秋の京都に死の風は吹くか!?
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■ショートシナリオ
担当:成瀬丈二
対応レベル:11〜lv
難易度:難しい
成功報酬:13 G 3 C
参加人数:8人
サポート参加人数:2人
冒険期間:11月16日〜11月23日
リプレイ公開日:2009年11月29日
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●オープニング
京都の風は秋の終焉を告げるかのようであった。唐突な文である大寺の裏口で待って欲しい、と頼まれた陸堂明士郎(eb0712)はその文の筆致に覚えがあった。故にこの場で待っている。
そして、その場に来た少年を見て、明士郎は笑みを浮かべた。
「神皇陛下、唐突な文でしたね。もっとも、単身江戸に向かわれた昔に比べれば、落ち着きがあるといってもい
いのでしょうか?」
その言葉に安詳神皇は笑みで返した。心持ち堅いように思われるのは明士郎の気のせいだろうか?
「御所に呼ぶのは──少しためらわれたので。戦勝祈願と言って、寺社を巡る今日が最も卦がいいと、晴明も言ってましたので」
「戦勝祈願とは、誰が勝つのか? と、問うのは不敬ですか」
明士郎の城持ちとなって尚、衰えぬ反骨精神が出てきたようだ。
「人間が勝つことを祈願しています」
「そういう事では、スサノオの件を捨て置く訳には行かないでしょう。伊達の作ったまんじゅうをマンモンが横取りしたようなものです。決して幸福を生み出さないでしょう。神軍、源徳勢、四公勢いずれにいたとしても、恩讐を超えて討伐するべき──単純にジャパンだけ見ても、月道を通っている以上、いずれ京都に出るでしょう‥‥いえ、出ているはずなのです。それが何故見つからないのか?」
明士郎が言葉に詰まった。
「晴明は仮定を立てていました。月道から飛び出すタイミングを狙って、デビルの魔法で姿を変えられたのではないかと」
「既に京都に? では、何故御所を襲撃しないのか、謎が残ります」
「そのために動くべきでしょう」
「──少し間をおきましょう。江戸にも勅使を出します。いずれの陣営に属していても、スサノオを討つためであれば、月道の解放、そして街道往来を自由にすると。もちろん、この勅命を無視し、単に軍を動かすために、街道を使えば」
伝家の宝刀を抜くのだろう。
「もちろん、如何なる大軍を以てしても、スサノオを討てますまい。十二分な装備を調えた精鋭こそが、スサノオを討つ手段でしょう」
「──貴方に文を出して良かった。スサノオの所在ですが、晴明が占った所、泉の下に雷の卦が出たとのこと。おそらく、呼吸をしないのですから、如何なる水場であろうと、自分が入りさえすれば、時を幾らでも待てるのでしょう」
「水場と、なると精霊魔術の出番ということですな」
魔法の恐ろしい所は、単に大軍に於いて瞬間的な破壊力で敵を一掃する所ではない、少数の精鋭での様々な場所での行動の選択肢の拡大にある。
スサノオ。翼を拡げると差し渡し20メートルの、伝説と呼ばれる、ヒュージドラゴンの六属性の骨を組み合わせて作られ中でも強大な風の力を誇るウィンディドラゴンの骨を多用して作られた、世界でも存在するかどうかさえ怪しまれていた存在。
それがレミエラという魔法技術のブレイクスルーと、無数の富を生み出すデビルの悪意、そのふたつと、江戸城地下の様々な古代の技術が合わさって生み出された、希有な存在である。
少なくともその翼はグリフォンやペガサスを凌駕する速度で空を駆ける。
単に破壊力のある武器で殴れば破壊できるという存在ではない、まずどうやって近づき、どうやって逃がさないか、それを考えべき存在であった。
中途半端な魔法では届かない距離から、一方的な攻撃を受ける可能性がある。
交戦記録そのものが少ないため、何とも判断のし難い所である。
翌日、御所から勅命が出された。
スサノオを倒す為に上京する者を阻めば、神軍は対応する。スサノオを倒すためと称し、大軍を動かす者にも神軍は相応の働きをする。
京都や御所への出入りの制限のある者も、その意志を確認した上で京入りっを認める。
無原則とも取れる神皇の言葉に反感や危惧の念を抱く者は居た。しかし、止める者は居なかった。
冒険の幕は上がる。
●リプレイ本文
「伝説級のバケモノと戦えると聞いて飛んできた」
不適なオーラを醸し出すのは、虚空牙(ec0261)であった。
「依頼を受けてもらってすまん。だが、相手は伝説じゃない──神話級だな」
さらりと受け流す陸堂明士郎(eb0712)は空牙の瞳に視線をぶつける。実力を図っているのではない、覚悟をこそ図っているのだ。
「北斗七星剣も鳴いている、強者との戦いこそが我が全て」
その一方で陰陽寮から戻ってきたメグレズ・ファウンテン(eb5451)が、逞しい首を横に振り。
「太田道灌と、スサノオに関する霊的防衛に関して、色々と突っ込みたかったが、ジャパン語は難しい。これでは言いたい事の八割も語れない」
彼女の言うとおりに京や江戸に真に霊的守護があるとして、八卦に照らさずとも、万全な物ではない事は確かだろう。
もし、そうならデビルだの鬼といった、輩が徘徊できるはずはない。
ともあれ、明士郎の采配で、ふたりは京のあちこちをめぐり、最終的に琵琶湖へ、という形になる。
御所内で月道から、10月10日にフォックス・ブリッド(eb5375)がいた人物の特定を図ろうとするが、すでに一ヶ月の時日を経ていては、あまり有効な聞き込みにはならなかったようだ。
色々あった、フォックスとしてはスサノオを撃破したら、かつての過ちの精算を出来ないかと、皮算用をしていたが、具体策はなかった。聞こえの良い言葉ならフリーハンド、耳障りな言葉ならば、勝ち馬に乗る事であった。
明士郎と顔を合わせて、白翼寺涼哉(ea9502)は開口一番──。
「来てやったぞ、神皇陛下の元で国難を乗り切るより、優先すべきモノがあるんだろか? 祖国を愛し守る気持ちは同じだからな‥‥我が国にはとんでもねぇ病魔が潜んでたんだな」
「全くだ。だが、『我が国』は、どこの事か」
言って、涼哉が祈り紐を渡そうとするが、明士郎は遮った。
祈り紐の効力を否定した訳ではない。
数多くの民が、祈りを込めてこその祈り紐。世界の危機ならいざ知らず、公布する時間と、英雄の行動する時間を天秤にかけてこその判断。
「医者と医術に関して論じ合うのは時間の無駄かもしれない。だが、民を守るためならば、民に何を命じるより、自ら動いてこそ、君主だと思う。まあ、城主になってから間もない理想論だが、苦い良薬を飲み下してこそ、上に立つ責任。今まで通り、民に劇薬を強いていてはいけない、という決断だ」
「ふ、それでこ俺の友。明士郎は領地程度で腐りはしないか」
「ふぉふぉふぉっ、陰陽寮で少々仕入れてきた事を披露しようかね?」
少々かび臭い臭いを漂わせながら、マギー・フランシスカ(ea5985)が現れる。相も変わらずの妖女っぷりである。
「まず、スサノオが過去の情報では、ドラゴンの骨をくみ上げて作ったゴーレム、ドラゴン・ボーン・ゴーレムという形で分類されており、ドラゴンでもデビルでもない、被造物『コンストラクト』じゃ。悪い知らせかもしれんのぅ。たとえば、ドラゴンを普通にアンデッド化した所で、ドラゴンスレイヤーの武器では役に立たない。
さらに、骨とは言っても密度が普通の生物とは違う。兜割やオーラショットといった、頑丈な物に十全の破壊力をたたき込める手段か、さもなければ、巨大な得物で圧倒するしかない──重ねて置くが、得物の自体の破壊力があった所で、十全な重量で無ければ、当たっても破壊力を発揮できん。
そして、付け加えると、ウィンドレスによって空中での動きを制限する事は出来ない。風のドラゴンが材料という以前に、どんな相手でもそこまでの効力はない。強いてあるならば、離陸の際、若干妨害を出来る程度。
これも半減できるほどの効力は──ない」
「ならば、拙者と、拙者の得物が、盾となり、剣となるでござる」
派手やかな装束に、背中に背負った、実用的とは思えぬ『七支刀』。
結城友矩(ea2046)が申し訳なさそうな表情を浮かべる。
神皇直接の依頼という威光で、資料を調べようとしたが、根本的に情報の収集手段が少なすぎた。基礎知識の欠如である。
文字通り、当日、月門近くにいた、関係者とおぼしき者を全て洗い直そうとしたが、この大月道時代にあっては、更に月道を介して、異国、異世界に渡った者もある。フォックスと同様の限界である。
一方で、平織皇の武人として、他の藩の者と争うべきではない、神皇陛下の盾となり、剣となり戦うべしと語る、壬生天矢(ea0841)は黒虎部隊の噂を頼りにする。
しかし、確たるものはない、だが、帯の男は諦めない。
「単純に京都内部での情報を朧ながら、総合すると琵琶湖の方に飛んでいったのではないか? という事だ」
とはいえ、一同は気がついた。中途半端に琵琶湖に向かうのは不味いのではないか?
「急ぐでござる!」
オレンジ色の光がともったり、無数の魔獣の翼の羽音が交錯する中、一団は飛び出していった。
「やれやれ、追いつけなくても──恨まないでくださいね」
フォックスは一同を追いながら、白い髪を靡かせ美耶子の外を見据える。
琵琶湖を周回している一同(マギーが船を借りられないか、を訪ねている最中であった)の視界に御所から追ってきた一団が見て取れる。
(困ったものだ。馬上では絶召・闇時雨が使えないとは──功夫が足りないだけならば、修練すればいいが、これは相性だ。馬術を如何に鍛えても、克服できない)
空牙が愛剣を捻りつつ思案する。
「む、何であるか? この振動は──」
グリフォンの背にあって、友規は七支刀が何を呼ぶかのように振るえているのに気づく。
「これは神の御使いに仇なす刃の筈、他になにかあるのでござるか──」
一方で数百メートル先で琵琶湖の表面が逆巻き、巨体が姿を現す。
数十メートルの翼を拡げた、緑色の光に包まれた竜の骸骨。
「いかん、防御魔法を展開するのじゃ、皆の者、覚悟をせい」
風に対するは地と、マギーが呪句を積み上げ、空中に何かを描くと、褐色の光に包まれ、一同の守りとなる。同時に涼哉合掌し、白い淡い光にていく。
「この間合いでは──」
友規は七支刀の下尾を口でくわえつつ、片手で抜き放つ。
刀は相も変わらず、何か呻っている。
間合いが長く、防御も抵抗の手段もない、七支刀に封じられた黒い雷は、スサノオを捉えるのに絶好の手段化と思われた。
しかし、空をかける者達には二重の弊害があった。
彼らの翼の速力というこらえようのない問題。そして、如何に愛騎が乗り手の決意に答えてくれるかの問題であった。
普通、自分より強大そうな相手には肉弾戦をしても、縁がなければそうは答えてくれず、人馬一体の境地とはならない。
そして、スサノオの翼は風よりも早い。どれだけ古かろうが、もっとも強力な風の支配者が持つ翼にはグリフォンにペガサスでも追従できなかった。
捜索は振り出しに戻るか? そう思われた瞬間、一条の矢が飛んでいく。
フォックスがギリギリの間合いから放った一矢である。
肩胛骨の辺りに割れ目をつけるが、それ以上はフォックスも当てられない。
スサノオは天空に消えた。
「拙者のこの七支刀に何か問題があったのだろうか? 富くじで引き当てた品なのだが──」
「それを言うならば、全ての結果を集約できなかっただけで、誰も武運つたなかった訳ではないな」
明士郎の言葉に、らしからず友規が悩む。ともあれ、明士郎は、今回は死者も出なかっただけ、よしとした。しかし──。
「なるほど、冒険者ギルドで課題にされていた訳だ。どうやって攻撃するかが、問題ではなく。どうやって攻撃する距離に近づくかが問題だと」
文字通りスモール・ホルスの翼をも凌ぐ、スサノオの翼。グリフォンやペガサスでは相手にはならない。
涼哉は一件を俯瞰する。
「傷ひとつでは、さすがに全部返してもらう訳にもいきまえんよね?」
冒険者ギルドを通して、事の顛末を明らかにした後、フォックスは、呼び出しを受けていた。
儀礼的な言葉を排除すると、やるだけの事はやったので、太刀を一振り進呈する。
名刀だが、能く人を斬る。これを下賜した意味を考えて欲しい。
フォックスの手の中には村正があった。
受け取った時の彼の表情は冒険者ギルドの記録には残っていない。