助けて冒険者! 主に腕力で!
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■ショートシナリオ
担当:成瀬丈二
対応レベル:11〜lv
難易度:やや易
成功報酬:3 G 4 C
参加人数:7人
サポート参加人数:4人
冒険期間:03月06日〜03月11日
リプレイ公開日:2007年03月15日
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●オープニング
江戸郊外。
ある日、庄屋の屋敷の屋根に一本の矢が突き立っていた。
庄屋の仁兵衛はその矢を見て血相を変え、その日のうちに江戸の冒険者ギルドにやってきた。
「この矢がどうかしたのですか? 例えば、何か野盗の恨みでも買ったとか?」
仁兵衛が持ち込んだその矢を眺めつつ、ギルドの受付は依頼人を見た。
「野盗ならどれだけいいか‥‥」
常ならば白木の矢が当たったくらいで騒ぐ者は居ないが、仁兵衛の焦燥は尋常ではない。今にもこの場で倒れてしまいそうだ。
「‥‥なるほど、つまり白羽の矢」
ギルドの受付の呟きに、仁兵衛はその身をガタガタと震わせる。
古い神が人身御供を求める時に、生贄の家の屋根に鳥の白い羽の矢を立てる話がある。神と言っても、その大半は妖怪、物の怪の類だが、そうした慣習を持つ村は少なく無いと聞く。
「‥‥仰る通りです。これは狒々のもので」
狒々(ひひ)とは、猿の妖怪である。深山幽谷に棲む大猿が、長い歳月を経て化け猿に変じ、それが更に成長したものが狒々となると言われている。大狸、妖狐とも並び称される妖力を持ち主で、人を喰らう。
「ああ、年頃の娘を狙った狒々の嫁入りですか」
合点が言ったとばかりに受付の男は頷くが、表情は険しい。
数年前から、狒々を巡る同様の事件が続いていた。
狒々に嫁いだ娘が戻ってくるのは、決まって死体としてである。それも犯され、四肢、頭をオモチャの様にねじ切られて、である。
無論、堂々と予告されて誰も抵抗しなかった訳では無い。生贄に選ばれた家々は武士や冒険者の手を借りて対抗したが、狒々の異常なまでの頑健さと、地の精霊魔法を操る妖力は侮り難い。
討伐は5回行われたと聞くが、倒せたのは僅か一匹で、まだ3匹がいるという。
「‥‥狒々退治」
正直、この力量の冒険者に任せるのは不安であったが、予算の都合もある。
「では、冒険者ギルドのお手並み拝見下さい」
だが冒険者は集まらなかった。
‥‥。
‥‥‥。
それから数週間が経ち。
「狒々が出たぞ!」
冒険者ギルドの受付の元に、悲報が届く。
冒険者を呼んでこれなかった仁兵衛は家族と共に村から逃げた。三匹の狒々は村人に化けて仁兵衛を探し出し、仁兵衛と家人を殺しまくった挙句、おかっぱの娘、12になる少女久々利(くくり)───仁兵衛の孫娘を掠っていったのだという。
前例からすれば、その少女も早晩近くの杉の木にモズの早贄の如く串刺しにされる運命だ。
「一刻も───一刻も早く冒険者を」
息を引き取る直前まで、仁兵衛は冒険者を呼んでいた。そう云って仁兵衛が残した金を見せる村人に、ギルドの受付は言う。
「では、冒険者ギルドのお手並み拝見下さい」
●リプレイ本文
ミネア・ウェルロッド(ea4591)は出立前、江戸の冒険者ギルドで───。
「今回の依頼は‥‥趣旨が良く見えないなぁ〜。狒々‥‥だっけ? そのお猿さんの殲滅を優先させるのか、女の子の救出を優先させるのか‥‥。
依頼人さんはもう、死人に口無だから聞く事も出来ないし。
‥‥ま、それって事は、女の子救出に失敗しても咎める人もいないって訳だけどさ♪ お猿さんさえ殲滅できれば、村の人も納得するでしょ♪」
ちなみに彼女はチーターを同行させるつもりだが、チーターは平原の生き物。山岳地帯では不向きなスプリンターである。
「以前の依頼の折、駆けつけることができなかったことが悔やまれます。ですが、此度は、必ずお嬢さんを助け出して見せましょう」
そう決意を語った朧虚焔(eb2927)は韋駄天の草履の感触を確かめ直す。これがあれば、久々利の危機に一刻も早く駆けつける事が出来るだろう。
村への馬上で、ルーラス・エルミナス(ea0282)は悔やんでいた。
幾ら軍馬とはいえ、犬までも安定して一緒に連れてくる事はできなかった。
狒々の臭いを───と、言っても庄屋に着くまではどうしようもない。移動短縮のアイテムをと思っても持ち合わせがなかった。
「く、私とした事が!」
その一方で、西中島導仁(ea2741)の視界には、村がようやく見えてきた。
「‥‥ちいっ! 何でこいつはこういう非人間的な事が出来るんだ!?
人の命を何だと思ってやがる‥‥ただでさえ、戦争や対立で人がたくさん死んでいるんだぞ? これ以上無意味に人を殺させはしない!」
そうは言っても相手は狒々、妖怪変化の一種である。人の世の倫理の彼岸とは遠き物。
物思いに沈む間もなく、黄昏を背に、庄屋宅に攻め込もうとしている異貌の猿たち『狒々』3体が猫背になって進む姿が見えた。
全身を岩のような鎧で覆っており、一体は水晶の剣を携えている。
「待てぃっ!! ‥‥理想のために人が命を懸けるこの戦いの世においても、自分の快楽のために人を殺める‥‥人それを‥‥『非道』という」
精一杯に思いを口にした導仁に、狒々の一体が哄笑と共に振り返った。
「キサマ、イッタイ、ナニモノダ?」
「お前達に名乗る名前はない!!」
と言ってから、導仁が馬上で精神集中を始める桃色の淡い光が、彼に収束していく。
「外国から来た魔術師の人は置いておいて、志士には精霊魔法は神皇さまからの賜りもの、たかだか猿ごときがそれを使って悪さしてるなんてなんかむかつくな」
馬上の少年、日向大輝(ea3597)が少し茂みに入って、フレイムエリベイションを発動させる。
神皇から授かった志士と陰陽師には精霊魔法は秘術。妖怪がそれを弄ぶ事には、異国の術者には理解できない憤りがあった。
「どいつがブラックボール使い?」
急いで戻ってきた大輝少年が戦線に復帰するが、
赤い淡い光に包まれたティアラ・クライス(ea6147)がファイヤーボムの呪文を行使しようとしていた。
「あ、それ♪ ハッスルハッスル」
威勢はいいものの、彼女にとって達人クラスの技は成功率3割を割っており、そう簡単に成就できる訳ではない。
「急がないと、まずいかな‥‥できた、やっと! 行くよ」
赤い光に包まれた彼女の手から火球が飛び、狒々たちの手近な地面に炸裂し、破壊をもたらす。
「ぶいっ! あれ?」
彼女が目にしたのは砕けた3枚の石壁、砕けたその向こうに狒々たちは居た。
「ハジメテミルジュツダ‥‥」
ちなみに魔法の余波で、久々利の近くまで庄屋の家は半壊している。成功率の成就は間合いにも大きく関わってくるのだ。
そこへティアラからバーニングソードの力を得た(さすがに全力ではいつになるか判らないので、威力半分で)虚焔が突っ込む。見た所武器は手にしていないが。
「我が絶技の前には、いかな鎧とて意味を持たず」
相手にするのはクリスタルソード使い。石壁の残骸を踏み台にして、激しい左手での一撃をクリスタルソードに受け止められる。素手なら只ではすまないが、鉄の手袋で鎧うた身には無傷。受け止められた点を軸にして反撃、見事に爆虎掌を浴びせる。
「はいっ!」
爆虎掌は魔法を含む全ての防御を無効化する。仮に武具で受け止められても、半減した威力を叩き込める十二形意拳の奥義のひとつである。
しかし、問題があった。虚焔の威力が低すぎたのだ、というより狒々の基礎体力が人間離れしている。相手は魔猿、まさに怪物である。
「これが殺せない由縁か───以前の討伐で一体倒すのがやっとな訳です」
しかし、虚焔は宣言する。
「力に酔い、欲に溺れ、道を踏み外した愚かな獣。
───人、それを外道と呼ぶ。
天に代わって、我、汝らを討滅せん!」
「わんわんっ」
「かりんっ!」
シルフィリア・ユピオーク(eb3525)は愛犬かりんが狒々に向かって飛び出すのを、押さえきれなくなる。
虚焔の前にいたクリスタルソード使いの狒々に向かって吠えかかる。
「イ、イヌ!?」
その一瞬の隙を突いて大輝少年が飛び込んで一刀を浴びせる。
シルフィリアのソニックブームも飛んだ。
その隙をついてルーラスは愛馬と共に割り込んで絶叫!
「狒々よ、お前達の所業を此処で断つ、奥義『白い戦撃』」
振り上げられた一撃が加速され、壮絶な破壊力を見せる。
さすがに受けきれない所へ、更に虚焔の爆虎掌が追い打ちをかける。
炎の霊力を込めた一撃が浸透していく。
「あれ、他の狒々は?」
大輝少年が周囲に尋ねるが、どうやら逃げていく所のようだ。
ティアラが後方から追い打ちをかける。
「そーれ、どっかーん!」
木々をへし折り、獣道をねじ曲げる彼女の魔法に慈悲はない。
それでも狒々は褐色の淡い光に包まれながら振り向きざまにグラビティキャノンを放った。
また、もう一匹はティアラを中心として、重力を反転させ、詠唱を妨害しようとする。
「ヤバイニゲロ」
「ツギダツギダ」
狒々は森の闇の中に消えていく。誘う風ではなく、恐らく住処へと逃げ帰る気なのだろう。
地の力が火の力に勝てる道理なく、逃げ切られる前に炎の爆風は多少威力をそがれつつも狒々を捕らえたが。
「まだ、生きてる? もっとも、普通の人間でも即死できる威力の魔法って中々無いけど」
そこまで行けば最早超越クラスである。それでも狒々を一撃で殺しきれる魔法は少ないだろう。
狒々は人の倍くらいタフだ。虚焔は連打を浴びせてようやく生命活動を停止した狒々の遺骸に背を向けてそう判断した。
「冒険者のみなさん、助けに来てくれたのですね」
半壊した庄屋の家から黒髪をふたつの三つ編みにして垂らした可愛らしい少女が姿を現す。
彼女が久々利だろう。
「いや、狒々退治に来た。無事で良かった、それは二の次だったから」
ミネアが軽く突き放す。
「お爺ちゃんやみんなもお墓の下で喜んでくれると思います」
「君がそうやって笑えるようになったのが何よりの報酬だよ」
ルーラスが淑女を扱うように久々利に接する。彼女は良いところ郷士の娘に過ぎないが、それでもレディ扱いするのはイギリス騎士の嗜み。
「もう、これはいらないよな」
庄屋の家の屋根に突き立っていた白い矢。
それを大輝少年は力一杯へし折る。
乾いた音が響いた。
追撃しようかという意見もあったが、一同の内でも意見が分裂し、結論として分裂して行きたい人間だけが向かえば、各個撃破されかねない、少なくとも全滅しに来たのではないのだし、という方向で手打ちになった。
大輝少年は乱打を浴びた狒々の死体を見下ろし───。
「こういう時にスリープやイリュージョンを使える陰陽師やバードがいると便利だけどな」
と呟いた。
ティアラはアイスコフィンのスクロールを持っていたが、間合いが余りにも限定される。
スクロールを広げた頃には狒々は彼女を撲殺するだろう。
それに確実に利く保証はない。少なくとも半分以上の魔法は耐えきった感触がある。
残った狒々の処置に関しては、近いうちに再び冒険者ギルドに討伐の依頼を回すという事で村の中の方針は一致したようである。
全ての生命ある者を大事に扱うルーラスは狒々の首を切り取り、祠として祭った。
「お前達の報いを受けたのだ。しかし、生ある者の命を奪うのは本当に本意ではない」
ルーラスはそう言って江戸に馬首を巡らせた。
これが狒々を巡る最初の冒険の顛末である。