●リプレイ本文
「お兄さんはね、もうあの子達の様な不幸な子供を出したくないんだ」
などと孤児院の女の子に瞳を据えて語るエルド・ヴァンシュタイン(ea1583)も子供(の内約半数)が多いだけで少々普段のクールさが崩れそうであった。
「おーい、何背中を振るわせてるんだ、行くぞ、行くぞ」
と背中をどやしつけるロヴァニオン・ティリス(ea1563)は外套と皮鎧に身を包み、たいまつを左手に、腰からは長剣をぶら下げている。
「えー、おじちゃん、もう行くの」
と、彼を取り囲んで、遊んでいた子供達が残念そうに声を上げる。
「お兄ちゃんは騎士だからな。悪臭漂う下水道でネズミ退治。これぞ騎士の本懐ってもんだな。わははは」
「そういうつもりか、だが。シャイゼッ‥‥子供達を貪り食った溝鼠どもめ‥‥逃がしはしない。
見つけ出して身も心も灼やしてくれるっ──そう言えばクリムゾンは?」
「ここだよ」
ロヴァニオンと似た装備の、だが女性という点が決定的に違うクリムゾン・コスタクルス(ea3075)。彼女が現れた。
「ちょっと石鹸探していたけど、こっちじゃ見つからなくてな。悪かったな。じゃ、ロヴァニオン、地図頼む」
「はぁ?」
誰が前衛になるかでひともめあったが、結局、防臭対策をして、この班は下水道の外縁を調査、捜索範囲を狭める事に専念した。
続いて第2班、いかにもやんちゃそうな鳳 飛牙(ea1544)が前衛に立つのだが、紅玉を溶かして染め上げたような瞳と髪を持つシフールのレム・ハーティ(ea1652)が白クレリックにも関わらず前衛立ちを主張したのだった。如何にも鍛え上げた肉体の風 烈(ea1587)は後方からの攻撃にも十分備えられるようクンフーを積み、更には十二形意拳をも修めた彼は笑って後裔に立った。
「俺の最大の武器は脚だから、地図書きは任せてもらってかまわないが、闘気を練って不死身を自称する俺と違って、飛牙はそうも行かない。やつが倒れたら、俺が前衛に立つ前にレムさん、あなたが治療に回るだろう。前衛で──言っては悪いが、戦う術のないレムさんでは危なっかしいんだ。第一レムさんがやられたら、もう鳳は治せないんだ」
「判った。妥協してあげる。僕もセーラ神に使える者。慈愛と寛容が大切だものね」
本心ではまだ未熟な地図書きを鳳に任せたい所だが──。
「俺、莫迦だから」
と、自分を判っているのか、それとも卑下しているのか良く判らない、彼の発言に烈は戸惑っていた。
ともあれ、クリムゾン達と交代で捜索した外周から踏み込んだ地を探索する。
だが、まだネズミの巣は見あたらない。
アルス・マグナ(ea1736)が修道院の簡素なベッドで目を覚ました。
「かったり〜割りに合わねぇ依頼だな〜」
と、寝起きで乱れた長髪を後ろで結んでまとめ直す。
「ようやく、目を覚まされましたか?」
エルフのレンジャー、ブルー・フォーレス(ea3233)が彼を迎えにきた。
「カーツは?」
「もう、準備終わってます。傭兵って準備が早いですね」
「冒険者ギルドにいるなら冒険者だろうに−−まあ、いいか。これまでの調査で随分絞り込めたからな。魔法も使うこっちの方でなんとかなるだろう」
カーツ・ザドペック(ea2597)が排水溝の前で、目元から下をすっぽりと厚手の布で覆い被さって手斧と短刀を腰に、そして何やら大きな袋を背負って待っていた。
「遅れたな」
「行こう」
3人は下水道の中に降りていく。
糞らしきものを追って、どんどんと奥に進んでいった。
そして、アルスの魔法が微弱な振動を感知し、近くに1メートル程度の大きさの存在が動く事を感じた。
その数5体。
地図の無い地点であり、壁がどれほどあるか判らない。だが、比較的、広けた場所に来るとカーツは袋から微かな腐臭を放つ、残飯をばらまいた。
「こちらの想定した場所で戦えばいいのだ」
振動を感知したアルスが一同に警戒を促す。
「5匹という事は、子供を襲った連中ではない。でも、2度と犠牲が出ないように退治しましょう」
ブルーが短弓を構える。
ランタンは床に、光源を確保。
無言で走ってくる、ジャイアントラットに矢を浴びせる。
かわす暇のまるでない研ぎ澄まされた一矢であった。
それから数呼吸置いてカーツが短刀と手斧を持って飛びかかる。
短刀で裂き、手斧の重みでかち割る。
左手の短刀は逆手な分、やや不利であったが、補ってあまりあるコンビネーションであった。
しかし、一方的な展開になるかと思われたが、1匹を討っても残りの4匹が飛びかかる。執拗な攻撃に受けも出来ず、2匹の牙が鎧を咬み破る。激しい出血。
アルスも直前に援護魔法に入ろうとしたが、魔法の詠唱に失敗。収束していた大地の精霊力である淡い茶色の光が霧散する。
「未熟!」
だが、カーツの得物が短さが幸いし、ジャイアントラットを1匹ずつ確実に仕留めていく。
2匹まで斬った所で、相手は奔走。手傷を負っていた1匹をアルスのグラビティーキャノンとブルーの矢が仕留める。
逃げ去ったのを確認した所でブルーは汚水の中から矢を回収する。
「それよりカーツの怪我だ!」
カーツは意識を失っていた。
3人は修道院に戻ると、白クレリック達の看護が待っていた。
ともあれ、報告を受けて、最後の6人はまとまって下水道に入る事となった。
「本当に分かれ道が多いな」
エルフのアルベール・クマロ(ea3129)は張り巡らされた無数の分岐路の中で、ひとりごちた。
呼吸を魔法で探るが、仲間の息ばかりが感じられる。
後方では、残りも新しい巣を発見次第、強襲をかけられる様に準備していた。
前衛はランディ・マクファーレン(ea1702)がナイトらしく勤めているが、ここの下水道に入るまでに把握できるだけの下水道の出入り口をレム、更にアルフレッド・アーツ(ea2100)と地図を睨めっこして塞いだ。
その万全の体制の元、続くはエルフの巨乳ウィザード、イリア・アドミナル(ea2564)がつく、身長もあって少年というより子供扱いされがちなロックハート・トキワ(ea2389)はマッピングに余念がない。
ロックハートが地図から視線を上げる。
「何か来る」
即座にランディが短刀を構え、イリアが詠唱を始め、淡い青い光に包まれる。
ロックハートはまだ治りきっていない傷跡から、カーツを襲った一匹と判断した。
下水道から出るに出られず飢えているのだ‥‥。消耗しながら襲う所をイリアの水弾が一撃を浴びせ、ランディの短刀が止めを刺す。
「これで残りは何匹──? ま、数で押せば全然オッケー大丈夫!」
イリアは言い放つ。
エルフの女武闘家、ふぉれすとろーど ななん(ea1944)は改めて自分の仲間を見て、ある事実に気づいた。
シフールのお子さまレンジャー、アルフレッドに、アルピノのエルフのウィザードのアルベール・クマロ(ea3129)といった面子。
「ひょっとして、この班って人間がいないの? 珍しい。ま、そんな事ちっちゃいちっちゃい。さぁ、ちゃっちゃと終わらせようかねぇ!」
カーツが養生の為、修道院に残り、皆も様々な工夫を懲らしているのを見てアルベールは憂い無く下水道にきたのだが、慎重にネズミの糞尿の痕跡や、囓り痕を探り、魔力を抑えている。
そして──。
「この呼吸音。十体はいるぞ、多分本命だな」
慎重にアルフレッドのマッピングで周囲の下水路の配置を探り、ジャイアントラットの巣を特定。各員を呼び寄せ襲撃の準備に移った。
攻める方向は3ヶ所に限定。
それぞれウィザードを配置し、一斉砲火の後、白兵戦要員が突入して一網打尽にする。
逃げられそうな下水道も封鎖。逃げ道は防ぎ、そこにレンジャー達とクリムゾン、そして、レムを配置させ、逃さない体勢を取った。
包囲が完了するとイリアの詠唱に伴い淡い青い光が彼女を包み込む。そして掌から放たれた凍気の嵐が強襲した。
慌てて逃げようとするところへアルスから黒い帯が伸び、質量を以てダメージを与え、更には転倒させ大半の動きを封じる。
最後に淡い緑色の光に包まれたアルベールの手から稲妻が放たれ、ダメージを与え、混乱へと追いやった。
「Waffen(我が剣に)Hiebwaffen(集え火霊)『BurningSword』──行くぞ、溝鼠どもっ!」
エルドも負けじと呪文を唱え、淡い赤い光に包まれながら己の短刀に魔力を付与し、ジャイアントラットの群に飛び込んでいく。
一方、ナックルを頼りに突入する飛牙。烈はそんな彼の後ろを守りつつ、峻烈な跳び蹴りで回避する余地も与えずジャイアントラットを文字通り一蹴する。
「奥義──鳥爪撃」
「うわはっはっは! 戦いはこうでないとな」
乱戦になり、剣も振るえなくなった状況でロヴァニオンは己の短刀にオーラパワーをかけ、殴りかかる。
「破ッ!」
ななんも闘気を練り、全身をピンクの更に淡い光に包ませながらオーラショットを撃つ。少なくとも今の所は素手よりは効きそうであった。
殺戮の空しさを知っている筈のランディも、ここで根絶やしにしなければ、元の黙阿弥になるという理性で、感性を押し殺し、短刀で戦いのさなかに立つ。
(俺と同じ想いをする子供がひとりでも減るように)
戦いは終わった。
皆、体を清めた後、傷を癒した者と望む者は亡くなった子供達の追悼ミサに出席し、ある者は花を添えた。そして、冒険者ギルドからの報酬を断った者もいた。
だが、それでも目聡いアルフレッドが市の当局に皆が書いた様々な今後の対策要望書に紛れて、こっそり皆で完成させた下水道の地図を売りつけ、相当な儲けとなった。
彼はこの750Cを皆で山分けし、この冒険の幕は閉じた。
5人の子供がセーラ神に召される事を祈りつつ‥‥。