僕より幸せな奴はやな奴だ『W作戦発動』
|
■ショートシナリオ
担当:成瀬丈二
対応レベル:フリーlv
難易度:普通
成功報酬:1 G 56 C
参加人数:4人
サポート参加人数:1人
冒険期間:03月15日〜03月30日
リプレイ公開日:2009年03月25日
|
●オープニング
「大分暖かくなりましたね」
江戸の冒険者ギルドで受付嬢が、天界人の少年、杣柳人(そま・りゅうと)に向かい、時候の挨拶を述べる。
「湯治から戻ってきても、江戸が大変そうな事には変わりなさそうですね」
湯治という健康的なイメージとは裏腹に、柳人少年の顔色は冴えない。
眼鏡にそばかす、栗色の髪をうなじの辺りで切り揃えており、長剣を背中に帯びているが、剣に振り回されているという印象の方が強い。12歳になる(もし日本にいれば小学校を卒業している頃合いだ)柳人少年の身長は130センチを越えてはいないだろう。それこそ8歳児並みの身の丈であった。
「で、今回の依頼は?」
「天界には3月14日に、ホワイトデーという、女性が愛を告白するヴァレンタインデーと対になる、男性が告白してきた女性に倍返しにする風習がありまして──」
「まさしく、天界ならでは、ですね」
多分、この受付嬢判ってはいないだろう。
「で、ホワイトデーの普及という、名目で冒険者を集めたいのですが。この前、ジーザス会を中心に動かしてもらったら、結構いい感触だったので」
「じゃあ、クレリックとかを中心に?」
「つなぎがあって、行動力があれば──後は、発想ですか」
「何か色々と注文が多いですね、それだけの人材を集めると」
はい。応える柳人少年。
「ひょっとしたら14日に間に合わないかもしれませんが、それでも?」
柳人少年は唇を噛み締めた。
「はい、それでも」
長い3月が始まる。
●リプレイ本文
江戸、三月──ホワイトデーを一日過ぎても、杣柳人のやる気は失せなかった。
その意欲をジェシュファ・フォース・ロッズ(eb2292)は受け止める。細かい事を聞いても本来の頭の良さで、海綿が水を吸うかのように吸収していく。
「お返しねぇ。まぁ貰っていないから必要ないかな」
「そういえば、造るのに手こずっていたしね」
何の悪気もなく、ルーフォン・エンフィールド(eb4249)がさらりとツッコミをいれる。別にツッコミ体質という訳ではないのだが、ジェシュファ少年があまりにもマイペースなので、誰かが合いの手を入れないと、無限ループに会話が落ち込むのだ。
ルーフォンはジーザス会の人たちを中心にホワイト・デーの宣伝活動。江戸は荒れているので、せめて一筋の明かりは点しておきたい。
酒場を巡って、聖ヴァレンタインのお返しを───と、宣伝したジェシュファとは対照的である。
「まあ、天界のお祭りだから、奇妙に映るかもね? 日本でのお祭りみたいなもの」
「ふーん、聖ヴァレンタイン由来とかそういうのじゃないんだ〜」
ジェシュファがルーフォンの言葉に小首を傾げる。
「とりあえず、聖ホワイトデーじゃないというのは確かだよ。特にジーザス教の教えとは関係ないよ。だから、ジーザス会とは上手くいかなったけどね」
「じゃあ、何が由来?」
「詳しくないけど、商業主義のご都合主義。関係在るのはもらった人だけ、だよ。まあ、甘味をもらったから甘味で返すのが基本かな? まあ、色々とありそうだけど、特には判らないね」
ますます天界への興味を掻き立てられるジェシュファ。一方、郷愁を掻き立てられるルーフォンであった。
「やれやれ、折角キエフに帰ったのにまたとんぼ返りだわ」
女傑、エリザベート・ロッズ(eb3350)は柳人少年と視線を会わせ、開口一番にそう言い放つ。しかし、自分の舌とは裏腹に、言う程苦に思っていないのである。本当に嫌ならばわざわざ依頼を受ける必要はない。小銭にあえぐほど、安い女ではない。
「今度はホワイトデー? お返しする日なのね。それじゃ、柳人にはつきあって貰いましょうか」
エリザベートはそう言って問答無用で柳人を連れ出す。
「ジャパンの宝石でいいのがあればいいのだけどね」
「ジャパン名物か〜うーん?」
残念ながら緊張下の江戸ではちょうど良さそうなものはなかった。逆に月道からのものの方が贅沢品では手にはいるかもしれない。
「このクッションよさそうね」
と、目についた絹の座布団に財布の口をゆるめるエリザベート。そこで柳人少年が止めようとすると、逆にそれを制して。
「お返しなんてものは、相手の事を考えて、自分で選ぶからこそ、意味があるんじゃないの?」
「え、そういうものかな──? 人は好かれた分だけ、好き返そうとするものか、な? と」
「世の中はそこまでシンプルじゃないの。それに好きになられたから、好きにならなきゃなんて道理は通用しないのよ」
エリザベートは柳人の顔色が良くないのに少し心配して声をかける。
「湯治に行ってきた割には顔色が良くないわね。大丈夫?」
「大丈夫だよ。それに湯治だって根本的な治療って訳じゃないし」
「病の根っこが治っていなければ‥‥という事? どっちかっていうと、あのちんちくりんが好みそうな話題ね」
兄であるジェシュファの事が出てくる。
また、柳人が剣に振り回されている事にも気にかかるようだ。
「剣を持つのに向いていないのかしら? 天界人って魔法が使えるって聞いたけど、覚える気ない? 人に教える程、上手くないけど風の魔法なら教えられるわよ。ちんちくりんに頼めば、水か火は教えてくれるでしょうし」
「火かな? フレイムエレベイションで地力の底上げをしたいし」
「計画的な修行をしないと、基礎がなってないと、ね」
ともあれ、余った予算で、柳人の腕力に適した(とエリザベートが判断した)脇差しを購入する。
「あなたが何を考えて剣を持とうとしたかは訊かないけど、使いこなせない武器を持っていたら戦場じゃ死ぬわよ」
「単純に言うと、メイディアの近くで手に入って、値段と釣り合った破壊力ということで選んだんだ」
柳人が持っているCOはブレイクアウトにスマッシュといったところらしい。体力が地道に要求されるコンボだ。
一方、ふたりが帰ってきた所で、風祭亜寿佳(ec5911)が、こっそりと柳人の家に入り込もうとして──台所を掃除するつもりであったが、家に鍵がかかっていたのだ。
「おかえりなさい柳人君」
「──ただいま、亜寿佳さん」
微妙な空気がただよう。
亜寿佳が発止と、視線をエリザベートに向けるが、彼女は大人の余裕で受け流す。
「‥‥」
何かを期待するかのような亜寿佳の眼差しが柳人に向けられる。
「?}
エリザベートが掌を打つ。
「あら、柳人、甘味が食べたくなったわ。買ってきて」
兄から聞かされていたホワイトデーの概要を思い出す。
「大変ね。お互い」
ホワイトデーに甘味が返され、亜寿佳は柳人の手から、干菓子を受け取るのであった。
「昔の事は覚えていないけど。きっとこんなに嬉しかったのは初めてだと思う」
感涙を思わず亜寿佳に柳人はとまどうばかり。
これがホワイトデーを過ぎた日々の顛末である。