僕より幸せな奴は嫌な奴だ、特に夏

■ショートシナリオ


担当:成瀬丈二

対応レベル:フリーlv

難易度:やや難

成功報酬:1 G 1 C

参加人数:6人

サポート参加人数:3人

冒険期間:08月10日〜08月18日

リプレイ公開日:2009年08月20日

●オープニング


 八月、夏らしい暑気の中、杣柳人少年は自宅で夏のプランを練っていた。
 今年で中学生の年齢の筈だが、普通の感覚で言えば小学校低学年とどっこいの体格である。半袖、ハーフパンツから伸びている手足も華奢で、如何にも頼りない。
 手近に大事な人に買ってもらった小太刀が立てかけてある。
 非力ならば武器を選べ、という思想である。
 ともあれ、各勢力が江戸でぶつかり合う事で、その情勢がどうなるか判らないのに、凄まじいまでの余裕である。
 あるいは戦争を知らない世代故の無知か。
 柳人少年は肩口で切り揃えた柔らかく波打つ栗色の髪を弄びつつ、12才の少年ひとつの結論に達する。
「山より、海だよね──」
 ひとつの結論が導き出され、彼の潤沢な予算が如何なる『ジ・アース』での行動に備える準備を整え始めた。
 夏場でバーベキューとか、江戸前の海鮮物
 そこまで算段を立てて、ひとつの問題点に突き当たる。
「やっぱり、海水パンツとか、水着とかあった方がいいか」
 褌には柳人少年は抵抗があるようだ。
「専門外だし、そうなったら、天界人の人を集めて、知恵を仕入れればいいよね?」
 自問自答に眼鏡がきらりと輝く。
「という事で、海を楽しめればいいか」
 柳人少年はそう決断した。
「最悪海に入る必要はないんだし」
 言ったしばし後に咳き込む。
 経過はどうあれ、結果としては冒険者ギルドに天界人や、天界人に興味のある人材に声をかけて欲しい旨の、依頼書を代筆してもらい、人を呼ぶ事になった。
 最後の海水浴が始まる。

●今回の参加者

 ea0988 群雲 龍之介(34歳・♂・浪人・人間・ジャパン)
 eb2292 ジェシュファ・フォース・ロッズ(17歳・♂・ウィザード・エルフ・ロシア王国)
 eb3350 エリザベート・ロッズ(23歳・♀・ウィザード・ハーフエルフ・ロシア王国)
 eb4249 ルーフォン・エンフィールド(20歳・♂・天界人・人間・天界(地球))
 eb4757 御陰 桜(28歳・♀・忍者・人間・ジャパン)
 ec5911 風祭 亜寿佳(20歳・♀・僧兵・人間・ジャパン)

●サポート参加者

ゴールド・ストーム(ea3785)/ シャリン・シャラン(eb3232)/ ヴィクトリア・トルスタヤ(eb8588

●リプレイ本文

「そ‥‥そんなとこ、剥けないよ、ルーフォン君、痛いし」
「大丈夫だよ。やってみれば気持ちいいから、みんなやっている事だよ」
 純粋そうな笑みをルーフォン・エンフィールド(eb4249)は浮かべる。
「へ〜、柳人まだなんだ。実は僕もまだなんだよね〜」
 ジェシュファ・フォース・ロッズ(eb2292)が、好奇心たっぷりおっとりに問いかける。
「じゃあ、剥きっこしようか〜」
 未来の義弟(予定は未定)の敏感な部分にジェシュファの手が伸びた。
 僅かな痛みが、柳人は切なげなため息を漏らす。
「ああ‥‥少し気持ちいいかも」
「うん、結構『日焼けした皮』を剥くのって、やみつきになるかもね。もっとも、あんまり肌強くないから、たまにはだけどね」

 言っている当人のルーフォンもメラニンたっぷりの肌を剥いでいく。 外見十代の三人組は真夏の日光に照らされて火照った肉体を、旅館の温泉で癒していた。
「はっはっはっは。俺以外は皆、純粋な日本人ではないか。もう少し陽に肌をさらしてもいいかもな。まあ、日焼け止めを渡すべきだったかもしれん、すまん」
 江戸の裏地図で見つけた、海に面した某所の旅館で、群雲龍之介(ea0988)がエプロンに身を包んで、潮風と太陽と友達になった少年たちに、食欲を満たす機会を与える。
 とりあえず、このいつ火が点くか判らない、江戸の流通状況で、金で買えるものは柳人のどこから出てくるか、見当もつかない財布の金で(札束で頬を叩くのではなく、千両箱で超常スマッシュな状況なのだろう。想像するに)集めていた。

 そして、時は遡り、海に行く前の準備。
 ピンク色の髪に、ピンクと黒の瞳にデンジャラスの宇宙乳忍者、御陰桜(eb4757)が、目当てはひとり、視線は人口の半分の視線を惹きつける
「今年の海をタノシミにしてましたよッ♪」
 言って柳人に桜は視線をなげかける。
 ふぅん? このコが今回のすぽんさ〜? かなり頼りなさそうだけど、別に護衛が依頼っていうワケじゃなし。
 小太刀を持っている? 護身程度はオッケーね。
 そこで改めて。
「御陰桜よ♪ ヨロシクね♪」
 と、ウィンクを投げかける。かなりの数の年頃の男性が桜の流れ弾に当たり、キュンキュンしているようだ。
 そんな自分に、描写し難き視線を向ける、長身の赤毛、風祭亜寿佳(ec5911)に、艶やかな声を上を向きながら、冷ややかな視線とセットで声をかける。
「あたしに触れてイイのは一人だけなんだから、気安く触らないでよね」
「同行する冒険者として、誤解を招かないように言っておくわ。僕は女だよ。一応、天界で言うところの水着を仕立てようかと思っているよ」
「大丈夫。あたしは夢の中で見た、水に逆らわない衣装を試すから。魔法でどうにかするわ♪」
「夢で見た? 面白そうね。でも、私は普通に肌着で泳ぐつもりよ」
 宣言するエリザベート・ロッズ(eb3350)
「海水浴ねぇ、数える位しか行った事ないからちょっと楽しみかしら? 柳人が教えてくれるっていう水着とかいうのも興味があるけど‥‥まあ、結婚前で肌を晒すのは抵抗があるから、私としては亜寿佳、あなたが仕立ててくれるなら、興味があるけど」
「あ〜僕は褌あるからいいよ。ちゃんと『天』って書いてあるんだ」
 ジェシュファの声に龍之介が豪快な笑い声を被せる。
「若い衆は俺が造るからな、亜寿佳殿の目を気にすることは無いぞ。杣殿、綿生地はあるか? そろそろ入る? はあ、相場はこんなものか」
 柳人の適当に応えた絹生地の値段を聞いて、一瞬頭を抱えるルーフォン。何やら小声でぶつぶつと呟いている。
「綿──ね、柳人さん、天界では水着って、やっぱり綿なの?」
 ジェシュファが無邪気に問いかける。エリザベートも関心を隠せない。
「ええと、多分あまり主流じゃないと思うけど? ルーフォン君、知っているよね?」
「縮合反応による重合で、nH2(CH2)6+n(HOOC)(CH2)──」
 ナイロンの重合反応を反射的に口に出すルーフォン。
「それ何、魔法覚えたとか?」
 ジェシュファが赤い目を煌かせる。
「違うわよ、ちんちくりん。きっと、水着に関する天界の言葉よ」
「難しくて分からんが‥‥恥ずかしながら、針と糸にはいささか心得がある。分かるように説明してくれれば、作ってみようか?」
 エリザベートをやんわりと制し、龍之介がルーフォンを促す。
「ナイロンを? まっとうに開発されるのを待っていたら何百年かかるかな。時計を早回しにしても、夏の内にできないよ」
「そういえば、天界は僕達の地球より未来の世界という話も聞いたことがありますね。やぁ、未来の水着ってどんなでしょう? 想像も出来ませんけど」
 ジェシュファがにこやかに言うと、ルーフォンは地球の水着を思い出し、笑った。
「‥‥ああ、地球に帰れたら。いやこの世界でだって、無尽蔵な時間と資金がこの手にあれば、僕がみんなに水着をきせてあげるのに」
「お金って、どのくらい?」
 柳人は促すが、ルーフォンは首を振った。
 とりあえず、ルーフォンの進言で、水着の内張りは絹となった。それも資金だけで、集める柳人。ジャパン経済をなめている。
 とりあえず、同年代として、ルーフォンが柳人の下着が少々気になったが、測定の際、見えただけで、好奇心は満足された。
 そして、水着は完成。
 男子はサーファーパンツ。別にサーフボードがある訳ではない。ルーフォンからのリクエストだ。
 穿いた皆を見渡し、龍之介は訝しげに問う。
「ひとつ聞くけど、エンフィールド殿の指定だと、普段の半ズボンって奴か? それより、水着の丈が長い様に見えるんだが、普段より隠す場所多くていいのか? 逆な気が」
 とりあえずルーフォンは生地がどんな素材から作られているかは知っているが、どうゆう経緯で、その丈に決まったかは知らなかったので、有耶無耶にするのみ。
 柳人が伝えた水着を元に亜寿佳がエリザベートのセパレートの水着を作ったが、ある程度口の立つ、ルーフォンがフォローして、形状を伝えるわけに行かないため、亜寿佳の想像の余地が多分にあった。
「正直、恥ずかしいですよ」
 亜寿佳がエリザベートに言うと。
「十分よ」
 桜は一同を見渡し、不適な表情を浮かべる。それは艶なる笑みであった。

 そして、ロッズ兄妹の箒によるピストン輸送で、海の見える旅館に一同は誘われた。
 さすがにペットの内、運べないものもでてきたが、それは些事。

「色々と企画するね〜、面白いからいいけど」
 と、砂を集めて、ジェシュファが江戸城を造るとルーフォンがそれに触発されて、多少センスに欠けるものの、構築を手伝う。
 龍之介はそれを笑ってみながら、海の幸、山の幸を薬味を利かせて、下支度に汗を流す。
 夕暮れに沈むころ、小さな江戸城は完成し、潮に流されるのを惜しんだジェシュファがアイスコフィンで凍結。周囲に冷気を集め、しばしの鑑賞対象とした。
「よし、ムグナヴェーニャ、取って来ーい!」
 徐に拾った棒を体力の続く限り遠方に投げるジェシュファ。応えて走る愛犬。
「?」
 どうみても、空中でキャッチしている。すごい跳躍力。と、いうより経過が無い。
「うんうん、いい子」
 日傘の下で、柳人とルーフォンはそれを見ていて、アトランティスの犬に関して、様々な認識を覚えた。
 犬に見えるペットでも犬とは限らない。別に巨大化するだけが、ペットの進化ではないのだ。
「ムグナヴェーニャ、こっち来て!」
 と、ルーフォンが呼びかけるが、お犬様は動かない。ジェシュファが合図すると、飛び出してルーフォンの目前で急停止。
「すごく、懐いているんだね」
「うん。僕の大事な友達だからね」

 その頃、とりあえず準備でやりとげた女の顔をしているエリザベートに桜が、声をかける。
「ヒマしてる? だったら遠泳しよっか? あそこの岩まで往復。勝てば殊勲賞。負ければ敗北感。ばかんすだし、この程度の遊びいいでしょ?」
「いいわ。水のウィザードとして、泳げないなんて事は無いわ」
 水のウィザードだから泳げる、というのは、火のウィザードだから火傷しないというのと同じくらい無茶である。
 ふたりの肉体のバランスは拮抗している。体力では圧倒的に桜の方が上。
「瑪瑙がいればね‥‥、いつものアレ頼めたのに。ま、いっか♪」
 とはいえ、桜が圧倒的リードを広げて到着。
「じゃあ、敗者には敗北感♪」

 そこで時系列は冒頭に戻り、宴が繰り広げられた。
 バーベキューが終わった後、翌日に帰宅、というタイミングで、一同は旅館の広間を借り切り、一本の蝋燭を垂らして、亜寿佳が幾つもの怪異を語りだす。
 バードなどには及ばないが、死して尚安らぐ事の無い御霊、お題は番町更屋敷らしい。
「そして、井戸の底から恨めしげなお菊の声が皿を数えてます、一枚、二枚──七枚、八枚、九枚──一‥‥枚足りない」
 底冷えのする亜寿佳の声。更に話は山場に──。
「それを聞いた主人は金貨を十枚井戸に投げつけました。
 月道が開いているから、自分で買って来い。
 こうして、お菊は十枚目の皿を買ってきて、南蛮皿は再びそろい、お菊は成仏しました、めでたし、めでたし────あれ?」
 自分が僧兵として活動を始めたのが、月道開放以後の為か、微妙に話のつぼがずれている。

 こうして、江戸が更なる混乱に陥る前のラストリゾートは終了した。
 これが冒険の顛末である。