クエスチョンの冒険
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■ショートシナリオ
担当:成瀬丈二
対応レベル:1〜5lv
難易度:やや易
成功報酬:0 G 80 C
参加人数:3人
サポート参加人数:3人
冒険期間:10月28日〜11月02日
リプレイ公開日:2008年11月02日
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●オープニング
神無月も終わりにさしかかり、紅葉の声も聞こえてくる江戸。
独眼竜制圧下の冒険者ギルドにて、ひとつの依頼が張り出された、内容は──。
“最近の乱で、供養もされない遺体が動きだし、府中を徘徊している。およそ10体ほどの死人憑きを殲滅する事”
八王子に留まる源徳軍の勢力と、伊達軍の間で衝突があったのは暫く前の事である。
戦火の跡には時折、死人憑きが出没するらしい。やはり戦場には亡者も動かす怨念や負の想念が強いのか。
依頼側の伊達軍としてはたかが十ほどの死人憑き、さっさと退治すれば良いのだが、手が足りないのか、或いは八王子軍を警戒して、冒険者を使う方が良いと判断したのか。
ともあれ一々軍を動員して毛を吹いて傷を求めるよりは、冒険者に請け負わせる方が何かと手間がかからないのは事実で、冒険者にとってはよくある仕事である。
最後に目撃されたのは、山草を摘みに行った親子が見たという、小山だという。
江戸からは歩いて2日。馬で行けば1日程度。
その分の保存食は必要だろう。全員が馬などの足を調達できなければ、その冒険者に足並みを合わせる必要も出てくる。また、冒険者ギルドの報酬は経費もコミである。ポーションや矢が尽きたからと行って、その分の金を無心しても無駄だという事だ。
僅かな報酬と、得難い経験を天秤にかけ冒険が始まる。
●リプレイ本文
十月末──風が冷たくなる、季節であった。
蝦夷生まれのコロボックルであるエメルチュカ(ec5732)は、その生まれの為か、冷え込みには敏感である。
いや、初めての冒険で緊張の糸が張り詰めていたのかもしれない。
「いやー、闘技場と、本物の冒険では勝手が違うよね」
筋骨逞しいという一点をのぞけば、愛らしい少女めいた外見を持つ。劉北神(ec1207)がエメルチュカが焚いたたき火に手をかざす。
その後ろから───
「劉北神君、当てにしてるぞ〜」
と、“のっぺらぼうの面”に顔を隠した異形の渡世人の入江宗介(ec5098)が、北神のへっぴり腰でついてくる。
「いや、エメルチュカ君にも期待しているが、まあとりあえず年の功という事で」
(ハーフエルフの北神は、人間やパラなどと比べて倍の時間を過ごしている)
そうは言うものの宗介も、自分の得物を知り合い中を拝み倒して集めたものの、己の奥義を十全に活かした装備にならなかったことに一抹の不安を抱いていた。
何しろ北神にしろ、宗介にしても大小の差はあれ、様々な武闘大会で名を上げ、効を成し遂げてはいるが、ルール無用のモンスターとの戦いは初めての事。無論、絶対的多数との戦いも体験した事もない。
「それにしてもどこで戦うか───それすら決めてなかったねHAHAHA!」
エメルチュカは笑い飛ばすが、今回のターゲットの『死人憑き』に関して、前回は山草摘みの親子が発見したと聞くが、それからどう推移したかは一同は考えていなかった。
「あえば、蹴り倒すよ。僕の蹴りを見切れるものなし!」
北神がコケッシュな笑みを浮かべる。
「さすが、武闘大会だけでジャパンの実力者と呼ばれた方、フォローは我が輩にお任せあれ」
頷いて宗介がうんうんとうなずく───その最中、動きが止まる。
北から吹く風に、僅かではあるが確実に腐臭が混じっていたのだ。
「お客さんがいたようだ来た様だ。北神君。エメルチュカ君。やってやる。我輩は死人憑きなんかにやられはせん」
たき火を背にして、三人は陣形を整える。
腐臭が一同に明瞭になる頃には、エメルチュカの死人憑きの下半身を狙った一矢が嚆矢となった。
その一撃で死人憑きが動揺する瞬間を、宗介は狙っていたが、死人憑きにはそこまでの知性はない。
あるのは生けるものへの渇望のみ。
ともあれ、先駆けとして、北神が走り込み、先頭の死人憑きに唸る回し蹴りを連続で浴びせかける。
戦いに身を投じる事で、ハーフエルフの宿命“狂化”が、北神の髪を逆立たせ、青い目を血が煮詰まったような深紅へと染め替えていく。
その蹴りの足応えは、腐肉が力ない弾性の果てに飛び散り、確実に骨を軋ませる。
己の死力を振り絞っても───死人憑きは倒れない。
「倒れろっ!」
不可視の俊足の蹴りが死人憑きを捉える───この蹴りこそが十二形意拳が奥義のひとつ!
「鳥爪撃」
北神の『世界を獲る』と自負する一撃が炸裂した───しかし!
「まだ倒れない?」
動きは鈍っているが、もともとが人に倍するタフさを誇る死人憑き、並みのキックでは人を重傷にもつれこませる事は出来ない。通常の蹴りのに4倍に匹敵する威力の鳥爪撃では一般人を蹴り殺す事が適うだろうが、その倍のスタミナを持つ死人憑きには必殺とはいかない。
武闘家(北神は『元』であるが)の限界である、素手の破壊力はそう劇的に伸びはしないというジレンマ。
北神がその格好通りの武闘家であるのなら、オーラ魔法を磨く事で、少しずつ破壊力を増大できていっただろう。しかし、現在の彼は異郷の神である“聖なる母”をあがめる神聖騎士。破壊力を増大する魔法はないに等しい。
それでも何とか理性が勝利を収め、ヒット・アンド・アウェイの精神に従い、死人憑きの群れから離脱する。
そのフォローの様に宗介が───。
「我輩はどちらかというとビタッと密着した接近戦の方が得意なのだが‥‥」
陸奥流の奥義である、つばぜり合いでの無手と刀術を合わせた道は、極めれば絶大な威力がある。とはいえ、極めるのには長い道のりが要求される。そこで宗介は創意工夫の一環としてか、ショートソードを両手で持ち破壊力を増大させるという方向性で行っていた。
「北神君、後は我が輩に任せろ!」
宗介は一声上げると、魔法のショートソード“レッドレイン”が唸りをあげる。
その銘に相応しく、死人憑きに斬りつけると、赤い腐肉が飛び散らせていく。
更に矢が再び突き立つ。エメルチュカのものだ。
ようやく、一体の死人憑きが倒れた。
「HAHAHAHA! 後、9体だったような気がするぜ!!」
血風渦巻く夜が始まった。
そして、薪が爆ぜた。
長い戦いの夜が明けて、東から太陽が出ている。
「5本が駄目になったよ、矢だって安くないのに」
散々に放った矢を集めるエメルチュカであったが、完全に回収できたわけではない。
それでもエメルチュカはのこりのふたりを鼓舞し、様々な衣装をまとった、死人憑きであったも者の遺骸を一箇所に集め、薪を集め、更に油をかけて炎もて弔い、死人憑きが再び復活できないように祈った。
「僕は僧侶じゃないから成仏してとは言えないけど、死んでから醜い姿でなお動き続けるよりはマシだと思うから。せめて火の神(カムイフチ)が、清める事を」
祈念するエメルチュカ。ふたりもそれぞれ信仰は異なれど、死人を送った。
これが彼らの最初の冒険の顛末である。