冒険するって本当ですか?
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■ショートシナリオ
担当:成瀬丈二
対応レベル:1〜5lv
難易度:やや難
成功報酬:2 G 38 C
参加人数:6人
サポート参加人数:1人
冒険期間:03月16日〜03月25日
リプレイ公開日:2009年03月25日
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●オープニング
十代半ばの浪人少女『颯(はやて)』は江戸の冒険者ギルドの前で感涙に打ち震えていた。
(苦節数年、冒険者としての一歩を踏み出せる)
その感動が行動に直結する。
「頼もう!」
まだ底冷えのする夜明けの大気を、澄んだ声音が鳴り響く。冒険者としての推挙状を持ったまま、早朝の冒険者ギルドの扉を開け放つ。もちろん、周囲の視線は釘つけ。
しかし、彼女は物怖じせずに、靴音も高々に受付に当たって、様々な儀礼をすませる。西洋の冒険者ギルドは、商業ギルドが雇った護衛などが、襲撃時には実は賊の仲間でした、という事例が相次ぎ、そういったケースを防ぐ為に身元の確かな者を雇うというシステムが元であり、ジャパンの冒険者ギルドも、多少そういった面を持つ。
「では、颯さんを江戸の冒険者ギルドに迎え入れます」
「はいっ頑張ります! ところで何か依頼はありますか?」
「隊商を護衛する依頼があるわね、今までは現金で手打ちしていたけど、今回は冒険者を雇って撃退する意向ね、隊商を護衛した後は自力で帰ってくる事になるけれど───往復で9日。もちろん歩行(かち)よ。隊商のペースに合わせていくから、行きが5日、帰りが自分のペースで行けるから多少短縮されて4日といった所よ。防寒着があった方がいいわね。食糧は今回は依頼者の方が出してくれるから、特に必要はないわね」
何でも山賊の出る峠は特定されている。どうやら江戸侍崩れのようだ。
数は二十人程度。それでも後衛の十数名の弓矢を装備、前衛の槍など充分に武装されており、今まで4,5人程度護衛をつけていたが、戦うだけ損という事で、戦端は開かれなかった。少なくとも弓矢の後衛が攻撃に動いた事はない。
「弓矢か、覚えた技が行かせますよ」
どんな流派に学んだのだと、受付が問えば。
「我流で──真剣白刃取りと、ミサイルパーリング」
「渋すぎですね」
受付は論評する意志をなくした。心が折れたのである。
かくして冒険が始まる。
●リプレイ本文
江戸──三月、心地よい風が吹く。その薫風の中、白髪のウィザード、ディファレンス・リング(ea1401)はひとり悩んでいた。
報酬や経験を積む、といった明確な理由はない。ただ、なまった体に喝を入れたかった。それだけの理由で江戸の冒険者ギルドで依頼を受けたディファレンスである。しかし、江戸を出るまでに、一緒に依頼を受けていた仲間達が次々と──まさしく櫛の歯が欠けるかのように、急な用事が出来て、依頼から抜け落ちていき、最後に残ったのは彼ひとりだけであった。
そもそも、ひとりひとりはさしたる理由ではない。しかし、五つの事件が積み重なって、6人が5人に、5人が4人にと‥‥と、連鎖があり、結果だけが残った。
愛馬の蒙古馬の『翼徳』に身を任せようとしたが、いかんせんディファレンスは護衛の身。ひとり馬上という訳にもいかず。いかんせん、馬術も嗜んでいない身では先行しても効果は望めない。
ディファレンスは両手に杖と、蝦夷渡りの品である短刀を持っていた。このままでは契約を結んだ風の精霊力を行使する為に必要不可欠な印を結ぶ事は出来ない。戦いでは短刀をしまうか、地面に落とさねばならない。
逆手に得物を持っても手数は増えない。利き手と逆手、それぞれに持ったふたつの得物を同時に使いこなすには、両手利きという才能と、武芸の門を叩いてダブルアタックを修めるしかない。ウィザードの彼に似つかわぬ武装は、一人で雇い主を守る気負いか。
ともあれ、パラの非力さでは荷が勝ちすぎる。比喩でなく、ディファレンスは呪文を唱える事すら出来ないほどの重量を背負っていた。
職業を抜きにしても、パラの体力には伸びしろがない。体格の限界である。魔法の詠唱を考えると、荷物はコンパクトに収める必要があるだろう。これは今後の課題かもしれない。
とまあ、様々に想いを馳せるのも暇だからか。
貧乏クジを引いてしまったと悔やみ通しても不思議はないが、ディファレンスは春の陽気にうかうかと道中を行く。
カポカポと翼徳に跨り、あまり整備されていない道を歩みながら、ディファレンスは青空を背負う降り注ぐ穏やかな陽光と、春めいた周囲の景色に、思わず笑みを漏らした。普段はクールなディファレンスであるが、時折はそういった一面もある。見た目でそう思われるあたり、案外に不器用な男なのかもしれない。
(「こうしていると江戸が大騒ぎなのがウソのようです」)
自然も冬の厚着を脱ぎ捨て、百合などが夏に向けて芽吹き始めていた。
「何かいい事でもあった?」
歩行(かち)で着いてきている少女『颯(はやて)』がディファレンスに声をかける。
「見れば判るかと? それよりはそろそろ──でしょう」
さらりとディファレンスは受け流す。
「確か控えているのは、冒険者ギルドの情報を信じるならば、江戸浪人よね?」
小田原城の激闘、百メートル単位に及ぶ、強大な魔力が吹き荒れ、ジャパンでは未曾有の合戦となったらしい。
同格の僧侶、クレリック達も人を生き返らせるという神聖魔法を行うが、百人単位で吹き飛ぶ精霊魔法に比して、最大の魔力で対象をひとり生き残らせるのが限度。
そういった戦いのエスカレートについて行けず、源徳側からドロップアウトした者もいる、という事だろう。
未だに語られざる話もあるだろうが、今はそれを語る時ではない。
なぜなら、ディファレンスの視界に、野武士じみた陰が映ったからだ。
(様子を見ましょう──)」
颯が後方の、弓兵と思しき影を警戒してか、ディファレンスに囁く。もっとも馬上の彼に届くからには相応の声ではあったが。
前に五人押し出し、十人以上が遠目に弓を構えているように見える。
ふたりは牛の歩みの如く、じっくりと野武士達に警戒されない様に前に出る。ディファレンスの魔法は竜巻に巻き込む事を前提にしても、間合いは15メートル前後。守りに入った颯は真剣白刃取りに、ミサイルパーリング。相手の前衛と弓兵の連携を乱す事が得意の‥‥と自己主張しているところの、『我流』であった。
そして、野武士達と商人の話し合いが持たれる。薄氷を踏むような緊張感が周囲を覆う中、ふたりは射程内に忍び寄る。
「ならば、話は決裂だ! こちらの魔法使いはナリは小さくても、れっきとしたノルマンで学んだウィザードだ。お縄につくなら今の内だぞ」
別に冒険者に逮捕権がある訳ではない、非常処置として、現場を押さえた冒険者が犯罪人の処理を行う事も珍しくないだけだ。
「それはこちらの台詞だぜ? ちびに女じゃねえか‥‥今なら半分荷物を置いていけば通してやるぜ」
野武士の頭領が大笑いする。
颯も十手を構えた。これで矢を受け止めようというのだろう。
埃も巻き上げ射手の視界を遮ろうと、ディファレンスが短刀と余計な荷物を落とし、長い呪文の詠唱と共に印を結ぶ。緑色の淡い光が収束し、突き出して杖の先端の延長線上に竜巻が発生する。
3メートル巻き上げられそのまま大地に叩きつけられる。
長い詠唱にも関わらず、射手の反応はなかった。ディファレンスはそれが不思議だった。狙われたなら、そこで終わる話である。十人以上の射手の前で、無防備に高速詠唱もせずに魔法を発動させようとしているのだ、それなのに、射手から何もリアクションはない───とらない? 違う、とれないのだ。
弓兵は案山子であった。弓矢は構えているだけだ。
となると実質は5人。近くに寄って切りこもうとすればトルネード。距離を取って遁走に移ろうとすれば熊犬の真牙壬が食いつく。
絶賛する隊商の面子にディファレンスは冷静なまま──
「ちょっと体がなまっていたので、鍛え直しただけです」
──と返した。
こうして江戸の悪事をひとつたたきつぶしたディファレンスは予定通りの報酬を受け取ると、春の青空を見上げるのであった。
これが冒険の顛末である。