【華の乱】届かない夢【胡蝶と龍】
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■ショートシナリオ
担当:成瀬丈二
対応レベル:11〜lv
難易度:難しい
成功報酬:15 G 20 C
参加人数:6人
サポート参加人数:2人
冒険期間:05月03日〜05月12日
リプレイ公開日:2007年05月12日
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●オープニング
「引く手あまたとは思いますが、人員をお願いします」
振り袖姿に襷がけも凛々しい『美少女』柳生左門が冒険者ギルドを訪れたのは、江戸城を訪れた政宗が寝返り、諸侯らの動向も怪しい日々であった。
「江戸城も危うい今、地下の大空洞に潜んでいる源徳家康さまの側室、茶阿局に信康さまのお子の登久姫さま、秀康さまのお子の仙千代ら3名の柔弱な者達を甲州街道を使って、一旦八王子まで落ちのびさせます。その護衛に冒険者をお願いしたいのです。一応、自分の主人である源徳長千代さまが率いる事になりますが、追撃をかけられれば、自分と長千代さまでは守りきれる人数ではありません───」
その為には江戸に残っている中で一番の鬼札冒険者を用いたいという。
「後、長千代さまは城に残り、信康さまに合力して一同を落ちのびさせる積もりのようですが、側室の子とはいえ、歴とした源徳家の若君‥‥討ち取られる事になっては士気に触ります。それに自分の大切な主人でもあります。
それから、人食い鬼を中心とした鬼の一団がこの混乱に乗じてか北方から現れたらしく、このような情勢故討伐もままならぬのですが、40匹ほどが巣くっていると聞きます」
その言葉に冒険者ギルドの受付は長千代が残る気ならば、左門もそれに準じる積もりであるというのが見て取れた。
人食い鬼を排除して、甲州街道を八王子まで遡れば、もしもの時の為に八王子を守っている千本槍同心が一同を守る。
「どうか、源徳家の為に力を貸していただける冒険者をご斡旋下さい」
左門はそう言って頭を下げた。
源徳家の存亡を賭けた冒険が始まる。
●リプレイ本文
「『源徳長千代様と柳生左門様』も、八王子に一緒に届けます」
ルーラス・エルミナス(ea0282)は地下空洞、江戸城地下の謎の月道などがあったりする全容の掴めていないそこで、家康の側妾、阿茶局、信康と秀康の子供たち、登久姫と仙千代が脱出の機会を伺っていた。阿茶局は元来、街道往来の身故、足腰に自身はあれど登久姫はまだ3つほど、仙千代に至っては乳飲み子であった。
「長千代様も来て頂きます。理由として、信康様は冒険者により、大凧にて強制的に脱出させられたと言う事で、合流が難しい為。たとえ御身が江戸に残った所で、伊達軍から一同を逃すのは難しい為。託されたお役目で有る、『お三方』を無事に八王子に届ける事こそ重要」
と焦点を示して説得していく。釘を刺すのも忘れない。
「叉、お役目を冒険者に任せて、急ぎ戻るなどすれば、信康様の信頼に応えられず、足手纏いになる可能性を指摘させてください」
結城友矩(ea2046)も熱心に───。
「長千代殿、大勢は決したでござる」
と、伊達の入城を指して語り。
「江戸城に戻るは犬死でござる」
「ここは堪えて下され、今は一筋でも多く源徳家の血筋を多く残すが肝要かと」
冒険者の必死の説得に。
「血か? それが大層なものか? それなら、直系源氏縁の義経君(ぎみ)の方が余程、正当な血ではないか?」
反論する長千代。若くとも武門の男として、味方を残して逃げる事には大きな抵抗がある。逆に言えば、若さ故の血気も少なからずある。
「源徳家が今の太平の世の要石でござる。政争の末、歴史の影に隠れた義経君などより、ジャパンの平和に貢献しているでござる。ならばこそ生き延びてこそ、再戦の機会もあるというものでござる」
なおも鬼切七十郎(eb3773)は辛抱強く説得する。
「源徳の貴種をお守りいたす」
「左門殿、貴殿もでござる。若君の側近くに最後まで仕えるでござる」
町娘風の風体に装った、柳生左門。
それが無言で頷く。
「まいど〜、よろしゅうな♪」
どの辺が『まいど』かはおいといて、シフールのイフェリア・アイランズ(ea2890)が羽根をはためかせながら皆の周りを飛んでいた。シフールの明るさは煩くもあるが絶望的な状況では救いである。
「ん〜、上手く逃げ切らなあかんな〜」
アンリ・フィルス(eb4667)は不安を吹き飛ばすように大笑する。
「負け戦か、カカッ。漢の真価が試される時ぞ!」
「緒戦のひとつに過ぎぬでござる」
と、友矩も再戦を促した。
「長千代君は、相当の使い手らしいので、一つ試合を申し込もう」
「面白い、と言いたい所だが───実力の壁が判らぬほど、愚かではない」
「実力を判っているならば、伊達の軍勢に抗し得ないのも判っておられるだろう。
生きて守らねばならぬもの、強うなって為さねばならぬこともござろうよ」
河童の磯城弥魁厳(eb5249)も助言する。
「もはや江戸城に留まるのは危険でしかございませぬ。
長千代さま、左門さまも我らと同行し、八王子まで一緒に落ち延びていただくことが最善と思いまする。
復仇の機会は必ず訪れまする」
と、友矩が場をまとめた。総がかりの説得に、長千代も力なく折れた。彼の意思を無視して力づくで脱出させる方法もあったが、登久姫達の事を考えればそれは出来ない。
「ふたりとも判って戴けた様でござるな」
アンリはペットのジズルにブレスセンサーで呼吸する者を探し出し、魁厳は優れた隠密の業で、闇をものともしない勢いで、周囲を把握している。
「人? 多分? がいるみたい」
ジズーは良く判らないながらも一同に告げる。
「やれやれ、ばれてしまった様じゃな?」
エルフにしては大柄だが、頭に霜を抱いてるその四肢は狩衣と袴に包まれていた。小太刀を腰に差している。
「まずは名前を言わんとな、ウォルター・ドルカーン。そなた等の名前は?」
一同がこの老人をどうしたものか迷っていると───長千代が。
「長千代だ。上に偉そうな名字がついているが、長千代だけで十分だ」
それから堰を切った様に一同は自己紹介を始める。
「で、あなたはいったい、ここにいるのでしょう?」
「なーに、ただの世捨て人じゃよ。もっとも、この大空洞に詳しいという但し書きが付くがな? お主等が街道筋近くに出たそうだった様に見えるから、その手助けに来たのじゃよ。お邪魔だったかな?」
一同は正確な地図のない大空洞の中で確かに迷っていたし、確かに距離をちぢめられるなら、それに越した事はない。罠ならば噛み破ればいい───という境地に達していた。 何より長千代が決断した事でもある。
大空洞の中をパターンが無いかの様に荒れ狂う風穴。そのひとつから、甲州街道を見下ろす丘ぞいに一同は顔を出した。
乳幼児を連れての旅は困難を極めた。
それでも自分たちの使命を果たすべく
一同は甲州街道を西進していった。
そして、血肉の匂いが溢れる所に───。
「どうやら、これが人食い鬼の住んでいた所でござるな。いや、住んでいる、か───」
友矩はこの日の為に調達していたオーガスレイヤーの得物を持ち出し、無行の位につける。
それを見たアンリが。
「なーに、気負うなって、俺達ならオーグラ程度相手にもならん。万が一に一発食うかもしれないが、その程度で戦闘力が落ちる程よわじゃないだろう」
と、四方八方からあふれ出てきた、頭に角を抱く異形どもに不敵な笑みを浮かべる。
「殿は友矩だったな? 後は俺に任せておけ」
ルーラスが───。
「助太刀します」
「当たらんからいい。むしろ邪魔だ。長千代達が合流するまで見届けろ」
一同が甲州街道をアンリを掃除役にして、進むと三つ葉葵の紋章をつけた一団に出くわした。名に高い八王子千人同心である。
「長千代様、お待ちしておりました」
伊達男ぶりを見せつける大久保長安に長千代は嶮しい顔をした。
「アンリが帰ってくるまで待つ」
そして、アンリはオーグラの角を幾つもぶら下げて帰ってきた。
「待たせたな。じゃあ、江戸からの脱出ミッションはこれでお終いだな」
大久保長安の元に源徳家一同は身を寄せる事になった。
これが長い戦いの始まりである。