●リプレイ本文
老夫妻の館の前──。
「さ、頑張ろうや♪」
ヴァレス・デュノフガリオ(ea0186)が年の瀬も押し迫ってきた、パリの街を愛馬の轡を取って、歩いていく。手にするのはクリスマスパーティーの食事を作るレシピ。傍らにはムーンリーズ・ノインレーヴェ(ea1241)とサンタに扮するパトリアンナ・ケイジ(ea0353)が一緒に為の赤い防寒着を見立てに行く。
そのムーンリーズの心情は──。
(父母が居ないのは寂しい事ですよね。私も物心付いた時には孤児院で暮らしていたので、気持ちは判らなくは無いですけど、でも思ってくれる方が居るのは嬉しいことだと思いますよ‥‥まぁ私にも義妹が居ますけどね)
一方、パトリアンナも追憶にふける。
(‥‥‥‥あたし自身の手で、夢を見せるのも悪くない、か‥‥‥‥)
煙突掃除夫の子供達が全身を黒く染めながら、煙突を掃除するその下で、セシリア・カータ(ea1643)、ロニ・ヴィアラ(ea1699)、カレン・シュタット(ea4426)といった裏方も、羊皮紙に書かれた買い出しのリストを手にパリの市街へと繰り出していく。結局、荷物はヴァレスの馬に乗せる事になるのだろう。
しかし、ノルマンではサンタクロースはトナカイあるいは馬に牽かせた橇に乗ってやってくるという事もあり、不自然であり、角などが調達できるかどうか怪しい、トナカイ案は変更して、馬が牽く橇のサンタというラインで行く事になった。
「早く行かないと、マダム・パトリシアをお待たせしてしまいますからね、手早く済ませましょう」
「行くぞ、みんな」
声をかけて跨ると、ヴァレスが馬を歩き出させ始める。
「済まないが、私の分担は少なめにしてもらいたい、あの老夫妻に聞きたい話もある」
アマツ・オオトリ(ea1842)が一同に告げながらも、歩を進める。
そこへ心変わりしたパトリアンナがハイタッチする。
「悪いね、アマツ、ちょっと気持ちが変わった。買い出しはたのむよ」
「そ、そうか? じゃあ、買い出しはみんなに分担してもらって」
そうこうしながら、みんなで買い出しに進む。
「やれやれ、みんな等も行っちまったか。待つだけの身はつらいね」
細く開けた鎧窓の隙間から、パトリアンナが一同の出立を見届ける。
「こりゃ、雪になるかね、皆風邪ひかなきゃいいけど」
吹き込んだ寒風に体をしばれさせながら窓をしっかりと閉じると、教会へと趣きサンタに関する諸資料をあたりに行く。
「まあ、どうせやるなら上手にやらないとね」
「あんまり離れていないね」
一方、シフールのララ・ガルボ(ea3770)はパリ市街からわずかに離れたピエール君の去年まで住んでいたという家の焼け跡に来ていた。
「ピエールくんは両親の死を理解していると思うのですけど‥‥去年プレゼントに両親を願ったのはなぜでしょう? 本当に彼が欲しかった物、その真の願いは? 何か伝えたい言葉があったのでしょうか? ‥‥その火事について詳しく知りたいですね、現実と彼自身がどう受け止めているのかの両方を」
去年の事件について、近所の聞き込みに来ていたリューヌ・プランタン(ea1849)も彼女に同行している。
周囲の家は密集しておらず、周囲の住人も少ない為、惨劇の後は、石造りの家も焼け爛れたまま放置されていた。
しばし、聞き込むふたり。どうやら、原因はワインで酔っぱらって、暖炉にリースにしていたモミの木を放り込んだ、ピエール少年にあるらしい。
炎の中から、救出された夫婦はピエール少年をかばうように抱きかかえたまま、発見されたという。その為か、ピエール君は無事であった。そして、彼がミサで問われて、返す答えは、生き延びた事を喜ぶよりも、自分は死んでもいいから、父と母に帰ってきて欲しいとの事だったという。
「悲しい出来事だね」
「でも、それはピエール君の祖父母には?」
「いや、概要だけしか知らせていない‥‥あまりにも惨い出来事だったから」
クリスマスに忙殺されそうな間隙を縫って、この地区のエルフの神父にララが問うが、余り歯切れのいい返答は帰ってこなかった。
「苛烈すぎる真実もあるのですよ」
「実は‥‥」
と、ララが話を切り出すと、神父が教会の奥へと向かっていった。
一方、老夫妻の家の屋根裏部屋で、ムーンリーズは赤い防寒着と髭など、サンタの扮装をパトリアンナに着せていく。筋骨隆々たる肉体がふっくらした布地に被われていった。
それを一生懸命手伝う、ふぉれすとろーど ななん(ea1944)。
「うん、これで衣装はばっちりかナ?」
とご満喫のふぉれすとろーど。
「本番ではこれに口に布も入れてもらいますからね。そうすれば声の印象もずいぶんと変わると思いますよ」
ふっくらした肢体を検分しながらムーンリーズが自分の仕事にオッケー出しをする。
「やれやれ、サンタクロースも大変だね」
「‥‥こちらの分担は此れで完成ですね。細かな所は、ふぉれすとろーどさんに頼みます。何と行っても女性同士ですから」
「ムーンに重大な役目押しつけられちゃったな」
「押しつけたのではありませんよ。女性の体にこれ以上触れるのは失礼だと思ったからで」
「そうか、死体は見せてもらえなかったか‥‥」
アマツがララ達同様の事を老夫妻に問うが、こちらは、向こうの神父が情報を明かしていない為、これといった新事実は返ってこない。
「サンタクロースを信じない、それは幸福から一転、不幸の底に叩き込まれた日、すなわち聖夜を憎むが故の事ではないかと。
果たしてパトリアンナ殿がサンタとして振舞っても、高価な玩具を与えられても、彼は納得しないだろう『何故去年、願いを叶えなかったのか?』と。
「その答えが自分たちに出せないから、あなた達にお願いしたのです。それをあなたは反故にしようというのですか?」
「いや、それは‥‥悲しみ故の頑是無さを責める事はせぬ‥‥しかし、聞いて欲しい。
『サンタクロースとて、限界がある』と。
天に召された命、それを黄泉がえらせる事、命の摂理を歪める事を、聖人たるサンタは行わないのだと。
‥‥‥‥聖夜に両親を失った不条理を忘れろとは言わぬ。
だが‥‥少年、君の胸には両親との思い出があるだろう?
それを失わぬ限り、君の両親はずっと君と一緒なのだ‥‥!! と」
「それで済む話なら、冒険者ギルドには行きませんな、ピエールの事を思いやって下される方だと思いましたが、勘違いだったようですな‥‥サンタには出来ない事もある、なんて冒険者ギルドに頼まなくても、自分たちで言えば済む事です。それ以上の何かを‥‥期待したからなのですよ」
「剣術一辺倒の私では、やれる事も少なかったという事か‥‥」
アマツは意気消沈した。
そして、盛大なクリスマス・ミサがパリの教会で行われる。
地元の有志を募った聖歌隊による低音が響く、荘厳なオラトリオが聖堂を振るわせる中。
「サンタクロースかぁ‥‥懐かしいなぁ‥‥ステファ。
僕の所には毎年来ていたね、小さい頃は。
何せ元気だけが取り柄だったから。元気な事は良い事だよ」
ブルー・アンバー(ea2938)がステファ・ノティス(ea2940)に、しかし、さり気なく老夫婦と、ピエール君の席に届くように囁く。
返すステファも。
「サンタさんはね、イブの夜、一年間元気に良い子で過ごしていた子の所に、ご褒美のプレゼントを届けに来るのよ。ブルーは今年一年元気に良い子で過ごせたかな?」
「良い子じゃないからな、もう18だし。それに冒険で色々あったしね」
「もし、サンタさんが来なかった時は、悲しい顔をしちゃっていたのかもね‥‥。
例え悲しい事があっても、絶対次には良い事があるから、元気を出さなきゃダメよ。
サンタさんはいつも皆の事を見ているんだから」
「サンタクロースって可哀想だよね‥‥。
どうしてかって?
サンタクロースがプレゼントできるのは『モノ』だけ。
彼は「モノ」以外は人にプレゼントする事ができないんだよね。
『思い出』とか、『愛』とか、そして『大事な人』とかは「モノ」じゃないよね。
『モノ』じゃないお願いには応えられない。
応えられない願いを聞いたとき、サンタクロースは哀しい目をするんだって‥‥」
ララが椅子の背もたれに腰掛けながら、ピエールに聞こえるように囁く。
「え、そうなの」
無言で頷くララ。
それを切っ掛けに聯 柳雅(ea6707)がミカエル・テルセーロ(ea1674)に問う。「私は華国の山奥出身故、聖夜の風習は初めての事。ミカエル殿、サンタクロースとは何なのだ?」
(そうだよ、惨太九郎守って、何モンなんだぁ? )
と、若い女ひとり、五十嵐ふう(ea6128)と少女のふたり連れに見えるミカエルと柳雅であったが、歴とした男の子であるミカエルが、僕の知るところでは──と前置きを置くと、サンタクロースは古くから様々な宗教崇拝のひとつである冬至を祝う祭りと、ジーザスの生誕を祝う祭りが融合したものであると軽く前置きを置き──
「赤い防寒服に身を包み、魔法の馬やトナカイに引かれたそりでやってくる、老爺かあるいは、ドワーフなんだ。僕は見分けがつかなかったけどね。
12月25日のジーザス聖誕祭は、救世主を祝うミサの日として、『聖夜祭』の名称で知られていし。また一方、一部では『救世主のミサ』という内容からジーザスの名前を取って『クリスマス』と呼ぶこともあるんだよ」
と、更に長々と説明するが、その隣にいたふうは爆睡の演技が、演技ではなくなりそうな気がしていた。
(やべぇ‥‥眠い‥‥死ぬ‥‥。う〜、寒ィなぁっ。今日、雪が降るんじゃねえの?)
だが、次のフレーズで耳をそばだてる。
「‥‥で、そのサンタさんが欲しいものをお願いしたら、プレゼントしてくれるんですよ。僕は何をお願いしようかな〜。あ、君は何を頼みたい?」
「髪飾りかな?」
柳雅が応えるのを受けて、と、ミカエルがピエールに同年代を装って話を振ると、柳雅も問いかける。
「貴殿は、何を願うのだ?」
「なに、お姉ちゃん達?」
パラで15歳のミカエルと14歳の少女、柳雅にとっては期待していたリアクションであった。
「ううん、僕は良い子じゃなかったし、去年も悪い事したし、何にもお願いしちゃいけないんだ。それに本当にサンタが居るっていうのなら、お父さんとお母さんを帰して欲しい」
若年ながらも血を吐くような言葉。
そのピエールの囁きに、ミカエルに言葉を返す。
「んー、それはよくはわかりませんけど‥‥僕は、信じても信じなくてもいいものなら、信じたいですけどね」
ピエールの言葉にミカエルの両親が炎の中に倒れていく記憶がフラッシュバックしたのだろう。
「信じないよ! だって、本当に欲しいものは戻ってこないんだから。さっき、シフールの人も言ってたんだ『大切な人』は贈れないって。でも、去年はこう願ったんだ『僕の命をあげてもいいから、お父さんとお母さんを生き返らせて下さい』って。でも‥‥」
そこで老夫婦と柳雅は目配せして、ピエールを聖堂から連れ出す。
それでも夜は更けていき、わざわざ、1ブロック離れた地域までこっそり離れて、パトリアンナが、ヴァレスとセシリアとロニ、リューヌからが橇を走らせる。
そして、予め掃除しておいた煙突から、ずり落ちながら、暖炉に着地。
「ちょっと、これは応えるね。こりゃ、大きな家はサンタさんも敬遠したがるかもしれないね」
その落下音にピエールがややあって顔を出す。手には蝋燭の点された燭台。
「誰?」
「メリークリスマス、サンタクロースだよ」
と、全身を綿に包ませた彼女はふくよかで男女ともつかない。声も口に含んだ布で性別不詳。
「うそだ。偽者だ!」
「良い子にしていないとプレゼントはあげないけど、今年は特別。去年は願いを叶えられなかったからね。だから──これだよ」
言いながら、懐から古びた一対のロザリオを取り出す。
「ピエール君のお父さんとお母さんが子供の頃、聖歌隊で歌を歌っていた時につけていたロザリオだよ。天国で待っている、お母さんとお父さんが、傍らで見守れないけど、ピエール君の心の中でずっと見守っているっていう証」
付け髭の下で笑みを浮かべるパトリアンナ。ロザリオは確かにララとリューヌが神父から受け取ったものであった。刻まれた印章もピエール君が去年まで通っていた教会のもの。
「他の子供達の所に回らないといけないから、もうサヨナラだけど最後に一言。幸せはどこにでもあるけど、それは結局、自分の手じゃないと捕まえられない」
「自分の手で」
ピエール君が呆然としている内に、素早く姿を消すパトリアンナ
蹄の音に少年が鎧窓を開けると、雪が風を巻いて吹き込み、橇に乗ったパトリアンナが夜の闇に消えていく姿であった。
馬を返してもらいながら、ヴァレスが呟く。
「聖夜‥‥赤音、何してっかな‥‥? しかし、宵闇照らす白き天使達の舞い降りる刻‥‥まるで、次の季節を描くキャンパスの準備だな」
そして、雪がうっすらとつもる翌日。
ロニやカレン、セシリアといった面々が縁の下の力持ちとばかりに、働く一方。年中、春とクリスマスが訪れているようなブルーと、ステファが身を寄り添わせながら、賢明に手伝いをする。
「ありがとう、ブルーは力持ちね」
と微笑を浮かべながら、ステファが料理の手伝いをしながら、ブルーは力仕事に没頭する。
「夢を信じさせるかいいものですね」
とカレンが、一同の賑やかさを見て呟く。
「さあ、行くぞ」
「さて、ピエール君に‥‥お兄さんからプレゼントですよ」
と、ラッピングしたエチゴヤマフラーを片手にムーンリーズが笑う。
「メリークリスマス、ステファ。これ‥‥安物だけど、貰ってくれるかな?」
ブルーがステファに銀のネックレスを首にかける。
「メリークリスマス、ブルー。ありがとう、嬉しいわ。
金額はいいの‥‥ブルーの気持ちが篭っているなら」
「うは〜っ、面白ぇなぁ! ジャパンにはこんな習慣なかったぞ〜!」
と、クリームを嘗めたふうもテンションが高い。
パトリアンナも厨房で普段の姿に戻り、
(私もピエールの為に一曲歌おう、それがせめてもの夢を壊そうとした贖罪)
とアマツの決意。
「ふぉれすとろーど、双虎の舞っていう演武やろう、前にやったみたいに爆虎掌で」
「いいヨ、それ」
ふぉれすとろーどと柳雅が視線を合わせる。
そこへ、ヴァレスが朝イチで作ったホイップクリームを塗りたくったケーキを台ごと押してパーティー会場に突入しながら進む。
「さあ、行くぞ! みんなメリークリスマスだ!!」