【ジャパン大戦】出た! 突然出た!【杣】

■ショートシナリオ


担当:成瀬丈二

対応レベル:フリーlv

難易度:普通

成功報酬:0 G 78 C

参加人数:4人

サポート参加人数:3人

冒険期間:10月10日〜10月15日

リプレイ公開日:2009年10月21日

●オープニング

 杣柳人少年は戦乱の江戸を抜け、どこをどうしたものか、八王子勢の裏を通り、八王子へと逗留していた。
 友人のひとりと落ち着いた先は温泉である。
 知り合いには戦火の許す中、文は出しているが、どれくらい届いたかは不明。運任せとも言う。
 ともあれ、金に任せて宿を借り切って、年末まで過ごす予定。
 もちろん、江戸が(いかなる形であれ)平定されれば、その限りではないだろうが。
「やっぱり、眼鏡は曇るからね」
 露天湯で手ぬぐいを頭に乗せ、肩までゆっくり浸かる。栗色の髪が僅かに湿る。
 優しげな双眸が水面を映した。
「いくら何でも、政宗もここまでやってこないだろうし。安全と言えば安全なのかな?」
 そこまで行った所で湯気に曇った、天を仰ぐ。頭の上に乗せられていた手ぬぐいが音を立てて落ちる。
「独り言、多くなったな」
 手ぬぐいを取りながらぼやいた。
 風呂を上がって、浴衣に不器用ながら着替え、眼鏡をかけると──
「もし」
 との声、その声の主は女将の様だ。
「どうかしましたか?」
「一応、柳人さまのお耳に入れておこうかと思いまして、少し西の高尾のほうで良く判らない騒ぎがありまして」
 柳人が儀礼的に耳を傾ける。
「月の巫女と巫女と、地の怪竜が、大地の仙人と白い大蛇が問答を行うというものです」
「さっぱり判らないな」
「まあ、噂ですので」
「やばいな。温泉に入っている時間はないかも」
 と、柳人と滞在していた、緑の瞳の少年が、珍しく自己主張する。四幅袴に水干というさっぱりした出で立ちである。年の頃は15か16といった感じ。名は甲斐人という。
「いくら何でも、ここまで事態が急迫していたとはな。柳人すまん、ちょっと高尾に行ってくる。返さなければならない品があってな」
「まあ? いいけど」
「ノリと勢いだけで、どうにかなると思ったんだけどな。俺、じいちゃんとか、子供に弱いから」
「子供って僕?」
 130に届かぬ身長の柳人が主張する。
「正面から行っても、あまり良い待遇はされないだろうかな」
 柳人の言葉はさりげなくスルーされた。
「子供の遊びじゃ許されないな」
 甲斐人は思案する。
「流石に返しに行きますって、予告状出すのも間抜けだし」
 悩む甲斐人。
「僕もいっしょに行こうか?」
 柳人は甲斐人に提案する。
「友達の助けが多少はあるから」
「そうだな。手助けは必要だ」
「で、具体的に何をするの?」
「高尾山から昔盗んだ、宝物を返しに行くんだけど。莫大な大地の力が眠っていて。黄竜を封じた地の力の二割五分が眠っている品。具体的には教えないけど。太田道灌というじいさんから頼まれて、あまりに面白そうだから盗んだんだけど──」
 甲斐人はさらりと。
「その頃、俺はじっちゃんの名を継いで『怪盗三世』と名乗っていたよ」
 怪盗は二度訪れる。
 冒険の幕が上がる。

●今回の参加者

 eb2292 ジェシュファ・フォース・ロッズ(17歳・♂・ウィザード・エルフ・ロシア王国)
 eb3350 エリザベート・ロッズ(23歳・♀・ウィザード・ハーフエルフ・ロシア王国)
 eb4249 ルーフォン・エンフィールド(20歳・♂・天界人・人間・天界(地球))
 ec5098 入江 宗介(46歳・♂・忍者・人間・ジャパン)

●サポート参加者

鷹碕 渉(eb2364)/ 木下 茜(eb5817)/ ジュリアンヌ・ウェストゴースト(eb7142

●リプレイ本文

「はあ、これがそのアイテム」
 ジェシュファ・フォース・ロッズ(eb2292)が甲斐人から見せてもらった宝珠──大きな切り子面があり、正十二面体となっていジェシュファ少年の手には大振りな琥珀──を眺める。
「亀甲宝珠とかも呼ばれているそうだ。で、これを返すのを手伝ってもらえないか? やっぱり水の精霊使いは信が置けるしな」
「判ったよ〜」
「軽く言わない方が良いわよ、ちんちくりん」
 兄の耳を軽く引っ張る、エリザベート・ロッズ(eb3350)。
「高尾山ねぇ。何だか凄い物騒みたいね」
 と、以前から勉強熱心──ものを売るには、買い手を探さなければならず、宝石商という立場は金持ちを相手にする必要があるから、畢竟冒険者ギルドの事も詳しくなった──彼女としては、兄が挑んでいるのが、犯罪行為と見なされる事を承知していた。
「ま、大変ね」

 白虎が住んでいたり、大天狗(世界でも十体しか居ない希少種のオーガ)の存在、古代の精霊が封印されていたり、将門(これは彼女にはよく判らなかった、高望みして破れた英雄らしい)、怪しい忍者集団がはびこっている。フランクから魔剣が持ち込まれていた。
 それらをまとめてエリザベートは『ま、大変ね』に込めているのである。
 多分、理解しているのはジェシュファ少年くらいだろう。

「で、その宝玉、正直興味をそそる。そこまで大きな面を切り出せるサイズの宝石なんて、そうそうあるものではないわ。1日とは言わないから、1時間だけ見させて。で、どこ持って行くの?」

「山頂にあるお寺だって。そこの本尊の前に置いていくのが目標」
 柳人が答えた。
 柳人の足で行って(あの体力と根性の欠如している柳人が、である)、十分に半日で行って帰れるコースである。
 普段は修行者がいるのだが、自分は戦力になる、と思いこんだ人物は冒険者扱いで、投入されている。
 もっとも天に由来する神聖魔法が集団戦でどの程度役に立つか、は論議を待たれる所だろう。
 逆に武士から山伏になったものは基本悩まずに戦っている、らしい。
 いるのは若者か、老人か、といった所である。
「こんな大きな宝玉、地球でも見た事無いな。これが太田道灌が、五行に対応させようとして、培った品だよね。やっぱり、怪盗二世、怪盗、ウォルター・ドルカーンの神聖ローマ帝国の流れで来たもの?」
「ウォルター・ドルカーンはフランクよ。まあ、ヨーロッパでは大抵、根本を探ると、ローマに行き着くわね」
 さらりと方向修正をするエリザベート。
「そう言えば、怪盗三世っていうからかには、二世も居たんだよね? 他にも相棒のみんなはどうなっているの」
 好奇心満載、有り体に言えば、ガレー戦くらいのルーフォン・エンフィールド(eb4249)が目を輝かせて訪ねる。
「自分が四歳の時、里を飛び出したよ。まあ、修行の旅って扱いで、追っ手はかからなかった。ちなみに相棒はあちこちでやっているよ。まあ、自分だけで動いても差し支えないレベルになったんだけどね」
「ふーん」
 くたびれてきたジャケット。きれいな足をハーフブーツで包んだ姿。色々アトランティスではあったが、とりあえず、後退という言葉はルーフォン少年にないようだ。
「そう言えば、江戸城壊した黄竜を追い払った時も力を貸したんでしょう? 精霊魔法の使い手ででもないのに、選ばれたの?」
「江戸城地下に凄いものがあるって噂を聞きつけて、突入したんだけど──ちょっと氷づけに」
 アイスコフィンの魔法であろう
「で、あのエルフのじいさん、ウォルター・ドルガーンに、ここまで来るのはたいしたものだとほめられて──で、高尾山で狼藉したんだけど」、
 入江宗介(ec5098)は感情をあらわにした。自分に正直な質である。
「まだ若いのに昔の悪行の清算とは難儀な話だ。よござんす、我が輩が一肌脱ごうじゃないか」
「その前に情報分析も大事ね。ちょっと行ってくるわ」
 エリザベートが先行して、情報を確認。それを本に入江は単純に当日の作戦を決めた。
 夜陰に乗じて、自分と甲斐人が潜入。
 ジェシュファとエリザベートが空中飛行で山伏の警戒を分散。
 とりあえず、ルーフォンと柳人は非常要員(つまり役目は回ってこない)という事になった。
 夜間に飛んで、警備員の注意を引きつけるロッズ兄妹、夜陰に乗じて、見事な穏行の宗介と甲斐人。
 幾重もの鍵は難なく開けられて、ふたりを奥に誘う。
 本尊が見えてきた所で、無言で甲斐人を動かす宗介。
 音もなく忍びより、ふたりは今来た道を逆走する。
 甲斐人が懐中火の明かりで、ジェシュファとエリザベートに撤退の合図をする。
 風を切る二人と、闇を駆けるふたり。
 しかし、そこで目にしたものは、宵の口も良い所なのに、床に伏している柳人であった。
 ルーフォンが言うには、四人が出てしばらくした後、来客があったという(ルーフォンはその時、温泉に入っていた)、着替えた彼が見た時、客は去り、脱力している柳人が倒れ伏していた。
 とりあえず、仲居を呼んで、布団を敷き、急ぎ医者の手配をした。こういう時、現金があると非常に助かる。
「ロシア育ちだと感じないけで、今日はそんなに寒かったかしら?」
 エリザベートが首をかしげる中、医者は食事などでも養生を勧めた。
「自分がいると面倒を起こすから」
 と甲斐人は再会を約して去っていった。
「どこに行っても身体は資本だよ〜。薬草だって使いすぎは良くないし〜。毒草の方が専門だけど」
 とのジェシュファの声が響いた。
 その言葉に柳人は額まで掛け布団でおおった。
 これが冒険の顛末である。