僕より幸せな奴は嫌な奴だ、特に晩秋
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■ショートシナリオ
担当:成瀬丈二
対応レベル:フリーlv
難易度:易しい
成功報酬:0 G 78 C
参加人数:4人
サポート参加人数:-人
冒険期間:11月20日〜11月25日
リプレイ公開日:2009年11月29日
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●オープニング
八王子近くの宿屋で金剛亭で散財しながら逗留する風変わりな天界人は杣柳人(そま・りゅうと)少年と名乗っている。
この宿屋では、どこからか資金を出しているのか判らないにも関わらず、延々と長逗留を続ける彼は、マレビトというにも変わった存在であると周囲に名が立ち続けた。
先日も高尾山で騒ぎを起こしたというまことしやかな噂もあるが、高尾山を襲った程度でこれだけの富が手にはいるはずはない。
そもそもにそれ以前から金は出している。
もう、この栗色の髪の少年、目を何か、ギヤマンの板で覆い、形の良い足を見せる洋装の上からどてらを羽織っている。英国人である西洋の血が入っている為か、色白でそばかすの目立つ姿はこの旅館のひとつの風物詩として受け居られるようになった。
「もう──時間がないよね」
深刻気に呟きながらも柳人少年は同時に考えていた。
(悪の魔王を倒したなら、地球からの勇者は帰るのが定めの筈、帰れない? まだ要件が残っている?)
そして柳人は思考を切り替えた。
「山菜づくし──で、ございますか?」
「うん、山菜づくし。材料は自分で集める、冒険者だったら料理は出来る人が多いかな?」
柳人の考えは少々時宜を違えている風もあるが、八王子の自然にはそれだけの余裕があった。
五穀は江戸での長い戦のため、徴収されているが、山には入り、野を分け入れば文句を言うものの桁数はぐっと下がる。
もっとも文句を言う前に熊などと勘違いされて、射殺される可能性もある。
それでも、江戸に行くよりは、ローカルであるが、地道な道かもしれない。
早めに行くことをおすすめすると、女将は助言した。
八王子は夏暑く、冬寒い。
「多少は大丈夫だよ。昔も異世界で冒険者だったんだから」
柳人はそう笑って、知り合いに手紙をしたためた。
「友達の助けが多少はあるから」
言って、柳人は咳き込んだ。
八王子の宴会が始まる。
──ラスト1!
●リプレイ本文
(ふむ、ツッコミがいがある若人だ)
初冬に山菜詰みをしよという杣柳人をみて、三好石洲(ea2436)は一呼吸突いた。
八王子は現在、源徳がらみの諸々によって、大事の多い鎌倉から、北に位置していたが、見事な前に緊張感の消え失せた状況である。
「柳人殿。春に芽を摘むのが一般の山菜積みです、しかし──現在は秋。秋の山菜詰みとなればキノコ狩りとなります。キノコづくしという事で良いでしょうか?」
石州は柳人のガラスに覆われた瞳に、いささか珍奇の香りを感じたが、表情には出さず、パラ並みに小柄な少年と視線を合わせた。
「あ、そうなんだ。昔、何かの本で読んだ事があったから、勘違いしていたみたいだね。じゃあ、キノコ尽くしという事で」
「アーメン」
厳かに石州は唱えた。
「贅を凝らした、料理も続くと飽きるでしょう。家庭料理も手伝っていただけますかね?」
石州は茶目気に溢れた笑みをこぼした。
「はいっ」
「えっと、じゃあ、キノコとかの山菜を取ってくればいいの?」
ジェシュファ・フォース・ロッズ(eb2292)にとって山菜取りは得意分野であった。何と言ってもロシア育ちである。少々の雪なら通常度お降りに行動できる自信があった。森となっても、土地感もあるし。高い植物知識にフライングブルームの馴れ、と鋭い視力と殆ど、北方万能型を体得していた。
尤も山菜や薬草採りのマナーとして撮り尽くす事はしないとう、天界人風に言えば紳士ぶり。
更についでに薬草を採ってくる、と誰にも言わずにフライングブルームの上の人になる。
積載重量と、森の恵みのバランスを逸しない程度に取ってくるつもりだ。
ジャパンでよく食べられている山菜は元より、ロシアやヨーロッパで食べられる種類があれば必ず採ってきて、妹のエリザベート・ロッズ(eb3350)に任せるつもりだ。ともあれ ジェシュファ自身は料理はからっきしなので山菜料理には手を出しません。
こういう所は兄妹なのかもしれないが。 エリザベートも料理はからっきしだった。
「料理は駄目だけど、薬草は調合してあげるわね。この程度の寒さはロシアでは珍しくないわよ」
言って咳き込む、柳人に葛湯を勧める。
傍らに佇むルーフォン・エンフィールド(eb4249)は、山に分け入り、キノコを詰んでくるつもりであったが、中途半端な能力では ジェシュファの機動力を損ねるだけだと判断して、万が一に備えて、解毒剤を渡すにとどまった。
(ほんと、形だけ──なんだよね)
ルーフォンは自分のやっていたコンシューマーRPGに準えてか、柳人に話しかけた。
「何か柳人くんは自分がどうしてこんな所まで来ているか、悩んでいるようだけど、それは僕もいっしょだね。
アトランティスでは土地は違えども、一応『カオスと戦え』って、イベントがあったけど、色々考えて渡ってきたジ・アースで、こちら側でもルシファー騒動が終わって、多分その中で大きな役割を果たせなかったと思う。
一応倒しきれなかった、中ボスっぽいマンモンを潰してモンスターのデータのコンプリートしろというのかな?」」
「ふむ、大魔王が中ボスとは奇っ怪な。それ相応の役割があるだろう」
石州が仮にでもマンモンを良く判らないが、中途半端な力量しかもっていないと、判ずるルーフォンの言葉に納得はいかなかった。
「もののたとえでしょう。いろんな怪物の資料があれば、今後似たような魔物が出ても対処できるかもしれないわあ」
どうも、ジーザス教徒の人とは話しづらいと、ルーフォンは思いながら──。
「確かに悪い奴を、倒せというのは判るけど『世界を救え』と『残敵処理』と言うのは落差が大きいよね。まあ、ジャパンだけっていう枠を考えての事なら本筋に残された自分にとって、そこそこのレア度かもしれないけどね。
やっぱり、来年には地球に帰れるのかな?」
とルーフォンが言おうとした瞬間、柳人が飛びつくようにその手首を握りしめた。
「本当、本当に『地球』に帰れるの? だったら、だったら、マンモンと契約なんかするんじゃなかった──!!」
一同の中を戦慄が占めた。
石州が腕を組んで、精神集中すると、おもむろに問いただした。
「それは誠ですか?」
「はい」
信じられないという表情でルーフォンも問いただした。
「本当は地球に帰れるけど、の後に『──噂だけど』と、つけるつもりだったんだ。やっぱり、柳人くんは横浜に帰りたかったんだ」
「うん、本当に帰りたい。でも、帰れないから、魂を切り売りして富を得たんだ。
マンモンは言った。俺は天界に帰る方法は知らない。しかし、おもしろおかしく楽しむために単に金が欲しいというだけなら契約しろ、契約せずに金だけを欲する者には偽金をくれてやったが、魂を売ってまで欲しいというなら、それは真性の黄金だ、そして、十六回、魂を捧げたら、お前もデビルの仲間の一員に早変わりだって」
「魂を捧げるのって、何か期日とか決まっているの?」
エリザベートが目を細める。
「今度の24日、クリスマスイヴ──」
ルーフォンはとんでもない所で語りかけたかった。
大丈夫、柳人くんはロシアできっと平和に暮らせるよ。
未来は僕らのためにある。
多分──だけどね。
「た〜だいま〜、一杯だったよ。やっぱり、高尾山で地の精霊力に何かあったのが、原因なのかな」
ジェシュファが台所を経由して、山菜を降ろすと、皆が沈痛な表情を浮かべているのを察した。
「どうしたのかな? みんな」
事情を聞くと、 ジェシュファも厄介ごとが飲み込めた。
「大いなる父の試練だね。でも、試練に友人が友達が力を貸してはいけない、とも大いなる父は言ってないね。この期に及んで聞くべき事は、対処するか、放置するかそれだけだね」
一同の答えは聞かれる前から判っていた。判りすぎていた。
──神聖歴1006年に向けて冒険が進化する。
これが冒険の顛末である。