海にお帰り
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■ショートシナリオ
担当:成瀬丈二
対応レベル:1〜4lv
難易度:易しい
成功報酬:4
参加人数:9人
サポート参加人数:-人
冒険期間:08月08日〜08月13日
リプレイ公開日:2004年08月16日
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●オープニング
「無料奉仕という訳にはいかんかね?」
「当事者が納得していただければ‥‥一向に構いません」
パリの街近く、セーヌ川に面した小さな村があり、彼はその村の村長である。
ともあれ、その川で『イルカ』が見られたというのだ。
最初の内は皆、大騒ぎと物珍しさから迷い込んで来たイルカに余った魚等を与えていた。しかし、徐々に体調を悪化させている様に見える。ならば、やはりドーバーに返すのが本道という事で色々と村中で頭を捻ったのだが、どうにもいい手が思いつかない。
ここは様々な技能のエキスパートである冒険者に何か、良い知恵を拝借できないかという事で冒険者ギルドの門戸を叩いたのであった。
だが、彼等は知恵も無ければ、金もない。
そこで受付嬢に駄目もとで頼み込んだのだが、結局は当事者間の問題という事で落ち着いてしまった。
「当ギルドは冒険の仲立ちをするのが仕事ですから、お互い納得ずくですから──まあ、冒険募集の羊皮紙が一杯置いてあるだけの所ともいいますが」
こうしてイルカを海に帰す、食事などを村で食べられるだけ以外には報酬が出ないという、一種悲壮じみた仕事が舞い込んできたのであった。
「まあ、こういう仕事はジプシーやバードが向いていると思いますけどね。でも、心根が優しければ誰でも出来るでしょう。ただ、物見遊山で行って食べるだけ食べる、という人物は冒険者ギルドが責任を持って処理しますので、ご心配なく。では契約書にサインを」
●リプレイ本文
河では太陽の下、イルカが漁師と戯れていた。
そこへ冒険者ギルドから派遣された一団が登場。
「いつも好奇心旺盛おちゃらけシフールな、ガルゥおに〜さんことケヴァリムおに〜さんデス♪ ヨロシクね〜☆」
「‥‥と言ってます」
とエルフのバード、フェネック・ローキドール(ea1605)は一同に英国渡りのジプシー、ケヴァリム・ゼエヴ(ea1407)を紹介した。ケヴァリムは自称している通りシフールである。最も、シフールを詐称するのはかなり難しいだろうが。
「ねえ、ねえ、イーちゃん用にこの発泡酒と交換で新鮮な魚もらえないか、って、交渉してくれる?」
「ねえねえ、シフールなんだから、シフール語で話そうよ、シフール語で」
リル・リル(ea1585)がケヴァリムの手を引っ張った。
「ガルゥおに〜さんと呼んでくれたら、話に乗るぜ」
「じゃあ、ガルゥおに〜さん☆」
「くー、いいねその響き──は、もしや俺には妹萌え属性が? よーし、張り切って天気を晴れにしちゃうぞ♪」
「これ、小さき童ども。遊ぶ事よりイルカとのコミュニケーションを図らなくては」
と、やっぱり少女にしか見えない──人間だが──カミーユ・ド・シェンバッハ(ea4238)がレイピアを腰に、涼しげな出で立ちで現れる。
「ボクはそのイルカ──イーさんと呼ぼうね♪」
インヒ・ムン(ea1656)、彼女が琵琶を持って座り込み一曲披露する。銀色の淡い光に包まれるインヒ。
するとイルカは河に潜ってしまう。
「あれ、何で?」
「神は何でも見て居られます。何か魔法を使おうとしたのでは? 魔法などわたくしの故郷では‥‥すみません、最後は戯れ言です」
後ろからクリミナ・ロッソ(ea1999)がインヒをたしなめる。
「イーさんってのが嫌だったのかな? ちょっとチャームしようとしただけなのに‥‥」
「わたくし、図書館で少々調べものをしましたが、イルカは魔法に対する抵抗力が人間よりも高いようですね。それに賢い」
「チャームなんてイーさんをたぶらかすぞ〜なんて言っている、みたいなものだよね」
リルが付け加える。
「ここは僕が一曲」
フェネックが静かに1フレーズ歌うと、彼女も先ほどと同じく銀色の淡い光に包まれる。
(イーちゃんどこ? さっきはごめんね、驚かせたでしょ。僕はフェネック、あなたを海に連れ戻しに来たんだ)
(イーちゃんってぼく? ふーん、ぼくイーちゃんって言うんだ)
(あ〜♪ あ〜♪ イーさん♪ イーさん♪ 何故ここに留まっているんだい〜♪)
立ち直ったインヒもテレパシーの魔法で会話に加わる。
(だって、みんなも優しくしてくれるし、お魚もくれるし、離れられなくて──ボク、イーさん?)
「ねえ、イーちゃんって男の子、女の子?」
リルがどう呼んで良いのか判らなくなってきたので確認を取る。
(うーん、男の子)
「じゃあ、イーくんだね。よろしくあたし、リル・リル。食事が出来て、イルカさんに会えて‥‥。ああもう、イルカさんに会えるだけであたしには素晴らしい報酬だよ〜♪」
そこで銀色の輪を潜るように、イーくんが顔を出す。
こうしてみると少々やつれている様に見える。
「ほら、私の踊りを見て、元気を出して」
サーラ・カトレア(ea4078)が民族舞踊を披露する。
「雅びね」
一言、カミーユも賛えた。
「俺も、俺も」
ケヴァリムも舞いに加わる。
「少しは元気が出たようですね──怯えないように伝えて下さい」
言ってクリミナは着衣のまま河へ脚を踏み入れる。
(何?)
言ってイーくんはクリミナの方に近寄る。
「イルカさん、落ち着いて。わたくし達はあなたに危害を加えたいのではありません‥‥」
言って一同には聞き慣れぬ異国の柔らかげな耳触りの歌を歌い終わると、合掌しながら呪文を唱え、全身を淡い白い光に包ませ、イーくんに手を当てる。
少し楽になったって言ってます、とインヒが伝えた。
「何故あなたがここにいるのか。何故そんなにも寂しげなのか。聞かせて頂けませんか?」
(え、寂しくないよ‥‥みんながいるから。ひとりで魚を捕っていたら、水の流れが面白いからここまで来ただけ)
そこまで話を聞いたところでクリミナは断じる。
「わたくしは医者ではありませんから、確実な事は言えませんが、やっぱり環境が違うのではないでしょうか? わたくしがお借りしたセーラ神のお力だけでは癒し切れません」
そこまで聞いた所でフェネックとケヴァリムは自分たちの当座の仕事は済んだと判断。セーヌの流れに乗り、ドーバーへ乗り出し先行隊と合流を試みる。
ドーバー海峡に先行して航路確認とイルカの群を探している武闘家の皇蒼竜(ea0637)はシフール郵便を受け取り、自分の危惧が当たったのを知った。
「イーくんを海に帰す手はずは整ったそうだ。何をしているアクア?」
水面を飛ぶシフールのアクア・メイトエル(ea4276)は少々めげた様子で蒼竜の駆るボートに合流して話を聞く。
「そうですか。それは嬉しい知らせですね。すいません、ちょっと叫ばせて下さい『海の莫迦ヤロー!』失礼」
アクアはイルカの撥ねた飛沫を探してドーバー海峡を放浪していた。だが、そんな確率論を無視したような話が通じるわけはなく。
海に水の精霊魔法『パッドルワード』で質問をすれば──出来た理由『神様が造った』で最近通ったものがどこに行ったかに関しては船に関するものばかりであった。
船縁に腰をかけて脚を泳がせながら(実際は海に届いていないが)、苦笑する。
「迷子の迷子のイルカさん‥‥私達も頑張ってお手伝いしますけど最後はあなたの気持ちですよ♪‥‥諦めないで一杯努力してくださいね‥‥なんて、言葉わかりませんね」
「大事なのは気持ちだ‥‥」
「どうしたんですか蒼竜、赤くなって、可愛い、あ──」
そこで彼女が見たものは?
イーくんを海に連れ出すための船とそのスタッフを借りる為に相応の給金を出そうというカミーユの厚意を、漁民は自分たちもボランティアで頼んでいるのだからと断り、無料で船を出してもらう事になった。
背鰭にリルが跨り、水しぶきに歓声をあげる。
「がんばれ、イーくん」
弦に寄って来るイーくんにカミーユが目を細めて手を当てるが、予想外に荒れているのに眉を顰める。
(イルカってこうもっと滑らか肌というイメージ──でも、やはり水が合わないという事?)
もっと魚をと人おじせずにねだるイーくんに痛々しさを感じるカミーユ。だが、マントを銜えられ、思わず川面に引きずり込まれる。
「やりましたねー、こら」
「そっちでがんばらないで海に行こう、ね?」
そんな光景を微笑みと共に見つめるサーラ。
「海だ〜♪ 海だ〜♪ キミの故郷〜♪ 母なる豊穣の場〜♪ さあ行こう〜♪」
インヒが琵琶を弾き語りつつ、河を下っていく
そんな彼等をセーヌの淵で待ち受けていたものは蒼竜とフェネックのボートとイルカの群であった。
「迷子が出たから心配していたって!」
フェネックが潮風に負けずに喉を振るわす。
親らしいイルカがイーくん目がけて泳ぎよりカミーユの周囲を泳ぐ。
光が乱反射して銀色の輪が彼女を包む。
バードたちはそれが幸運の象徴だと伝承から知っていた。
(さようなら。村の人たちにはありがとうって伝えてね)
イーくんはそう伝えて泳ぎ去ろうとするが、クリミナが引き留め、額に手を当てるとセーラの加護を祈る。
「あなたの行く海がいつも暖かい様に──『グッドラック』」