夢の続き
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■ショートシナリオ
担当:成瀬丈二
対応レベル:11〜lv
難易度:難しい
成功報酬:15 G 20 C
参加人数:4人
サポート参加人数:-人
冒険期間:03月22日〜03月31日
リプレイ公開日:2007年03月30日
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●オープニング
「左門! 左門はいるか!」
江戸城奥で呼ばわる大音声。源徳長千代であった。呼ぶのは小姓の柳生左門。
「若君さま───何か面白そうなものを見つけた表情ですね。嫌な予感がします」
振り袖に短刀を帯びただけの、どうみても絶世の美少女───化粧っ気はまるでないが───に見える左門が、荒々しさの中に純真さと叡智を兼ね備えた己の主である長千代の目と視線を合わせる。
「長安から話を聞いて、この前、冒険者ギルドに行ってきて、何か面白い話題は───」
要は高尾山の大天狗『大山伯耆坊』が転生して、寿命尽きかけた身ではなく、若さ漲る身となったというので、是非とも高尾山に行って、この大天狗とひと勝負したい。
出来れば上古の話のひとつも聞いて、己が血肉としたい。
「向こうの迷惑も考えては如何です。皇虎宝団とかいう不貞の輩に捕まって、源徳家を揺るがす大事になってもしりませんよ」
「大丈夫だ。冒険者ギルドから凄腕を募ってきている、彼らから道中の話を聞くだけでも十分に楽しみではあるな」
本当にそれだけですめばいいのですが、左門はその言葉を飲み込んだ。
───夢の続きが始まるかもしれない。
●リプレイ本文
「俺は戦闘と警戒に回ろうと思う。
役割的に交渉ごとは向いていないのでな」
と、山下剣清(ea6764)が一歩引くと、その部分のウェイトは結城友矩(ea2046)にダイレクトにかかってくる。
「拙者、多少のコネはあるが確約はいたしかねる。それでよろしいな」
「うん。よろしく頼む」
と、源徳長千代から全権を委任され、愛馬の左門に跨り一路高尾へ。
旅には向いていなさそうな振り袖姿の柳生左門は自分と同じ名前の馬を見送るのみであった。
そこへ古式ゆかし気な西中島導仁(ea2741)の武士としての道の明るさを示すかのような挨拶が入り込む。
堂々たる挨拶に左門は居住まいを正し、長千代は微笑んで──。
「いや、そこまで格式ばらなくていい、俺も呼び捨てでいいぞ」
やりとりを見ていた日向大輝(ea3597)は心中で──。
8歳‥‥、9歳なんだよな‥‥、あれで。
(ま、でも人と比べてどうこうってのはガキっぽいって気付いたから気にするのはやめだ、やめ)
と、自分とは逆ベクトルに外見と年齢の相違がある、長千代の言動に心中ため息をつく。
「あ、左門さん。高尾は皇虎宝団の監視下にあって行動は筒抜けだと考えておいた方がいい」
と伝えるが、左門はため息をついて。
「本人はそれを承知で罠を噛み破れるつもりでいるんですよ」
と、流し目で応える。
片や大輝少年は道中は長千代君が捕らえられてデビルと入れ替わったなんてことがないように極力一緒に過ごそうとした。
そこで、一緒ついでに大山伯耆坊の前に俺と一勝負といかないか?
と、話を持ちかける。
「最低限、俺と互角位じゃないと多分大山伯耆坊となんて勝負にすらならないし。
実力があるって分かれば俺たちだって自信を持って交渉できるだろ」
「ジャパン最強の志士との戦いとなれば──」
互いに無事ではすまない、と左門は止めに入ろうとしたが、長千代は一歩前に出る。
「殺し合いは嫌いだが、武術には自信がある」
と、霊力の籠もった小太刀を構えた大輝少年の前に、自然体で手を垂らしたまま、言わば新陰流の無行の位で長千代は進み出る。
右手には鉄扇を携えた長千代はそのまま前進する。
「行くぜ!」
長千代の動きが止まった所で大輝少年が小太刀を摺り上げるように挑みかかった。
途端に背中を丸める長千代。乾いた音がして、鉄扇が地面に落ちる。
そして、次の瞬間、大輝少年の一刀は長千代の両の掌に挟み込まれていた。
引いても押しても、不動のまま。
「真剣白刃取り──手合いとはいえ、使う人間がいるのを初めて見たぜ」
力負けしている大輝は小太刀から手を外す。
「これなら、大天狗も納得してくれるだろう」
一方、友矩は一行を先導し、久しぶりに通いなれた高尾山への道を辿ると定宿にしている宿坊へ皆を案内する。
「ご主人、お久しぶりでござる」
「おや、また天狗参りですか?」
「そんな所でござる。此度も大天狗殿に用事が出来てな。此方の方々とお世話になりたいのだがよろしいかな」
友矩は宿坊に腰を落ち着けると宿の主人に事情を話し以前のように太郎坊への繋ぎを頼む。
久方ぶりに薬王院有喜寺境内本殿裏で太郎坊と待ち合わせる。
「太郎坊殿、お久しぶりでござる。息災で何より」
しばらく会ってなかった太郎坊──烏天狗が変化した少年修験者は些か背が伸びたようだ。
「久方ぶりですね。もう半年になりますか?」
「いや、そこまでは経っておらんが、無理を言ってすまんでござる。だが源徳家に貸しを作る機会でござる」
「それは偉く大きな話ですね」
「早速だが本題に入りたいと思う。実は源徳家の若君、長千代殿が大山伯耆坊殿と対面を所望されておられる」
「どこから、その話を?」
「八王子の代官から伝え聞いた話を、冒険者ギルドで補完したらしい、そこで若君は昨年大天狗殿が転生した話を聞いて興味を抱いたらしくてな。其方には迷惑なだけかも知れぬが拙者の顔を立てていただけないか」
「ジャパン最強の侍、結城友矩の顔ならば立て甲斐もありますね。とりあえず、打ち合わせしますので、ここはお暇させてください」
「うむ、無理はしなくて構わん」
導仁は道中、エレメンタラーフェアリーの如月を介して、人が通った痕跡はないかを聞いていたが、別に高尾山は深山幽谷という訳でなく礼拝者もおり、街道ぞいにある為、一杯いたという返答を十回ほど聞くと、エレメンタラーフェアリーの知性の限度もあり、情報収集は諦めた。
春の高尾は虫たちも蠢動し始めている。
そして、滝の裏側にある天狗の隠れ里へ一同は歩みを進めた。
「ちょっと枝理銅と会ってきていいかな?」
隠れ里に潜み済む。一角獣──西洋風に言えばユニコーンである──の枝理銅に尋ねたいことが大輝少年にはあるのだ。
「おのさんじゃないんですか? まあ、構いませんけど」
と、太郎坊は居場所を教える。
「まだおのに聞いたわけでもよい返事がもらえるか自信も無いけどおのをここから連れて行っても怒らないでいてくれるか?
いい返事がもらえたら次来たときにおのに俺の‥‥お、想いを伝えようと思う」
その言葉を聞くと、純白の枝理銅の身体が淡い桃色の光に包まれると、大輝少年は枝理銅からのメッセージを受け取る。オーラテレパスだ。
「おのには太陽の下がよく似合うだろう‥‥どうかよろしく頼む」
「ありがとう」
大輝少年が振り返ると、堂々たる体躯の大山伯耆坊が錫杖を構えて、長千代と向かい合っている。
広げた翼の影に隠して、ブラインドアタックの構えの大山伯耆坊。
勝負は交差する一瞬でついた。
真剣白刃取りで暗がりの中の一撃を受け止める長千代。しかし、次の瞬間、大山伯耆坊は懐から葉団扇を取り出し、緑色の淡い光に包まれて、強風を創り出す。
しかし、それにも耐えきって、交差法で蹴りを繰り出す長千代。
だが、その一撃は大山伯耆坊の脇腹を捕らえる寸前に止められる。
「これ以上の勝負は無用だ。負けを認めて貰えないか?」
「良かろう、若いこの肉体でも勝てないとなれば、後は魔法を使うのみ──しかし、それでは本当の殺し合いになってもらう」
「良い勝負だった──う」
途端に長千代と左門の身体が崩れ落ちる。
「バカな!? ファイヤートラップで入れないはずだぞ!」
大輝少年が叫ぶ!
「お前らの背中に捕まって入ってきた」
「この子らの命が惜しければ──」
ふたつの声が響くが、友矩のサンクト・スラッグが啼き、導仁のミタマが唸りを上げた。
急いでふたりは解毒剤を長千代と左門に投与する。
「──不覚を取った」
「あらかじめ、大輝殿から警告を受けていたはずなのに」
これからは蟲が捕まって入ってくるのにも注意しなければ──と、一同は反省を新たにするのであった。
そして、江戸に帰り、左門と長千代は江戸城に一度戻り、冒険者ギルドで待機してもらっていた、友矩、導仁、待機に包みを渡した。さほど大きくないそれを許可を得て、中身を見てみると、三つ葉葵──源徳家の家紋──が刻まれた小刀であった。
「色々やったからな。まあ、俺の親爺のだが、この当たりとかだったら、少々は役に立つだろう、身分証明とかな」
長千代はそう言ってカンラカンラと笑うのであった。
これが天狗との立ち会いの顛末である。