●リプレイ本文
「私のは芸名の様なものですから、伝承に出てくる有名な予言者の名前から取ったそうです。不幸しか見えないのは精霊の気まぐれの様なものでしょう」
カサンドラはもうひとりのカサンドラ、ノリア・カサンドラ(ea1558)にそう応えた。
「未来ってのは色んな可能性がある。その人の生き様で良くも悪くもなるから、あなたのみた未来はただの悪い可能性なだけ。もし、この先、人の悪い未来の可能性を予言する時は、それに打ち勝つように言って、弟さんの未来のように」
「ええ、いつもそう言っていますけれど、大抵の人はもっと悪い未来に突き進んでしまうんですよね、十秒間しか見えない未来に過剰な想いを抱いて。百万ゴールド失うと予言したら、一千万ゴールド失ったりとか──それでも強く生きて下さい、としか言えないのです」
「未来には無限の可能性があるはずでしょう?」
「可能性はあっても結果はひとつです。だから、その結果を覆したいと想うのは魔法を正しく知っているものとしては当然でしょう」
「行くぞ鳳天号!」
アマツ・オオトリ(ea1842)が気合いを入れ、ひたすら先行する。
カサンドラの弟の身柄を確保しようと先鋒を勤めたのだ。
追従しようとするはシルヴィス・ヴィーゲラン(ea2060)。貴族としての嗜みで当然乗馬は可能。アマツに些か遅れ気味。後ろに荷物の老シフールのカシム・キリング(ea5068)を乗せているせいもあるが、若干向こうの方が騎手としての腕が上という事と、何かから逃げる様な疾走をしているからだ。
「アマツ殿、それでは馬がばててしまうぞ」
(未来が見えて、それをどうするかはその人次第‥‥だけど、見えてしまった未来が暗いものだったら変えたいと思うのは当然なのでしょうね)
そして、カサンドラが出発する日の早朝。クリシュナ・パラハ(ea1850)は唐突な呼びかけに訝しげな七刻 双武(ea3866)を呼び出して告げる。
「いや〜、アマちんってホント不器用だから。おじさんが好きなら、ぱっぱと告白して玉砕しちゃえばいいのに。おじさんだって、気づいてたでしょ?」
「アマちんとはオオトリ殿の事じゃな? その‥‥この事に関しては何も言えぬのじゃ、心中察してくだされ」
「それじゃ、アマちんの想いはどうなるの? ま、外野が五月蠅く言っても仕方ないけどね。アマちんを不幸にしたら許さないよ」
道中、少年探検家シクル・ザーン(ea2350)はカサンドラとの会話で悩んでいた。
「村と言っても、ごく変わった所はないし。確かにハーブが取れるというのは少々変わっているかなと思えますけど」
「ええ、弟はハーブを集めるのが、とっても上手いのよ。だから、その絡みでグレイベアに襲われるかな、と思うんだけど」
「そんな‥‥ハーブを集めに行っただけで死ぬなんて──」
シクルの目から大粒の涙が零れた。
「ほら、泣かないで? 男の子でしょう」
「ありがとうございます。僕は心も体ももっと強くなりたいんです」
尚、カサンドラはアリアス・サーレク(ea2699)の馬に乗っている。華奢なエルフだけあって重量は軽視できるが彼としては女性が歩きで旅をするのは釈然としないらしい。このあたり騎士らしいと言えるだろう。
鞘継 匡(ea4641)はぶっきらぼうに訪ねる。
「予言に見たと言ったが、失礼ながら――弟君に自分で予言を捻じ曲げる力は無いのか」
「知っていれば、曲げる事も出来るでしょうが、知らなければどうにもならないでしょう。その為に皆さんの力を借りたのですから」
「もうひとつ。その予言が近日中ではないということもあるか」
「今年の内です。そう術で決めたので」
アリオス・セディオン(ea4909)は語る。
「ノリアも言っていたが、カサンドラは、不幸な予言をすると一部から言われているようだが、それは、警鐘と思えば良いのではないか?
考え方次第だ、と、俺は思う。
結局、未来は、自分の力で定めるべきものだからな‥‥」
「ええ、そうは判っていても、警鐘と真実が入り交じる予言ですから‥‥かといって奇麗な嘘ばかり言っては、真剣に未来を聞きたい人には失礼ですから」
その頃、村に先行した3人は‥‥。
「姉上からの依頼で護衛に来た」
アマツを初め、3人は予言の事は伏せ、護衛に入った。
「姉さんは心配性だから、毎年こうやってお金を使って、持参金も貯められないんです」
だが、弟は判っていたかのように2人の護衛を受け入れたが、心配を笑い飛ばそうとしているかのようであった。
尚、カシムは森に一足先に調査に向かっている。
だが、ひとつの依頼が事態を急変させた。
村で赤ん坊が急病を起こし、森の中にある珍しいハーブが必要になったというのだ。
「僕が行きます。この一団で一番ハーブに詳しいのは僕ですし」
ふたりがどうしたものかと迷っていると、後衛の一同が到着した。
そこへ更に、飛んで帰ってきたカシムが森の中でグレイベアと出会い、少々、刺激してしまったというのだ。
魔法で目を眩ましたが、為らしい。
冒険者たちは数人の護衛を弟の元に残して、熊退治をする事になった。
赤ん坊の事は急ぎだし、速攻で勝負をつけなければならない。
キウイ・クレープ(ea2031)としてはカシムのせいで考えてきた策を弄する暇もなく、全面衝突をしなければならなくなり、かなり不本意であった。
「赤ん坊に何かあったらシフールの出汁がどんなものか試してやるよ──」
「ひぃ、タタリじゃ!」
「無駄な殺生はしたくないが、どこかで血を流さなければならないか‥‥」
アリオスはそのやり取りを見て覚悟を決める。
「皆さんがそうするなら」
諦めたようにティーナ・ラスティア(ea4662)が呟くが、アリオスはそんな彼女に対して、無理にやるならばこなくても構わない、と諭す。
「じゃあ護衛に残ります──皆さんを突破できるような相手に何が出来るか判りませんけど。とりあえずは場を和ませる為、演奏でもしましょうか? でも‥‥何の楽器も持ってきていません。困りましたね」
そんなボケを噛ました彼女にも一座は快く楽器を貸してくれる。竪琴をかき鳴らすと妙なる調べが流れる。
「いい仕事してますねぇ〜」
ティーナの演奏を背景に一同は森へ出動した。
赤毛のレンジャーのティーア・グラナート(ea4210)がキウイとツートップで先頭を行く。カシムが暴行を働いた場所から足跡を辿っていくと、ルーク・フォンセイン(ea3934)が新しい木への引っ掻き傷──マーキング──を捉え、如何にも不機嫌なうなり声が聞こえてきた。
確認のため、シクルが呪文で確かめると、サイズからして明らかに熊だ。彼の知識からするとグレイベアのサイズだ。
それを確認したアルジェント・ディファンス(ea4472)が一同に合図する。呪文で先制攻撃を打ち込むから巻き込まれないよう、散開してくれというサインだ。
高速詠唱で初弾を打ち込もうとしたが、ゆっくり落ち着けば今のレベルの呪文でも十分に打撃を与えられると判断。
朗々と呪文を唱える。黒い線が一直線に森の木々を薙ぎ払いながら、グレイベアを直撃する。更に幸運なことに転倒までしてくれた。
折れた木々を抜けながら殺到する一同。
だが、その突撃に出遅れるアマツ。
「はっはっは、遅いぞ愚民ども!」
アルジェントが詠唱している間、呪文を唱えていたクリシュナも炎の鳥となって皆を上回る速度で飛翔していく。
掠めるように4連撃を入れて、グレイベアの体力を殺ぐ。キウイもロングソードの重みを活かした一打で深々と熊の毛皮を突き破る。
アリアスも皆が詠唱している間に闘気で盾を形成、起きあがっての攻撃に備える。
ルークも二刀で連撃を浴びせる。更に血しぶきがあがった。だが──。
「拙者の目の黒い内は手は出させんぞ」
との声の直後に酒精とハーブの入り交じった匂いが立ちこめた。双武がベルモットを投げたのだが、その手の道に暗い彼の腕はあさっての方向に瓶と中身をぶちまけただけだった。
急ぎ詰め寄るが、その頃にはグレイベアは立ち上がっていた。
だが、カシムの呪文により未然に視界は防がれ、皆の一撃を浴び、遂に熊は倒れた。
ルークは念のために周囲に別の熊がいないか、鷹のような目で確認。
「ほほほ、全て終わったようじゃな? ではハーブ集めは大丈夫と伝えてくるか」
言ってカシムは森の中を抜けて伝令に向かう。
一同は革と肉を丁重に剥ぎ、晩の宴の準備と為す。
これも自然の掟とシクルも合掌し、肉を食すのだった。
「この熊の様な強さを得られますように」
言って焼いた心臓を頬張る。
それが彼等なりの予言の犠牲者への手向けであった。
そして祭りは始まった。
シルヴィスの歌声に合わせ、踊り子を生業とするノリアは躍動的な舞を見せ、後ろではクリシュナがオカリナを吹く。その直前に彼女はのぼりのひとつに『秘密結社グランドクロス参上!』と小さく書き、何かを小さく呟いたが、それは誰にも知られていない。
そして、報酬の一部である予言が始まったが、多数の者が遠慮した。
敢えて、予言を選んだ者たちへはロクでもない予言が告げられた。
アルジェントへの予言はあなたは心臓を貫かれて死ぬ。
同じく、カシムへの予言は、あなたは寿命では死なないでしょう。
複雑な表情のティーアは──。
「‥‥でも、今は、占い必要なほど、困ってる事、無い。
ん。また会う事、約束出来るか、カサンドラ?
また、会えて、その時、困ってる事あれば、占ってもらおう、と思う。
無ければ、また、その次、会った時に」
「喜んで」
「‥‥道が険しいのを見たくないからといって、夜道に松明を灯さないのは愚かだと、俺は思う。そしてそれはあいつも同じだと信じている」
と妹への予言を頼むアリアス。
「妹さんは背後からの何かで死ぬでしょう」
アマツは何かを訪ねようとしたが、唐突に後ろを向いて走り出す。
「私はっ‥‥何と破廉恥な女だ‥‥!」
こうしてカサンドラを困惑させたまま、ひとつの不吉な予言は潰されたのであった。
帰り支度を始める一行に、気が変わりパリへ帰らず、報酬を皆に渡すと放浪の旅に戻ると宣言するカサンドラ。
「また、不吉な予言が出たら皆さんにお願いしますから」
微妙に不吉な事を言い残し、彼女は風と太陽と共に消え去っていく。
もう、8月であった。