●リプレイ本文
魔術師の不始末は魔術師が片付けようと参加したセイリオス・アイスバーグ(ea5776)が誰言うともなく呟き、森を見下ろす。
「魔術師が企み事をするとろくでもないわ」
その声と共に、深い森に潜入したムーンリーズ・ノインレーヴェ(ea1241)は焦っていた。相手の精神干渉を警戒して術をかけても、持続時間には限りがある。
サラサ・フローライト(ea3026)、バーン・ヴィンシュト(ea6319)といった面々もいるが、自身に魔法をかけ続けなければならず、魔力の消耗も莫迦にならない。
そこへペレグリン・ベレリアンド(ea6286)が現れ、一同を導く。
情報通り、塔を中心にテントが数陣張られており、幾人かのローブに身を包んだ一団が行き来している。
姿を消したペレグリンを除く一団は、近づいていく。
「何かご用でしょうか?」
「いえ、こんな所で何をやっているのかと思いまして‥‥どうしましょうお師様?」
とムーンリーズはセイリオスに話を振る。その間もサラサを後ろに守ったままである。
「貴様らこそ何なんじゃ。怪しい奴らめ」
「我々も一方的に怪しい奴ら扱いされては──まあ、それなりの手段に訴えねばなりませんが」
「まあ、よい。若造相手に、別に事を荒立てる事も無かろう──何か面白い事でもやっておるかのかな?」
「それをお知りになるには我らが盟主に会って頂くのが早道かと」
「よかろう。弟子達、ついて来い」
「これだけ弟子を連れておられるからには、力も相応のものでしょうな、お名前を伺うのを失念しておりました」
「小物に名乗る名はない。早く盟主とやらに会わせぬか?」
塔に招き入れられた一同はハープを抱え、腰にレイピアを落とし差しにした、多分吟遊詩人らしき男と、堂々とした態度が畏怖すら感じさせる壮年の男に出会った。
そこで自己紹介の応酬と、思想の披露がされたが、思想に関しては全くギルドで聞かされた内容と同じであった。
「ふむ。先鋭的な思想じゃな。弟子がこれだけいるだけで、わしの力が判るじゃろう。手を貸してやろう」
「せめて、弟子の力量の一旦なりと、見せて欲しい物ですね」
リーガッルが口を挟むと、ふたりの視線がムーンリーズに集中する。
「では、私のRSBでお目汚しを」
「RSB? 初めて聞く呪文の略称だな、いかなる呪文か楽しみにさせてもらうぞ」
重々しいアルフェの声。
「失礼、長いので略してました『ライトニングサンダーボルト』です」
失笑が漏れる。
「『LightningThunderBolt』がどこを略せば、そうなるのでしょうか? 弟子を見れば、師匠の手腕も判るというものです」
「お引き取りを願おう。大いなる父がそなた等に加護を与えん事を」
アルフェは断言した。
「思想は教育し直せるが、力量という花が開くには時間がかかる。まだ綻んでもいない蕾に興味はない。また、その程度の教育しかできなければ師匠の方も多寡が知れているというもの」
こうして3人は無事にキャンプを抜け出せた。
「どうでしたか? こちらの村では四天王など知らないと、一笑に付されましたが。塔の中で変わり者が集まっている程度の認識しかないようで‥‥」
マリウス・ゲイル(ea1553)は一同を迎え、既に面々にした自分の報告をする。
その間にジャドウ・ロスト(ea2030)は姿を眩ます。
「まだ実際に影響が出る前に対処できてよかったですわ。早く解決しましょう」
と、クレア・エルスハイマー(ea2884)が力づける様に皆に声をかける。
「うーん‥‥つまり、なんか暴れて倒して、爺さんを正気に戻して連れて、そして帰ってくればいいわけね」
ローサ・アルヴィート(ea5766)は単刀直入に言うが、行うのは自分だっていう事を忘れているような気がしないでもない。
後は四天王を蹴散らし、塔へとかけ昇るのみ。
マリウスはユリア・フィーベル(ea5624)の導いた、聖なる母の祝福の下、グラビティーキャノンを操るという地の四天王の下へ向かっていた。左手に輝くは闘気を練り上げて造られた1枚の盾。
「対魔法戦にも興味はあるが‥‥孫が自分の祖父を誇れないなんてのはあっちゃあならないことだ。クソジジイの目を覚ましてやる」
血気に逸るロックフェラー・シュターゼン(ea3120)も渾身の突撃。槍の重みを十二分に活用する必殺の一撃を放つが、相手は空中に手早く印を描き、何かを呟いた瞬間、『地』は淡い茶色の光に包まれる。と、同時にふたりの天地が逆転する。地の精霊力により重力を反転させたのだ。
空中に『落ちる』。
「そんなもので‥‥俺の全力を受けられると思うな‥‥!」
重力は正常に復し、地べたに叩きつけられるふたり。
そこへ結社員が放ったのか、炎が吹き上がり、追い打ちをかける。
さすがのマリウスも下からの攻撃は想定しておらず、良いように弄ばれる。
「グラビティーキャノンだけじゃなかったのか‥‥?」
「魔法がひとつしか使えぬ程やわではない。だが、次は──行くぞ」
同時に幾つもの詠唱が聞こえる。
マリウスはポーションをロックフェラーにも投げ、飲み干して、怪我を癒す。
「勝負はまだまだ」
そういって突っこんだ所へグラビティーキャノンが成就し、淡い茶色の光が掌に収束し、一条の黒い光となってマリウスの盾を打ち据える。
「その程度ですか!」
マリウスが転倒しそうになるのを堪えた所に、再びロックフェラーが突撃を敢行する。
一撃で心臓へと突き刺さるロングスピア。『地』は大地に縫いつけられる。
「助かった、マリウスさん‥‥悪いが、後は任せる!」
なおも止まぬ詠唱に一喝。
「邪魔だ、雑魚どもが! 地の後を追いたいかっ!!」
叫び『水』の四天王へと走るマリウス。かたや、ロックフェラーは塔へと向かう。
レイム・アルヴェイン(ea3066)が遠巻きに呪文を唱える中、3度目、そして最後の氷雪が吹き荒れた。
残念ながら、彼のムーンアローはあまりにも威力が低すぎ、抵抗されて無傷であった。
戦いは完全に家出少年シクル・ザーン(ea2350)が押していた。神の加護、レジストマジックをかければ、戦いはウィザードに絶対的に不利になる。
そこで、魔法で霧を生み出し、時間稼ぎをするのが『水』の策であった。
相手が見えなければ、いや、どこにいるかすら判らなければ、剣の振りようもない。シクルの黒髪から汗が滴った。
手の中から剣の重みが消えている。その事に瞬間パニックになるシクル。
だが、レジストマジックの魔力も消えた段階で、ひとつの呪文を唱えた。
「大いなる父よ。命ある者の有り所を示したまえ」
合掌し、全身を淡い黒い光に包まれる。
次の瞬間、アイスブリザードの凍気が吹き込んでくるが、迷わずにそちらに向かって突入し、ショートソードで一撃を浴びせる。
だが、倒れず次の呪文に移る『水』。
少年の姿が見えたことで周囲から幾つかの呪文の詠唱が聞こえる。シクルは左手の十字架を握りしめ、大いなる父に祈り、剣を振るった。
そこに朝焼けの空を背景に淡い赤い光が収束し、グレタ・ギャブレイ(ea5644)が手から火の球を放り投げた。
残念ながらファイヤーボムは空中で爆発はしない。何かに当たって初めて爆風を生み出すのだ。
まあ、それは今回は『水』だったというだけで。
爆風に倒れる『水』、巻き込まれるシクル。だが、健気にも立ち上がり──。
「結社の皆さん。四天王は倒れました。早々に立ち去れば良し──さもなくば」
「あ、こんな糞餓鬼のひとりやふたり、巻き込んでも皆さんを殲滅する用意はあるかんだよ。そこんとこよろしく」
そそくさと消える気配にシクルは座り込みかけたが、それを良しとしない信念があった。
「風の四天王を倒さなくちゃ、マギーさんの剣に賭けても」
少年が走り去ったのを見て、レイムは呟く。
「ふう、メロディー唱えておいて良かった。あれが無ければ一発で降伏してくれたかどうか」
マリウスが走り、火の四天王がいると思しき場所。盛大に炎が燃えさかっている場所に辿り着いた。だが、既に火の四天王は超遠距離射撃のユーウィン・アグライア(ea5603)の魔弾の射手ともいうべき妙手に絶命。クリエイトファイヤーで創造した炎だけが周囲を浸食していた。
「ユーウェインだけは相手にしたくないな」
感想を述べ合う中、風の四天王との戦いは始まっていた。烈しく炎と雷が交差する。そして、グラビティーキャノンの重低音。
「しかし、森で火遊びはいけませんよ。どうしましょう」
マギー・フランシスカ(ea5985)は疾走してきたレジストマジックを纏うシクルを見るとクリスタルソードの呪文を唱え始めた。
彼女は雷撃は今までの所何とか、凌いでいる。
クレアのダメージはそうは行かない。互いに相殺し合ってトントンという所か。
互いに深手を負わせあっている。
そこへシクルという鬼札。クレアは最後の魔力を振り絞り、最大限の火力をシクルの剣に纏わせる。
「これが本物の炎だって事を思い知らせて」
「はい」
言ってシクルは鮮やかな朱色に輝く水晶の剣を振るう。
足下から炎が吹き上がるも、大いなる父の加護を受けた身にはかすり傷ひとつ与えられない。
そして──それが最後の魔力であった。
高速詠唱と、専門レベルの魔力を行使しすぎた身の末路である。
四天王は殲滅。
「ち、何て頑丈な鍵だ」
塔の門扉はいち早く閉ざされ、ローサが開けようとしても、鍵は簡単には開きそうにない。
「まあ、待てい」
割波戸黒兵衛(ea4778)が弄るが、一行に開かない。
「ほーらいくからなー」
そこへグレタが景気良くファイヤーボムを打ち込む。
扉が少しずつ壊れていき、6発目で崩壊する。
「あ、もう魔力が足りない。ま、いいか扉壊したんだから、後は任せたよ」
黒兵衛が螺旋階段に先陣に立って切り込む。残念ながら塔の通路は大蝦蟇を通すほど広くはない。
シクルもマリー・アマリリス(ea4526)の手によっていやされ、戦列復帰していた。少年でもジャイアント、それなりに頑健である。
一方、マリーは四天王の広範囲魔法の巻き添えを食らった結社の面々や仲間達を癒して回り、純粋な感謝の声を受けていた。
「なぜ、敵の自分たちにそこまで‥‥」
「それが聖なる母の御教えだからです──それ以前に人間として傷ついている方を放っておけないでしょう」
「ご苦労記憶に留めておこう」
とダガーをちらつかせて、ギィ・タイラー(ea2185)が再生と不老不死という生命の二大神秘について結社員達に問い質すが、返ってくる答えは再生なら白の教えを極めれば、不老不死なら黒の教えにあるアンデッドになるか、悪魔に魂を売り渡せば、というオーソドックスな返答しか返ってこなかった。
後、一応、真の賢者になって、大いなる父の後継者になるというコースもあったが、これもかなり敷居は高そうである。
「結局、人間のままでは無理という事か。なら、俺は人間をやめるぞ」
舞台は戻り、塔に突入した面々は立ち上がり、臨戦態勢を整えていたアフィマとリーガッルと出くわした。
レイピアを構えたリーガッルが扉の前面に立ち、黒兵衛と激しく打ち合っている。 双方の腕は互角。そこへジャドウが呪文を唱えると同時に割ってはいる。淡い青い光に包まれたジャドウの手に極低温がやどった。
凍気で相手の顔を鷲掴みにしようとするが、受けられて逆に自らの手から血を吹き出させ、一瞬にして凍り付かせる。
それで相手の顔面を鷲掴みにしようとするが、格闘戦の訓練をまったく受けていない人間が、相応の奥義もなしに出来るほど、戦いは甘くない。それが可能なら、全ての戦いは先に手を出した者が勝利するだろう。
氷も十秒で霧散する。再び詠唱に入るが、傷の痛みが指を引きつらせ呪文は成就しなかった。
黒兵衛はそこに出来た隙をと思ったが、後ろで黒く淡い光が発生し、己の生命力を刈り取っていくのを感じる。
アフィマのビカムワースである。
螺旋階段故、ムーンリーズは直線的な攻撃である雷撃を有効活用できない。ローサもこの塔の設計者に文句を言いたい心境だった。
高速詠唱で更に一撃。
幸いな事に、これは不発に終わった。
「あんたの思想の自由を止める気は無い。だが、孫が祖父を誇れないなんて事は不幸以外の何物でもないんだ‥‥。よく考えるんだな、自分の思想と孫、どっちが大切か」
ロックフェラーが怪我を押してここまで昇ってきたが、アフィマの応えは非情だった。
「宗教者が自分の教えを、肉親可愛さに曲げてどうするのだ。思想を理解し合えない肉親などはこの世の中に幾らでもおる」
「貴方が魅了されてないと言うなら、自分にニュートラルマジックをかけてみてください。魔法でないなら解呪できないはずですよね?」
シクルの声に堂々と言い返すアフィマ。
「魔力を損耗させようという手だろうが、その手には乗らぬぞ。第一、チャームされていたら、呪文が途切れても友情は変わらぬ。それに自分の目の届く範囲で歌を歌って銀色の光に輝くような妖しい奴とは付きあわん」
「何なら試してみてはどうです? 本当にチャームされていないかどうか? ムーンアローの一発で決着がつきますよ」
リーガッルが挑発する。
「あなた方の誰もチャームを持っていなければ、持っているのは私だけという理論ですね? では、これでどうですムーンアローで試しては? 『このムーンアローはチャームの呪文を使える者に当たる』」
一応、一同は知恵を寄せ合ってこの文言に過不足はないか、と議論し始めた。
「いいでしょう。しかし、こちら側のバードが術を使いますよ」
レイムが引っ張ってこられ、この条件でムーンアローが発射された。
ムーンアローは迷走してレイムに当たった。
「これがワシの意志だとようやく理解したか?」
「そんな大いなる父の教えは──」
シクルが座り込んで泣き出した。
「神の意志を推し量ることなかれ。神は奪いたまい、与え給う」
宗教的信念はどうあれ、組織が壊滅したことで、事件は収束した。
幸いな事に山火事は小規模ですんだので(マリーが癒した患者の中にプットアウトの魔法を使える者がいたのだ)、冒険者の責任は問われずに済み、リーガットは正当防衛。アフィマも同様。何もしていない内から冒険者が攻め込んだのだから、仕方がない、ふたりはそれぞれの道に戻る。
リーガットは世界征服できるだけの器の主を求め。
アフィマは家族の元に。
しかし、その思想の危険性から結社への冒険者の戦闘行為は不問に付された。
これが事件の顛末である。