死者の代弁者

■ショートシナリオ


担当:成瀬丈二

対応レベル:1〜4lv

難易度:やや難

成功報酬:0 G 80 C

参加人数:15人

サポート参加人数:-人

冒険期間:07月25日〜07月30日

リプレイ公開日:2004年07月28日

●オープニング

 デティクトアンデットには見事なまでに反応があった。
 それ以前に、白く半透明で後ろが透けるセーラ神のクレリックが普通であろうか?
「申し訳在りませんが、私は現世にやり残した事がありまして、この様に滅ぼされるのを待つ身でございます」
 その熟年のエルフ『セーレ』はか細い声で告げる。
 幽霊からの依頼、それは冒険帰りのあなた達にとって多分初めての体験であった。
 その数日前、バンパイアの一味と、セーレのが加わったジャパンから来た冒険者グループとで烈しい戦いがあった。
 結果は相打ち‥‥いや、冒険者グループの敗北であった。
 首魁のヴァンパイアは討ち取ったものの、彼に血を吸われ、理性を無くした下僕が4人が逃げ出したのだ。
 今際の際にその光景を見たセーレは彼等の魂を救わねば死んでも死にきれない、そう強く願った。
「そうしたら、こんなセーラ神の慈愛ですら救えない幽霊になりまして、みなさんの力をお借りして、そのバンパイア達を安らげたいとお願いした次第でして」
 そこで一旦口を切るセーレ。
「これらのバンパイアを滅ぼした後は、是非とも私を滅ぼして下さい。滅ぼすまでは私の持っているリカバーの術をかけてかけてかけまくりましょう、後はホーリーフィールドとアンチドート、グッドラックが使える程度ですので、あまり期待されても困りますが‥‥」
 そして、バンパイア達はカタコンベに逃げ込んだという。
「詳しい順路はお教えする事が出来ます。抜け道もいくつか在りますので、相手の位置を把握する術者の方が居れば、そこへの最短距離での案内もできます。
 皆さん方幽霊は信用できないかとお思いでしょうが、私もそう思います。
 そうなったら、私は少しずつでも彼等と戦いましょう。無辜の旅人などで犠牲者が出るかもしれませんが──それは私の力が及ばなかっただけで」
 皆さんの責任ではありません。
 セーレはそう言い切った。
「よかったら、報酬として仲間のひとりが持っていた野太刀を差し上げましょう、パリでは珍重されると聞きますから。当人も賭博の片に手に入れたと言ってましたし、彼が死んでも尚、誰かが振るえばそれで喜ぶでしょう」

●今回の参加者

 ea1565 アレクシアス・フェザント(39歳・♂・ナイト・人間・ノルマン王国)
 ea1987 ベイン・ヴァル(38歳・♂・ファイター・人間・フランク王国)
 ea2022 岬 芳紀(30歳・♂・志士・人間・ジャパン)
 ea2030 ジャドウ・ロスト(28歳・♂・ウィザード・エルフ・ビザンチン帝国)
 ea2256 カイエン・カステポー(37歳・♂・神聖騎士・人間・イギリス王国)
 ea3484 ジィ・ジ(71歳・♂・ウィザード・人間・フランク王国)
 ea4027 キセラ・ヴァーンズ(21歳・♀・クレリック・人間・ノルマン王国)
 ea4278 飛刀 狼(22歳・♂・武道家・人間・華仙教大国)
 ea4473 コトセット・メヌーマ(34歳・♂・ウィザード・エルフ・ノルマン王国)
 ea4792 アリス・コルレオーネ(34歳・♀・ウィザード・エルフ・フランク王国)
 ea5226 ヴァレリー・ローマック(23歳・♀・ナイト・エルフ・ロシア王国)
 ea5229 グラン・バク(37歳・♂・ナイト・人間・ノルマン王国)
 ea5243 バルディッシュ・ドゴール(37歳・♂・ファイター・ジャイアント・イギリス王国)

●リプレイ本文

 信用と不審を一身に受けてセーレは語りだした。
「そうですね。戦いの舞台は教会でした。バンパイアの下僕にされた4人の聖職者は何やら強力な魔法を使おうとしていましたが、使いこなせない為か魔法が発動せず、どんな魔法を使うつもりだったかは判りません。十字架を握っていた所からセーラ神かタロン神の魔法を使おうとしていたのでしょうが‥‥」
 アレクシアス・フェザント(ea1565)はそんな言葉を胸に抱きながら、カタコンベから遊撃部隊が場を混乱させるのを待つ。
 隣では片手に松明を持ったロヴァニオン・ティリス(ea1563)が並ぶ。
 コトセット・メヌーマ(ea4473)は自らの腕を軽く切り裂き、セーレがリカバーで傷を癒す事で彼女が真のセーラの加護を持っていると納得した。
(茶番だな)
 と、冷たく言いたげなジャドウ・ロスト(ea2030)だが、それ以上は言わない。
 だが、<星の探求派>であるコトセットに関して言えば、重要事なのだ。
「‥‥冒険者が自分達の不手際の後始末を他の冒険者に頼むとは‥‥何とも情けない話だな。なあ?」
「全くです」
 うなだれるセーレ。
「‥‥だが、死した後もレイスとして蘇ってまで自分で片を付け様とするその根性…!私は嫌いじゃないぞ。
‥‥いいだろうセーレとやら、力を貸そうじゃないか!」
 アリス・コルレオーネ(ea4792)は笑って手を出すが、彼女は曇りがちな目になる。
「私のようなゴースト──レイスとは違いますが──は他人に接触しただけで生命力を損なうのです‥‥‥‥ご厚情は嬉しいのですが」
 また、カタコンベに来る途中にジャパンから来た冒険者達の遺体を埋葬しようとしたが、不思議な事に皆、熱病にかかったかのように熱を持っており、あからさまに異常だった。
 飛刀 狼(ea4278)はそんな異様さに火葬を主張。10才ながらもキセラ・ヴァーンズ(ea4027)はこれはバンパイアに殺された者が下僕として蘇る前兆と看破し、これ以上の戦いを増やさない為と、彼等の御霊の為、彼等を荼毘に伏す。
 コトセットは他にも尋常ではない魔力を以てピュリファイの魔法をかけれバンパイア化を阻止できるという知識を持っているが、いかんせん、人間を一度で殺せるだけのピュリファイの使い手はそうそう居ない。岬芳紀(ea2022)は彼等が残した文献を読もうとしたが、日記などは付けて居らず空振りに終わった。
 異教のその儀礼にもセーレは厳粛な面もちで眺めているだけであった。
 近くの塚の根本の隠し通路からカタコンベに入っていく遊撃部隊。
 上の待機組はカタコンベの構造に関して、セーレは筆記用具などを持てない為、口述筆記で地図を作る事となる。
 そんな一幕で、セーレがロヴァニオンに問うた。
「あなたは私を見ても何も思わないのですか?」
「思わん。先日感じたあの恐怖に比べれば‥‥」
「恐怖ですか‥‥良ければお話下さい。お力になれるかも知れません」
「いや、こればっかりは無理だ」
 その言葉に過去を思い出したロヴァニオンは思わず松明を取り落としそうになる。
「奴ら仲間増やしたりしてねえだろうな。地下墓地についたらアンデッドがうじゃうじゃなんてぞっとする」
「さっきのあの現象が何を意味しているか判りませんが、周囲は人が居ないはずですから、そうそうは‥‥と思いたいです──皆さん。アンデッドが近くにいます。壁に阻まれて正確な誘導は出来ませんが、西の方に2体です。注意して下さい」
 魔法で感知したセーレの指示が飛ぶ。
「西の方だそうだ。気をつけろ」
 芳紀の感覚が針を研ぎ澄まされたかのように鋭敏になる。
「幽霊の案内で地下墓所廻り‥‥か‥‥。涼しくなれそうだ」
 と嘯き、筆記用具を隠しに納め、刀を抜く。
「一旦、おびき寄せて本隊と合流する。」
 カイエン・カステポー(ea2256)が『野太刀』を構える。銘は『凶星(まがぼし)』であると芳紀はそう語っていた。
 一方、ジィ・ジ(ea3484)がそれぞれの武器に炎を纏わせ、付与した炎が狼やロヴァニオン、そしてアレクシアスの練り込んだ闘気が渾然一体となり、使い手は破壊力を相乗して上げているのを感じた。
「志士、岬・芳紀。いざ,参る!」
 アリスは相手が間合いに入り次第、氷に封じて動きを止める算段に入っている。
 セーレのアンデッドの感知がこちらに近づく事を知らせる中、狼は己の闘気を高めて、士気を向上させる。未熟な少年はこれが背一杯なのだ。
「隠し扉はこちらです?」
 何の変哲もない壁を押すとどんでん返しになっている。
 セーレが壁を潜ってバンパイアの元に挑発に向かう。
 しばしの後、男性のバンパイアなのだろう、赤く光る目に、犬歯をむき出しにした影がふたつ走り寄ってくる。
 アリスの魔法は弾かれた。
 一方、セーレは自分を中心に聖なる結界を張り、突破を凌いでいる。
「今の内に本隊の方々を! この階段沿いに行けば、打ち合わせ通りの迎撃地点に行ける筈です」
 レム・ハーティ(ea1652)は抱えた壺をちゃぷちゃぷと揺らしていた。中は油だが、彼女が頼りにしていた火の精霊魔法をパワーアップしちゃえ大作戦だったが、引火するような魔法をジィもコトセットも持ち合わせていなかった。
 仕方なくバックパックに入れ、十字架に祈りを込めた。
 とたん、床の一部が反転して、キセラを面々とする一同が飛び出す。しかし、その時にはバンパイアも咄嗟に呪文の詠唱準備に入っていた。
 一団が合流し、乱戦が始まる。
 ジィも両手を炎で包み、燃える闘志で戦いを続けている。
 カイエンも野太刀を器用に使い、突破を防いでいた。
 その足下に呪文と共に水が流れ出した。
 ジャドウである。
(伝承通りならば、流れ水を渡ってこちらにはこれない筈)
 一同、特にコトセットもその知識は持っていた、それが只の嘘である事を含めて。
 続けてその水を操ろうとするが、対象にダメージを与えられないほどの速度でしか、水は動かず。集中しながら成就させようとしたクーリングは間に合わなかった。
「足止めにもならないとは」
 クリエイトウォーターの間合いの関係上距離を詰めなければならなかったジャドウの顔面に情け容赦ない連続で噛みつこうとするが、ベイン・ヴァル(ea1987)の放った衝撃破がふたりの間に割って入る。

「これは──」
 アレクシアスの持っていた剣の闘気が後方にいた吸血鬼の呪文一発で消滅したのを見て、一瞬唖然とする。
 そこへ飛びかかるバンパイア。
 幸い、まだまだ剣には炎の魔法が残っていた。それに怯んでか、1歩2歩と下がり出す。戦力としての格の違いを感じ取ったのだろう。
 エルフのヴァレリー・ローマック(ea5226)も戦仲間の得物に闘気を付与して、準備は整ったと見て、反撃に転じる。
「グッドラックかけてくれないか? 幽霊にやってもらえたなんて、いい話のネタになる」
 その祝福に応え言葉にならないウォークライを絶叫するグラン・バク(ea5229) ロヴァニオンが競り合う中に後ろから全力、全武器の質量を乗せた一撃を浴び得る。
 肩口から入った一撃は骨盤に当たりいやな音を立てた。
 後方から必死に付与魔法を解除しようとする涙ぐましいヴァンパイアもいたが、
 付与魔法をかけられる人数がこれだけいれば、その努力は空しいものとなる。
 4体のヴァンパイアは灰となり、その破片は近くの河に流された。芳紀がサンプルを取る暇もない。
 ジャイアントのバルディッシュ・ドゴール(ea5243)は河に叫ぶ。
「貴様らの主は塵に帰った!ならば後を追うが下僕の務め、大人しく散れ!」
 野太刀の処遇に関してアレクシアスは。
「皆が諾というなら手に入れたい、ただ命を切り裂くだけでなく、セーレの願う救いの為に振るうとしよう」
「俺自身は使えないんだが、知り合いがかなり切実に欲しがってるからな…。もらえる物なら、是非もらいたい物なんだが」
 狼は些か弱い動機で切り出した。
「いや。断言する“クレ”」
 と語り、カイエンが直球の意思表示。即ち狼とアレクシアスの意見は是とされなかったという事である。
 そしてセーレも。
「あなたが望むなら‥‥」
 こうして野太刀『凶星』はカイエンの手に渡った。
 バルディッシュは執拗にセーレに話しかける。
「その、なんだ。せっかくこの世に留まれたのだ。もう少し色々やってみないか? 例えば、ギルドの受付がゴーストだったりしたら面白いのだが」
「面白い、面白くないの問題ではありません。灰は灰に、塵は塵に還るべきなのです」
「最後の最後まで頼みっぱなし、だったね」
 とはレム。アンデッドが不浄とは知っていてもものの、心を通わせたものを滅ぼす事は忍びない。
「いいえ、こちらこそ。もし、皆さんが通ってこなければどうなったか───これもセーラ神の慈悲というものでしょう」
 ペインは最後に問うた。何か望み、誰かに伝えたい言葉が無いか、を。
「パリの教会に私が死んだ事と教会の復興を願っていた事をお伝え下されば結構です。是非ともお願いします」
 そこに異国情緒の溢れるマイナーなメロディ。
 芳紀の横笛だった。
「鎮魂の曲とならん事を‥‥」
「ありがとうございます。でも、私は華国やジャパン風に言えば、六道の辻から踏み出した者、いかなる救済もありません」
 キセラの一言は“お疲れさま”であった。
「でも、あなた達にはまだ困難が待ってます、頑張って下さい」
 カイエンから借りた野太刀にグランが闘気を纏わせ、コナン流ならではの烈しい一撃により、虚空に消し飛ばした
 カイエンは朗じる。
「かつて、黒き神官に死してなお友と、世界を思った偉大な者がいたことを語り継ぐと。そして死してなお、あなたは美しいと」
 風はパリに向かって吹いていた。