残酷な夜の向こう

■ショートシナリオ


担当:成瀬丈二

対応レベル:11〜lv

難易度:易しい

成功報酬:5

参加人数:7人

サポート参加人数:1人

冒険期間:01月05日〜01月14日

リプレイ公開日:2008年01月23日

●オープニング

 伊達占拠の江戸に14才になったパラの少年陰陽師『茜屋慧(あかねや・さとる)』がいる。この少年は自らの式神として構太刀と呼ばれる、鎌ではなく太刀状の刃を持つ全長1メートルの大イタチの外見を持つ風の精霊を3体維持していた。
 この構太刀は神話の時代に、高尾山の集められ、風神『級長津彦』の計らいで、風の精霊力だまりで通常のカマイタチとは一線を画す戦闘力を与えられ、更にどういう縁故があったのかは不明だが、伝説の時代に茜屋家に預けられ、更に戦闘力を研鑽していった。しかし、貧乏さ故に裏世界に足を踏み入れてしまった茜屋家により、構太刀は暗殺者として用いられ、血に染まり暴走してしまい、辻斬り紛いの行動に出るほど、狂気に陥ってしまった。
 冒険者達の尽力によりこの血の汚れは取り払われ、全ての生ある者を傷つけないという新たな命令を与えられ、茜屋家でこれ以上人間の意図に振り回されない様に、逃げ場所を探していた。しかし、構太刀の殺人行為により、慧少年は江戸から出入りを奉行所の沙汰により、止められていた。
 しかし、源徳家が西に退いた事を受けて、高尾山で板東武者総掛かりの力でなければ太刀打ち出来ない『何か』の封印に励む、大天狗『大山伯耆坊』と、その封印に協力している、太田道灌が江戸を霊的に守護する四神相応西の守護者として置いた白虎『白乃彦』にしても、天狗の秘術により弱まっていた封印の維持には成功したが、かつての江戸冒険者ギルドから伊達勢がこの構太刀に着目されるのは時間の問題であった。
 
 茜屋家に残っている構太刀の資料は古代魔法語を暗号化して記述されており、もっとも解読が進展していた人物が異国に行ったらしく、調査は進展していなかった。
 その資料には構太刀達は『倭の守護者』としるされており、高尾山に封印された何かと戦う為に茜屋家に預けられた。最悪、覇権主義者の手によって、資料が解読された場合、私利私欲の為に用いられる可能性が少なくない───よって
 
 そこまで慧少年が冒険者ギルドの依頼状を書いた所で、玄関を叩く音がする。
「伊達家のご用改めだ。不審な怪物を買っていると訴えがあり、調べに参った。大人しく館の検めに応じよ!」

 構太刀を巡る第2の冒険の幕が開く。

●今回の参加者

 ea0282 ルーラス・エルミナス(31歳・♂・ナイト・人間・イギリス王国)
 ea0548 闇目 幻十郎(44歳・♂・忍者・人間・ジャパン)
 ea2046 結城 友矩(46歳・♂・侍・人間・ジャパン)
 ea2741 西中島 導仁(31歳・♂・ナイト・人間・ジャパン)
 ea3597 日向 大輝(24歳・♂・志士・人間・ジャパン)
 ea6764 山下 剣清(45歳・♂・浪人・人間・ジャパン)
 eb3701 上杉 藤政(26歳・♂・陰陽師・パラ・ジャパン)

●サポート参加者

ジルベルト・ヴィンダウ(ea7865

●リプレイ本文

 睦月の江戸に銅鑼声が響く。
「御用検めである、神妙にせい」
 そこへ偶然通りかかった山下剣清(ea6764)は見過ごす事もできまいと近づいていく。
「なにやら剣呑な様子だが、通りかかった知り合いだ。まだ当主が若い故、少々手助けしたいが構わないか?」
「勝手にするがよかろう」
「助かる。ならば、勝手にさせてもらおう」
 剣清が役人から事情を聞こうとすると、その玄関先の騒ぎを聞きつけて、ふたつの影が現れる。
「やあ、何事ですかな」
 パラ陰陽師上杉藤政(eb3701)は同業同種族のよしみで年始の挨拶がてら、茜屋邸に来ていた。
 藤政は背筋を伸ばして、背後にやや細身の慧少年を庇うようにしている。いきなりの役人訪問に、慧少年はおどおどして言葉もない。
「御勤め御苦労さまです」
 その慧少年に代わって、これまた所用で居合わせたルーラス・エルミナス(ea0282)が一歩進み出て言葉を切りだす。
「構太刀に関するお調べとか。しかし、当家には居りません。冒険者ギルドの資料を調べて頂ければお分かりになる事と思いますが、構太刀達は、何物かに連れ去られて行方知れずなのです」
「そのような連絡は届いておらぬぞ」
「されば手違い。構太刀達は過去、行動を制限されておりました。それが江戸城落城の折、どさくさに紛れた物取りによって、盗まれたのでございます。盗難届は改めて申し出させていただきます」
「京都の陰陽師がこの江戸にてその様な危険な魔物を使役致して居るは如何にも不審である。その方ら冒険者も同じ穴の狢にて庇いだてするのであろう。詳しい話は奉行所にて聞く!」
「これは異な事を申される」
 そこへ現れたのは、厚重ねの胴田貫の柄を握りつつ結城友矩(ea2046)。その剣呑な雰囲気に、役人はすこしたじろいだ。この家は冒険者の巣窟か。
 刀を腰に落とし差しにして、玄関よりのそりと現れた友矩は緊張する伊達の役人に淡々と話しかけた。
「先日、この屋敷から構太刀を連れ去ったのは伊達家のご家中だと今しがた家人から聞いたばかりでござるぞ」
 口調は平静そのものだが、眼光は鋭い。
「失礼、拙者は結城友矩。冒険者でござる。偶然通りかかったが、この家の家人とは以前に構太刀を捕らえる依頼を受けた縁がござってな」
 と、派手な顔立ちで押し出しも強く言い放つ───。
「嗚呼、申し訳ないが貴君らが確かに伊達家の家臣である証を見せていただきたい。茜屋は皇虎宝団なる忍者集団に狙われていてな。
 彼奴ら、人遁の術で化けるでござる。せめて貴君らが皇虎宝団でないという確実な証を見せていただきたい」
「これは同心の証の十手だ。よく見よ。それでも納得できぬとあらば奉行所までついて来るか」
「話が判った様で何よりでござる」
 友矩に御用改めに来た男達が十手を見せる。屋敷内を案内して構太刀が邸内に居ない事を改めて説明するのが得策かと考えていると、その十手を一瞥した西中島導仁(ea2741)が一喝する。
「騙されるな、友矩殿! その十手偽物でござる! 良くできてはいるが間違いない!」
 直観だった。その声におっとり刀で登場したのは日向大輝(ea3597)。
「年始参りに行こうと、近くを通りがかってみればニセ同心なんて穏やかじゃないな」
 やおら小太刀を抜き放ったから大変である。
「待て! 待てというに。これだから常識の通用せぬ輩は‥」
「正体を現すでござる『皇虎宝団』!」
 友矩の胴田貫が鞘走り、差し出された十手を一刀両断にする。
 ニセ同心と断じられた者どもが無言で懐から苦無を取り出すと、剣清も加わり、激しい戦いが始まった。
 鋼と忍法の入り乱れる、正月から血生臭い戦いであった。 
 表は剣士達に任せてその隙に藤政は慧少年を裏口から落ち延びさせ、大輝は以前自分が持ち出せない様に、頑丈に重しを乗せた茜屋文書を取り出しにかかる。
 町中の、しかも昼日向の話である。口論が聞こえたかと思えば、突然聞こえた剣戟の音に周辺の住民が騒ぎ始める。以前ファイヤーボムで巻き込まれた家もあった。
「誰か役人を呼んでくれ! このニセ同心どもは忍者が化けた者───拐かしの類!」
 戦いの合間を縫って、導仁が周囲に呼びかける。
 周囲に人の輪ができ始めたところで、押し切るのは無理と見てかニセ同心たちは逃げを打つ。
「どうやら、一段落ついたようですね───」
 ルーラスは、鎧についた返り血を濡れ布きんで洗い落としていると役人達がやってきて、騒ぎの収拾に一日がかかった。その後で、ルーラスはひとまず八王子の大久保長安様に預かって頂こうと皆に切り出した。
「拙者もそれを考えていた。善は急ぐにこした事はないでござる」
 この家はもはや安全とは言い難いと友矩は呟き、拙者が長安殿に顔を繋ぐと言って彼はすぐさま八王子に出かけた。
 愛馬を飛ばして八王子に着くと、急使と言って大久保長安殿に面会を求める。そして挨拶もそこそこに本題を切りだした。
「一大事でござる。構太刀が皇虎宝団らに目をつけられた。慧殿もその標的にされたでござる」
「むう、それはいかんな。して、わしにどうせよと言うのだ?」
「まずは敵に顔が知られていない者を江戸に送り込み、長安殿の手配にて茜屋家の文書を保管する蔵と人足をお頼みしたい」
「江戸は伊達の支配下だが、そのくらいであればすぐ手配いたそう。ここで奴らの陰謀を潰す事も、源徳家の安泰に繋がるやもしれぬ。かなり大回りではあるが」
「そこはそれ、拙者に免じて何とぞ」
 長安は頷き、その場で配下の者を呼んで手を打った。その日のうちに商人を装った大久保長安の手の者が八王子を出て江戸に入り、茜屋文書運び出しの準備に入る。
 その間、大輝達は面倒事が広がらないように町奉行所や役人達の動向を見守り、この一件で伊達家が絡んで事態がさらにややこしくならないように腐心した。
 忙中閑有り───。 
「大久保長安様には今までの経緯を伝え、皇虎宝団に取って重要な文献だとくれぐれもお伝え下さい」
 ルーラスはくれぐれもと頼んで、まとめた荷物を長安の手の者達に渡した。
「ご心配なく。長安様よりも万に一つの失敗も許されぬと伺っておりますればご安心下され」
 それでもまだ不安な藤政も口添えした。
「かくなる上は茜屋殿も江戸を脱出するより他ないが、江戸から出ぬよう奉行所に言われている故に、お尋ね者となる。茜屋殿の事も八王子に匿って貰えれば助かるのだが?」
 長千代殿にとっても、年齢の近い友人ができるのであれば、いい刺激になるのではなかろうかと言い添える。心中では、あの長千代殿ならば力になってくれるのではないかと考えている。
 藤政の想いに応えたのか───。
「呼んだ?」
 と、人足に化けていた家康の息子のひとり、源徳長千代が言葉を返す。
 まだ9才なのに15、6際に見える筋骨たくましい肉体と、褐色の肌に釣り上がった眼が印象的であった。 
「いやぁ、左門の奴が、兄貴の十兵衛が色々問答起こして源徳家と離れたって話を聞いて塞ぎ込んでしまって、ちょうど暇だったんだよ。まあ、変わった趣味の家だけど、話し相手ができるならいいや───くるかい?」
「は、はい」
 ようやく慧は言葉を発し、こうして慧少年も八王子に向かう事となる。無論、八王子に古代魔法語の達人がいる訳ではない、それでも江戸にいるよりは安心に思えた。
 剣清は───。
「まあ、江戸にとどまるだけが道ではないだろう。肝心の構太刀も見つかっていないし」
 と、言葉を添える。
「そうだな───八王子には‥‥まあ、色々あるし、また今度寄らせてもらうよ」
 大輝の言葉に冒険者達も頷いた。

 こうして八王子の情勢が更にややこしくなった所で場の幕が下りる。
 これが元旦を巡る冒険である。