●リプレイ本文
北風を斬り裂きながら、4人の影が雪狼に襲われた村を目指してまっしぐらに進んでいた。
出発前。
「どうだ?」
「‥‥うむ、無理をすれば何とかなると思う」
カイ・ローン(ea3054)はフライングブルームにストーンゴーレム『ブロム』を搭載した。魔法の箒の積載量は相当なもので、石人形を掴らせたまま宙に浮いた。ただ、長時間の移動となると不安である。魔法が掛かっていても箒は箒、折れるかもしれず、ゴーレムが手を滑らせて落ちるかもしれず。
「どれどれ‥‥いや、危ないぞ。棒をくっ付けて補強したらどうだ?」
「うーむ。しかし、積載量にあまり余裕がない」
「荷物は皆で分担すれば良いんじゃないか?」
ゴーレムを預けて行くか、徒歩で行けばいいのだが、依頼に十分な人数が集まらなかったので出来れば連れていきたいし、村にも早く着きたかった。四人とも馬持ちだから、ゴーレムの歩く速度に合わせたくは無いのだ。
結局、あーだこーだと載せ方を工夫し、木や布で補強しているうちに時間が過ぎ、少し遅れて江戸を出発する。
「済まないが、村まで急ぎたい。俺の馬に乗ってくれないか。ナガレは人に慣れているから大丈夫だ」
準備が済んだところでカイは村から江戸まで危急を知らせてきた依頼人、兵衛に自分の戦闘馬に乗るよう指示した。兵衛は二十ばかりの若い男で、ブルブルと首を横に振る。
「馬に乗るなんて、と、とんでもないことです」
ジャパンの階級制度では、基本的に馬に乗れるのは武士や貴族など限られた人々だけである。怯える兵衛に、俺達が居るから咎められる事は無いと冒険者達は請け負う。しかし、いくらカイの馬が人に慣れていると言っても、兵衛に乗馬経験が無いとなると長時間の移動は難しい。冒険者達は他の方法を話し合う。
「わたしが馬に乗れないばっかりに皆様の足を引っ張ってしまうとは。申し訳ねえです、どうか許してくだせえ!」
相談を始めた冒険者達に、兵衞は頭を地に擦りつけんばかりにひれ伏した。
「そこまで畏まらなくても───大変な思いをしている兵衞さんの村に、少しでも早く辿り着こうと思っているだけです。なに、方法は他にもありますから」
不安な表情を見せる若者を安心させようとカイは表情を和らげる。
「俺達は受けた依頼は必ず成功させます。だから村の事は心配いりませんよ」
その言葉は、半ば自分に言い聞かせたものだった。
兵衛の前では口に出さないが、状況はそれほど芳しくない。
(「村人を助けられるならと思って名乗りをあげたが‥‥集まった人数はぎりぎりの四人、雪狼退治に肝心な炎の使い手も居ないとは。ちょっと厳しいが‥‥」)
不利な状況には違い無いが、何としても依頼は成功させたい。表情にこそ出さないが、冒険者達は内心焦りを抱えていた。
「ありがとうございます。ありがとうございます」
縋り付く青年をなだめて、兵衛にはとりあえず西中島導仁(ea2741)の後ろに乗ってもらう事にする。導仁の馬が疲れたら次はカイ、という風に交代して兵衛を乗せていくつもりだった。
「そんな。俺なんかのために勿体ねえです。俺の事は江戸に置いていって、冒険者様達はどうか先に村へ行って下さい」
「そう言われてもな。我らは兵衛の村の正確な場所を知らぬ。案内が必要なのだ」
街道沿いの宿場町と言うならともかく、目的地は江戸から離れた寒村。冒険者達が急ぎたくても、案内役の彼が居なくては返って時間をロスする危険があった。
「わ、分かりました。それでは宜しくお願いします」
「任せておけ。んん‥‥寒いのは余り好きでは無いが、俺達に限って、雪狼如きに遅れを取ることはない。大船に乗ったつもりで居て貰おうか」
吹きつのる北風におもわずくしゃみも出る西中島。馬の荷物に防寒具を持ってきていたがやせ我慢か、着ようとはしない。
「村に着いたら即座に戦闘という事も有り得る。着た方が良いでござるぞ?」
結城友矩(ea2046)が忠告した。かくいう友矩は見た目にも温かそうなロシア製の毛皮鎧を身に付けている。
「うむ」
体力自慢の導仁も、寒さで少しでも動きが鈍ってはと考え直し、戦闘馬の荷物から防寒具を取り出した。
(「肝心な時に寒さで震えたのでは如月と水無月に会わす顔が無いしな」)
導仁は留守番を頼んだ羽妖精達の事を思い出しながら着替えを済ませた。肌を刺す冷気に身震いする。
「この寒さは雪狼に味方するだろう‥‥」
兵衛に言った通り、戦闘力では雪狼を圧倒する自信を導仁は持っていた。しかし、戦いに絶対は無い。万が一など自分に起こらないと過信すれば、呆気ない末路を迎える事をベテランの冒険者達は知っていた。
「だが、負けぬ。我らには魔法の武器もあればオーラの秘術もある。
見よ、この霊剣ミタマの輝きを。相手が言葉が通じぬ獣ならば、この剣にて挨拶してくれよう」
導仁は後ろに乗せた兵衛に霊剣を掲げて見せた。純白の刀身は陽の光を受けて七色に輝く。その不思議な輝きに、兵衛は心を奪われる。
「ほほう、拙者も負けてはいられぬな。村に着いたら、この大包平を思いきり雪狼に叩きつけるでござる。民人を守るは武士の務めでござれば」
そう言った結城友矩の得物は、備前包平作と言われる長大な野太刀。六尺の太刀は重くて扱いにくいが、一撃必殺の破壊力を秘めている。驚異的な回復力を持つ雪狼退治には、心強い武器と言えた。
「うーむ。鎧のおかげで寒くはござらねど、この先に強敵が待ち構えていると思えば武者震いが止まらぬ」
友矩は音に聞こえた猛者である。これまで無数の戦いを経験してきた。時には窮地にも遭ったが、猪武者とも評される勇猛ぶりを常に示してきた。その自信に満ちた言動は、村が心配でたまらない兵衛を勇気づけた。
「然り。さてしかし、真に友矩殿に強敵と言わせるほどの魔物であれば良いが」
導仁は笑顔で仲間達を見回す。いずれも抜群の名声を持つ凄腕揃い。世界最強と噂が立つ事すらある高名な冒険者達だ。
「俺達の名を聞けば地獄の悪鬼羅刹も逃げる」
今回は口上を封印すると決めた導仁。その代わりか道中は少し多弁だった。不安を抱える兵衛を励まそうと思っての事だろう。冒険者達がどれだけ強くても、村に着いた時には全て手遅れという事もある。
一日目は野宿した。近くに宿場や村が無い訳ではなかったが、距離を稼ぐことを優先しすぎて通り過ぎたのだ。交代で見張りに立ちながら、少し眠る。
「兵衛殿にとっては何にも代え難い生まれ育った村なのだからな‥‥助けてやりたい」
友矩は疲れて眠る兵衛を見ていた。少しうなされているようだ。己の家族や友人達に危機が迫り、自分に抗う力が無いとすればその不安と悲しみは想像するに余りある。
「まったくですね。何としても、私達の手で奴らを倒さなくては」
焚き火に拾ってきた木切れをくべながら、ルーラス・エルミナス(ea0282)は決意を口にする。
「‥‥昼間、導仁殿はあのように申されていたが、実際のところ、拙者達だけで雪狼を退治できるでござろうか?」
友矩は考えていた事を話す。戦場では躊躇わぬ男だが、それは人事を尽くした上のことだ。根拠のない自信を振りかざしたり、無敗を信じるほど若くも愚かでも無い。
「雪狼は五匹と聞く。此方は四人でござる」
雪狼退治に行くのが冒険者でなく、仮に町奉行所や江戸城の武士だったとしたら、どんなに少なくとも10人以下という事は無い。個々の強さの違いもあるが、人数が多ければ対応力が格段に違ってくる。
「楽ではありませんね。ですが、あの村には私達しか居ないですし」
急な襲撃、しかも相手は厄介な魔物。役人に頼んでいては遅すぎる。仮に役人が話をすぐ聞いてくれたとしても、討ち手の人数と炎の術者を揃えて討伐隊が出発する頃には、村人は皆死体だ。
その点、冒険者ギルドはぎりぎりの人数で炎の術者が居なくても平気で送り出す。冒険者にリスクジャンキーが多いのも仕方が無いと言えるだろう。
「大丈夫ですよ。万が一に私達が失敗したとしてもね」
ルーラスがそう言ったので、友矩は無言で頷いた。
5人は逸る気持ちを抑えながら主要街道を外れて、兵衛の寒村への道を急いだ。
旅慣れした冒険者と違って、これまでほとんど村から出る事の無かった兵衛を伴っていたので、冒険者だけの場合より速度は落ちざるをえない。兵衛は馬の背に乗るだけでも辛そうだ。
「すみません、皆様の足を引っ張るばかりで‥‥」
馬を休ませようと暫く自力で歩いた兵衛は、足が縺れて転倒した。すぐ側にいたカイは箒から降りて兵衛を診る。
「足を痛めたようですね。どれ、見せてご覧なさい───むぅ、これはひどく捻ってますね。大丈夫。私に任せてください」
カイが指輪に意識を集中して、呪文を唱える。すると、淡い白光に包まれて、リカバーが発動した。兵衛の両足を癒す。
「ひえー、両足の擦り傷が消えた? それに痛くない? ありがたやありがたや‥‥」
兵衞は深く感謝した。神仏のように拝まれて、恐縮するカイ。
「畏まらないで下さい。───これは私が聖なる母から賜った任務、そして喜びなのですから。本当はぐっすり眠って疲れを取った方がいいのだが‥‥。無理をさせてしまいますが、村まで後少し頼みます」
リカバーは傷を治す事は出来るが、蓄積した体の疲れまでは取れない。江戸まで駆けこんで来た疲労も抜けていない兵衛だが、カイに笑顔を向ける。
「はー、何から何まで心配して貰って‥‥ほんとうにありがたいことです。いや魔法なんて初めてみました」
「私は只の巡回医師にすぎません。全ては聖なる母の御教えですよ。医師とは言っても、治療代は結構です。これも村に早く着くための依頼の一部ですから」
兵衛を心配して、また雪狼との戦闘に備えるために二日目は寒村近くの村で宿を借りることにした。江戸から離れた村ではルーラスやカイの容貌は珍しく、好奇の目を向けられる。
「仕事で山向こうの村まで行く所です。食料は持っていますので、軒下を貸してくれるだけで結構です。なーに、こんな旅には慣れているのですよ」
と、ルーラスが農家の老夫婦に手早く申しつける。
炉端で薪に火を点け、一同は明日への活力を蓄えた。
上等な宿とは言えず、すきま風と凍気が吹き込んできたが、それでも野宿と比べれば天国同然だ。明日はいよいよ村だと決意を新たにして、皆最後の休息を取った。
まっさきに見えてくるのはお堂。
その周囲を純白の狼たちが徘徊している。
ここで五人は相談し、すぐには仕掛けず、まずは御堂の村人の安否を確認する事にした。
「拙者が一足先に出て、雪狼どもの気を引くでござる。その隙に皆はお堂に入り、村人の安全を確かめてくだされ」
ならばと四人の中で体術に最も秀でた友矩が申し出る。
「一人で五体を相手に?」
「威嚇に徹すれば、短時間ならば何とかなるでござる」
危険な任務を真っ先に志願する「先導者」の二つ名に相応しい豪勇。ともかく村人の安全を確かめるのが最優先と、仲間達は頷いた。
「無理はするなよ」
「心得てござる」
仮に友矩が惨敗するようなら、それは今の彼らが戦っても勝てない相手である。叶う限りの村人を救い出して、撤退を選んだ方が良い。
作戦が決まると友矩は心気を練ってオーラを纏う。二度失敗したが三度目で成功。カイから借りた松明に火を点し(油と松明はお堂に蓄積があるので、それを後で補填してもらう事を兵衞が申し出ていた)、油をしみこませたぼろ布を大包平に巻きつける。布を巻いた野太刀と、松明の両方に火を点し、更に刀身にもオーラを纏わせて準備完了。
「いざ、出陣でござる」
威嚇の怒声をあげて、雪狼の群れに突っ込む友矩。ほぼ同時に、準備の間に側面に回っていた仲間達はお堂にゆっくりと近づく。
二刀流なら導仁の独壇場だが、今回は雪狼を引きつけておくだけで良い。火のついた刀と松明を滅茶苦茶に振り回す友矩。雪狼達は友矩の突撃を距離を取ってかわし、散開してこの勇猛の武士を囲んだ。
(「一斉に掛かってこられたら厄介でござるな。しかし好都合。五匹とも拙者を見ているでござる」)
周り囲んで隙を窺う雪狼達に、両手の炎を振って威嚇する友矩。端から見れば激しい炎の演武を狼と踊っているようだ。仲間達の為に五匹を誘ってお堂から少しでも引き離す。
野太刀の炎はもう消えかけていて、消えると同時に雪狼が殺到するのは目に見えていた。
友矩が引き付けている間に、カイ、導仁、ルーラス、それに兵衞の4人はお堂の中に入っていた。
「我々は江戸の冒険者です。皆さんを助けに来ましたっ」
ルーラスの言葉に、小さな歓声があがる。傍目にも村人が皆疲れ果てているのが分かった。中には全く動かぬ者もいる。
カイは早速、医者だと名乗った。治療に専念する暇は無いが、村人の疲労度合は確認しておきたい。
「わしから話そう」
この寺の住職を務める老僧から状況を聞いた。雪狼と戦った若者の生き残りや数日の籠城中に負傷して生命が危ない者が何人もいる。負傷者の他に、寒さと疲労から病を発症した者が多いという。老人や子供ばかりだから無理もない。
「緊急の人にはこの薬を使って下さい。外の雪狼は俺達が倒します。みんなすぐ家に帰れますよ」
時間が無いのでカイは持ってきたポーションを住職に渡した。兵衛は冒険者達の凄さを村人達に話して勇気づけている。
「みんな、この人達は凄い冒険者なんだ。雪狼なんてあっという間に倒してくれる」
「しかし兵衛。あの雪狼相手にたった三人で‥なに四人? いやそれにしても数が少ない」
「見た所、志士様や陰陽師様では無いようじゃが。炎の使い手は見つからなんだか‥」
希望と絶望は半々と言った様子だ。
とりあえず怪我人の応急処置をカイが済ませると、冒険者達は雪狼退治に思考を切り替えた。
「友矩は?」
「炎が消えた。こりゃ死ぬかな」
3人は無言で頷きあい、お堂から打って出る。
「どこまでやれるか。最悪、俺達の攻撃で仕留められないなら、身動き止めてから油をぶっかける事も考えないといけないが」
「動きを止める‥‥コアギュレイトか?」
カイが答えると導仁は大きく頷いた。
「それは便利だな。射竦めのカイ、やれそうなら積極的に行ってくれ」
導仁がカイの二つ名を呼ぶ。雪狼が炎以外の傷を超回復力で治すと言っても、傷を受けてすぐにコアギュレイトを受ければひとたまりも無い筈だ。傷が治っても、神の力による拘束が解ける訳では無いのだから。
三人は連携を確認して、雪狼達に囲まれた友矩を助けに入る。
仲間達がお堂から出てきた。村人達は何とか無事のようだ。
「ならば拙者も役目を果たすでござる」
威嚇は止めて、友矩は雪狼達を迎撃する構えを取った。前から突進してくる一匹に狙いを定め、大上段に振りかぶった野太刀を叩きつける。
キャンっ!
雪狼は身を捩って逃げようとするが、真っ白な胴に野太刀が深々と食い込んで悲鳴をあげた。追い打ちしたい所だが、横からも後ろからも敵は迫っている。右側面の一匹にカウンターを合わせる。避けられると思ったが腕を浅く噛まれた。友矩の返礼を受けた二匹目が弾き飛ばされる。
が、三匹目以降はさすがに対応出来ない。距離を取ろうと必死に足を動かすが背後を噛み付かれ、松明を落とされた。包囲を抜けようにも、人と狼では足の速さが違う。五対壱では自力で囲みを破るのは無理。
しかも。倒れた筈の二匹がむくりと起き上がる。
(「この大包平でも一撃では倒せぬとは恐れ入る。となれば二連撃か、捨て身のカウンターでござるな」)
友矩は負傷しつつも冷静に分析する。問題はそうすると一度に対応出来るのが一匹になるため、後の四匹に噛み殺される事だ。
死線を見た友矩の目に、仲間達が飛び込んでくるのが映った。
新手の三人に対し、雪狼達は臆せず迎撃した。
「行くぞ!」
お堂に居る間に油をしみこませた布で即席の炎の槍を仕立てていたルーラスが雪狼の列に突撃した。加速をつけたまま、ノルマン語で栄光と刻まれた聖槍を雪狼の脳天に思いきり振り下ろす。
オーラパワーとオーラエリベイションを併用した奥儀『白い戦撃』。当たれば雪狼と言えど即死は免れないだろう。
「!」
しかし、間一髪の所で雪狼は必殺の一撃を避ける。火傷防止に巻いた濡れた布で僅かに手が滑った。突撃で体勢の崩れたルーラスに雪狼が群がった。
「しまったっ」
両足を噛み付かれ、騎士の体が引き倒される。
「ルーラス!」
カイと導仁がルーラスの助けに入る。まず導仁が雪狼に負傷を負わせ、即座にカイが高速詠唱のコアギュレイトを放つ。一体の雪狼を呪縛した。
「くっ。ブロム、雪狼と戦え!」
カイは雪狼の注意を引きつけようとゴーレムを呼ぶ。友矩も仲間達に合流した。友矩はまだ何とか動けるが、ルーラスは動かない。
「息は‥‥まだある」
カイは口移しでヒーリングポーションを強引に飲ませる。その間、導仁と友矩は仲間達を護った。雪狼は向かってくるゴーレムを集中攻撃していた。
雪狼達は常に一人ずつ攻撃していた。死を恐れない魔物であり、また速度で四人を上回るから可能な事だ。
岩で出来たゴーレムに自分達の牙が有効でないと思い知った雪狼達は狙いを再度冒険者達に変える。
「‥‥しかし、此処で負ける訳にはいかない」
カイの薬で動けるくらいに回復したルーラスが槍を手に立ち上がった。
「どうだ! 回復するのは貴様らだけではないのだ! ちと金はかかるが、な」
「薬代をケチるほど貧乏はしていないぞ」
導仁とカイは軽口を叩きつつ、雪狼の攻撃に備える。
雪狼達はルーラスをまだ手負いと見たのか攻撃は彼に集中した。
「何度も同じ手は食わぬ」
それは読んでいた友矩はルーラスのカバーに入っていた。二匹は友矩が引きつけ、一匹はルーラスが抑えて、カイと導仁がまた一匹呪縛した。
こうなると後は消耗戦だ。雪狼が真っ当な獣なら、もう逃げ出して良い筈だが、彼らは死を恐れない冬の化身。もう一度攻撃してきた。
今度はルーラスと友矩、カイと導仁で二匹を倒す。残る一体はさすがに諦めたのか逃走した。負傷していた四人は遠ざかる雪狼を見送る。追いかけても彼らでは追い付けないし、馬や箒を取ってくる時間も無い。
「何とかなった、のか?」
「そうですね。一応は‥‥」
冒険者達は安堵の息を吐き出す。
「構太刀事件の時でござったな‥」
友矩がぽつりと呟いた───。
「‥‥あの時、拙者は三途の川が見えた様な気がするでござるよ」
そのエレメンタルビースト『構太刀』との事件からどれほどの時が経ったであろうか。首と両腕を落とされた傷はクローニングで消されているとはいえ、不意打ちで首と両腕を落とされた事は友矩にとっては痛い経験であった。
「『あの』友矩殿が首を跳ねられるとは───なんと恐ろしい相手か?」
「いや、不意打ちでござった───とはいえ、厄介な相手であった。たまたま、近くに高徳の僧呂が居ったから良かったでござるが、そうでなくては到底ここにいる事は適わなんだでござるよ」
今回も、武運があって命を拾った事を感じる。
人事を尽くしたつもりであっても、人の知恵など知れたものだ。いつかこの身を散らす時も来るだろう。
「寒いなぁ。心底冷えた。帰ったら、暖かい場所で温かい喰いモンを喰いたいもんだ」
導仁が言った。皆、力強く頷いた。
「雪狼は四匹倒しましたが、残念ながら一体には逃げられました。このお金で新しい冒険者を雇って下さい」
ルーラスは帰る前に村長に百両(100G)を手渡した。何故そこまでするのかと村人達は驚き、初めは受け取ろうとしなかったが、ルーラスが村の回復のためにも使って欲しいというと何度も感謝の言葉を言いながらその金を受け取った。それで失った若者達の命が戻る訳では無いが、復興の希望にはなるかもしれない。
「ほんとに、本当に有難うございます。この御恩は一生忘れません」
しつこいほど感謝を口にする兵衛に見送られて、四人は寒村を後にする。
(代筆:松原祥一)