僕より幸せな奴は嫌な奴だ、特に晩夏
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■ショートシナリオ
担当:成瀬丈二
対応レベル:フリーlv
難易度:易しい
成功報酬:1 G 1 C
参加人数:3人
サポート参加人数:-人
冒険期間:08月24日〜09月01日
リプレイ公開日:2009年09月02日
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●オープニング
夏の終わり、それを彩る様に、虫の声が鳴る。様々な音階のそれは、時として江戸の攻防戦のはざ間から漏れ出た。
パラより小さいが、シフールよりは絶対に大きい少年、杣柳人が江戸の冒険者ギルドに顔を出したのはそんな頃合。
「今回はどの様な依頼で? 生憎とこの合戦の最中、腕利きは江戸の支配者を決める戦いに出払っています、人間の範疇を超えた冒険者を、というリクエストにはお答えできない、かと。まあ、条件次第ですが」
受付は心苦しそうに言った。
柳人少年は、収まりの悪い、栗色の髪を肩口で切りそろえ、少女というより幼女のような印象を与えるそばかすの散った顔。眼鏡があまりアクティブでない印象を与える。
事実、色白の肌が示すように日本人と英国人のハーフであった。
そのふたつの国名が明示している通り、アトランティスからその身ひとつでやってきた、天界人である。
話を切り出すと、柳人の屋敷(1階)のベッドの下から妙な声がする、音でないのは柳人の直感であり、確証は無い、今のところは。
「とりあえず、声は日に日に弱まっているけど、何が起きるのかは見当もつかない。
もし、怪物の類なら、被害を最小限に倒して、今後の安眠の為、根治を欲しいんだよ。 そうでなければ、こちらからの依頼として『外見年齢が最年長』の人の判断でこの事態を収拾して欲しいんだ」
「怪物が来てから何か変わった事は?」
「妙な声かな?」
受付は堂々巡りの愚を知り。
木簡を出し互いの物質的安全、金銭的な落とし所を模索して、互いに妥当なラインを見出した。
「では依頼受けました」
謎は9月前に出るだろう。
冒険(笑)の匂いがする。
●リプレイ本文
多摩川を源徳勢が越えた、頃合い。
天界人の少年、杣柳人の館で冒険者達が集っていた。
床下から響く、何かの音の音源を調べたいのだという。
「床下の何かを探す? 面倒そうね」
妹である、エリザベート・ロッズ(eb3350)の論評に対して、兄であるジェシュファ・フォース・ロッズ(eb2292)が安穏とした口調。
エルフの純血と、人の血をひいている、ジェシュファとエリザベードは外見年齢と、実年齢が逆転している様に余人には取られる。
「かもしれないね〜、でも見えない所をうろつかれるが気になると止まらないんだよね」
少女と見紛うばかりのルーフォン・エンフィールド(eb4249)がサスペンダーをいじりながら──。
「僕の思うところでは、猫とか犬とかの季節外れの出産が、柳人くんのベッドの真下で行われたけど、この夏場もの暑さと湿気も多さも重なって、状態があまり良くない事だと思うよ、母子ともに体力が尽きているのかな」
「犬猫か、ぼくハムスターを飼っていた位しか覚えがないから、そこまで考えなかったよ」
「ハムスターって何?」
ジェシュファが目を輝かせながら問う。
「え、ネズミ‥‥だよ」
ハムスターが飼育されだしたのは地球では19世紀という説がある。
とりあえず、冒険者長屋で見られるような、珍奇なものではないと悟るジェシュファ。 話の腰を折られた柳人は、ルーフォンの言葉は納得は出来るが、現状の解決になっていない事に気づいた。それにジェシュファも気づき一言。
「まあ、見てみないと判らないし」
柳人もうなずく。
「じゃあ、床板を剥がして下を見て」
「それはちょっと、大仰かな? 一応、建築学も囓っているけど、準備も後始末も大変だよ。柳人さんも良いかな?」
「それはちょっと、勘弁してね」
柳人の言葉に戸惑った、ルーフォンが疑問を投げかける。
「じゃあ、どうするの?」
「縁側から入ろうよ。兎に角、何か特定する為には中に入ってみないことにはどうしようもないかな」
「縁側‥‥あっ成る程! 考えつかなかったよ」
多分、常識的な意見を述べただけのジェシュファにルーフォンは掌を打つ。
それを見ていたエリザベートは、ルーフォンを心の中で『ちんちくりん3号』と呼ぶべきかと、結構真剣に悩んでいた。結果を述べると、エリザベートはクライアントに問うという形で自己の葛藤に決着をつけた。
「柳人来る?」
「行かない事にするね」
一番、床下に入り易い人材ではあるのだが。
こうして、柳人を待たせて、一同は床下の人となったのである。
視力の鋭いジェシュファを先頭に、最後尾をエリザベートが位置していた。
光源を持っていた本人は上背もある為、あまり狭い、床下では本領を発揮できそうにないので、追い込み役に回るつもりである。
「いた。三毛猫だよ。赤ん坊を連れている」
ジェシュファが予定通りの位置に、小動物の影を認めた。
「放置して天命に任せまるのをオススメ。猫の意志が強ければ、母子共々にその内出ていくわよ」
さらりと断言するエリザベート。
「飼えないかなあ?」
目には映らぬものの、とりあえず、口に出すルーフォン。
「衰弱しているのを、良かれと思って、環境を変えても、良い結果を産むとは限らないよ。エチゴヤみたいにプロが飼うなら、話は違うけどね。僕は動物に関して知識があるから、多分飼えない事はないけど、やっぱり情をかけて育てられるものは限度があるんだよね」
「じゃあ、柳人の意向を確認しましょう?」
縁台で足をぶらつかせながら待っていた柳人がその声に気づき、そばかすの浮かんだ顔をのぞかせる。
「何か、猫って聞こえましたけど?」
「聞こえていたなら話は早いわね? 猫を放置する? 運が良ければ生き残って、勝手にどっかに行くわよ」
エリザベートの声に、 ジェシュファは後を継いで・
「多分、僕の見立てでは、一週間生きられたら、暑さにも耐え凌ぐ体力はつくと思うよ。表に出して飼うのなら、手助けはするよ。でも、君は動物詳しい? ネズミと猫じゃ、差が出ると思うけど」
「一週間、寝不足に苦しむか、見捨てた事を後悔するか」
「飼うなら手伝うよ」
柳人は思案していたが、決断した。
『飼う』と。
後は話は簡単である、 ジェシュファが遠距離からアイスコフィンで封印して、準備万端整えた表へと移す。
兄妹による付きっきりの看護。
その間、柳人はどこにも行く気配がない。
ルーフォンには働かないでいて、これだけの富を維持できるとも思えなかった。
調度品の金属部分をルーフォンは試薬などが無い範疇で、分析してみるが予想外の反応は出ない。
少なくとも調度品の金額だけでもルーフォンが爪に火を点しての生活一年で、ようやく入手できない代物だ。
少なくともこの財産は本物に感じられる。
ルーフォンはマンモンが欲望の魔王であり、与える富は偽物であると、冒険者ギルドの噂に聞いていたが、或いは本物の富を与える事もあるのか。それとも、これは柳人が実力で稼いだのか。彼が最上級の冒険者と同等の実力を持ち、様々な手段で手に入れた戦利品を、金に換えているのだとすれば、有り得ない話では無いが‥‥つまりは有り得ないという見当はついた。
「ふう、アトランティスに来てから、こんな暮らしした事無いよ」
と、不慣れなジャパン語で、ルーフォンは柳人に話しかける。
「うん、こちらに来てから、宝くじとか買い始めたから。運だよ運」
もっともこの戦乱では、富籤ももう無いだろう、と柳人の弁。
しかし、その言葉は額面通りにはルーフォンには受け取れなかった。
猫達も落ち着き、 ジェシュファとエリザベートが始終、側にいなくても良くなくなった。
「飼うのなら名前をつけてあげるのね? 六匹いるのだから、精霊にでもあやかって名前を付けたら」
エリザベートが他にも宝石の名前などを挙げるが、自分でも単に思いついた事を言っているだけである。
子猫たちは無心に母猫の乳房から乳を飲んでいた。
戦乱は近い。
これが8月の冒険である。