●リプレイ本文
「‥‥初めての依頼が、こういう方向性のものになるとは思いませんでしたね‥‥」
初めてのお使いならぬ、初めてのギルド斡旋の冒険がカニ退治&カニパーティーとなったローウェイン・アシュレー(ea0458)は余人に伺いの知れぬため息をついた。
「なーに、初めてなんて誰にでもある事、ある事。問題はカニを如何にして食うか、それだけだろう」
荷車一杯に普段勤めている酒場から鍋物に使う食材をごっそりと持ってきたロヴァニオン・ティリス(ea1563)。
「わはははははっ! 準備は万端! ドンと来い!」
「カニ狩りですか? ただのカニ狩りにしては破格の報酬です」
エルフのデルテ・フェザーク(ea3412)はうまい話に釣られた口らしい。
別の馬車に揺られながらアレクシアス・フェザント(ea1565)は依頼人のカナルコードに訪ねる。
「ところでカナルコード氏、カニはどこまで原型を止めて置いた方がいいのだ」
「箸でつまめるサイズなら構わぬ」
「随分と太っ腹だな」
「腹に入れば皆同じという事。ソイソースもライスビネガーも準備済み」
「さあ、色々と興味深そうな事が起きそうで今から楽しみですね。」
ウォルター・ヘイワード(ea3260)が今だ少年の幼さを引きずった瞳を輝かせる。
そして、カナルコード氏の推奨するビッグクラブ取りの穴場に着いた。
「‥‥蟹‥‥…あの時の恨み‥‥俺は忘れていない」
少年レンジャー、ロックハート・トキワ(ea2389)は波頭に呟く。
フラッシュバックする記憶の断片が心を掻き毟る。
「海はいいねぇ──って折角の海だってのに野郎ばかりかよ、ツマンネー」
一方、海に向かって中指を立てるのはティルコット・ジーベンランセ(ea3173)、セクパラ大魔王であった。
「では、私がブレスセンサーで居場所を調べましょう。おおきなカニなら、呼吸も大きいでしょうしね」
ローウェインが魔法で調べるが、さすがにまだ魔法は初心者マークが付く身故、成果は上がらなかった。
「カニだ〜! カニだ〜!! たらふく食うぞ〜!!」
ガゼルフ・ファーゴット(ea3285)のレザーアーマーにたなびくマントと褌。褌には堂々と『我是流風』としたためられている。隣に立つ、ユウ・ジャミル(ea5534)の褌とマントも同じく風にたなびいていた。
「なんで男ばっかりの所に連れてくるのさ〜!! あ、カニは食べたいかも」
15才にして人生捨てているようである。
「んまぁ〜」
とツーショットを見て、日傘を持つ手の小指を立てて眉をひそめるのはエルフのクレリック。ヒスイ・レイヤード(ea1872)であった。日傘はティルコットの女性陣への下心籠もった心尽くしであるが、男女の壁などヒョイと飛び越えるヒスイには関係の無いことであった。
「これが海か!」
と、それ以上に言葉に尽くせない想いが溢れるファットマン・グレート(ea3587)。視界一面に広がる青い水面、肺一杯の潮風。彼の生まれ故郷であるモンゴルでは味わえないものであった。
ダイレクトな感動で胸がいっぱいになる。
「まるで青い大草原のようだ」
と、語る彼の脇をデルテが薄着になって走っていく。
「夏は海でリゾートですよね〜。あっ! 私は食べる人ですから皆さん、頑張ってカニを狩ってくださいね」
と微笑んで言ってみたりするが、なかなかそうはいかない。
波を割って巨大なカニ──ビッグクラブが現れた。
巨大な鋏が陽光に反射する、これが! これが! これが! 武装化現象!!(意味不明)
「いやーっ!」
「待てい、このガゼルフとユウがお相手いたす──風になびく男魂!!」
「木綿と共に戦う!!」
「海の褌男!! ただ今参上!!」
最後の声が見事にハモり、ポーズと共に大飛沫が飛び散る。
「そら逃げろ! カニは引きつける」
「へいへい、早くこいよ。すぐに食ってやるからよぉ!」
ティルコットも海に入り、挑発する。
「グルメツアーって、カニって‥‥…ラテリカ、騙されてるですよ〜(泣)。なんで報酬が出るのか判らなかったですけど、こゆコトですか‥‥でも、受けちゃった依頼ですから、しっかり頑張らないとですね! そう、ひょっとしたらホントに美味しいかもですし! ‥‥美味しいんですよね、カナルコードさん?」
ラテリカ・ラートベル(ea1641)が必至に訴えるが、カナルコード氏は親指を立てたのみ。
ガゼルフとユウが逃げるが、ユウは遅れ気味であった。このまま褌を裂かれては男の名折れ──まあ、いいかまだ15才だし別の層への人気取りになるだろう。
ともあれ戦闘が始まると見ると、ヒスイはカナルコード氏をホーリフィールドの結界で守護する。
一方、貴重な犠牲の下、ファットマンは戦術を練っていた。
(『カニ』‥‥一体どんな味がするのだろうな?
話には聞いていたが、歩きにきいな。これは足場をしっかりしないと踏ん張れない。なかなか厳しい環境だ。
あの堅い甲羅‥‥というのか、あれは厄介だな。フルプレートメイルを身につけている敵と戦うようなものだ。
その上、想像以上に素早い。あちらが有利な水際や岩の上からこちらが戦い易い場所に誘導するのが鍵だ)。
などとやっている内にアマーネ・アマーネ(ea4674)がオカリナを吹き出す(管弦楽ではないが)。交響曲1番『饗宴』であった。2番から4番は作曲中である。
蟷螂の雄の如く、雌に食べられたくなる心境を織り込んだ名曲であったが、この高尚さを理解できる知性をジャイアントクラブが持ち合わせていないのが難点であった。
付記するならば蟷螂の雄は交尾の際、大多数が雌から逃走している。雌の側からの一方的な欲求であり、雄はそれに応える義務をもっていないのだった。
閑話休題。
そこへ向かって放物線を描いて投げ込まれようとする魚の影。
10才から錬金術師をやろうという人生投げ捨て気味の少女、アンジェリカ・リリアーガ(ea2005)の一本釣り作戦だった。
鎖の先に魚を付けて、ジャイアントクラブが引っかかった所でライトニングアーマーを発動。鎖を伝わって電撃が流れ、相手を痺れさせるという作戦であったが、いかんせん鎖を放るだけの体力がない。そんな10才児がいたら嫌なものがある。という事で、ぽちゃんと音を立てて、鎖は水面を揺らす。
それを見て怒りに髪を逆立てると10才児は空中に印を描き、風の精霊との契約の元、緑色の淡い光に包まれ、雷を発生させる。
魔法を避ける術は無く、雷は直撃する。
「たくさん捕まえて、いっぱい食べるんだ!」
「そうや!カニ味噌の味を知らずして真にカニを語ったことにならんのや」
アマーネも欲望全開にする。
「あれだけでかけりゃ食いでがあるで」
ロックハートもズボンの裾をまくり海に入り込み、ナイフを投擲後、ダガーの鋭い切っ先を使って白兵戦に入る。
「‥‥蟹は‥‥抹殺!」
だが、見事な脚裁きでナイフもダガーも回避される。
「わっはっはっは、こういう戦いもあるんだぜ。おとなしく鍋の具になりやがれ!」
ロヴァニオンは海に入ると全身をピンクの闘気に包み、闘気の塊を叩きつける。
更に見事に突き立つ一本の矢、ブルー・フォーレス(ea3233)の執念の一矢であった。
空中に描く印と共に淡い光に包まれたデルテとローウェインも重力塊と雷を投射し、ビッグクラブを後ずらせた。しかし、8本の脚で踏ん張り転倒はしない。
「まだ、コレしか出来ないのですよね‥‥でもまぁ、射程距離が長いので良しとしますか」
ローウェインが照れつつ語る。
だが、迫ったファットマンが見事に背面から投げ技を決め、半ば砂に鎮める。
動けなくなった所へ、アレクシアスが裂帛の気合いと共に強打を決め、見事ビッグクラブを一刀両断にした。
「早く、早く、カニ味噌が海に溶けちゃう」
アマーネが一同を必至に急かし、馬車の馬まで動員して、ビッグクラブを砂浜に引き上げた。
カニはカナルコード氏のアイスコフィンで冷凍にされ、食事の時までその時をしばし止める。
「カニ、獲ったど〜〜〜〜〜!!」
ガゼルフは絶叫した。
かたや狩ったカニを見てデルテ曰く。
「ビッグクラブは食べではあるかも知れませんけど味の方は大味そうですね。」
──2時間後、一行は残り3匹のビッグクラブを捕まえ、夕陽の落ちる中、フリーズフィールドの氷点下10度の冷気と、掘り炬燵の暖気との中でカナルコード氏主催のカニパーティーが始まった。
ブルーが主催して、一同にカニの捌き方を教えていく。中でもロックハートはナイフの切れ味を活かすという点に於いて最も優れた生徒だったようだ。
ウォルターはブルーから一々に調理や下準備の手順をまめに羊皮紙に記録している。
「だって、知識と出会えるのは幸せじゃありませんか? それにここでの体験がもう一度酒場で再現できるなら素晴らしいでしょう」
と、良いながらも視線はコタツにそぞろ。所謂、掘り炬燵なのだが、初めての身としては何だか判らない(文字通り)異国の器物に見えて仕方なかった。
ラテリカはウォルターの視線に気づき微笑み返す。
「はわ、ラテリカ、こたつは初めてなのです。あったかヌクヌクですよ〜。ちょっと背中とか寒いですけど、食べてればホカホカになるですよね♪」
ローウェインはカニスキ原理主義とでも言うべく、カニを塩茹でにして、ジャパンの調味料、『ソイ』ベースのソース、『スジョウユ』で食べる事を主張。
一同はまあ、それが眼目だったしという事で、カニ2匹がカニスキとなる事が決定した。
ファットマンはその間にも武具の手入れを欠かさない。海が初めてなのと、武器が己の命綱と知っているからだ。
もちろん、ヒスイはブルーに付きっきりで、蟹鍋、焼き蟹、刺身、鍋といった諸々のメニューをこなしていく(正確にはもらう、だが)
そんなガゼルフがヒスイの横からつまみ食いの手を伸ばす。
「お、ねーちゃん、もうちょい修行した方がいいぜ」
一方、ユウは
「やっと終わったぜ!! さ〜て、れっつナンパ!!」
と燃える決意を露わにした。
ともあれ──。
「そう──そう! 遂に、俺の出番が来た!飲み食い(だけ)なら俺に任せろ!!」
おいおいと周囲からツッコミを喰らうロヴァニオン。
「酒も一通り揃えた。報酬が吹っ飛びそうだが‥‥いや、そんなのは鍋の前ではどうでもいい! 飲むぞ! 食うぞ!」
ロヴァニオンがカニスキを前に宣言する。
「飲み代はワシ持ちじゃ〜」
カナルコード氏もついに宣言する。
「よ、ノルマン王!」
「‥‥こういうのも悪くは無い、な」
とほっこりしつつ、鍋を突つく アレクシアス。
「だが、少し‥‥デルテの言った通りかもしれん」
「うむ、味が大味なのを強引にソースで隠す。これがノルマン料理とジャパン料理の融合じゃ!」
「ごめん、やっぱり俺蟹食えない」
ロックハートが喧噪から逃れるように海に出る。
「大丈夫そうね、頂きます。♪とーれとれ・ぴーちぴっち・カニちょーりー♪」
ラテリカも周囲の反応を確認してから、一口食べて、酢醤油に付け直す。
「美味しい☆」
マイスプーン&フォーク持参のアンジェリカもたくさん並べられた料理を前に迷いつつも頬張っていく。
「ああ、まるで冬みたい」
「‥‥蟹を食べるだけでココまでの演出をするとは‥‥別に良いですけど、冬物の衣服キチンと用意してきてありますから」
デルテは食事を楽しみつつも。
(こういう人が居るからウィザードの変な風評が広まるのよね)
「えっと、コレ箸ですよね? 知識はあっても使った事無いです」
にこやかにカニを食べるのであった。
一方でブルーはその場で手慣れた手付きで殻付の蟹を裁いて新鮮な身を露出させていく。
「さ、新鮮な所をどうぞ。獲れたての大自然の恵みを思う存分楽しむ事が出来る。だから猟師はやめられないんです。」
「☆! カニ味噌〜!」
アマーネが開かれた蟹の殻の裏側にみっしりとついたカニ味噌目がけて突撃していく。まるで今までものを食べた事が無いかの様な勢いで貪っていく。幸いなのは彼女がシフールだという事で、蟹半匹分食べ終わった所で、胃袋の急性拡張でダウン。だが、その顔は至福の表情であった。
「可愛いシフールだね〜、ちょっとお茶しない」
ユウがそんな彼女に声をかける。
「むにゃむにゃ、もう食べられない」
「寝言で返事をするな〜! ええい、次」
「ねぇ、君。おにーちゃんと遊ばない?」
アンジェリカ曰く。
「おにーちゃん、ロリコンって言葉知ってる?」
「今暇? だったらさ、俺と楽器演奏でもしない?」
「私はいまこのコタツと一体化しているの、阻むものは死! あるのみ」
殺気に押され、ユウは後退した。
「おね〜さ〜ん、一緒にお茶でもどう?」
「私、若いツバメを囲っていると思われたくないの」
総撃沈したユウが海に向かうとロックハートが激戦地を眺めていた。
「仇は取ったぞ、猫さん‥‥」
少年の言葉と共に流れ星が海に落ちていった。
最後はカニスキはヒスイが卵と米との雑炊で止め有終の美を飾っていた。
そして、パリでのカナルコード氏との別れの際、ブルーは満面の笑みで告げた。
「また、何かあれば声をかけてくださいね。こんな依頼なら必ず来ますから」