●リプレイ本文
ルクス・シュラウヴェル(ea5001)はやる気に満たされていた。
著名なウィザードにして学者のファーブル先生に近しく行動を共にできる機会が来たとは大層光栄だ。精一杯お役に立つよう努力したい!
「キャプテン・ファーブル‥‥お噂はかねがね聞いておりました。昆虫学者でありながら偉大な冒険家だと‥‥是非その武勇談をお伺いして、さらに自分の目で確かめた上で歌にしてみたいと思いましたの」
ロシアのバード、アイネイス・フルーレ(ea2262)がキャプテン・ファーブルに熱い眼差しを向ける。
ガブリエル・アシュロック(ea4677)も是非にと、必要に迫られてジャイアントセンチビートの生態に関して、解説を迫る。
「俺も、自称ノルマン最高の毒草追求家として、なんとなくあんたの志には同感する!
そうそう。ノンノンノンだ」
語るレティシア・ヴェリルレット(ea4739)は、ちちちと指をふり、男たるもの志は広く大きく! と決意を露わにする。
「‥‥でさ、俺は依頼料とか一切いらねぇから、ここらへんの毒草・薬草、ひととおり採取させてくんねぇかい?
あんたが昆虫研究に人生をかけてんなら、俺は毒物の追及に人生かけてんだよ!
なあ、キャプテン・ファーブル。あんたを漢と見込んで!」
よかろう、との声に歓喜するレティシア。
ところで、と声をかけるルクス。
「森の食材を使って調理などしていいだろうか? 目先が変わっていいと思うが?」
「楽しみにしちゃったりしちゃうよ」
「勿論」
志は違うが
(傭兵稼業をしている手前、大型の虫モンスターと対決する事もあるだろう。
勝利をもぎ取るにはまず敵を知ることから‥‥。
ファーブル氏のモンスター知識には心惹かれるものがある)
とベイン・ヴァル(ea1987)が水を向けると、蕩々とキャプテン・ファーブルからファーブル博士へと心の衣装替えをし、熱心な聴衆に向かい、講義を始める。
「センチビートはだね、頭部と多数の体節からなり、体は細長く一般に平たい形をしている。
頭部に一対の触角があり、21の体節には一対の足があるのだ。
朽木や石の下、落ち葉や樹皮下などの湿った暗いところに住み、かなり動きはすばしこかったりする。
食性は肉食性で、(大型の)昆虫、クモ、ミミズやほ乳類、など主に地表、地中に住む動物を食べるが、好みがあるらしく、青虫やナメクジなどは食べたりしない。
ジャイアントセンチビートは、春〜夏にかけて産卵し、母センチビートは卵や仔虫を保護する習性があってだね、子は親と同じ形で脱皮を繰り返して大きくなるんだ、これがまた。
夜、活発に餌を採り、家屋内にもよく侵入しちゃったりするのだ。
ジャイアントセンチビートは活動が盛んになったりする夏に被害を起こす。
群集生活をしないで潜んでいたりするので、駆除するのは困難、いやー本当に大変だったり」
この話を聞いて、マリウス・ドゥースウィント(ea1681)は闘気で盾を作り出すには少し距離を置いてからの方が良さそうだと判断。
リューヌ・プランタン(ea1849)のストレートな質問。
「コアギュレイトとアイスコフィンの連携で捕縛を考えているのですけど‥‥毒以外で注意した方がいいことはありますか?」
「そうだねぇ、相手の体力そのものだったり。半端じゃないからねぇ」
「念のため毒の種類を教えてください。万が一の時にはアンチドートで解毒を
するので‥‥そのような事態はできるだけ避けたいのですけど」
「うむ。正しい判断。生物毒の筈。自分で受けた事がないので、実感はないが、実験の結果だとそうなってる」
「では、クレイジェルの特徴・対策方法など聞きたいのですが?」
カイザード・フォーリア(ea3693)がその間隙で何かを話しかける。
「カイザード君、安心してくれたまえ。ラテン語は教養人の共通言語だよ」
「まだ此方の言葉に慣れないのでな」
アトス・ラフェール(ea2179)はそんな異国語での会話に構わず、冷静にクレイジェルに関しての質問を発する。命に関わる事だからだ。
「さて、クレイジェルだが、恐れるべき点はふたつあったりする。カンが鋭くないと、いきなりの不意打ちを受ける。1メートル程の大きさの不定形生命体だからね。しかもアースカラーの上に土をかぶって擬態してたりする。おまけにこれがタフなんだ。人間を一刀両断できるかの目安にジャパンの畳を一刀両断出来るか、というのがあるけれど、これがまた重装備のジャイアントを一刀両断する難易度で殺害にかからないとね。まあ、動きが鈍いから専門的な腕前の体術や、武器の腕を持っていれば、不意打ちさえ受けなきゃあ攻撃も回避も楽に出来る。ま、不意打ちには私のバイブレーションセンサーで警戒しておくがね。
ただ、大きな可能性としてジャイアントセンチビートに全部食われている、というのもアリかな、なんて」
「なんて博識な方なのでしょう‥‥そして軽やかな語り口‥‥」
アイネイスはいくらかの知識として“百足類はジメジメした落葉の下を好む”程度の知識はあるが、氏の学者としての深さを身を持って知る機会に触れ、アイネイスは負の可能性をも肯定する彼に陶酔気味な感じだったりする。
カイトスはその講義を聞き終わると、早速ラテン語で自分を売り込む。
「先生の博識で神聖生物の目撃場所や、神聖生物を飼おう・捕らえようとしている好事家は居るか知らないか?」
「いや、目撃はパリから少々離れた屋敷でペガサスの絵を描くべく、起居を共にしている画家の話は聞いた事があるが。飼う、捉える、そこまで冒涜的な人物がいたら、騎士団に一報するね」
「そうだな。で、又、今度そういった所へ調査へ行くなら護衛にどうだ?」
「残念だが、エンジェルに興味はないからね」
「親の敵で、デビルを追っているのだが、どうすれば会えるんだい?」
「神をも恐れぬ大悪党か、天使の如き聖者の側にいれば、その者の魂を欲して現れるのに巻き込まれるだろうね。小悪党や横丁の善人程度では悪魔は現れないよ」
島についた所で、ウインディア・ジグヴァント(ea4621)は溜息をつく。
「しかし、研究のためとはいえ、こういった島を用意してまで大百足を個人輸入か‥‥」
(俺も少しは見習わなければならないな。
研究家であり追及者たるもの、多少のことにめげていてはならないということか)。
「で、いきなり包み込むのか、体を締め付けるのか、尋ねておきたいのだが」
打ち倒すならばともかく、大事に捕まえるとなると人数ではなく大勢でやったほうがいいと、割波戸黒兵衛(ea4778)はキャプテン・ファーブルに問う。
「それは現場の判断だね。キミ達は依頼を聞いた上で最上の判断を下すと信じてるからね」
「ふむふむ、ならば大百足の急所は判らないのか? 判れば、そこを突いて動きを封じる技を持っているが、人外のものに関しては、急所を熟知してなければならないのだ」
同調するラーゼル・クレイツ(ea6164)も問う。
「残念だが、戦いのさなかに後ろから声をかけても、それに即応出来る訳ではないから無理だろうね──いらん努力をして、実戦で集中を乱すのと、全力でかかるのとどちらをお好みかね? 結局、人は、自分で得た知識でしか戦えないのだよ。残念だが今回は魔法に頼るのが一番だよ」
コメート号を降りながらルクスは──
(しかしファーブル先生の言動を間近で色々見聞きさせて頂いたが‥‥何と言うか、やはり何事かを成す人というのはああでなくてはならないとでも言うのだろうか。少々‥‥いや随分戸惑う事が多かった気がするのだが。というか、そもそも大百足を逃がしたという依頼その物が──以下自我防衛の為、略)
レティシアを除く一同は森に入り、ルクスの作った料理を楽しみながらも、周囲に気を配る。
食器を一同が置いた瞬間。ファーブルは呟いた。
「北西100メートル、6メートル以上。と人間大ひとつ。間違いないレティシア君と奴だ」
毒草、薬草その他を取りに単独行動していたレティシアはキチン質のこすれ会う微かな音に気づくと、宴の香りのする方向へ走りだしていた。
「大丈夫か!」
「大ムカデなァ、物好きなモンだぜ‥‥」
ウィレム・サルサエル(ea2771)はみっちりと筋肉の付いた体躯で、ショートソード一本でレティシアのフォローに回る。
枯れ草をかき分ける異音から確かに殺気を感じる。いや、食い気か。
乾いた音を立ててジャイアントセンチビートが半身を擡げる。
女盛りのドロテー・ペロー(ea4324)が大きく軌道を外しながら矢を射かけ、注意を自分たちにむける。
「レティシア大丈夫!?」
とにかく、注意を自分に向ける。動きの鋭さからして、自分では9割方避けきれないだろうが、とにかく仲間が来るまでの時間稼ぎである。
ロイド・クリストフ(ea5362)がコナン流の豪快な剣術──いや、術ではない生き様──を見せようと、ジャイアントセンチビートに対峙する。
しかし、攻勢には出ず、盾を前に出し、闘気で盾を作ったマリウスと戦列を作り上げる。
そこに横合いから迫る ラーゼル・クレイツ(ea6164)。
「それでは大ムカデ退‥‥いや捕獲に向かうか‥‥さて、意味のある生涯の最後になるかどうか──」
相手の動きは攻勢に回れば鋭そうだが、守勢に回れば、その巨体故につけ込む隙がいくらでもありそうだ。
戦上手の面々がラージ・センチビートの気を引きつけている間に──
‥‥いや、個人的な趣向に口を出してはいけないということはよくわかっているつもりだ。
しかし、百足というのは、あのたくさんの足が一度に動いてだな‥‥。
違う。俺は百足が怖いと言っているのではなくて、どちらかというと、人型をした生き物とは相容れない生物なのではないかと言っているだけだ。
鳥肌を立てながらウィンディアはアイスコフィンの間合いに入る。
前衛が激しくジャイアントセンチビートの攻撃をいなしている。
リューヌ、アトス、ルクスがその間隙を縫って、聖なる母に祈りを捧げて、金縛りを念ずる。
6度目の術でようやく動きが止まった。
「麻痺毒は困るからな。アイスコフィンの際もけして百足には触らぬようにしなければ‥‥」
ウィンディアは遠距離からアイスコフィンの術をかける。
数度抵抗され、何とか氷漬けにする。しかし、厄介な事にウィンディアの魔力が尽きてしまった。
「2時間以内にこの大物を運ばなければ──」
一同が焦る中“忍”!と全身を煙に包ませた黒兵衛が巨大な3メートルはありそうな蛙を創造する。
「どうだ驚いたじゃろ? 大百足さまを“ガマ助便”で送るぞ」
大事な荷物だから大百足“さま”である。
簀巻きにされたジャイアントセンチビートを、“ガマ助”が消える度に術で作り直して運んだ頃にはアイスコフィンの封印も解けていた。しかし、しばしの自由を横臥したジャイアントセンチビートもすでに檻の中であった。
「やれやれ、ハッスルしすぎたかのう?」
黒兵衛は魔力を使い果たして、座り込む。
「はっはっはっは! 正義は必ず勝つ事になったりして、もう」
キャプテン・ファーブルは朝陽を背に腰に手を当てて一同に宣言した。
研究所を一同が視察する中、異様に大きな仕切りで区切られた空白の檻に気がついた。
(次に何が逃げ出すのか事前に見ておかなくちゃ!?)
と、思っていたドロテーは素直に疑問をぶつけた。
「ここには何が?」
「いやぁ、そのうち冒険者ギルドに依頼して、ジャイアントマンティスのつがいを捕まえてきて貰って、交尾の実験記録を取ろうと思ってね、どうしたんだいキミたち、その表情は?」
異様ににこやかなまま、キャプテン・ファーブルはレティシアが集めた標本をラージセンチビート騒動で失った事を知り、給金を渡すこととした。
そして、彼の愛船コメート号は冒険者を乗せてパリへと舳先を向けるのであった。