●リプレイ本文
「罠の類だ? いや、そんなものあのバーサンの庵のそばでも見た事ないけどな?」
山についたのが遅くなり、宿に泊まって地元民に話を聞いた一団は、眉を険しくする。
手紙を届けに行ったシフールも戻っていないとシフール郵便の方から話もあり、何か凄い勢いで不安要素が加速されていく。
ニコル・ヴァンネスト(ea0493)は山、森に出そうなモンスターを頭の中で絞り込もうとするが、そういった人の入りづらい所にいるモンスターは名前だけならかなり列挙できるが、その能力、対策まではまるで判らなかった。
「情報が少ない以上出た所勝負かな。私達は目出度い知らせを持って行くんだし、受け取る人も元気でいてくれれば良いんだけど」
そう呟くエルリック・キスリング(ea2037)にウォルター・ヘイワード(ea3260)は頷く。
「何らかのアクシデントではなく、親として一人立ちして欲しいと言う願いで手紙を出さなくなったというのであれば良いのですが経緯を知る為にも無事を祈りましょう」
パラ浪人の響 清十郎(ea4169)も言葉を繋げる。
「そうだね、無事が第一。ゲルマン語には疎いので、細かくは判らなかったけど、主に動物を保護したり、オーガ退治をするような冒険をしていたお人柄みたいだったから、あまり自慢話もしなかったような人に聞こえるね。奥ゆかしいと言えば、ティカさんは奥ゆかしい人なのかな? 何でも薬草摘みが趣味だったらしいけど」
「依頼人のお母さんがこだわってまで住む場所だから故郷とかの思い入れのある場所とか‥‥単に人嫌いとか‥‥煩わされない気ままな一人暮らしが楽しいのかもね」
「多分、そうだろうね。依頼人とのお父さんとの結婚も冒険者生活を一緒にした相手との職場結婚だっていうしね」
李 更紗(ea4957)も確認している事実を、響は一同共有のものとすべく、敢えて語った。
「ご依頼主様が成人されてからは、ずっと山で暮らされていたとの事ですが、何かの気まぐれで街におりたと言うことは無いでしょうか?
例えば、ご依頼主様のお顔を御覧になりに。
街で迷っていらっしゃるなら、私たちと行き違いとなるかもしれませんね」
と神秘的な微笑を浮かべるノエル・ウォーター(ea5085)。
だが、街の人は、すくなくともこの街の人間はティカを見た記憶はないという。
「色々と予想はできるんだが、1つ目は「モンスターとかが出て庵から出れない(仕掛けた罠で自分も身動きとれない)
2つ目は『食料を採りに出かけて事故った』
3つ目は『依頼人を驚かせようとして、連絡いれずに街へ向かっている』
可能性が高いものとしてはこのくらいか。まあ、何が出てきても、起こってもおかしくな」
指折り数えて行くがアズマ・ルークバイン(ea5276)。最初と最後は既に検証済みなので、彼の推測はひとつに収斂された。
「山探しか‥‥俺たちが行っても見つからなければ、村の人たちの力を借りるって事も考えなくては──いや、俺たちは仮にもプロだ。全部自分でやってのけるさ」
そして、朝が明け、山中に分け入る一行。
所々に荒らされた──それもかなり大きなものに──痕跡が残っており、ウォルターは魔法で幾つかの植物から情報を聞き出す。
「大きな二本足の怪物が自分たちを折っていった。方向は総合すると──庵の方です」
「急ぐのでございます。帰った痕跡がない以上、別ルートから下山したか、さもなくばまだ庵におりますぞ」
と、ジィ・ジ(ea3484)が一同を急き立てる。
荒らされた獣道を踏破した一同が聞いたものは歌であった。しかも凄まじいまでのバスで、極めつけに下手糞である。何語かは判らない。
そして、聞こえる音は何かを研ぐ音であった。
そこへの偵察はミカロ・ウルス(ea2774)が申し出た。小柄でレンジャーなら見つかりにくいだろうと。
かなり大きな足跡があり、オーガがその類の怪物ではないかと、一同は推測する。
「私も参ります」
御影紗江香(ea6137)も申し出る。彼女はミカロに比べて大柄であるが(人間なので)、いざとなれば忍法で相手の動きを封じられるかもしれない、という強みがあった。
ふたりは気配を殺したつもりで、庵に影から影へと間合いを詰めていく。
彼等がそこで見たものはオーガであった。身長はジャイアント並。体格はそれを上回る。青銅色の肌に一本角。
ふたりにそれなりの知識があれば『それ』が上位のオーガ、オーガ戦士であると判っただろう。
しかも女性。上機嫌で包丁を研いでいる。
天井からはシフールがロープで縛られて吊されていた。しかし、その翼は切り裂かれていたが。
土間の奥にはティカと思しき老女がやはり縛られて転がされていた。なぜ、思しきと注釈がつくかというと『鶴のような』と証されていた外見からは少々変わり、肉付きが一般人並になっていたからである。
だが、聞いていた目の色等は一致していた。
ふたりはオーガ戦士の注意が砥石に向けられている内に撤退した。
「さて、これでティカ殿の居場所がはっきりした、と言えますが。どういうシフトで戦うかを考えなければならないですな」
ジィの言葉に一同は頷く。
「まず、殴って殴って殴りまくって、足止めできる魔法があれば、それで動きを封じて更に殴り殺す」
とコナンな意見のロニ・ヴィアラ(ea1699)。さすがは『二足歩行の地獄の黙示録』と呼ばれただけの事はある。
「なーに、こっちの方が数が多いんですから」
「そうそう一の太刀で全てを決める位じゃないとね。さんせー、さんせー」
清十郎の示現流も対してコナン流と思考が変わらないようだ。
一方、クリス・ハザード(ea3188)はやや心配げに。
「相手が人質を取らないといいですが‥‥私も及ばずながら魔法で援護させてもらいます。って、アイスチャクラじゃ投げても当たりませんか、困りましたね」
「まあ、相手がかわせないのを期待いたしましょう。及ばずながらもバーニングソードの魔法を付与しましょう。とけないのでご安心下さい」
「もっとも私では殴り合いでは足手まといになりそうですが」
とジィが淡い赤い光に包まれながら一同の武器に魔法を付与していく。
更にノエルが一同に聖なる母の祝福を施していく。僅かでも戦いで傷つく人を出したくないという心境からであった。
「いやぁ、ジィさん。お前の魔法は不要ってか、俺、風のウィザードだし、地道に魔法を連発するぜ」
と、ラシュディア・バルトン(ea4107)が一歩退く。
「それは重畳でございます」
そんな光景をよそにノア・キャラット(ea4340)はため息をついた。
「謎やミステリーはどこにあるの? 庵に行ったら、全てが安直に解決できる、化物退治なんて冒険は私は認めません! でも、ティカさんの救出の方が大事です。私の術は広範囲に過ぎるので、ティカさんを巻き込んでしまいますので、皆さんしばらくお待ち下さい」
「お互い、火のウィザード同士、力を分け合いましょう。ところで、どうなさいました。サイラス様。天に仕える方が」
インドゥーラの僧侶、サイラス・ビントゥ(ea6044)杖を片手に逆手に数珠を握り込んでいるが、緊張の色が隠せないのを見て、ジィが声をかけ直す。
「こちらに来て初めての修行で緊張しているようだ」
「それは誰にでも初めはあります。みなさんがいらっしゃるので、存分にお頼り下さい、非力ながら私もお力添えさせていただきます」
と言いながら、拳と杖に魔法をかけていく。
まず、清十郎とラシュディアの風を切り裂くような一撃がオーガ戦士を怒らせる起爆剤となり、手近にあった槍を掴んで、庵を飛び出してくる。
そこへ間合いを詰めたロニが強打をお見舞いする。十分に鋼の重みを乗せた一打は深々と胸を切り裂くが、肋骨で止まる。
(強い! だが、動きは荒い)
ニコルも飛び出し、ダガー片手に斬りかかる。むろん、かすり傷以上のダメージは負わせられないが、手数を増やすという意味では、相手を混乱させるのにはちょうど良かった。
後ろに回ったミカロもジィの心尽くしである炎の点った矢を、庵の天井から撃ち放ち、肩胛骨の隙間に潜り込ませる。
振り返った所に淡い茶色い光に包まれたウォルターが周囲の木々を操り、オーガ戦士を束縛し、動きが止まった所を淡い青い光に包まれたノエルのアイスチャクラが二種類の精霊力を纏い着弾する。
追い打ちとばかりにオーラパワーとバーニングソードの二重の魔力が重なった更紗の華麗なテコンドーの足裁きが三連撃で奇麗に決まる。
その間隙を縫ってアズマがレイピアで足を串刺しにし、そこへノエルの歌が被さる。だが、おそるべき事にノエルのコアギュレイトの呪文に耐えきったオーガ戦士は更なる怒りを以て狂戦士の力を発揮する。
しかし、周囲を仄かな春の花々の香りが包み込む。
「無益な殺生は好みませんから‥‥」
紗江香の春花の術であった。
だが──。
眠りにつくオーガ戦士とエルフ一同。
そこへ、物理的退魔の法! と悪鬼羅刹のごとき形相で、数珠を壊さないように右手の中に握りこんだサイラスが、
「悪霊退散! 喝!!」
と叫びながら、喉笛を殴り潰す。
オーガ戦士は息絶えた。
庵に入り込み一同はシフールとティカを助け出す。
彼女の話によると、乱入してきたオーガ戦士が力量差で彼女を縛り上げ、太らせてから食べる為に、毎日、脂ぎった食事を食べさせていたのだそうだ。
尚、シフールはデザートのつもりだったらしい。
「ティカさん、息子さんからの手紙です、預かって参りました。どうぞ! お受け取りを!」
そして、ノアが道中で採取した花で花束を手渡して、
「そしてこれを、お孫さんができた様ですね♪ おめでとうございます」
可愛らしい花束を渡した。
「やれやれ、これでワシもお婆ちゃんかね──全く」
事の成り行きとして、ティカは庵を降りて、息子に会いに行くことになった。
その護衛の後、ラシュディアは当然、依頼人に追加報酬を請求し、それが飲まれ、幾らか、冒険者の懐が潤った事は言うまでもない。
ティカの孫が生まれるのはもう少し先の事になりそうであった。