終わり無き守護者

■ショートシナリオ


担当:成瀬丈二

対応レベル:1〜4lv

難易度:難しい

成功報酬:2 G 40 C

参加人数:15人

サポート参加人数:2人

冒険期間:07月28日〜08月12日

リプレイ公開日:2004年08月02日

●オープニング

「本日の冒険者ギルドの業務は本時刻を以て終了しました。またのご来訪をお待ちしています」
 その依頼人の顔を見ると冒険者ギルドの受付嬢のお姉さんは無表情に扉を閉めようとした。
 以前、冒険者ギルドに、冒険者街へ溢れだした埴輪なるジャパンの怪物の回収を依頼し、その怪物を好事家に売りつけ回った男だ。
 ドアの隙間に脚をねじ込んで、商人は食い下がる。
「話を聞け!」

 数分後、居合わせたクレリックのリカバーを受けながら依頼人は自分の持ち込んだ、きらびやかに装飾された羊皮紙を懐から出す。
 内容は薬としてエジプトから輸入したミイラが動き出して、彼の別荘(パリから3日ほど行った所にある)の地下室を徘徊しているというのだ。
 このミイラはクレリックに言わせると『マミー』と呼ばれるアンデッドでジャイアントより遥かにタフで多大な怪我を受けても動きが鈍らない。更に触れた者に重病を感染させ、一週間で命を確実に奪うという。また火に弱く、燃えやすいという。
 このミイラを発見した時、その重病に効く薬も共に見つけており、厳重に保管しているというのだ。
 まあ、別荘の地下室(10メートル四方、入り口一ヶ所、石造り)が少々壊れてもかまわないが、マミーが粉微塵になったり火あぶりになるのも困る。
 という事で慎重に人を選んで欲しい、と依頼人は言う。
 その後、依頼人は押し出しよく切り出した。マミーは4体居るという。
 正中線沿いに3連続で突きを食らったような衝撃を受付嬢は感じた。
「どうしました。お顔の色が優れませんぞ」
「いえ、この暑さで」
「それはいけませんな。早く冒険者を斡旋していただかないと」
 受付嬢が書類を点検し終わったのはそれから3分後の事であった。
「報酬は弾みますから、ミイラの黒焼きや、粉などを献上しようとしない面子をお願いしますよ」

●今回の参加者

 ea1736 アルス・マグナ(40歳・♂・ウィザード・人間・ノルマン王国)
 ea1793 河崎 丈治(36歳・♂・志士・人間・ジャパン)
 ea1819 シン・ウィンドフェザー(40歳・♂・ファイター・人間・イギリス王国)
 ea1849 リューヌ・プランタン(36歳・♀・神聖騎士・人間・ノルマン王国)
 ea2165 ジョセフ・ギールケ(31歳・♂・ウィザード・人間・フランク王国)
 ea2868 五所川原 雷光(37歳・♂・僧兵・ジャイアント・ジャパン)
 ea3002 ジュラン・オーディア(44歳・♀・ファイター・人間・ノルマン王国)
 ea3026 サラサ・フローライト(27歳・♀・ウィザード・エルフ・イギリス王国)
 ea3548 カオル・ヴァールハイト(34歳・♀・ナイト・人間・フランク王国)
 ea4290 マナ・クレメンテ(31歳・♀・レンジャー・人間・イギリス王国)
 ea4442 レイ・コルレオーネ(46歳・♂・ウィザード・人間・イギリス王国)
 ea4526 マリー・アマリリス(27歳・♀・クレリック・エルフ・ノルマン王国)
 ea4944 ラックス・キール(39歳・♂・ナイト・人間・イギリス王国)
 ea5064 アルフォンス・スティバス(39歳・♂・ウィザード・エルフ・フランク王国)
 ea5302 芽凱 呉菜(41歳・♂・浪人・ジャイアント・ジャパン)

●サポート参加者

ギルツ・ペルグリン(ea1754)/ ウィル・ウィム(ea1924

●リプレイ本文

 こんなものを薬にするような奴とは友達になりたくないね〜。
 扱う奴もできれば避けたい。しかし、仕事だからねぇ、仕方がないやさぁ、とはラックス・キール(ea4944)の心の声。
 だが、嬉しいことに今回の彼は依頼人である。友情の一線を越える事はなさそうだ。
 ギルドから派遣された面々を前に依頼主の商人はマミーの損壊度合いはどの程度まで許されるもの? という問いに、臆面もなく応える。
「胴体は4分割。手足はそれぞれふたつに分けるくらい。頭は無事なのが、まあ、譲れない線だな」
 僧兵の五所川原 雷光(ea2868)はその、かつて人であったものに対する無造作なまでの物言いに──。
(この図々しさ‥‥じゃなかった、精神力。もしやある意味、天の後継者の資質を持った者でござろうか)
 禁欲的な瞳がきらりと光り。
(‥‥そんなわけないでござるな。もし、この様な人物が天の後継者になったら、拙者が打ち倒して、その座につくでござる、善哉、善哉)
 薬に関しては、ノルマを達成した時に限り、無料で使用可能。ただし、ノルマを1体でも果たせなかった場合、実費を支払ってもらう。具体的にはひとり頭100Gである。
 マナ・クレメンテ(ea4290)が食い下がったが、これは古代エジプト王家秘伝の薬という事でこれ以上の値引きならなかった。彼女のゲルマン語の拙さもその一因であろう。
「無論ピュリファイは却下だがね」
 商人は念を押すように言葉をつなげた。

 一部のものが推測した通り、マミーの徘徊する地下室への階段はかなり広かった。4メートルはあり、いかにも頑丈そうであけるとボスキャラが出てきそうな両開きの扉で行き止まりとなっている。
 アルス・マグナ(ea1736)が淡い茶色の光りに包まれている。
「はぁ〜、かったり〜。まぁ、死人だけは出さないようにやろうな〜。ミイラ取りがミイラになったら洒落にならんからな〜」
「さぁ、あんたたち! しっかり稼ぐよ!」
 と、対照的にジュラン・オーディア(ea3002)が皆に喝を入れるべく、いつもの決め台詞を吐く。だが──。
「動いているものはない」
 断言するアルス。
 緊張する一同にアンデッドに関して専門知識のあるマリー・アマリリス(ea4526)はアンデッドが目的もなければ、別に動きはしないかもしれないと発言。
 他にもモンスター知識のある面々はそれに賛同する。
「つまり、こちらから突かなければリアクションはないって事だね。雷光、結界の準備はどうだい?」
 ジュランが聞く間も身口意をひとつにした雷光が合掌し、黒い光りに包まれている見えないが結界を形成する。
 一方で、アルフォンス・スティバス(ea5064)は望むものに対して、クリスタルソードを作っている。
 合掌する手の間を広げると、松明の明かりに乱反射した水晶の剣が生まれていく。
 魔力の補助で振るい易く、軽量な武器。無論、魔法の武器である。
 ウィザードのレイ・コルレオーネ(ea4442)はナックルを外すと呪文の詠唱を始める。
「やっぱり、片手は開けておかないとウィザードは役に立たないね」
 赤い淡い光に包まれると普段のニコニコした青年から一変、歯が光りそうなヤングに早変わりする。まあ、ニコニコしているのには変わりはないのだが──。
 志士の河崎 丈治(ea1793)はバーニングソードを己の槍に付与し、戦いに備える。
 さすがに日本刀まで持つと重すぎるので商人に預けてあるがが、無論証文を取る事を忘れなかった。
 カオル・ヴァールハイト(ea3548)は己の剣に闘気を込め、戦いに備える。
 一方でサラサ・フローライト(ea3026)は鎮魂の思いを込めた歌を歌い出す。それに込められた月の精霊の呪力はこの場にいる誰にも効かなかった。アンデッドも通常の精神を持っていないので、おそらく扉を開いても何の効果もないだろう。マリーは彼女にそう言い聞かせた。
 他にも様々な動きがあり、前衛陣が一斉に扉を開け、一体でも二体でも視認できたマミーにグラビティーキャノンを投射するという事で話は決まった。
 体力に自信のある芽凱 呉菜(ea5302)や雷光が扉の閂を外し、内側に向かって蹴り開ける。
 アルスとアルフォンスが共に視線を中にやり、左右双方の壁際に分かれているマミー達を視認。即座に呪文の詠唱に入る。
 ジョセフ・ギールケ(ea2165)は扉が開くタイミングを見計らって入り口付近に竜巻を作り出したのだが、そうはうまくいかなかったようである。
「まぁ、なんて言うか‥‥。みんな頑張ってくれ」
 無責任な言葉を放つと、後方で何やら羊皮紙と筆記用具を取り出す。
「大人しく動かぬ死体へと変われ、わしが研究材料にしてやろう」
 一方、アルフォンスが術の成就後、掌を向けると黒い線が一体に当たり、その質量を伴った精霊力に力負けして転倒する。
 高速詠唱するアルスは途中で術の制御が出来なくなって呪文を放棄してしまった。
 そちらのマミーに向かってシン・ウィンドフェザー(ea1819)は飛び込む。
「‥‥なんか、最近アンデッド絡みの仕事ばっかだな、俺」
 2体のマミーを前に自嘲しつつも、盾での受けから反撃に切り返そうとすうるが、反撃の泣き所である。防御が疎かになるという一点の為、盾で緑青と包帯に包まれた剛腕の一撃をまともに食らってしまう。
 そして、全身を灼熱の感覚が襲う。
 だが、それにもめげず、倒れ伏す勢いも加えて水晶の剣の重みを全開しての一撃。
 付与された魔法、死亡必至の間合い、そして何より執念がうち勝ったのだ。
 胴体を両断され、没薬を溢れさせながら倒れ伏すマミー。
 だが、もう1体いるのを失念していた。
 鉈の様に強烈な反対側の拳が彼を捉える。
「ここはわたくしが呪文で抑えます。早く引いて下さい」
 神聖騎士のリューヌ・プランタン(ea1849)はマミーの動きを止めようと術を唱えようとするが、あまりにも相手と距離を取れない呪文ばかりなので、接近戦に巻き込まれざるを得ない。
「この剣お借りします‥‥どうか後ろへ」
 剣を持っていては意地でも戦いを続けかねない彼から、リューヌは剣を半ば強引にもぎ取り、正眼に構える。
 だが、彼女の剣の鍛錬ではあまりにも無謀だった。シンとは格が違うのだ。
 数秒後、彼女も倒れ伏していた。
 そこへジュランが飛び込んでくる。
「いい加減にしな隙だらけだよ!」
 確実に鞭で打ち据えれば包帯等が弾け飛ぶが、かすり傷程度しか入っていない。
 鞭の破壊力の限度か?
 だが、脚に巻き付いた鞭が一気にバランスを崩す。
 そこへ女性の絶叫と剣を振りかざした影が斬り込んでくる。
「チャンス! 逃さんぞ、やああぁー」
 だが、彼女を救う影──カオルである。
「ちっ、これからがいいところなんだよ」
「気にするな、これも騎士の務めだ」
 彼女の突撃からの剣撃は、通常の相手ならば十分に瀕死に追い込む破壊力を持っていた。闘気の破邪の力も相まって肩口から肋骨の付近まで切り下げている。
 マリーの声援。
「相手は深手を負ってます。動きに違いは無いかもしれませんが、ダメージ自体は残っています!」
「簡単に!」
 だが、続く一撃でマミーを破壊する。
 アルスが初弾を放ったマミーはグラビティーキャノンの乱射と、彼と共に戦ってくれる二刀流の相棒のコンビネーションでようやく1体が動かなくなった。
 これでカオルの戦いは俄然有利となり、リューヌとシンが下がっても負担はかからなかった。そんなふたりもリカバーで呪いは別として癒され、ホーリーライトの明かりの下、──主命が無ければアンデッドは寄ろうともしなくなる──安息を取っていた。
 その光景を丈治とレイは見ている暇が無かった。転倒した相手を集中攻撃し、レイの蹴りで叩きつぶす。
 残り1体も──。
「下がって!」
 と、矢を精密に射るマナ。既に数本の矢がマミーに突き立っている。包帯の隙間を狙い、相手の動きを封じるべく下半身を狙っての一打である。緑青漬けの包帯の隙間を狙う超精密射撃。これぞレンジャーの真骨頂という所か? だが、矢数が尽きて、これ以上の攻勢は望めないと言うところでセーラ神の結界から、攻撃しほうだいのアルフォンスとアルスであった。特にアルフォンスは最後の一打を自分の制御できる限界の地の精霊力までかき集め、淡い茶色の光に包まれると黒い線が彼の空中に描いた印より飛び出した。
 この一撃で転倒したマミーは皆の猛攻を受け、商人の注文の限界寸前まで破壊された。
「まあ、よしとしよう。ギリギリだが納期には間に合いそうだ」
 地下室に降りた一同に対し周囲を見渡すと商人は傲岸不遜に言い放つ。
「一体は脚を斬られただけで、状態もいい。これなら包装すれば判るまい」
「私の名はジョセフ・ギールケだ。いつか、また依頼があれば呼んでくれ」
 ジョセフはアピールするが、と、殆ど仕事らしい仕事をせず、後ろで絵を描いていた彼に一同から非難の視線が浴びせられる。
 ジュランが商人の前に一歩踏み出て大声で宣告する。
「あんたの商売でこっちはやたら苦労させられるんだ、あんまりやりすぎるんじゃないよ! 金で全てが解決すると思ったら大間違いだからね!」
「おやおや、強制したわけではありませんよ? あなた方が自由意志で仕事を選んだ。仕事の内容と、実状が食い違った訳でもありません。こちらは親切にも熱病の薬まで差し上げようと言っているんですよ。私は金を使ってあなた方を雇ったのですから、使われる側がこちらの方針に口出しとは冗談にしか聞こえませんよ。
さて、報酬です。どうぞお受け取りください」
 王家の秘薬による治療が施され、死の呪いは去った。
 そして一同は新たな冒険を求め、パリへと戻るのであった。