪知恵ならばデビルと博打をしても勝てそうな面々ばかりです。では──こちらにサインを」
契約書にサインをすると受付嬢は悪魔のような笑みを浮かべた。
「ご依頼承りました」
と。
●リプレイ本文
30分で集まれる面子集合という急報がパリを駆け抜けた。
荷物を急ぎまとめ、オイフェミア・シルバーブルーメ(ea2816)は家族でもあるロバにしばしの別れを告げた後、恍惚とも恐怖ともつかない表情で呟く。
「母親に逆らうなんてとんでもないわ。あたしがおかあさんにさからったときなど‥‥」 と、言いながら戸締まりを確認し飛び出していく。
馬車は4両揃い、冒険者ギルドの前で彼女を待っていた。
彼女が座った隣の席に赤毛の子供が座っていた。よく見るとパラらしい。
そんな彼女の思考を吹き飛ばすかのように、声が響く。
「これで時間です。冒険者ギルドの皆さん出発しますよ」
馬車が轍を刻む音が連続して響く。
「ねーねー、おねーさん」
隣の席のパラ──テュール・ヘインツ(ea1683)が彼女の袖を引いて訪ねる。
「“ていそー”ってなに?」
「あのね、子供に見えるからといってそういう質問をするのは、良くないわよ」
「ボク十歳だよ。おねえさん」
「本当に? じゃあ、ご免なさいね。じゃあ貞操とは正しく、仲の良いお父さんとお母さんになる事よ。パラとジャイアントじゃ結婚できないから、子供も神様から授からない。だから、お父さんにもお母さんにもなれないでしょ」
「ふーん? そうなんだ。なんだかよく判らないけど」
エドガー・パスカル(ea3040)はそんなふたりの関係を興味深く観察しながら、依頼人であるゼラの母親に彼女に良く聞かせていた子守歌を習っていた。
(やれやれ、子供というものは無垢ゆえ純粋であり、無知ゆえ純粋でもあるという事ですか?)
ともあれ、テュールの魔法でふたりは塔の屋上天辺にいる事が確認されている。
「あーあ、馬車じゃハーブ摘んでいけないな。城にハーブってない?」
馬車が着くと、ゼラの母親が家令に頼み込んで、書類、日記などでゼラやミッシェルの心の推移を表したものがないかテュールが探せるよう取り計らい、またハーブティーのの手配を急いだ。
シフールのレム・ハーティ(ea1652)はふたりの居る塔に飛んで行き、現状を確認。
塔下部への出入り口は何やらバリケードを積み上げ、暑さでぐったりしているのか、金髪の少年──パラを抱え込んでいる。
(あちゃ! 厄介そうだけど、さ〜て、どうなるかたっのしみ、だなぁ‥‥)
ちなみにミッシェルくん、バード疑惑は流れそうであった。
才能があるとしても、月精霊と契約を結ばなければ、魔法を行使する事は能わず。立派な貴族=ナイトとなる為の修行にあけくれる毎日にそんな余裕はない。
しかし、エドガーと受け止め班の準備では今ひとつ、身の置き所がない、シフールのアストレア・ユラン(ea3338)のふたりが現地の同業者からの聞き込みで、異郷に伝わるひとつの伝承を聞いた。
ふたりの男女が居た。だが、女性はプライドの高さから、自分を愛してくれる男性の求愛をはね除け、別の男性と結婚しようとする。それを見かねた月の精霊が乗り移り、彼女に本当に愛しているのは誰かを彼女の口から語らせた。
そして、男女は結ばれ、死ぬまで幸せだったそうだ。この伝承に出てくる月の精霊はブリッグル。ジャパンや華国では『月の滴』というらしい。月が綺麗な夜に漂うという。月夜と音楽と色恋沙汰を好み、本心を打ち明けるが出来ない切ない恋をしている者に憑依し、恋の手助けをするという。
「それや」
「成る程、ありがたい話でございます」
ジィ・ジ(ea3484)はふたりの情報で、新たな糸口をつかめた様な気がした。だが、事態がゼラの本心であるという事は非常に厄介であるが。
それまでジィは月夜のチャームが魔法で抵抗されたため、ミッシェルに逆に影響したものと推測していた。
つまりゼラ様がミッシェル様を熱愛しているではなく、ミッシェル様がゼラ様を熱愛しているのでは?
と、考えていたが、こんな現象は桁外れに特殊な状況でもなければ発生しない。
「結局、振り出しに戻ってしまいましたのが、残念でございます。では、交渉に参りましょうアマツ様、七刻様」
それぞれ食事や着替えを持って、塔にまで近づいていく。
「お話し合いに参りました。ミッシェル様もお疲れでしょう。どうか、バリケードをおどけ頂けないでしょうか」
老志士、七刻双武(ea3866)は喉も裂けよとばかりの声をあげる。
「ゼラさんや、拙者は、そなたの母君に雇われた交渉人の、七刻と言う者じゃ、そなたも今まで苦しい思いをした事じゃろう、そなたの気持ちを解るとは言えぬが、そなたの思いを母君や、ミッシェル殿の両親に伝える事は出来る。この様な事をした理由と思いを聞かせてはくれぬか」
きっぱりと一言、愛。
「そなたの気持ちは解り申した。ミッシェル殿、そなたの気持ちを聞かせては貰えぬか、幼少の頃より、成長を見守られて来たゼラ殿に対する思いを聞かせては貰えぬか」
ボーイソプラノで返ってくる利発そうな言葉は、いつでも見守り、盾となってくれる素晴らしい女性。
「ううむ。ゼラ殿、そなたの望みは結婚と言う形で、ミッシェル殿と手に入れる事では無く共に幸せになる事では無いのか、そなたの一番望んでいる事を教えて貰えないか」
だから、結婚。
「此の侭進めば、たとえ結婚したとしてもお互いの心に不安が残る。そなたの望みはそのような物では無い筈だ、結婚だけが絆では無いはずじゃ」
「いいえ、結婚という社会からも周囲からも認められた関係こそが望み。叶わぬならば共に──果てるまで!」
アマツ・オオトリ(ea1842)はその言葉に狂おしげな表情を浮かべつつ、
「ゼラ!! その裂かれんばかりの想い‥‥私には分かる! 私も、報われぬ愛を知ってしまった女。ふふ、もしもあの方と早く巡り合えていたなら、あの方が私の前に現れなければ、こんな、こんな苦しみなど!!」
加速度が増した塔内の交渉はレムの目から見ると、ゼラが片手でバリケードを排除していく光景でひとつの完成を見たようだ。
だが、その前に全身が桃色の淡い光に包まれる何かの術を使ったようだ。
真夏の太陽に晒され、6メートル四方の屋上はジャイアントにしては細身の体格の黒髪の女性、ゼラと、彼に片腕で抱きかかえられた形のミッシェルがいた。
そこで、エドガーが皆がリラックスできる様、メロディーの使用を求めるが、ゼラは拒否し、彼は立ち去った。
マリー・アマリリス(ea4526)も毒味を行って、ふたりに食事とワインを渡すが、ゼラは口をつけず、ミッシェルを解放して成長期の食欲の命じるがままにしていた。
「本当は何をしたいのでしょうか? お力になれませんか」
「むろん、結婚。祝福してください。あなたはクレリックですね。あなたなら出来る事です」
「異種族間の婚姻ははセーラ神の教えに反します。祝福する事は出来ません」
月の滴の話を聞かされていたマリーはこれが彼女の本心だと知っているが、ならば余計に安易な認証をする訳には行かないのだ。
だが──風を聞いていたゼラの表情が変わった。
一瞬で闘気を練り上げ、梯子をかけ、魔法の詠唱をしていたオイフェミア目がけて叩きつける。
オイフェミアは片手でいたところに闘気の固まりを叩きつけられ、そのまま梯子ごと倒れ込んだ。
もし、死の飛び込みを阻止しようとしていたベイン・ヴァル(ea1987)やガゼルフ・ファーゴット(ea3285)にカアラ・ソリュード(ea4466)といったシャラ・アティール(ea5034)が率いる受け止め班の準備がなければ、彼女は即死していただろう。
「これが私の思いを判るといった人間の行動か! 今までの言葉、信じられぬ!!」
天薙龍真(ea4391)が飛び出そうとする。
だが、ゼラの方から突入してきて全方位に交渉班を巻き込むように闘気を放出し深手を負わせ、更に間を置かず、気を高めて龍真に闘気の固まりをぶつける。
只なら無い様子に見守っていたレムも術の詠唱に入る。
合掌して術を唱え、ゼラを金縛りにしようとするが、彼女は高めた士気でそれを凌ぐ。 連続して更に唱えるが、効果はない。
(残る手段は‥‥)
エルフのデルテ・フェザーク(ea3412)が厳かに現れた。
「真打は最後に登場するものです」
小脇に抱えた本をおもむろに示しながら、
「二人の仲を認めます。無作法ですけど少し探させて貰いました。この家の家訓や仕来りについて書かれた本です。異種族間での婚姻についても書かれています『一族に繁栄をもたらす者である事を証明すること』簡単に言えばゼラさんがミシェルさんより提示されるクエストを達成する事です」
「何を戯けた事を言っている、主君とはいえ、独立戦争の時に作られた家にその様なものが在るわけがないだろう──本当ならその箇所を読ませてみよ」
ゼラは押し殺した声で宣告する。
「そのまま仲を認めるように訴えていても誰も認めてくれませんよ。ゼラさんがミシェルさんを愛しているなら試練を乗り越えて証明するべきです」
傷を負いながらもマリーはその言葉に待ったをかける。
「あなたの行いはただ、先延ばしにして事件の解決を有耶無耶にしようとしているだけです。セーラ神も、タロン神もその様な結婚は認めていません。本当かどうか確かめさせて下さい」
3人はその本を読んだ。そんな記述はなかった。
しかし、その時間を使ってテュールとジィ達はミッシェルを塔から連れ出す。
だが、そのゼラから隙に淡い光が飛び出し、アマツの首筋から吸い込まれる様に消えていく。
そしてアマツは叫んだ。
「七刻様、貴殿を愛しています。どうか一生添い遂げさせて下さい。年の差など関係ありません!」
その情熱的な告白が受け止められたかはともかく、正気に返ったゼラは、職を辞し、一介の旅人として異郷に赴いたという。