256分の1の金字塔 それが正解とは限らない

■ショートシナリオ


担当:成瀬丈二

対応レベル:1〜5lv

難易度:難しい

成功報酬:2 G 4 C

参加人数:4人

サポート参加人数:-人

冒険期間:04月21日〜04月26日

リプレイ公開日:2009年04月30日

●オープニング

「身元調査をしていただきたい」
 冒険者ギルドにやってきたのは、とある商家の手代。物腰の穏やかな人物であった。あまり人を疑る質には見えない。
 彼が依頼して欲しいのは、とある『生き神』さまだ。自分を崇める様に促す、神道系の団体を主催している。
 八ヶ月前から、月に一度、手紙が送られてくる、『生き神』の銀の相場の変動予想は、単純であった。上がるか、下がる。ただこれだけである。しかし、その上下の変動は、一度たりとも間違いが無かった。
 それを受けて、手代の勤める商家の主は、この激動の時代を乗り切る、舵としてその『生き神』を、正式に店の相談役に迎え入れようという。
 投資する事になる金額は生半可な価ではない。
 そこで手代は、実績を残しているとはいえ、疑いを振り切る事が出来ず、自分を納得させるため、この依頼に踏み切ったのだ。
『生き神』は、外見四十代の恰幅の良い男。紫色の狩衣に身を包み、普段は自分の寺社である、屋敷から出てこようとはしない。
 噂を聞いた限りでは陰陽師などといった、正式な師匠について魔法を学んではいないらしい。
 それ以上の事を調査してほしい。
「荒事ではなさそうですし、駆け出しの冒険者に任せるという事で」
 冒険者ギルドの受付ははやる手代を押さえるように述べた。
 これが冒険の始まりである。

●今回の参加者

 ec6357 チェルッカ(32歳・♀・チュプオンカミクル・パラ・蝦夷)
 ec6370 ロディ・アッジィーク(33歳・♂・ファイター・人間・エジプト)
 ec6428 カク(27歳・♂・カムイラメトク・パラ・蝦夷)
 ec6431 星屑 すぴか(22歳・♀・陰陽師・人間・ジャパン)

●リプレイ本文

 ジャパンは江戸、四月。
 葉桜見物、八重桜見物にも遅きに失した感がある今日この頃である。
 そんな中、駆け出しのカムイラメトクであるカク(ec6428)は、商家の手代の依頼を請け負い、ひとり『生き神さま』の情報収集に回っていた。
 烏の濡れ羽色の黒髪に、純白の雪を思わせる肌。そして、更にエキゾチックさを深める碧色の瞳。
 もちろん、カムイトラメクというからには蝦夷生まれの男性のパラ、蕗の葉の下の人、コロボックルであった。
 本来、この依頼を江戸冒険者ギルドを通じて請け負った仲間はいた──しかし、カクの必死の呼びかけに対して、リアクションらしいリアクションはなく、結局、カクひとりだけがこの依頼を請ける次第となった。
 それぞれに冒険に不慣れな点はある、しかし、何もしないのでは、カクが苦労するという事実には変わりがない。
 ともあれカクが情報を集めようとしたものの、この所(と言っても年を跨いではいるのだ)、江戸は上の抗争や戦乱で、落ち着かず、そんな中、八ヶ月前から渺々とした渋谷の地では近所づきあいをしていない、この人物を祀っている寺社に関して直接の情報はなかった。
 だが、関連した──妙な情報はあった。
「手紙───ですか?」
 カクが得た妙な情報とは手紙であった、それも千通を超す。運び賃、墨代、紙代、それぞれを乗算していけば、まとまった金額である。
「手紙───そう言えば、手代の方も言ってます───か」
 手代が持ち込んできた話では八ヶ月前から手紙が来て、銀の相場の値段の上下を的中させた。それにしても千通は多すぎる。
 当時を知る人々から話を聞いた所。この八ヶ月を通じて、『生き神さま』が出す手紙の数は減っていった。少なくとも、前のように一千枚を越すという事はなかった。確実に手紙の数は減少している。それは間違いがない。
「謎は全て解けてます。じっちゃんの名にかけて」
 言い放つと、カクは立ち上がった。
(少々古かったかもしれません)
 ともあれ、手代の元に向かう。

「失礼します、こちらの手代の方に──お話があります。通していただけないでしょうか? 冒険者ギルドから来たと言えば、話は通るはずです」
 しばらく、待つと、頭にねじりはちまきをした手代が駆けつけてきた。
「何か判りましたか?」
「多分、あっています。できれば、当人の前で立証した方が、生き神さまも、立つ瀬が無くなると思います。生き神さま、主人さまご一緒の時におよび下さい。種は莫迦らしい簡単さです」
「それは莫迦らしいほど、簡単な種なのでしょうか? それとも───」
「すごい安直です。多分、僕の考えが誤っていなければ、生き神さまを店の相談役に据えようとしているのは、後、3家はあると思います」
「?」
───そして数日が過ぎ、手代からカクへと連絡が行った。
「じゃあ、行きますね。準備は良いですか?」
 カクが人相風体を隠している三人を引き連れて、手代が列席している、場へと踏み出した。
「な、何だ? このパラと怪しい──いや、高水屋の番頭ではないか?」
「へえ、如何にも? おや? 生き神さま、こんな所で?」
 わらわわらわと人混みが群れ集う。
 生き神さまは口をへの字に結んだまま。
「こほん」
 咳払いをしてカクが切りだす。
「多分、ここにいる全員の商っている店で、過去八ヶ月に渡って銀相場の推移をぴたりと当てていると思います」
 そう言って、カクは周囲を見渡し、手を広げた。
「まず、最初は一千人───多分一千二十四人に銀相場に関する手紙を出したのでしょう。半数には『下がる』半数には『上がる』と書いて」
 生き神さまはむっとした表情である。
「これなら、どちら片方『半数』は当たります。そして、次の月にまた半数ずつ、五百十二人の半数にそれぞれ『上がる』『下がる』と書くのです。そして二百五十六人が残ります」
 カクがすらすらと読み上げていく。
 そして、二百五十六が百二十八、百二十八が六十四、六十四が三十二、三十二が十六、十六が八、八が四。
 延々と数は半減をし続ける。しかし、他の商家に生き神さまが手紙を出している事実は知られていない。常に半分は当たる。その千二十四の商店から、八回にわたる選別の結果が、この場に顔を連なる正解を教えられた者だったのだろう。
「動機は物欲です。相場を読む力量があることを周知して、それにより信用を得て、店の中枢に食い込んで、金を動かせる立場になる。次は横領でもしようとしたのではないでしょうか? 短期的に多少の減収があっても、自分には実績がある──それは偶然ではない。しかし、正答ではありません」
 カクは一座を睥睨した。
「以上、証明終了です」
 生き神はうなだれたままであった。
 
「カクさんありがとうございます」
 店の主人も、危うく騙される所で翻意し、生き神さま──本名は不肖のままであった、を奉行所に突き出した。
「いえ、依頼通りですから」
 少々の小判を礼金としてカクは受け取り、懐も暖まった。
「では、五月に向かって行きましょう!」
 カクの前途はまだ明るかった。