【黙示録】精獣総進撃【源徳大遠征】
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■ショートシナリオ&
コミックリプレイ
担当:成瀬丈二
対応レベル:11〜lv
難易度:難しい
成功報酬:15 G 20 C
参加人数:4人
サポート参加人数:3人
冒険期間:03月06日〜03月15日
リプレイ公開日:2009年03月19日
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●オープニング
「ウォルター・ドルカーン様、いえ太田道灌様」
江戸城地下の大空洞にひとり住むエルフの老人に、江戸城詰めの陰陽師が声をかける。彼らが、この大空洞から道灌を見つけたのは艱難辛苦の末であった、まさしくそれだけで冒険者ギルドの少なくない棚が埋まるほど。
「やれやれ、こんな世捨て人に声をかけるほど、江戸の陰陽師は人材がいないのか?」
「『銀の繭』が解放されました」
「‥‥妥当な落とし所だろう、三つの竜が揃うか」
江戸の支城で解析が進んでいた、謎の存在は古代の地竜を核にした合成生物のようだ。
プロポティアと呼ばれる、その合成生物は、全長20メートル、山羊の頭を頂き、獅子の四肢と胴体を持ち、ロック鳥の巨大な翼と腰から生えるは大蛇のそれ。強大な力に加え、白の神聖魔法を能く用いる。だが、その精神は未成熟という。
「今は月精霊ガーベラと共に冒険者街に潜んでおりまするが、三つの竜とは?」
「天にプロポティア、地に大山津見神、人に独眼竜。これだけ揃えば、何も起きない訳がない」
奇妙な抑揚をつけて語る道灌に、陰陽師は淡々と外界の情報を告げた。
「大山津見神は竜脈に乗って精気を蓄えているのか、姿を現しません。しかし江戸城の破壊予告は──」
「さもありなん」
高尾山に封じられていた地の大竜。放置すれば災いとなるが、果たして退治して良いものか、いや倒せる存在なのかすら陰陽師には見当がつかない。
「ではご助力いただきたい。上の城はどうなっても構いませんが、この地下の遺跡は」
「‥‥ふむ。源徳も、伊達も仮の主君という訳か。猫と同じだな、人ではなく城につく」
「無論道灌さまも例外では有りません、お知恵は拝借したい所ですが」
その時、地響きがした。
浮世離れした会話を中断し、陰陽師は頭上を見あげた。
「今、江戸城南西に黄竜──大山津見神が出現したとの事」
全長百メートルを越す巨竜が優美に身を躍らせ、何かを待っている。地上の仲間とテレパシーで連絡を取り合った陰陽師に、道灌は短く告げる。
「冒険者ギルドを使え。それと、翠蘭を解放しろ」
華の乱で行方不明になった鳳凰の翠蘭はストーンで石化されて、陰陽師達が秘匿している。
「そして西、高尾から白虎、白乃彦も呼べ。東、水の力は私が引き受けよう」
「ならば、大山津見神を撃退できる、と?」
「保険だ。江戸の民が逃げる為の時間稼ぎ。檄を飛ばせ。戦いの時が来た、戦いの時は今、と」
「江戸城は、地下に天守があるのか?」
陰陽師の報告を受けた伊達政宗は、皮肉気な笑みを浮かべた。小田原の苦戦、八王子の破壊工作、房総の里見蜂起と近頃は政宗を悩ませる事態が続いている。今度は巨竜に、伝説の城作りの名手の登場だ。
江戸城は太田道灌が基礎を作り、源徳家康が魔法合戦も想定して築城した巨城。十分な戦力があればたとえ10万の大軍相手でも難攻不落だが、はたして大怪獣に対抗できるかは未知数である。
「家康が来るまで城は残してやりたい所だが‥‥。
太田道灌が本物かはさておいて、冒険者ギルドに触れを出せ──」
慌てて家臣が異議を唱えた。
「殿、小田原や房総の戦を見るに、ギルドの冒険者は半数以上が源徳方でござる。この機に城盗りを狙うは必定にて、招き入れるは余りにも危うし」
「だからどうした。これほどの大事に、最大勢力を考慮しなくて何とする。俺の度量が疑われようぞ」
判り切った事を聞くな、といった風情の政宗に、仙台から付き従う譜代の臣も、旧源徳家臣も言葉を失う。
乱世の梟雄とはいえ、自由すぎる。
「しかし、逆に呼んでも来ぬのではありますまいか?」
伊達の罠を警戒し、もしくは城が大山津見に壊される方が都合が良いと考えても不思議は無い。もっともこの場合、江戸の街もただでは済まないが。
「来ぬなら、それまで。必要なのは、第一の戦功を立てて俺に江戸城返却を迫るほどの勇者よ」
江戸を巡る冒険が始まる。
●リプレイ本文
結城友矩(ea2046)は冒険者街で、探し人の姿を見いだした。正確にはエレメンタルビーストとクリーチャーであるが。
目には目を、竜には竜を。黄竜の実態はエレメンタルビーストだが、見かけは竜そのもの。対してプロポティアの見かけは異形だが地竜の権能を受け継いでいる───という話である。友矩は願った。プロポティアとガーペラが一宿一飯の義理感じている事を。
「此度はガーペラ殿に御願いの義がありまかり越した。先日、故あって封じられし地の大精霊、黄竜の封がデビルに加担する者共により解かれたでござる」
その形相は必死そのもの。
「黄竜は、過去の人による地脈の乱用を嘆き、人を恨んでいるでござる。黄竜は現在、江戸城と、周辺の街々を灰燼に帰すべく接近中でござる」
「えらい唐突な話やな」
「拙者も武人の端くれ、黄竜と戦うのに異論はござらぬが。されど相手は太古より神列に加わりし大精霊でござる」
「はあ、精霊が神──」
ジャパンの常識とガーベラの常識は違うようだ。
「そう、神でござる。実力不足は痛いほど自覚しているでござる」
「なんとなく、嫌な予感がするんやけど──」
「‥‥。此処は是非ともガーペラ殿とプロポティア殿の御力をお借りしたい」
「結局、そういう話になるんか」
「プロポティア殿が立ちふさがれば、黄竜も無視はできぬはず。そう──プロポティア殿に黄竜を追っ払って頂きたいのでござる。この願いお聞き届け頂ければ、拙者、おふたりに、拙者に可能な限りの便宜をはかるでござる。何とぞ御願いいたす」
「うーん、精霊と人の争いだったら、動かへんけど、デビルが絡むのやったら話はちごうてくるわ。行こう──プロポティア」
熟女シフールの、ヴァンアーブル・ムージョ(eb4646)が、ガーベラの言葉を聞いて、シフールの羽を振るわせる。
「友矩さん、長い話だったのね──プロポティアちゃんに乗せてもらうわ、まずは黄竜ちゃんと話し合いなのねん。本当は伊達さんにも色々言いたかったけど、仕方なかったのねん───」
ヴァンアーブルは、白旗を揚げてガーベラを伴って、プロポティアに友矩ともども乗る。
「行くで、プロポティア」
江戸城を見下ろす。黄竜の巨体。金色ではなくあくまで黄色の鱗を日輪に輝かせている。
彼女は 一曲、優しい音色を奏でて、敵意のないことを示す。
しかし、プロポティアの姿を見て、茶色の淡い光に包まれた黄竜は一瞬の結印と、うなり声を上げると、指先から黒い一条の輝きを解き放った。
グラビティキャノンの唸りに、ガーベラが手早く、指示を出す。
「レジストマジックや──皆、きばりや!」
プロポティアは白い淡い光に包まれ、耐魔の魔力を展開する。
レジストマジックでグラビティキャノンの直接的な破壊力を逸らす事は出来るが、衝撃までは緩和できない。空中で懸命に耐える冒険者とプロポティア。
「聞いてほしいねん、大山津見神!
もう、第六天魔王が復活したし。デビルが地獄から侵攻をしているから戦うのは無駄ねん」
「それが何だ」
「な、何だって事はないのだわ!」
テレパシーで世界の危機を訴えるヴァンアーブルに黄竜は何の反応も示さない。
「デビルとは幾度も戦い、手を取り合った頃もあった。騒ぐほどの事ではない。で?」
「へ──で、って? 貴方がその力を振るえばこの街も人たちも死ぬ」
「ああ。滅ぼしに来たのだが、何か?」
「滅ぼすっ? この時代を、何も判ってないのに。もう一度私達を人を見て、その上で判断して欲しいと‥‥猶予を──」
「問答無用。守りたくば止めてみろ」
次の瞬間、桃色の淡い光が物見櫓の一つで収束する。
交渉決裂と見た、女傑アイーダ・ノースフィールド(ea6264)が、ヘビーボウに精霊殺しの矢を番えた所である。
「──」
無言で三本の矢を撃ち放つ。
しかし、一瞬のうちに黄竜は魔力を展開。全身を石の様な鎧に覆う。
元より高位精霊が持つ魔力障壁に加えての、強固な防御を貫けない。かすり傷さえ負わせる事が出来なければ、如何に対精霊用の武具ですら真価を発揮できない。
心の中で短く舌打ちし、次の矢を備えるアイーダ。
ヴァンアーブルは叫ぶ。
「戦いをやめるのだわ! これではデビルの思うつぼなのだわ」
「もう遅いでござる。プロポティア殿、存分に戦われよ」
友矩は風に髪を遊ばせながら古代からの来訪者達に宣言。
本丸で、トマス・ウェスト(ea8714)が、伊達政宗と向き合う。
相も変わらぬクラウンマスク、『西行』と名乗っている。それと顔一つ変えず話す政宗は、どこまで真実をつかんでいるか、顕しはしない。
「なんか君に踊らされている気もしないでもないがね〜」
「他人を踊らせるなら、もう少しましな拍子を取るがな」
「ふん、我輩が大山津見神とやらと戦って帰ってきたら、江戸城を明け渡してもらうかね〜」
「断る」
政宗は言葉で一刀両断。戦って帰るだけなら、無条件に近い。
「おや。てっきり君は江戸城を返したがっているかと思ったのだがね〜、違うのかね?」
「悩みどころだ。俺がこの城に居た方が面白そうではある」
口元を歪める政宗に、西行は躊躇いがちに聞いた。
「では、どんな条件かな?」
「そうよ。では、江戸城が、無事──ならば、だ。西行」
江戸城返還条件。重い筈の言葉を政宗は簡単に口にする。
「けひゃひゃひゃ。この程度の駆け引きには動じないという訳かね? つまらん」
不敵な笑みを浮かべる政宗。
「‥‥ええい、書いてやる〜」
契約書をしたため、『Thomas West』と署名、血判を互いに押す。
「契約を交わしたからには守ってもらうのであーる」
「震えているな──恐いのか?」
「ええ、怖いですよ‥‥しかし我輩は『ドクター』〜。前へと進むのだ〜」
本丸から下を見下ろし、白い淡い光を収束させる西行。
プロポティアがレジストマジックを解除し、一瞬の結印と咆哮の後、グラビティーキャノンを解放。
黄竜に直撃。だが、かき消す様に消えるグラビティーキャノン。
「え?」
驚愕する一同。
「あれれ」
ガーベラも驚きの色を隠せない。
「地の精霊力の干渉力は奴の方が上なのねん?」
ヴァンアーブルの言葉に首肯する友矩。
「さすがは神を名乗るだけの事はある。読み誤ったでござるか?」
そこへドクターの神聖魔法が成就。しかし、耐える大山津見神。
「まだまだ、やるのであーる、次ぃ〜」
ガーベラの指示も飛ぶ!
「息を吐く、や。プロポティア頼むわ〜」
解放される、プロポティアのブレス。直径30メートルの真っ黒な重力塊を受ける黄竜。その破壊の余波が江戸城を巻き込み、ドクターが悲鳴をあげる。
「まだ‥無事と云えなくもないね〜」
地上の黄竜はプロポティアを睨み、大きく跳躍した。巨竜の前爪が地から天へと伸びる。爪先が触れた江戸城の天守閣を引き裂きながら、黄竜の巨体はなおも上昇した。
「‥と、殿、早くお逃げ下され」
「無駄だ」
巨大な爪先が、目先を掠めるが政宗は動かない。
「‥‥ここまでか?」
西行に視線を投げる政宗。
「まだだ〜! まだ我が輩は負けた訳では無い! どんなに大きかろうが”一”は”一”なのだね〜!!」
再び黄竜に挑もうとドクターが外を見る。
天守閣に肉薄した黄竜は跳躍しつつ、城の周囲を飛ぶプロポティアと空中戦を繰り広げている。大怪獣とは思えぬ身の軽さ。レビテーション、いやもっと高度な重力制御か?
「如何な江戸城とて、もたぬな‥‥むっ」
天守の政宗とほぼ同じく、上空のヴァンアーブルらも異変に気づいた。
江戸城の四方に光の柱が点る。
西に緑色の柱、北に茶色の柱、東に青色の光、南に赤い光。
「むう、未だ我を苦しめるのか、人の子に与えし魔法が」
黄竜の動きが目に見えて鈍くなったのを見て、アイーダは微笑を浮かべる。
「自称神様が、人間舐めるんじゃないわ──翠蘭、やったわね」
そして上空の老バードは絶句していた。
「これは何なのだわ? 精霊力の結界?」
江戸城を覆う規模の結界魔法‥‥黄竜を弱らせるほどの‥‥?
「くっ」
天高く伸び上がり、魔力のくびきから逃れる黄竜。追えぬ速度では無かったが、冒険者らは追撃を諦めた。
残された江戸城は惨憺たる有様であった。
「この戦い、高くついたわね」
とのアイーダの言葉に、ヴァンアーブルは悲しげな色を交えて。
「黄竜さんも判ってくれる日がきっと来るのだわ」
「隣人とも判り会えないのでござるよ」
(伊達の依頼を受けるは業腹なれど、江戸の街が灰燼に帰すのを指を咥えて見守る訳にはまいらぬ。黄竜とは間接的に縁もある──そう、あるのだ。あったではなく)
「けひゃひゃひゃ、これでは江戸城は返してもらえそうにないでござるな」
友矩の憂い気な声に、西行が皮肉な声を浴びせる。
「ちょっと翠蘭に遭いに行くわ」
アイーダが先程の赤い光の下に急ぐ。
江戸城の陰陽師たちに囲まれ、所在なげにしている鳳凰。
「翠蘭、ひさしぶりね。覚えている?」
「ええ」
「積もる話もあるけどね。今はそんな時でも無いから‥‥あなたが姿を消した後、伊織は心を病み、いつの間にか、大鴉とかマモンとかいう悪魔とすり替わっていた事を知らせておく。あなたがどうするにしろ大事な情報だと思うから伝えておくわ。最悪に近い状況を考えておくのなら、憑依で心を完全に乗っ取られたのかもしれないけど。
「そうですか──」
もしかしたら、翠蘭には何か心当たりがあるかもしれない、と思っていたがそう上手くはいかなかったようだ。
(きっとあなたを解放してあげる──そして、伊織と一緒に)
アイーダは誓うのであった。
これが冒険の顛末である。