僕は未来はとっても幸せだ──極寒でも
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■ショートシナリオ
担当:成瀬丈二
対応レベル:フリーlv
難易度:易しい
成功報酬:4
参加人数:4人
サポート参加人数:-人
冒険期間:01月15日〜01月30日
リプレイ公開日:2010年01月23日
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●オープニング
杣柳人(そま・りゅうと)少年は生まれ変わったように幸せであった。
未来の縁続き(少なくとも柳人はふたりのアプローチをうれしく思っていた)の兄妹(見た目は姉弟だが、エルフの血はいたずらな物である)から、マンモンとの借金を清算して、その後の生活のために大量の金を借りたが、オークションでエチゴヤで様々な相場を漁り、徐々にだが返すあてに目処をつけつつある。
他人からの金で投資する、その行為をする柳人少年は見る人によっては『ヒモ?』と、一言で形容されかねない立場であろう。
しかし、魂を取り戻した事で、健康を取り戻し、すきま風吹き込む長屋でも、マンモンに魂を売って得た黄金で借り切った宿屋よりよほど心地が良かった。
「後はもう少し身長が欲しいなぁ」
身長の低さは時間が解決してくれるとは限らない。まあ、未来は未知数で、ひょっとしたら、10年後には身長を2メートルを超しているかもしれないが、それはそれで別の解決を必要とするだろう。
「さて、ぼくの未来にはどんな予定が待っているのかな?」
眼鏡も取り上げられ、スニーカーも失い、天界の存在全てを取り上げられた柳人少年はストレッチしながらつぶやいた。
天界──いや、地球への望郷の念は薄れつつあった。
ようやく幸せと感じられるようになった少年の旅立ちである。
●リプレイ本文
──先日、風雲急を告げる(ここ二三年は枕詞の如きものであるが)江戸で、群雲龍之介(ea0988)は感心していた。
(そうか杣殿は、そんな大事に関わっていたのか。ともあれ、年を越した事で色々あるだろう。すこしの手助けをするか)
天界人から『地球』には、築地に生鮮市場が存在しているという噂を聞いていたが、ジャパンの江戸には日本橋が本場である。しかし、伊達政宗が進撃したりといった中では、生鮮物も風味が落ちるという物。
「ふむ、この季節といえば──鍋だな」
そして、舞台は移り八王子にて、龍之介は、柳人とジェシュファ・フォース・ロッズ(eb2292)と、エリザベート・ロッズ(eb3350)、そしてルーフォン・エンフィールド(eb4249)といっしょに掘りごたつを囲んでいた。
「うわー、大根がほっこりしているよ!」
ルーフォンが器用な箸使いで、たっぷり鰤の旨味を吸い込んだ大根を縦に裂く。
「これでジャガイモがあればよかったのだが」
噂に聞いたジャガイモなる野菜が、情報が天界のものであった事に落胆している龍之介は些か微妙な表情。
「どうして、本当に天界とジ・アースって、そっくりなんだろう。不思議だよねぇ〜」
ジェシュファは天界の地理に感して聞けば聞くほど(ジ・アースで未踏の地は多数あれど)、相似ばかりが増えるのが余計に気になる。
「でも、良かったよぉ〜。柳人も元気になってというかぁ、健康を文字通り取り戻して。これで天界の事もまだ聞けるし」
柳人に話を振ったジェシュファは先ほどに、借金を返す『秘策』として、エチゴヤのオークションを活用する、と話を振ったのだが、この戦乱でエチゴヤも色々合ったらしく、オークションなども閉鎖の道をたどったというのを少々申し訳ないと思っていた。
「ほんとにこの“ちんちくりん”は年相応の好奇心というものを持てないのかしら」
「人間、探求心を失ったらお終いだよねぇ〜」
「まあ、その“ちんちくりん”の言葉は間違ってないわ。でも、お金も大切だけど、心身ともに健康であってこそなのよ」
牡蠣の旨味を吸い込み、溶き卵にて封じた雑炊を、柳人に取り分けながらエリザベートは念を押す。
「そうだよね、実際。マンモンと契約を結んでいた間はどんなに金が合っても、それを使い切らなければ──‥‥って呪いがどうとかいうじゃない、追い詰められた精神状態で──だからマンモンに見込まれたのかもしれないけど」
無言のルーフォン。マンモンとの魂のやりとりの件では、色々と兄妹に突っ込まれているので、当人としては蒸し返したくないらしい。
(やっぱり価値観が違うのだろうな──僕が持っている知識は、このジャパンには大きな物、でも与えられた知識でどれだけ幸せになれるのだろう)
自らに問い続ける事をやめない、ルーフォンの傍らで龍之介が柳人に宣言する。
「杣殿、これからも楽しい事や辛い事等色々な経験をして生きるだろうが決して杣殿は一人では無く、ジェシュファ殿、エリザベート殿のロッズ兄妹、そしてルーフォン殿が傍に居てくれるだろうから「心配するな 俺も時折で良ければ力になるぞ〜」
「時折?」
柳人は小首を傾げた。
「なーに、冒険の合間に人生を行っているのでな」
龍之介の言葉にジェシュファが繋げる。
「僕は柳人君がどうしたいか、だと思うけどね。考え過ぎるって事はないだろうから、ここはじっくり考えてみたらどう?」
「とりあえずは北に行こうか、と今の所は考えているけど」
「そうね、住めば都ってね。真冬は厳しくって、色々大変だと思うけど、慣れれば大丈夫よ」
柳人の言葉にエリザベートがつなげる。もはや彼女の中では既定事項らしい、これからしばらく、彼女の中で、相場を下げた柳人の地力を叩き上げるのだろう。
一方で、ルーフォンは問い続ける。
多分、地球に、そして香港に帰る事はないのだろう。だけど、僕は歩く事をやめない──(僕がどこから天界人で、どこからアトランティスの民なのか、そしてどこからがジャパンの民なのか。それはきっと、テセウスのパラドックス、あるいは赤い絵の具に青い絵の具を混ぜていって、いつ紫になったか、いつ青になったかを問うようなものかもしれない)
テセウスのパラドックス──それはギリシャの英雄、テセウスの船が三十年の月日の内に全ての部品が交換されれてしまった、それでも、その船は三十年前に造られた船か、という謎かけである。
多分、ルーフォンの意図は、数年前に地球からアトランティス、そしてジャパンの江戸へとやってきた自分が、過去の自分と同じなのか? という意味なのかもしれない
そして、赤い絵の具に青い絵の具を垂らすが如き変化は、構成する要素がどこまで変わっていっても、それはどこから違う物なのか? そもそもその基準は正しいのか、という意味であろうか?
だからルーフォンは問う事をやめない。
「天界でも、ジ・アースでも、僕は問いかけるね。
『幸せは犠牲なしに得ることはできないのか? 時代は不幸なしに越えることができないのか?』って」
「それは問いかけ、尚かつ行動をやめない事ね」
端から見れば突然飛びだしたルーフォンの言葉にエリザベートがつなげる。
「そうだよねぇ『今まで』出来ない事を理由に努力しなければ、判らない──ひょっとしたら出来るかもしれないし」
「そうだな。俺の出来る事は拳を振るう事、ただ一つ。そして、ここが歴史の転換点だろう」
ジェシュフェアの言葉を受けて龍之介が宣言した。
そして、しばらくジャパンは様々な転換点を迎えた。
後にキエフに渡った冒険者の中に、杣柳人の名前が在ったという。
これが全ての冒険の幕引きに関する顛末である。