月の呪縛

■ショートシナリオ


担当:成瀬丈二

対応レベル:11〜lv

難易度:やや難

成功報酬:12 G 26 C

参加人数:7人

サポート参加人数:3人

冒険期間:02月11日〜02月20日

リプレイ公開日:2008年02月19日

●オープニング

「まあ、それはそれ 言わなければバレないって」
 江戸の冒険者ギルドで豪放磊落に言い放つのは家康が庶子、源徳長千代である。
 今日は珍しく、お連れの柳生左門を連れていない。
 その辺りをギルドの受付が問い質すと───。
「ああ、左門か。その件で依頼に来た。家出したので探して欲しい」
 ぶっちゃけ過ぎである。
 長千代が話を続けると、ギルドの受付の顔が暗澹としてくる。
「あの剣豪、柳生十兵衛が平織家との交渉の手札から離れた事で、相当自分の事を責めていた様だからな。兄貴は兄貴、俺は俺。まあ、俺が兄貴の立場でも同じ選択するだろうしな。で、家出先だが、柳生の里、江戸、 八王子くらいしか土地勘のある所はないだろうしな。まあ、柳生だとこちらの勇み足だろうし、それでも出すものは出す。まあ、馬を引き出したり、金子を大量に持ち出した形跡がないから、江戸が本命、大穴で八王子という所かな。
 そうそう、茜屋の奴が陽精霊に伺いを立てたら、月に関係のある所らしい。左門の奴、お気に入りの振り袖も持ち出していたから、本気で帰る気もないんだろうな、冒険者達にはその辺の説得も頼む」
「自分で説得にいかれないのですか?」
「いやぁ、自分が行くと話がこじれそうで」
 御曹司の以来が始まる。

●今回の参加者

 ea0548 闇目 幻十郎(44歳・♂・忍者・人間・ジャパン)
 ea2046 結城 友矩(46歳・♂・侍・人間・ジャパン)
 ea4026 白井 鈴(32歳・♂・忍者・パラ・ジャパン)
 ea9916 結城 夕貴(27歳・♂・浪人・人間・ジャパン)
 eb3225 ジークリンデ・ケリン(23歳・♀・ウィザード・ハーフエルフ・フランク王国)
 eb5422 メイユ・ブリッド(35歳・♀・クレリック・ハーフエルフ・イギリス王国)
 eb5618 エレノア・バーレン(39歳・♀・ウィザード・ハーフエルフ・ロシア王国)

●サポート参加者

ガユス・アマンシール(ea2563)/ カーラ・オレアリス(eb4802)/ 天堂 朔耶(eb5534

●リプレイ本文

「───」
 淡く赤い光に包まれたジークリンデ・ケリン(eb3225)の詠唱が囁かれる。
 白井鈴(ea4026)が奉行所の源徳執政を待ち侘びる一派から入手した江戸の地図と、結城友矩(ea2046)から伝え聞いた、柳生左門の人となり、外見、氏素性を念じているケリンの眼前で魔法が成就し、地図が燃え上がる。
「左門殿の逐電先は、柳生の里、江戸、八王子の三択でござるか、これで可能性はひとつ確認できるでござるな」
 と、友矩。
「いや、柳生の里は無いか。着いた途端に送り返されるが落ちでござる、ならば江戸と八王子の実質二択でござるな」
 落ち着き払った声で友矩は続ける。
「茜谷殿の卜占は月に関係する所でござったな。ならば拙者が思いつく場所は江戸の月道しかござらん。京へ繋がる月道は江戸城地下で今は伊達の直接管理の筈。流石に此方はあるまいよ、ならば残るはキャメロットへ続く月道のみか」
 友矩はそこまで言って立ち上がり。
「拙者はキャメロットへ繋がる月道付近を捜すでござる」
 その背中にかかる声。 
「これは───江戸城でしょうか?」
 焼け残ったバーニングマップの示しを見た闇目幻十郎(ea0548)が皆の意見を代弁した。
「月道だとすれば、伊達の足下ですか。やれやれ‥‥困った御仁がいたものです」
「しまった───拙者とした事が。以前、出られたのだから、入る事も出来たでござるか!」
 友矩が地下代空洞に居た、狩衣を着た謎の老人エルフ『ウォルター・ドルカーン』の導きで出入りした事を思い返す。
 雛人形の如く愛くるしい結城夕貴(ea9916)も小首を傾げながら───。
「やはり、月と言えば、月道でしたか‥‥でも、そういう所は警備も厳重でしょうね、当たり前ですけど」
 エレノア・バーレン(eb5618)も江戸の冒険者ギルドで、それらしい少女を見たという話を一同にする。
「取り合えずは一度きりでしたけど。やはり兄君の事を気にかけていたようでした。長千代さん関係でない依頼は珍しいので、記憶にあったとか」
 今まで左門が個人的に依頼して、成立した依頼はない。
 ともあれ、メイユ・ブリッド(eb5422)も頷きながら、江戸城とはやや離れた所───友矩の記憶が確かならば華の乱の頃、源徳家縁の面々が脱出した経路に非常に近いのに思い至る───で、一度だけ目撃例がその地点であったというのだ。
 茜屋慧少年はその地図を丹念に書き写しながら、一同に尋ねる。
「これから、どうするおつもりで?」
 鈴と幻十郎は方策として、忍びの達者による、少数精鋭にての奪還作戦を掲示する、
 月道近辺では開道直前まで事実上閉鎖されており、突撃した所で、こちらの消耗が厳しくなるだけである。
「世の中不公平だけど、僕みたいな嗜好の人が上位にいる事は侍では希だからね、絡め手も使えそうにないけどね」
 夕貴が悔しそうに呟く。
 女装愛好者の団体など表だっては存在しない。影響力も存在しない。自分でゼロから立ち上げて欲しいものだ。
 日を計って、月道関連で伊達家の私兵が各月道に警護に向かった所で、幻十郎と鈴が遠距離から、地下道を粛々と歩いていく。隠密の達者となれば、夜目も利く。ふたりの行動に不安はなかった。
 しかし、罠はたんねんに裏の裏まで読んで造っておりこれを築城した太田道灌の執拗さが伺われた。罠がこれだけ機能するという事は、伊達勢も江戸城の扱いに慣れてきたようだ。
 ふたりの達人級忍者でなければ到底突破する事は適わなかっただろう。
「地図通りならこの辺りだけどね───」
 鈴がうろ覚えの勘で言の葉を発する。
「ほらほら、ボン。探しに来てくれた者がおったろう」
 と、年老いた声。
「家出ごっこもこれでお終いじゃ」
「失礼ですが、ウォルター老と───」
 幻十郎の言葉に鈴がつなげる。
「左門さんなのかな?」
「如何にも。この国に来てからはその名で呼ばれる事も少なかったが‥‥世の中も変わったものじゃわい」
「どうして、この場所が?」
「魔法だよね」
 左門の問いに鈴があっけらかんと答える。
「魔法か───それは人の世をいつも苦しめる、自分の言えた義理ではないがな。魔法と月道は乱世を呼ぶと言われたものじゃ。ボンから話を聞いたが、三河と尾張の同盟を壊すとは十兵衛とやら途方もない事をやったものじゃ。平織家は源徳家が平織の天下布武を恐れていると思い、水面下の反源徳活動を始めておるのう。
 おかげで、対三河用にまとまった兵を尾張に残して天下布武に遅れが生じておる。善し悪し───誰のかは───は差し置いてのう。
 そこで、平織家は公卿を通じてある事を進めておる。新田家が前々から申請し、源徳派の公卿がはねつけていた新田家の上州国司任官を認める動きもその一つ。春までに新田義貞は上州国司になるじゃろうて。
 源徳家にとって一番痛いのは、関東の混乱と江戸を奪われた事を理由に摂政解任の動きが起きている事かのう。これで下野、房総、相模の親源徳派に波立てば、三河殿の命運もこれまでやもしれぬ。
 麒麟児が治める城から、竜が治める地になった今、竜は中央に還ってくるのが定めじゃろうか?」
「???」
 何やら政治向きの話をまくしたてたウォルター老は好々爺の顔で一同に背中を向ける。
 帰り道は送ってやる、との言葉で一同は別の通路に通された。
 途中で幻十郎は───。
「自分でよければ家出の理由話してくれませんか?」
「理由は簡単です。兄が大罪を犯し、天下を揺るがせたのに、自分ひとりが安穏としている訳には参りません」
「はあ、自分もそうですが、感情と理性に折り合いをつけるのには苦労します」
「これは理性ではありません、不名誉を犯した縁者の取るべきけじめです」
「自分は忍者ですからね。感情を押さえつける手法を、修行で叩き込まれていますから」
「感情ならば若君の側にいたいです。ですが士道不覚悟の兄弟を持った者が退くのは理として当然です」
 一方、鈴は無邪気に───。
「戻るつもりのない人を引き止めるのって難しいよね。
 決心して出てきてるんだろうし。
 でも黙ってっていうのはよくないから『いってきます』くらい言ってからの方がいいんじゃない?
 それならみんなに心配かけないし‥‥ってちょっと違うか。
 許可を取るのは難しそうでも理由くらい言えばいいのにね」
 左門は無言であった。
 そして、一同が待っている宿に待っていたのは怒髪天を突く友矩。
「以前、江戸城から抜け出す際に拙者と約したでござったな。若君の側近くに最後まで仕えると」
 言って、淡い桃色の光に包まれながら闘気を高める。
「約定を違えるならば、拙者の屍を超えて行く覚悟見せて頂こうか」
 殺気は本物。それに押されるように左門の手に瞬時に形成されるオーラソード。
 胴田貫を抜き放つ友矩、フラッシュバックする記憶。
「やめろ!」
「手出し無用。話して分からねば、剣に問うまで」
 柳生左門は蒼白な顔で頷く───。
 壮絶な打ち合い。問題は、友矩にも相手を殺さない程度に無効化する術がない。続ければどちらか死ぬ。
「王手詰みでござるな」
 夕貴が膝をついた左門の前に立った───。その横で友矩も息が上がっているが、傷は無い。
「趣味人の間では知られた女装人、として一度会ってみたかった」
 と宣言。
「僕の一族は異性への変装が掟ですし、一度お会いしたかったんですよね」
「はあ、女装して居るんですか?」
「さすが音に知られた柳生の‥‥。中々のつわものですね」
「いえ、自分で女装人って」
 夕貴の意図は不明だが、若干場は和んだかも。
 続いてジークリンデが長千代が寂しがっていると左門に伝えた、左門は首を振るばかり。
「謀反人を兄に持つ私がおそばに居ては若君のためになりませぬ」
 左門なりに考えた末の決断なのだろう。メイユは彼の言葉に頷き───。
「思うところがあって家出されたのですから、否定はできません。けれど、ひとりでは大事を為す事もできないのでは無いでしょうか。貴方が汚名を雪ぎ、若様のために働きたいと願うなら、今まで培ってきた縁こそ、貴方にとって最大の力となるはず。家や外聞に囚われず、どんな困窮にあっても苦楽を共にできる方との縁を大切にすれば、自ずと貴方が本当になすべき道が見えてくるでしょう」
 メイユの言葉には優しさと威厳があった。さすが聖職者、説得のプロだ。
「兄の縁は、源徳のお家そのものを傾けた。それでも縁を信じろと言われるのですか?」
「そうです。如何なる試練を与えられようとも、仲間と共にある事を否定してはいけない」
「今、柳生家を重用する事は長千代様の為にならない!」
「だが、拙者の屍は越えていけなかったようでござるな───本気なら一刀両断にもできようものを」
 と、友矩。
 ともあれ捕まった以上は左門もじたばたしなかった。
 翌朝、左門は幾人かの連れを引きつれ、八王子に向けて旅立っていった。
 これが冒険の顛末である。