●リプレイ本文
村は死の静寂に閉ざされていた。
この夏の暑気で、皆殺しにされた村人の屍が腐臭を漂わせている。
生き残りのシフールの描いた地図を頼りに、偵察に赴くティルフェリス・フォールティン(ea0121)に、シフールふたり組のララ・ガルボ(ea3770)とエル・カムラス(ea1559)がつく。
エルはやる気満々なララとは違い、半ばティルフェリスに駆り出されたようなものであった。もっとも好奇心は隠せなかったが、上空まで立ち上るこの匂いには辟易した様子であった。
「この地図が正しければ、村長さんの家の周りに骸骨全部集結しているみたいです」
ララが自分でも描いた地図と照合して、ティルフェリスに告げる。
「あにゃ? 大きいスカルウォリアー? ジャイアントの人たちよりも大きいいの‥‥う〜ん、倒せるかな」
「臆病風か? ラス まあ、私もボーラがあれほど、使えないシロモノとは思わなかったがな」
とふくよかな胸の前で腕組みをする。
「自分が思っているほど、匠の技に長けていないのではないかな、初心者の域を脱していないし──振り回すだけで分解するようでは、実戦以前の問題だな」
言ってランサー・レガイア(ea4716)が周囲から情報を聞き出して、懸命に設計、製作をする光景を思い出す。だが、あまりにも未熟としか呼べない結果であった。
「戻りましょう。骸骨を分散させる策を思いつかない以上、手段は強行してしかないでしょうから」
ララは言って反転する。
「この村‥‥全滅させられちゃってるんですよね‥‥」
ミリア・リネス(ea2148)が自分に言い聞かせるように呟く。
「ミリアさん(ea2148)は‥‥また私の後を付いてくるのですか‥‥──なら‥‥‥‥あなたは命をかけて私が守りましょう‥‥」
顔を赤面させながらもヒール・アンドン(ea1603)は励ます。
「本当ですか? それなら、それだけで私は戦えるような気がします」
突入の準備は整った。ララは戦いに向かう皆の武具にオーラパワーを付与し、対アンデッド用の基本シフトを取る。
「確か、スカルウォーリアーはアンデッドですよね? 起動実験って、村長さんは黒神聖魔法の使い手だったのでしょうか? 興味深いです。
あれ?村長さんが資料を持っているという事は‥‥違法実験行為だったのでしょうか?」
偵察のおかげでデルテ・フェザーク(ea3412)は魔法による感知を行わなくても良くなり、魔力の浪費を防げたが、自分の出番が減った事で思索に耽る時間をとれたようだ。
そんな中、カアラ・ソリュード(ea4466)が先陣を切って飛び込む。
「‥‥この一撃で全てを断つ!!」
勢いは勇ましいが、技量ではスカルウォリアーと比べて若干不利な様である。
剣戟は盾で受け止められ、相手の攻撃で確実に体力が殺がれていく。
「カアラさん、右に跳んで下さい」
反射的に右に跳ぶと、デルテが淡い茶色の光に包まれ、印を組んだ手から一筋の黒い光が伸びていった。直撃してスカルウォリアーを転倒させ、さらに村長の家の壁にその威力は叩きつけられる。
立ち上がろうとするスカルウォリアーに一撃を浴びせ、相手の負傷でイーブンに持ち込むカアラ。
しかし、手数の少なさは否めなかった。
鞘継匡(ea4641)はそんなカアラの助っ人に入る。
(起動実験と言ってたな‥‥スカルウォーリアというのは簡単に操れるものなのか)
中条流の流儀に従い、長棍棒を木刀に見立てての打ち込み。オーラパワーが付与されたそれは着実にスカルウォリアーを無力化していった。
ララもオーラソードにオーラシールド、オーラエリベイションと闘気に身を包み、乱戦に持ち込ませる。
盾をすり抜ける一撃と、上下左右どこから来るか判らない攻撃に、スカルウォリアーは処理が追いつかなかった。
それを見届けた僧侶のソニア・バネルジー(ea5634)は傷を負ったカアラを呼び戻し手当をする。
「頑張ってください、私にはこれぐらいしか出来ませんから‥‥」
ソニアは白く淡い光に包まれカアラの怪我を癒していく。
それからしばらくの交戦があり、後、一撃という所まで匡はスカルウォリアーを追い詰めるが、そこへソニアが育ちの良さげな顔を曇らせて頼み込む。
「私に任せて頂けませんか?『仮初めの命にて現世に止められし者よ、せめて安らかな眠りを‥‥』」
彼女の力により浄化されたスカルウォリアーは跡形もなく消滅する。
「すみません、あなた方もこんな終わり方を望んでいなかったでしょうけど、私達にはこのような形で終わらすしか出来なくて‥‥すみません」
(起動実験に失敗して暴走とは研究者としてはお粗末な最後ですわ。それにしても仮に成功したとしたら一体何をするつもりだったのか気になりますわね)
刹那の思考に集中を乱すことなく、淡い青い光に包まれたシルヴァリア・シュトラウス(ea5512)の掌から際どく涼しい風が吹き、次の瞬間、氷の嵐となる。
スカルウォリアー3体を巻き込むが、盾を向けられ、ダメージの殆どは吸収される。
「後は任せろ!」
赤とも金色とも映る右の瞳を煌めかせてバルバロッサ・シュタインベルグ(ea4857)が飛び込む。
格の違いとも言うべき豪放な剣腕を見せつつ、反撃で確実に相手を仕留めていく。怪我はすれども重装備故、かすり傷で済んでいる。最初の交戦でスカルウォリアー2体を仕留めていた。
そこへエルフの武闘家、丙鞘継(ea1679)が加勢にはいる。
「奥義『龍飛翔』!」
地面から伸び上がるような、決して受けられない攻撃だが、鞘継自身の技量の未熟さ故、根本的に拳が命中しなかった。
「あれ!?」
逆に一撃必殺技故のもろさ──防御が疎かになり、スカルウォリアーの一撃が加えられる。
「これで終わりか!」
「いや、これで終わりだ」
頭蓋骨を割るのは後方よりのロングソードの峰での一撃。
相手の腕を見切り、盾を砕くまでもない、と判断したランサーの一撃であった。
「困ったなバルバロッサ、俺にも少しは出番をくれないとな。鞘継、修行が足りないな」
「次は当てるさ」
「なーに、あのデカブツが残っているさ」
示した先にはこのスカルウォリアーとは比較したくもない、2・5メートルの骸骨であった。
だが、次の瞬間崩れ伏した。
「おや?」
しばし、時は遡る。
村長宅の玄関前にいる、巨大なスカルウォリアーの足下に木の枝が投げつけられた。
「ここから先は通行止めだ、仲間の所には行かせるわけにはいかなくてな」
風烈(ea1587)が構えを取り、立ちはだかる。しかし、彼の体術を尽くしても、ジャイアントソードが唸りをあげる勢いに抗すべく無い。絶妙な脚捌きで相手を翻弄し、返す一撃も含めようやく避けきれる。幸運であった。
「やはり、鳥爪撃を放つ暇はないか‥‥ならば皆が集まるまでの時間を稼ぐまで」
まだ声変わりしていない甘いボーイソプラノが響く。エルが銀色の光に包まれて、スカルウォリアーを足止めする為の魔力を解放する。しかし、魔力は弾かれた。
しかし、エルは諦めず空中で歌を歌い続ける。
「烈さん、ひとりには任せておけませんね。盾は多い方がいいでしょう」
文字通り盾を構えたヒールとミリアも戦列に並ぶ。
「任せたぜ、ヒール」
早速、ミリアは淡い青い光に包まれてウォーターボムを繰り出すが、ダメージはきわめて軽微なものであった。
その動きが鈍った攻撃でも均等に一撃ずつ浴びせられる。ミリアを狙った一撃にヒールが飛び込んで受け、肩を割られ、動きが鈍る。
「ヒールさん!」
ミリアは叫びと共に魔法を発動させようとするが、彼女の身を包んでいた淡い青い光は散逸する。呪文は失敗したのだ。
一方、攻撃の隙を伺い防御に徹していなかった烈も同じであった。頭の横を掠めた一撃で視界がぐらつき、出血が激しい。
だが、反射的に体は動き、鳥爪撃を繰り出す。相手が見切れない神速の一撃は太股を下から蹴り上げた。
だが、予想したほどの脚応えはない。
(オーラパワーの効力がない?)
更に構造自体が頑健で、まるで木や岩を蹴ったような反応であり、思ったほどダメージが入った様には思えなかった。
「こいつは普通のスカルウォリアーと違うぞ! まるで木の塊の様だ」
飛び込んできたオラース・カノーヴァ(ea3486)はその熱い反応に冷ややかなまでに冷静に対応した。
「そうか、それなら予定と違うがしょうがねえか」
バーストアタックの木も岩も鉄も、全てを両断する呼吸での一撃を浴びせる。
骸骨は回避しようとするが、まったく問題外であり、オラースの一撃を浴びる。
「へ! ざまあみろ!」
冷ややかな言葉と共に更に続く一撃を繰り出す。
「何だ予想していたより──弱いな。カス同然だぜ。そのジャイアントソード、俺がもらった!」
更に一撃が浴びせられると、唐突にスカルウォリアーの動きが止まった。
「おや、脆いな」
「呪文で動きを封じたから、急いでたたき壊してよ」
エルの声が響く。
オラースの攻撃により弱体化して、ようやく相手の魔法抵抗を突破したのだ。
じゃあ、行くか! とのかけ声と共にタコ殴りにされるスカルウォリアー。
「遅かったな」
と巨大スカルウォリアーの頭蓋骨に足を乗せ、腕組みして立っているオラース。
そんな彼を無視してソニアはヒールと烈の怪我を治しに行った。
自分で治せるから、と装備を外そうとするヒールを無視して弥勒に祈りを捧げて癒すソニア。
ともあれ、一同は合流し、村長の家の探索は始まった。
3分後終了。
2階の書斎と思しき部屋に1メートル平方程の石板が十数枚広げられている。シフールの報告通りであった。
その資料を見て──。
「‥‥古代魔法語でしょう」
デルテが興奮したように叫んだ。
「でも、私、古代魔法語の勉強はしてないんです」
と、彼は滂沱に暮れる。
「私もまだまだです。知識の探求するのに最低限の基礎知識も有していないとは‥‥次の機会までに少し勉強しておきます」
「情けないぜ、俺だって少しは判るじゃん」
とオーラス。
「お勉強が・ん・ば・っ・て・ね・☆」
とひらひらと手を振るシルヴァリア。
「くそーぜったい、隠し部屋が何かがあるに違いないんだ。そこにはそんなダミーじゃない本物が! 例えば、生き物の脳を利用した生体媒体とか!」
数人がトラップ対策も兼ねてついていき、オーラスとシルヴァリアが解読に励む。その前に彼女は魔法の水鏡で色々と探っていたが、芳しい情報は得られなかったようだ。
ともあれ、石板の内容はどうやら、ゴーレムに関するものと、スカルウォリアーに関するものの二種類らしかった。
「じゃあ、あの大きいのがここにある『ボーンゴーレム』という奴だったのね」
詳しくは判らないが、骨に魔力を付与して造ったモンスターらしい。
シルヴァリアが話をまとめる。
その頃にはデルテが隠し扉やトラップやガーディアンも何も無いことをようやく納得して帰ってきた。
「なあ、この村の人たち埋葬しないか?」
と、烈。匡も同意する。
「ああ、埋めてやろう。なあ、みんな」
「いや、二度と現世に戻らないように火葬だろう」
言い争いになりかけるふたりに水を向けるソニア。
「郷に入っては郷に従えといいます。この地では土葬のようですから、地に返してあげましょう」
ソニアはスカルウォリアー一体一体に浄化の術をかけていく。しかし、ボーンゴーレムだけは浄化への道を辿らなかった。
思わずソニアは涙を流す。
こうして陰鬱な作業が続き、死者達はソニアの祈りの元、あるべき場所へと向かっていった。
シルヴァリアの予想の元、借りてきた荷馬車に石版を乗せ、教会に戻り、顛末の報告の後。石版の回収が行われた。
結局、村長が何を目論んでいたのか、その石版の出所は? 等と謎が未解決なままの事件であった。
そして、約束通りの追加報酬を渡す時に、烈だけは断り、ヤエル少年の治療費に充ててくれと言い残して一足早くパリへと戻っていく。
これが病床のヤエル少年の聞かされた冒険の顛末であった。