●リプレイ本文
『白い白馬は見たことあるが、黒い白馬と出会えない♪
黒い白馬は何処にいる? 黒い白馬は何処にいる?』
エドガー・パスカル(ea3040)は横笛を手に街道を行く。依頼主ゼモスの館で聞いた言葉を胸に秘める。
マリウス・ドゥースウィント(ea1681)、エリス・エリノス(ea6031)と共に訪れたゼモスの館。
「ペガサスをモデルにしたいという熱意が伝わらなければ首を縦には振らないでしょう」
「そうですね‥‥ジーザスの教えに従い生きていた画家ならば、善にして美しいものがあれば、それを自らの手で再構成して、絵として更に高めたいと思うのは当然じゃありませんか? もっと、複雑なものもありますけれど、それを言葉に出来たら画家ではなく、詩人になっていますよ」
理屈では詭弁のようなものを感じたが、唐突にこのような問いをぶつけられた困惑と純粋さをエドガーとエリスは感じた。
そして、1枚だけ残された彼のユニコーンの絵を見せられたマリウスは感動のあまり涙を流した。
「すばらしい、この荘厳さと躍動美に溢れた‥‥いや、そんな言葉では片づけたくない。この様な絵を描いて頂けるなら、私もペガサスになりたい」
この1枚を残して、全ては教会に奉納しているという事だ。
一方、ミラファ・エリアス(ea1045)とリューヌ・プランタン(ea1849)が当のペガサスを見かけて歌にしたというバードを見つけて、詳しい話を聞きたいと一同が集う場所に連れてきた。
「ペガサスを探しているのです。その時の状況・場所など詳しく教えていただけませんか?」
リューヌの言葉に手を打つのは天薙龍真(ea4391)、ペガサスが出たという森を調べる意欲ばかりが先行して、肝心の森の特定を怠っていたのに、ようやく気づく。そこで彼が細かく質問して、ペガサスの目撃場所を詳しく聞き出し、場所を絞り込むと、早速一同はパリから離れていく。
その最中、李斎(ea3415)が姉御肌ぶりを発揮する。ギルドに入りたてのルリ・テランセラ(ea5013)が保存食を買うのを失念して、旅に出たのを知ると、皆の食事から少しずつ分けて貰って彼女に用立てた。
「ありがとうございます、皆さん。きっとルリはお役に立って見せます」
「なーに、これくらい軽いもんだろ、みんな?」
賛同の声に照れて、髭に付けた髪留めを弄る斎。
「ルリ、あたしがついてるさ。心配しなさんなって」
ラヴィ・アン・ローゼス(ea5780)はほぼ丸ごとの保存食を渡す。
「あの‥‥いいんですか?」
「清貧を守る良い機会です。ペガサスに会うまでは精進潔斎するつもりですから。しかし、モンスター知識全般に関する深い造詣がないと、クレリックの自分でもエンジェルに関しては判らないものですね」
などという会話を後ろで聞きながら斎は──
(仲間を護るにしてもペガサスを護るとしても護衛が少ないかも知れぬな。気を引き締めねば‥‥)
同様に護衛に回りながらも、道の所々に小さな旗を立てつつ──。
「ここは我々の領土だ! ‥‥‥‥ああ、真の戦士からかけ離れていく‥‥」
と嘆きながら呟くオルステッド・ブライオン(ea2449)も一同の防衛をすべしという考えでいたが、ひとつの疑念が沸いた。
(バードひとりが行って、帰れる様な場所にはたして危険があるだろうか? 自分のような‥‥もとい悪辣な追い剥ぎやモンスターのいいカモになりそうな気がするが)
「どうしたしました、兄さん」
そんな彼にクリシュナ・パラハ(ea1850)が声をかける。
「少し自分の行動に疑念をいだいた」
「それは良くない‥‥ところでペガサスはどんな食草を好むのか、予想がつかないので、少々困っているのですが、どんなものでしょう」
「自慢ではないが、知恵袋に相談されても困る」
「何をやっている? そろそろ鞍袋の整理をしたいのだが」
アマツ・オオトリ(ea1842)がふたりに声をかける。
「あ、ほーちゃんね、ちょっと──」
と言った所で盛大に転倒するクリシュナ。それを見て、諦観のため息をつくオルステッド。
森の入り口の所で数組に分かれて、ペガサスの居場所を探すことになった、さすがに10名を越す大所帯では深い森の中では身動きが取れない。
ピチュア・リティ(ea5038)がシフールならではの機動性と森の土地勘を活かして、パートナーのティアラと森に踏み込んでいった。
エリスも石を削る手を休め、草々の香りをかぎつつ、森へと分け入る。
他の面々も分け入ったが、ピチュアとエリスが偶然同じ場所で遭遇した。懇々と沸き出る泉と薫り高き草。そして、馬の蹄の跡。
一同は一旦森から出て集合、その日の成果を話し合い、ペガサスが現れるとすればそこではないか? という点で一致した。
そして、夜明け直前からこっそり移動し、泉の周辺に陣取る。
正午、白い翼を広げた見事な馬が空から舞い降りてきた。
「ペガサス、実際に見る機会があるとは‥‥私は幸運です」
リューヌが呟く。
緩く旋回するとペガサスは大地に降り立ち、エリスの足跡に着目し、しばし吟味しているようであった。
そこへ──。
「慈愛紳の威光を伝え、天を掛ける純白の翼よ。貴方を目にし者は幸いかな。されど願えども見舞う事あたわざる者多し。彼の者に御身の姿を思い描く機会を与え給え。ゼモスなる絵師はその術で御身の姿を写し取り、多くの者の心に御身と慈愛神の威光を広めしうる者なり」
「何者?」
ゲルマン語で誰何するペガサス。語調からして女性のように思える。
マリウスがゆっくりと立ち上がる。
「ノルマンの騎士、マリウス・ドゥースウィント。あなたに憧れるもののひとりです。しかし、今は一介の使者に過ぎません」
「神聖騎士として、あなたにお会いできたこと光栄に思います‥‥今、病に冒された一人の画家が、バードの歌うあなたの姿に感動し、力を得て、その姿を描き教会に飾ることでより多くの人々の力となることを願っているのです。ぜひ私たちと共に来ていただけないでしょうか?」
そこへリューヌが何時も通りの姿勢の良さで腰を上げ、誠心誠意言葉を尽くした。
「はじめまして、バードのエドガー・パスカルです。しばし時間を頂けますか?」
「いいでしょう」
「本物を見れなくても‥‥本物をそのままに写した絵が、教会に飾られれば、いつでも貴方にお会い出来ます。翼持つ白馬に憧れている者は、とても多いのです。夢、と言っても、良いかも知れません。どうか、絵を、描かせてあげて下さい‥‥」
ミラファも感動に浮き立ったまま、ペガサスに告げる言の葉を探す。
「我々は貴方に危害を加えるつもりは無い。いや、むしろまったく逆で、真の戦士のために力を貸してくれるという、貴方の力を借りたいんだ。パリ郊外に絵というもう一つの戦いに取り組んでいる男がいる。彼の元へ行き、教会に奉納する絵のモデルとなって欲しい」
沸き立つ興奮にオルステッドを逆に鎮めるようにペガサスが微笑む気配を漂わせた。それはラヴィの腹の音によってだった。
「失礼。エンジェルに会うのに俗世の垢にまみれたままでは失礼と精進潔斎してきました」
「お願いします。どうか、絵のモデルになるため、画家の館に来て下さい。セーラ様の為に。これが私の精一杯です」
冷静に告げるサーラ・カトレア(ea4078)。
興奮にルリは目を煌めかせる。
「ペガサスさんの事を想って純粋にその人は絵にしたい夢を叶えてあげたいから‥‥だからどうか少しだけ力を貸してください」
と手を小さな胸に当ててペガサスにお辞儀した。
「あなたの絵を描いてみたい画家がいるんだって。話だけでも聞いてもらえないかな?」
ピチュアはそう言った後、舌を出して──。
「あなたが危険を感じたら逃げてもらっても構わないから‥‥あたしを信用してついてきてほしい」
と付け加える。
シャルロッテ・ブルームハルト(ea5180)もそれに賛同するように必死に頷く。
ラヴィは厳重に見せたいものがあると断って、梱包したユニコーンの絵を出した。
「あなたの美しさを一目見て作品にしたい、けれど病弱なためあなたの元へは赴けない不幸な画家が居るのです。教会に飾られた芸術に心打たれる人々の姿に、セーラ神もさぞお喜びになるでしょう。
私で説得は終わりですね。これ以上何かあるなら、ペガサスにつまらないギャグを言うと、ホワイトキック(白馬の蹴り=白ける)を食らいますよ」
と、解説を入れないと判らないという、ギャグとしては二流の事をやってしまった。だが、いいのだ。彼はコメディアンではなく、看護人なのだから。
そして、差し出された絵にペガサスはいたく興味を示したようであった。そこへ割り込む女性の声。
「いえ、すみません。私がいます。エリス・エリノスと申します」
そこで彼女は深々と一礼。
「白馬さんは名前をお持ちでしょうか? 失礼でなければお伺いしておきたいです。名前ってどんな高価な宝石より大事な物だと思うのです」
「良かった。名前を聞いてくれる相手が居て。いなければ、このまま山に帰ろうと思っていたぞ。我が名は『ルミネス』」
一同は相手の名前を聞く、という知性あるものに対して基本的な事をするのを忘れていた事に気がついた。そして──。
「よかろう、願いは聞き届けた」
一同は安堵の息を漏らす。
交渉が1日と時間が浮いた分、移動時間を余計に取り、ゼモス邸へと人目のつかないコースを選んで進む一同。
そして、パリ近郊の館でペガサスはモデルになり、ゼモスと暫く同居するようだ。彼の新作が教会に奉納される日も近いに違いなかった。
こうしてしばらく、パリ近郊ではペガサスに関するバードの噂が始終聞かれるようになり、エドガーはそれに笑って応えるだけだった。
『白い白馬は見たことあるが、黒い白馬と出会えない♪
黒い白馬は何処にいる? 黒い白馬は何処にいる?』