●リプレイ本文
小金持ちの調達した船が進む。一週間の充実した船旅である。
「うーみーがー好き───────っ!!!」
脇に釣り竿を置き、上半身裸に晒しを撒いた侍ジャイアント、それは感激の意も含めて叫ぶ漣渚(ea5187)であった。
エレアノール・プランタジネット(ea2361)も続けて叫ぶ。それは野性の目覚めであった。
「カニの次は鳥か? 食えそうなものばかり相手に冒険してるな俺」
「さすがに鳥でも食えないだろう。人の頭が付いていては」
との、デッキでのロヴァニオン・ティリス(ea1563)の言葉に、警鐘を鳴らすモンゴルドワーフのファットマン・グレート(ea3587)。
「ま、今回は担当する班が違うから、会うの船でって事になりそうだな、武運を祈ろうぜ」
ふたりの視界に小島が入ってくる。
ここが今回の冒険の舞台だ。
「拘束日数は15日もあるのに、作戦期間はたったの1日って‥‥えらい強行軍だな」
とは最年少の飛刀狼(ea4278)の弁。
「いえいえ、期間が長くてやりがいのある難しい依頼、私大好きですよ! しかも今回は海でバカンスですか。イイですね〜」
レイ・コルレオーネ(ea4442)が開けっぴろげに語る。
冒険者一同は2隻の小舟に分乗して、東西南北の上陸地点へと進んでいく。
北から降りた一同はまず、ロヴァニオンにアルス・マグナ(ea1736)、そして陸奥みらん(ea3920)。続けてアルフォンス・スティバス(ea5064)と呉菜であった。
一番の大所帯であり、ここが真っ先に打撃戦に長けたハルピュイアを相手にしようと言うのだ。
ギルツ・ペルグリン(ea1754)がアルスに降り際に囁く。
「『頑張って、無事に帰ってきてねっ☆』アレからの、伝言だ‥‥」
仲間達が船から出るのを見届けて、彼等は攻め入った。
そこでアルスが借りてきた鍋を大きく打ち鳴らし、戦線布告する。
「これで寄ってくれば楽なんだがな〜」
奇襲に備えていた、みらんが悲鳴を上げる。
「くひーひっひひぃ」
下劣なハルピュイアの笑い。
風下から潜入してきたのだ。
既に上陸の時点で目はつけられたのだろう。
両方の爪の見事な連係攻撃で、みらんを瞬く間に病と傷で蹂躙する。
弱そうな者から集中的に狙うという如何にも下劣な輩の所行であった。
呉菜が彼の身をかばいつつ、リカバーポーションを飲ませる。
傷は治ったが、病までは癒せない。
「あ、ありがとうございます──風下に立ったがうぬが不覚よ──忍法春花の術!」
印を組むと、全身から汗を垂らしつつ、全身が淡い煙に包まれ風上から風下に向かって無味無臭の香気に包まれる。
眠気を催したハルピュイアも地面に落ちる、もっとも落ちた衝撃で目を覚ましたが。
熱病の中、無理を押して忍法を使ったみらんは失神する。
だが、その時間にも詠唱しているアルフォンス。
淡い茶色の光に包まれて、掌から一直線に黒い線が延びる。地面に落ちたハルピュイアを打ち据え、立ち上がるのに時間を要させる。
だが、そこをアルスが同じ魔法で追い打ちをかける。
今度は相手は転倒するまでは行かなかった。だが、ダメージは着実に入る。
「おし、美味しい所は独り占めだ──まるでナイトみたいな台詞だ」
言ってロヴァニオンが飛び立った瞬間を狙って近づくが、相手は倒れた振りをしていたらしく、唐突に飛びかかり、両脚の連携だった攻撃で受ける暇を与えない。片方の爪が上腕部を切り裂く。
普段のロヴァニオンならこの程度の怪我はどうにかなるものだが、負傷による体力の低下がこの結果を生んだ。
「だあぁぁぁっ、きったねえなっ! 不潔な奴はモテねえって誰か教えとけ!」
言って闘気を練り始めるが、頭を占める熱病がそれを妨げる。
だが、アルスの超高速の詠唱が決まり、ハルピュイアを地面に叩き落とす。
追い打ちをかけるアルフォンス。
時間をかけて気を練り上げたロヴァニオンが止めをさし、北方での戦いは終わりを告げる。
「悪いな〜これも仕事なんだ〜。ま、船でレシピを貰ったのは余録さ」
「運がなかったな‥‥時間があれば切り刻んでわしの研究材料となれたものを」
アルスとアルフォンスがハルピュイアの亡骸に向かった囁く。同じウィザードでもこうも違うものである。
このまま東に転進するべきだが、事実上、行動が取れないものがいると、足手まといに成りかねない。
狼煙は上がらなかった──。
南部方面──。
シン・ウィンドフェザー(ea1819)は己の力量を見誤っていた事に気づいた。
猟師としての腕も、素人の粋を出ず、ハルピュイアに関するモンスター知識にしてもギルドでレクチャされた事以外は何も判らないのだ。正直、彼の肩に乗っているシフールのエレアノール・プランタジネット(ea2361)の方が森などの知識を確実に持っている。もちろん、シンが覚えているのが、猟師として必要な全ての技能であるから、狭く深くの彼女と比べては虎とライオンどっちが強いのか? レベルの問題であるが、現状、役に立っているのは彼女であった。
そして空中に彼女が舞い上がり、魔法で拡大された視力が捉えたのは黒い翼のハルピュイアであった。
彼女は魔法で手近なものが見えないながらも、周囲を羽ばたき立派に囮の役を果たそうとしていたが、空中ででの速度は圧倒的にハルピュイアの方が勝っており、合えなく爪の餌食になり、羽根を掻きむしられ地上に落とされる。
無論、熱病も患っている。
渚はそんな彼女を右手で受け止めた後、草原に横たえると、鞭を構え、左手のナックルも握り直した。
「さあ、おこしやすハルピュイア野郎ども!! ジャイアント1度は死ぬもんや!」
十分に引きつけた所へ魔弾の射手の如く、アウグスト・デュバイユ(ea5847)が引き絞った鉄弓の矢を射放った。鋭い音を立ててハルピュイアに食い込む。
そして、鋼の弓を引き絞り、2度打たれる前にハルピュイアはアウグストの元へ飛び込む。
だが、シンがそれを阻む。
間に割って入り、爪の攻撃を受けてしまう。見事な脚裁きを活かすには修練が十全に必要であろう。
だが、自らに食い込んだ脚を一刀の下、両断と考えたが、シンに単純な案が浮かんだ。
ハルピュイアの首は落ちて転がった。
そして、シンも自らが心身ともに不安定になり、熱病にかかった事を知った。
狼煙を上げる事に関しては、やはりこちらの面子が思ったより重傷なのを考えて、援助には向かわない事にした。
ミイラ取りがミイラに成りかねない。
「前回はあっさりとマミーの呪いを喰らっちまったが‥‥今回もやられちまったか!」
ギルツは辛うじてハルピュイアの奇襲を逃れた。まさに僥倖である。
しかし、続く爪の連撃を捌ききれない。
爪が深々と肩を抉り、鮮血を溢れ出させる。しかし、病には辛うじて耐えた。
「伏せて!」
そこへエルフのシルバー・ストーム(ea3651)が船の中で造っていた。手作りのボーラを投げるが、やはり素人造りの悲しさか、途中で空中分解する。
レイがそこに警戒の声をあげた。
「狙われていますよ!」
鬼女の形相も明らかにハルピュイアがシルバー目がけて突き進む。
その間にもレイは呪文を唱え、全身を淡い赤い光に包ませる。
燃える闘魂も露わにレイが顔を上げる。
「さあ、次の魔法だ、と言いたい所ですが、そんな暇なさそうですね」
ロングボウの準備で手一杯な所を、ギルツはジャイアントソードとダガーという間合いをまるで掴めなくなるような得物で立ち回る。
ジャイアントソードの一撃は若木を一撃で伐採し、精密なナイフ捌きは攻撃は確実にハルピュイアの移動可能領域を狭めていく。
「体力莫迦にはこれで十分だ!」
赤毛の長身が跳び、跳ねる。そこへレイのナックルがうなりを上げる。
「戦いとはこういうものです」
だが、長丁場の戦いでふたりとも鍵爪に抉られ、流血を余儀なくされ、病魔に冒された。
「倒れれる訳にはいかない──必ず帰ると、ルフィスリーザに約束したんだ」
熱病で浮かされたようになりながら、ギルツは武器を構え直す。
一方で、片手をナックルに填めたまま、レイは木を昇り制空権を奪取しようと試みた。 だが、木を昇ろうとするレイに襲いかかるハルピュイア目がけてシルバーが狙い澄ました一撃を射る。
続けて二本、三本。
醜女の顔と口汚い顔を露わにハルピュイアは地面に落ちた。
ギルツは首をはねてようやく勝利を確認した。
だが、シルバー以外熱病にかかり、満足に動けない現状で、ハルピュイア討伐の証の狼煙を上げるわけには行かなかった。これは倒したという合図と共に、援護に向かうという希望でもあるのだから。ぬか喜びさせる訳にはいかない。当てにならない戦力を期待されても困るのだ。
最後の狩り場、東部。
地図らしい地図はなく、東部という怪しい境界線のない一帯を狼、マリー・アマリリス(ea4526)達は歩いていた。
狼はボーラを聞いた話だけで造っていたが、何の匠の技もないのでは無謀だったろう。だが、流派を決めかねている彼に取っては、そこに至るまでの時間は一秒でも惜しい。その駆け引きの中で造られた品であった。
ファットマンとエレアノールという心強い仲間もいたが、
だが、ファットマンが皆の服を磨き上げた銅貨で飾り立て、光り物の好きそうなハルピュイアを誘き出すという先鋒に出たが、周囲の者はそれを遠巻きにせざるを得なかった。
「羽音──?」
狼が闘気を練ろうとしたが、それより先に相手の動きを止める為、ボーラを投げる事が先決だと判断。
「上手く絡まってくれよ‥‥、っせい!」
ボーラを投げようとするが、飛び道具の素人の彼は自らの腕にボーラがからみつく痛みを感じる。
「危ない!」
言ってファットマンが突き倒し、革鎧を破り、爪が食い込み、病をまき散らす」
しかし、返す剣で、ハルピュイアに突きを入れる、飛び散る羽毛。
その時に闘気で士気を高めた狼が連打を上から下へと決めるが、まるで当たらない。
根本的な技量が違いすぎるのだ。
「畜生!!」
だが、そう言って殴りつけた相手は氷塊であった。
ファットマンの命がけの剣技で弱らせた相手をエレアノールが近寄り、魔法の氷で封印したのだ。
マリーも確保していた水源から清水を以てファットマンの傷口を清め、その上で治療する。
「真っ先に狙われるのは私だと思ってましたのに‥‥でも、狼君の方が小柄で食べやすいと思ったのでしょうね。10才くらいでしょうから──」
「──12」
「は?」
「俺はもう12才だ。年末で13になる」
憮然として狼は応えた。
この頃、夕陽に向かって。
「うーみーがー好き────────────っ」
という渚の魂の絶叫が聞こえたのは皆、スルーしていた。
この後、彼等は不審に思った船の乗務員達に助けられて、互いがノルマをクリアしたが、その上で動けなかったという事実を確認。互いに全滅では? という最悪のシナリオは回避できていた事を知り安堵する。
熱病の患者もパリに到着する頃には治るだろうという見立てもあり、怪我もマリーが懸命に治したことで安堵の空気が周囲に流れた。
「せわしないな。このままバカンスとしゃれこみたいんだけどなあ」
「かったり〜、俺たちもバカンスの一つでもしたいものだな〜」
とロヴァニオンとエルドが不謹慎(?)な発言をしたことに対して無事な面々は夏の海を満喫したのであった。
‥‥いいなあ、バカンス‥‥控えめなカレリアの弁である
ギルツは島の薬草を採取しようとしたが、ハーピー退治ならいざ知らず、単に薬草を採ろうというのは、歴とした窃盗であるとレイとシルバーに諭され、それをやったら本気で冒険者ギルドの依頼に乗せると、皆から猛反発を喰らい、釈然としないままギルツは諦めたのであった。
一方、シンも苦笑いしながら──。
「‥‥…やれやれ、やっと揺れなくなったと思ったら、また1週間船に揺られんのか‥‥ま、のんびり休暇と洒落込むか」
「行きも一週間、帰りも一週間か‥‥。帰りは何をする必要もないから、のんびり釣りでもしながら帰るか。‥‥あの爪にやられてなくて幸いだったな──ファットマンには悪いけど」
少年は自分を助けてくれた恩人に美味しい魚を届けようと思った。