●リプレイ本文
ウッドゴーレム‥‥しかもそれを7体も‥‥いやはやよく集めてきたものだ。作らせたのか、奪わせたのか。
只の好事家のところに行くのならいいが、悪事に利用されたら‥‥っと。
それを気にしても始まらない。
売主の依頼主もその辺りは敢えて気にしないらしいし、知っていてもしゃべらないだろう。
もしもの時には別件の依頼がギルドに来るだけだ。
分厚い樫の板で強化された馬車を見ながら、ラックス・キール(ea4944)が物思いに耽る。
「大丈夫でしょうか?」
ミラファ・エリアス(ea1045)がそんな彼を見て、声をかける。
金髪が風に靡く。
「私、この冒険ではアイスコフィン以外に役に立てそうにありませんけれど
──、一生懸命が大切ですよね?」
「ほらほら、道中長いんだ。余分な力入れてるとバテるぜ♪ ある程度の余裕は必要だろ?」
「そうですね、ファイゼルさん。ありがとうございます」
肩を叩くファイゼル・ヴァッファー(ea2554)にミラファは笑顔で応える。
彼女も目にしている馬車を含めて冒険者達を運ぶ馬車が2台、加えて数人がウッドゴーレムの馬車に乗り込むという。
(だが、本当に大丈夫だろうか?)
ふたりのやり取りにリアクションを起こさなかったラックスは、女性と見紛うばかりの風貌のナイト、カイエス・ナインターク(ea6678)は御者達を連れて、一杯引っかけてきた所に出会う。
「しかし、なぁ。何処かの遺跡と言われても漠然としてるよな」
「うちら、下っ端に聞かれてもねゴーレムだの何だの言われても──ね」
「ウッドゴーレムですか‥‥わたくし、モンスター学者として純粋に興味があります。こんな依頼でもない限り、なかなか接する機会もないでしょうし、勉強の意味も込めて参加させていただくことにしましたのですが」
「そうだよな、あんなの見たことないな〜‥‥どういう風に動いてるんだろう? どこで作られたんだろう?」
エミリエル・ファートゥショカ(ea6278)が突っ込んでくれたのを幸い、カイエスは探りを入れる。
だが、一介の御者が上の事情など知っている訳はなく、酒代だけが空しく浮いていった。
「ウッドゴーレムは前に見たことがあるよ。それほど優雅な動きはしないし、あんまり美しくないからそのものには興味ないね〜」
ダージ・フレール(ea4791)が吊り橋を占拠したウッドゴーレムの昔話を語り出した。
「運ぶ際の注意点はあるのか? こいつらが暴れ出す危険は?」
一方で、セイリオス・アイスバーグ(ea5776)が依頼人の事務所に向かうが、依頼人は現在イギリスに向かい、月道経由でどこかの遺跡で『仕込み』に行ったのだろうという返事が返ってきた。
「むう、迂闊な事は出来ぬのう──とにかく皆に伝えるのじゃ」
(ウッドゴーレム(木像)とは‥‥どこからもってきたんじゃろうな。まあ、わしには関係の無いことじゃ)
「中の確認をと、1体、2体‥‥8体」
(例の商人の依頼でござるな。
こうなれば毒食らわば皿まで。‥‥ちと使い道が違うでござるが、身が空いていればとことん付き合ってみせるでござる。
今回は墓地の副葬品や遺体そのものではないだけマシでござるしな。
‥‥いやまさか墓地の守人だったという秘密が?
‥‥‥‥いやいや、今よぎった不安は無かった事にしよう)。
「8?」
ウッドゴーレムの数をカウントしていくジャイアントの五所川原雷光(ea2868)の眉が訝しげに歪む。
「私は護衛の一人にして黒派仏教カツドン宗僧侶なのだ。カツドン宗はインドゥーラ発祥の小さな小さな一派で‥‥」
2メートルのウッドゴーレムから頭ひとつ抜きん出たジャイアントのサイラス・ビントゥ(ea6044)が返答を返す。
雷光の身長は245センチ、サイラスの身長は230センチ。自然と雷光が見下ろす形となり、その目に映ったのは‥‥。
「むう、物の怪に紛れて尚、これだけの威圧感があるとは──天の後継者の素質あるやもしれぬ。しかし‥‥カツドン宗とは?」
「うむ、子細に説きたい所であるが、ゲルマン語では限界がある、ここは同じ黒の教えを奉じる者として円満にやっていきたいものだ」
意気投合したところでロープを取り出す雷光であったが、何か外から声が聞こえ、ロープが触れた瞬間、ゴーレムが動き出した。
続けて全てが鳴動し出す。
「気味の悪いゴーレムじゃ。しかし、こいつは何のためのゴーレムなんじゃ?」
セイリオスが呟く中、淡い白い光に包まれたシャルロッテ・ブルームハルト(ea5180)が合掌して、呪文を唱え終わった。
「確かに7体います。え、動き始め──」
「退かぬ! 仏教に後退はない!!」
と、無手から数珠を握りしめ構えを取ろうとするサイラスだが、護衛対象を傷つける訳にはいかないと、受け太刀になり、パンチ一発ではじき飛ばされる。
しかし、雷光がかばい無傷。
次々と飛び出してくるウッドゴーレム達にウィザード達がアイスコフィンの準備を始める。
そこへファイゼルが動きを封じるべく、ウッドゴーレム1体に毛布をかぶせた。
予想に反して、引きちぎろうというリアクションを返すのを、力任せに押さえつけたファイゼルだがはじき飛ばされそうになる。
「やれやれ、力仕事か!!」
ラックスが全身の筋肉を振り絞り、ファイゼルをフォローし、呪文の完成まで粘り、毛布を1枚駄目にしたものの、ふたりは無傷で勝ち残った。
「次、行ってみようか!」
「いや、もう疲れた」
「おやおや、困ったですね」
と、ハーブティーを飲み干して、クレア・エルスハイマー(ea2884)が立ち上がり、おもむろに──。
「皆さん、頑張って下さい、私が魔法を使うと、一掃できる代わりに凄い借金背負うんで、応援しかできません」
「今回もまた、アレですねェ」
それを聞いた、ゴーレムの暴走には無策のシャクリローゼ・ライラ(ea2762)が空中で達観したように呟く。
「あ、馬さんを離しましょう。巻き込まれたら大変ですから」
言って轡を外しにかかる。
シフール故の力の無さに苦労しているシャクリローゼを手伝うクレア。
「ひとりは皆の為に、皆はひとりの為にです」
「こっち、こっち。手の鳴る方へ──」
シフールのフィリア・シェーンハイト(ea5688)が誘導する様に空中を舞っている隙に、腰に手堅いタックルを決めてゴーレムの動きを封じるオラース・カノーヴァ(ea3486)。
「俺ごと固めろ」
絶叫するオラースのゴーレムにセイリオスが淡い青い光に包まれ、印を結び、呪文を解放しようとするが、別のゴーレムが襲いかかってくる。
その拳を鎧の特性をフルに活かし、急所から逸らす事で、何とかやり過ごす、イワノフ・クリームリン(ea5753)。
「セイリオス、急いでやってくれ」
「よし!」
精霊力が集結して、ウッドゴーレムが氷に封印される。
馬が戦場から離脱したのを確認して、次の一手に出ようとした瞬間、イワノフが信じられないものを見た。
カイエスが盾でゴーレムを殴りつけているのだ。
止める間もなく、ゴーレムはよろめく。動きに支障は無いようだが、肩のあたりに明らかな凹みが出来ていた。
「ち、転ばせるには技が必要か!?」
「何をするんだー! 保護すべきゴーレムを傷つけてどうする」
その光景を目の当たりにしたイワノフはカイエスに絶叫する。
ウッドゴーレムがどこから集められたかはともかく、真新しい跡であり、どう言い繕っても、古傷と誤魔化しようがないだろう。
「こんな醜い物!」
淡い青い光に包まれたダージが吐き捨てながら最後のゴーレムを氷に封印する。
「私、醜い物が嫌いなんです。でも、吊り橋の上にいた相手とは明らかに攻撃のキレも破壊力も違いました。世の中、目にしたものが全てではないんですね」
その言葉に頷きながらエミリエルは──。
「本当に世界は広いです。同じモンスターでも個体差があるなんて、人だって個人差があるのですから、当然かも知れませんが」
封印が解ける前にこのゴーレムが動き出した理由を、セイリオスがクレアと丹念に考えていたが、推論はふたつ出た。
まず、ロープで雷光達が拘束しようとした事が原因となったかもしれない。
もうひとつは、魔法を使われた事が原因となった。特にシャルロッテの魔法はコンストラクトを発見する。彫像に化けて、奇襲をかけるゴーレムだとしたら、自分の位置がばれる事は危急存亡に関わる。それ故に起動したのかもしれない。単純に魔法を使ったので反応した可能性も捨てきれないが。
とりあえず、封印した所をロープで数珠繋ぎにし、それ以上の騒ぎは免れた。
もっとも、魔法起動説と、敵対起動説のどちらをとっても、拘束するには両方の因子が絡むため、最初の起動はやむを得ないものだったろう。
「しかし、金貨50枚かのう」
御者を交代で勤めるカイエスへの一同の視線は冷たかった。
ペレグリン・ベレリアンド(ea6286)は先行して偵察していたが、何も報告すべき事はないとの、報告だけであった。
一同がいるに違いないと想像した山賊など存在しなかったのである。
予定通り、依頼された支店に到着すると当然、傷の事が指摘され、シフール郵便で本社に急ぎ報告される。
パリの冒険者ギルドからは依頼に失敗したとみなされ、一銭も報酬は出なかった。
ゴーレム破損の賠償金もかさみ、張本人のカイエスは8G、それ以外の面子
は3Gの金を出す事に落ち着いた。
カイエスはそもそもの依頼に関して、依頼人に直談判しようとしたが、受付の人間の話では、カイエスが絶対と言っても、そもそもこちらに会う義理はないし、依頼人自身が今はイギリスから月道を通ってどこかの異国へと向かっているだろうとの返事しか返ってこなかった。
それを聞くと、カイエスは本来の報酬分と食事代分の入った金袋を床に放りすて──。
「気に食わない。這いつくばって拾えよ‥‥亡者。それと‥‥納得のいかない金は受け取らん‥‥心に嘘はつけんからな‥‥」
喜ぶ事務員達。
「ですって、帳簿、どうしますか?」
「なーに、勝手に金を投げ捨てているんだ、依頼を全うもできない『正義の冒険者』がな、今晩はこれで酒場にでも繰り出そう」
「いいっすね、それ! また、依頼受けて下さいね、成功すれば事業は進んで懐が暖まるし、失敗すれば、濡れ手に泡の酒が手に入るんですから」
そんな彼等を後目に依頼人に会うべく、イギリスに向かおうと、セーヌ川を泳いで下ろうとする、カイエスの姿が見られた‥‥とは、噂である。
「はあ、今回は赤字かしら」
言いながらもお茶を欠かさないクレアは溜息をつくのであった。
これが今回の冒険の顛末である。