忍び恋のように
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■ショートシナリオ
担当:成瀬丈二
対応レベル:11〜lv
難易度:難しい
成功報酬:10 G 13 C
参加人数:5人
サポート参加人数:-人
冒険期間:06月14日〜06月23日
リプレイ公開日:2007年06月23日
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●オープニング
パラの少年陰陽師『茜屋慧』が服は襤褸同然、全身に刀傷を受けた身で江戸の冒険者ギルドを訪れたのは『華の乱』と呼ばれる一連の騒ぎが収まってきたかに見える、つい先日の事であった。
「あら、髪もズタズタで、大丈夫ですか?」
と、心配する冒険者ギルドの受付嬢の前で気丈に背を伸ばすと、慧少年は用件を切り出した。
『華の乱』の奥州軍による江戸占拠の際、茜屋邸にも幾人もの武士が入り込み、構太刀と呼ばれる3体のカマイタチ──高尾山の風の精霊力溜まりで育てられ、倭の守護者(これが何を意味するかは不明であるが)として、来るべき何かに備えて育成され、修行の一環として、茜屋家に預けられたが、そこで暗殺業専門の式神に用いられ、血に狂った状態となった。両親が居なくなった慧少年が次の主となる儀式に失敗し、血のヨゴレと呪縛に駆られて数多の死者を出したエレメンタルである。現在は血と怨嗟を浄化した冒険者達の活躍で、式神として安定したが、慧少年は他人に危害を加えないという指示を出した所、能動的行動の一切を構太刀は停止し───が奥州の兵に連れ去られて、自分はその際に負った手傷で動けず、ようやく今日になって依頼を出せる様になったという。
「手がかりはありません。ただ、構太刀に関して何かの造詣があるとすれば、デビルが中核に居座っている───皇虎宝団、忍者を良く使い、決して自分は表に出ないという集団を慧少年は連想したという。
「どうか、些少ですが、皆さんの善意にお縋りするしか有りません」
慧少年は深々と頭を下げた。
構太刀奪還の冒険が始まる。
●リプレイ本文
「駄目です。そういう訳には参りません」
パラの少年陰陽師『茜屋慧』はルーラス・エルミナス(ea0282)の高尾山行きの要請をすげなく断った。
「まず、構太刀ですが、構太刀は高尾山に封じられた『何か』と戦う為に練り上げられた存在。高尾山の封印が破られていたとすれば、もっともそこに居て欲しくないものの筈です。
これも以前の話を聞いただけですが、高尾山の封印が破られれば、板東武者と、冒険者ギルド総掛かりで無ければ対処できない『何か』が出てくる事になっているそうです。今までそれだけの存在の噂でも聞きましたか?」
「まあ───西の封印が破られたというのは噂だけですからね」
先日の江戸城陥落の際、江戸に到来した鳳凰の『翠蘭』を崇める集団『不死鳥教典』の長、伊織から聞いた所の、翠蘭が江戸へと来訪した理由が『西の封印が破られた』事による霊的なバランスの崩壊らしいという事だが、八王子で何か、霊的魔法的な意味での大事件は起きておらず、源徳家の人間が若干名───と言っても家康直系のものばかりだが───逃げ込んでいるという、人間サイドの大事件しかない様である。
「後は些細な事ですが、江戸城に座しているのが、源徳家ではなく、伊達家のものだとしても、奉行所の実働要員は前と同じ。つまり、江戸に禁足令を受けている自分が江戸から出れば、奉行所の方に咎めが行くでしょう。僕が動いても実働戦力にはなりませんし、構太刀に関する情報の大半以上を持ったラシュディアさんは異国に行ったと聞きます。つまり連れて行くだけ足手纏いが増えるわけです」
「しかし、高尾山の天狗と伝手は‥‥江戸に足止めされている以上ありませんね‥‥」
「はい、高尾山に向かったのは冒険者ギルドの方々でしたから」
「高尾山で異変があったという話ではないのですか? こちらは既に、慧少年を襲撃した連中の手が伸びているものという前提でいたのですが?」
と、アンリ・フィルス(eb4667)がルーラスと慧の話の食い違い、現状認識の差に苛立つ。
河童忍びの磯城弥魁厳(eb5249)は奥州兵の遺留品か、構太刀の匂いの残滓の残っているものはないか、と慧に尋ねる。
「奥州兵は何も残していきませんでしたが、構太刀の方でしたら───」
「ふむ、では早速」
その言葉に慧は構太刀を入れていた檻を示すが、さすがの忍犬、ヤツハシ、ナラヅケも構太刀が略取されてから時間が経ちすぎていた事に対処できず、戸惑うばかりであった。 魁厳は愛犬たちに呼びかける。
「ナラヅケ、ヤツハシ良くやった───お前らは悪くないぞ」
女忍者河童の木下茜(eb5817)曰く。
「本当に奥州兵でした?」
その言葉に慧は応えて───。
「見た目はそう見えました、でも‥‥」
「でも、相手が忍者で、人遁の術ならば外見などどうにでもなります?」
茜は目を細めて───。
「そして彼らを忍犬の鼻で追えなければ、今の自分たちに追尾する手段は───ないのです。ルーラスの事がありますから、釈然としませんけど、高尾山に向かうしかないでしょう。ルーラスさんの案通り」
巨漢の───ジャイアントだから当然であるが───ブレイズ・アドミラル(eb9090)がその言葉に首を微妙に傾げ。
「構太刀の捜索が、高尾山の調査になるのは、少し行き過ぎな気がするが、現状で、手掛かりが無い以上、高尾山さんを調査するのが早いようだ。
とは言え、まったく手掛かりが無いのは困る、取っ掛かりになる物が欲しい所だ。だが、本当に取っ掛かりが無い以上は是非もない」
当人の意志を無視してまで、慧少年を連れ出す訳にも行かず、とりあえず今までの冒険者は天狗に関して、高尾山の修験者を通じて、コンタクトをとっていたようだ、という話を慧少年から聞き出すと、一同は江戸を出て、高尾山に向かった。
奥州兵の固める関所を抜け、甲州街道を西に進むと八王子。八王子代官大久保長安が治める地である。
ここに高尾山はある。
慧少年から聞き出したとおり、修験者とうまく話をまとめ、しばし待つと、頭を丸めた13歳ばかりの修験者の少年が現れた。慧少年の話通りならば、これが烏天狗の長、十郎坊という事だ。
「初めまして、烏天狗の太郎坊です。結界は無事ですが? 何か異変でも起きたのでしょうか?」
少なくとも『石の中の蝶』は反応していない。
「茜屋家から、構太刀が何者か───奥州兵を装った輩に掠われました」
ルーラスがそう切り出す。その言葉に太郎坊は───。
「それは大変です! ‥‥その話を切り出したからには高尾山にその手がかりを求めてきたのでしょうけれど───」
妙に歯切れの悪い太郎坊の言葉に一同は次の言葉を半ば悟った。
そして、その予感通りの言葉であった。
「───ならば、仕方がない精。霊力のおかしな地や、妙な輩の集まっている地を調べるのに合力してもらいたい」
「精霊力に関しては───この高尾山そのものが風の精霊力の高まっている地ですよ。志士やウィザードといった、精霊と契約されている方々が居ないようですから感じ取れないだけで。いれば、そもそもそんな問いかけは出てこないでしょうけど」
「そうか、自分たちでは判らないか───」
ルーラスはその言葉にしょげた。
もう一方の、妙な輩に関しては、隠れ里に籠もっている自分たちよりも、普段から山を歩いている修験者の方が詳しいだろうという事だが、アンリの危惧通り、相手が忍者集団───皇虎宝団───ならば、茜や魁厳よりも力量は上。見つかる前に分散されるだろうというのが、一同を見極めた修験者の長の言葉であった。
「つまりは壮大な無駄足だったな」
───とブレイズ。
結局、旅路で保存食を減らしただけの(一部のものは街道沿いで買い食いしていたが)徒労の往復に終わった。
「お帰りなさい。何か判りましたか?」
慧少年の出迎えの言葉が明るく響く。
返す言葉はなかった。
これが構太刀を巡る冒険の、新たな一幕目の顛末である。