我が身を灼く焔よ──死を忘れるな
|
■ショートシナリオ
担当:成瀬丈二
対応レベル:6〜10lv
難易度:難しい
成功報酬:5
参加人数:3人
サポート参加人数:1人
冒険期間:12月04日〜12月09日
リプレイ公開日:2008年12月12日
|
●オープニング
府中から江戸に入った所で、ひとりの男──だろうが、徘徊している姿が目にされる。見られるのは常に夜。
どうやら、尋常のものとは思えない。何しろ赤い狩衣姿の、その男は小太刀を腰に差し落としにこそしているとはいえ、体が半ば透き通っているのだ。普通ではない。
与力が捕まえようとしたが、敵意を明らかにすると、空中に何やら印を切り、淡い赤い光に包まれて、与力の構えた得物をへし折り、死ぬ寸前まで追い詰めたという。ひたすら繰り返す体当たり。その連打は一呼吸で4回は浴びせてくる。事情通に利けば、それはジャパンの志士や、異国のウィザードが使う、ファイヤーバードの魔法だという。
どうやら、各種戦局から合わせるに、伊達配下の精鋭部隊のひとりが戦場で死亡した後、恨みを晴らせず、戦場付近を流離っているらしい。
「こんなものがいると安心して、寝てもいられない。誰かがどうかしないとな?」
頷く村人一同の元に冒険からの帰りらしい、一団が出くわした。
「ひょっとして、冒険者ギルドの方ですか? ちょっとこまり事がありやしてね? ちょっとした頼み事でさぁ?」
冒険者ギルドを通さない依頼内容は、幽霊の消去。周囲に被害があったら、報酬はなし。代わりに戦利品は自由にしてくれとの事である。
死を忘れるな。
●リプレイ本文
屍臭が師走の夜明けを濁らせていた──天気はあいにくの小雨混じり──雪があまり降らないような土地柄とはいえ底冷えがする。
「幽霊の討伐‥‥久しぶりに魔物ハンターらしい仕事ね」
(まあ、ゴーストを魔物と呼ぶかは意見が分かれるかもしれないけど)
三十路の銀髪を風に遊ばせる、アイーダ・ノースフィールド(ea6264)であった。彼女の前方にポジショニングするのはふたりの忍者──叶陣護(ec5084)と、入江宗介(ec5098)──である。
冒険者として数多の修羅場を潜ってきたアイーダからすれば、あと半年もすれば四十になる宗介も若手扱いであった。
しかし、そんな彼らが危険を察知。
丘陵の襞深く見えるは白く透き通った狩衣姿の幽霊であった。
間違いない──こんなものがごろごろしていたら、江戸市中は立ちゆかないだろう。
それを眼にした陣護はアイーダとアイコンタクトし、自分の得物──小太刀、銘は『陸奥宝寿』──にオーラパワーを付与するように促す。
「なんと難儀な話でしょう、季節外れの幽霊退治務めさせていただきます──彷徨う魂には刃でお応えをば。オーラパワーよろしくお願いします。」
不要な荷物を置いたアイーダが、精神集中と共に桃色の淡い光に包まれて、陣護の小太刀にオーラパワーを付与していく。これだけでアンデッドに対する破壊力は倍付けとなる。
続けて、宗介も『エスキスエルウィンの牙』と『ヌァザの銀の腕』にオーラパワーを付与された。
「銀の腕はナックルだし、これじゃトーチは持てない‥‥か。
ともあれ、今回の幽霊退治。我が輩も冒険者の端くれとして『否』とは言えねぇな。
まったく、他の連中も男気はねえな。それでも一肌脱がせてもらうぜ。
オッと幽霊の戦利品は何かな? スクロールの一つも手に入れば収支は黒字だぜ、まあ我が輩が見た限り持っていそうにないしな──志士の方か? だとすれば赤字か、やれやれ」
「うるさい男は嫌われる」
アイーダは宗介に対してオーラパワーを付与し終えると、自らの矢、そして一対の手裏剣『八握剣』にオーラパワーを付与していく。彼女は初歩しか学んではいないのでスムーズには行かなかった。
オーラエリベイションを付与しておくべきであった、微かな後悔がアイーダの胸をよぎる。そんな感傷に浸っている間に、陣護と幽霊の視線があった。
「──!」
冷たく輝く霊体の指が虚空に印形を描き、口を開き禍言を放つと、全身を淡い赤い光に包ませていく。
火の精霊魔法である。
霜の冷え込むような大気に緊張が走る。
「先手必勝だぜ! 受けてみろ、我が輩の一撃! 往生せいっ」
草履が大地に程よくグリッピングし、その反動で丘陵の丘を越える。
どうやら、最初の呪文はフレイムエリベイションで自らの士気を高めるものだったらしい。
ともあれ、その瞬間にアイーダが短期決戦を狙って、三本の矢を打ち込む。息継ぎもせず、瞬く間にホーリボウが唸り、幽霊の霊体を激しく損壊させる。その一瞬だけで半ば以上の霊体、消し飛んだ。しかし、これ以上はストックしてあるオーラパワーを付与済みの矢はなく、ホーリーボウの破壊力に頼るしかない。
陣護も次の一手を幽霊に打たせるつもりはない、戦働きが出来る忍びを目指している彼としては、自己鍛錬の機会であった。
もちろん、幽霊の動きを押さえる事で、周囲の損害を押さえる──という明確な指標もある。出来高払いの依頼で遅れをとる事は許されない──まあ、趣味人として。
宗介はその間に先に動いた──何しろ、考えるより先に体が動くたちである──ギリギリ攻撃を浴びせられる間合い。
霊体に対して、全体重を乗せた一撃、更にオーラパワーを上乗せされた猛打が霊体を破壊していく。
続いた刹那に幽霊は魔力を振り絞り、淡い赤い光に包まれる事で、一羽の妖鳥と化した──そのまま陣護、宗介に体当たりを仕掛ける、炎が衣服の隙間から忍び込んで、噎せる。
しかし、陣護がすれ違いざまに斬って落とし、霊体は消滅した。
「見直した」
アイーダが声をかける。
宗介と陣護がそれぞれポーションをあおって、自らの傷を癒そうとする所であった。
「いやいや、我が輩もまだまだ未熟。アイーダ君の最初の一撃が無かったら、切って落とされた所である。なあ陣護?」
自分に振られても困るという案配だったが、陣護も頷く。
「多分、あれよりも格上の魔法だったら魔法の籠もった得物でも耐えきれなかったでしょう。深傷で掣肘し、結果として発動できる魔力を格下げする事で威力を削ぐ、アイーダ殿の選択は正解だったと思います」
「気分良く受け取って於くわ」
「嫌々ご謙遜」
宗介がアイーダのつれない態度に剽げてみせるが、アイーダは無反応、無感動。
「では、皆の衆、江戸に戻ろうぞ!」
宗介が拳を天に突き上げた。
その前に村人から報酬を受け取っておく。思わず口笛を吹きたくなりそうな金額。銀子の山。
「これだけでは平和への道は遠いですね──」
陣護の言葉に、アイーダは沈黙のまま頷いた。
これが冒険の顛末である。