●リプレイ本文
深い西ノルマンの森の中、青年と少女のペアがてとてとと歩いていく。
「うえぇぇーん‥‥人攫いのおぢちゃんに捕まって、他所の国に売られそうだったの‥‥サーガインお兄ちゃんに助けてもらわなかったら‥‥僕は今頃‥‥」
うるうると顔を覆った直後、クラリス・ストーム(ea6953)はサーガイン・サウンドブレード(ea3811)に涙ひとつない笑顔を向けて尋ねる。
「クラリスさん、私大事な事に気づきました」
「なに、お兄ちゃん?」
「山賊がわざわざ、金もカステラを持っている風でもない、私たちを襲う義理はないという事です。金持ちならともかく、私たちは一般人ですから、人身売買やっているという話もないですから、良くても部下が出てきてオシマイというオチではないかと──ああ、この徒労感が堪らない。もっとも甘美なこの事実に気づいたのは遅すぎたのか、大いなる父の試練なのか? ああ、もう‥‥」
「やっぱ、この変態駄目だわ」
「邪魔? 足手まとい? 頼りになるはずですヨ〜〜」
己を抱きしめて掻きむしる彼にクラリスは中指を立てて離れると、ひとり薄幸の少女を演じようとする。
「ここに! 凄腕のカッコイイ武道家がいらっしゃると聞きました。どうか、私のお話しを聞いて下さい!!」
サーガインは声を振り絞り絶叫する。
が、森に響くのは彼の荒らげた呼吸音のみ。
「さて、お客さんのお出ましかな」
ラグファス・レフォード(ea0261)が僅かな空気の乱れから殺気を読みとると、弓に弦を張る。
(かすて〜ら、あのふんわりとした食感のお菓子を盗もうだなんてね。
盗みたくなる気持ちはとても、とてもよく判るけど──アレは僕のだ。
‥‥‥‥それにしてもノルマンに渡って直ぐ”魔術師殺し”が出来るなんてね)
森に潜みつつ並行して進む、アルヴィス・スヴィバル(ea2804)冷たく燃え上がる闘志を胸に秘め、
「まったくもって──まったくだ」
と、通常のエルフにはあり得ない漆黒に輝く両目を光らせる。
(全くアイスブリザードが完成していれば──良かったけど、是非もないか)
時を同じくして“かすてーら”に関して思いを馳せるシフール、ララ・ガルボ(ea3770)がいる。
(“かすてーら”‥‥輸出品というけど珍品だから高いのよねぇ。
でも所詮“かすてーら”、これの為に命をやり取りするのってなんだかなぁ。
盗賊団もそれ以外の馬車団も襲っているだろうから倒す事に価値はあると思うけどね。とにかく、戦いは1度で終わらせないと、こちらに回復系がいない以上、数で上回る相手との持久戦は危険。フェアラートが何か手を打っていたみたいだけど)
上空から山賊が散開しているのを見ると、闘気を高め、淡い桃色の光に全身に包ませ、合図とする。
荷台にいたエスト・エストリア(ea6855)がその僅かな光を辛うじて捉える。
一同の間に密やかな伝言がやり取りされ、鞘継匡(ea4641)は発信源の彼女に寄り添う様にして守護する。
「ストーンを放つ前に怪我をするわけにはいかないだろうし‥‥幼馴染の少女が初恋だったんだ。
よくよく怪我の多い馬鹿で‥‥そのせいか、俺は女の子が怪我をするのを見るのが苦手でね」
そんなふたりを見て、瀬方三四郎(ea6586)は──。
クラリス君とサーガイン君。
事前の相談で、強固に潜入案を提案していたが‥‥。
確かに祖国では、珍品と知られる菓子だが、ここではありふれたもの。
我が国の褌と同じだ。
思い過ごしであればよいが、何かの利権争いでも無ければ、
大規模な賊の活動はないのでは?子供でも買える代物に大袈裟過ぎる。
結局、皆と喧嘩腰のまま飛び出していったが‥‥心配だ。
だが、仲間が散開し、警戒を始めた今、為すべき事は違う──それは馬車を守り抜くこと。
思いつつ三四郎はナックルを填める。
その頃、皆の予想通り、馬車の前後を挟むようにファイター達が展開し、禍々しい斧を構えていた。
「巴里紅翼華撃団隊長、氷雨 絃也参る」
氷雨絃也(ea4481)が名乗りつつ、寝起きの熊の様な形相で、前衛のファイター達に立ち向かう。
だが、そこへ一発の火球が撃ち込まれた。
大地に当たると爆発し、爆風が周囲に吹き荒れる。
匡も一歩遅れて、精霊力を解き放ち、3人ばかり巻き込んで、炎の柱を吹き上げさせる。
「かすていらはあたしのもんだー! この厚化粧ー!」
ローサ・アルヴィート(ea5766)が放った矢は厚化粧(主観)の女魔法使いを捉えた!
「No hay rosas sin espinas‥‥なんつって」
しかし、次の瞬間、それは一握の灰となった。
「身代わりの魔法、結構芸達者ね」
良く見ると他にも2、3人いる。
「百人くらい出して見せろ、皆殺しにしてやるから!」
その声に合わせて、森の中でアルヴィスとレンジャー達が弓と魔法の撃ち合いを始める。連射性はショートボウに一日の長があり、相手も呪文の発動に不適当な手を振り回しにくいポイントへと、誘導していくのが彼にも判る。
それを逃れてスペースのある場所にいるとあっという間に押し込められて矢襖にされる。
高速詠唱など意味がない。かわすだけの体術を元より持っていないのだから、更に魔力の消耗は激しい、高速詠唱で魔力を更に消耗しているのだから。
おまけに、最大原に魔力を振り絞ってもウォーターボムの魔法では漸く相手の間合いに飛び込まざるを得ないのだ。ウィザードが魔力だけで勝負しては、見えているべき結果である。
「僕の相手はお前らじゃない。魔法使いだ」
その言葉も空しくアルヴィスは意識を失う。
「山賊ども、命はまだあるか、覚悟することじゃな」
ノーマルソードの重量を十分に乗せて衝撃波が円錐状に繰り出される。
木の上では逃げる間もなく、そのまま木の下敷きになろうとするところを‥‥
まるでヒューマンの成人男性並の長身を誇るファルド・トラニッシュ(ea5636)がアルヴィスを助け出す。
「やれやれじゃ」
別方面の彼を狙うレンジャー達に対し、ラグファスの矢が2本続けざまに放たれる。
「おっと、止めを刺されても困るんだ、そのまま隠れといてくれ」
レンジャー達とラグファスのにらみ合いが続く。
だが、レンジャーが如何に矢を射ようと、急所を外したファルドの意に介する所ではなかった。
この半目の眠たげにさえ見える死に神が迫るのをレンジャー達はただ、黙って待つしかなかった。
「俺に楯突いた事を後悔しながら逝け!」
絃也が着実に相手にダメージを与えて行くが、後衛では戦いが続く。
聯 柳雅(ea6707)が残ったレンジャーの矢を2本3本と受けながら、突き進む中を桃色の闘気に己を包ませながら、ふぉれすとろーど ななん(ea1944)が闘気の塊を打ち据えて、彼の前進の援護をする。
そこへ彼女もとびこみ──。
「行くよ、あれ!」
何だか判らないけれど、同じ虎の形意拳の使い手同士感じるものがある。
ふたりで、ファイターをひとりを押し包み、ななんが絶叫する。
「二匹の虎の咆哮、その身に、魂に、刻んでもらうヨ! 双虎吼!!」
未熟きわまりない一撃でも受けも鎧も無視する『徹し』はななんと柳雅の同時の爆虎掌の炸裂により凶悪きわまりない牙となった。
「次、いこう“ななん”」
柳雅は次の戦場へと“ななん”を誘う。
「先手を取られたか──」
森に関して最近調べ始めたばかりの天薙龍真(ea4391)がこの森に熟知したレンジャー達に遅れを取った事を歯がみしつつ、兜割りの一刀を浴びせようとするが、埒もなくかわされる。通常攻撃でも同等以下。攻撃を受ける事を覚悟で魔法を唱えて、それで相手の目を引きつける事に頭を切り換えようとしたが、彼の精霊魔法で操るべき炎はない。先程撃ち込まれたファイヤーボムは爆風を巻き起こす魔法であり、火を発生させるものではない。窮地に陥った彼も深手を負いながらも彼はアルヴィスを抱えて、戦域から離脱しようとする。
だが、当然、そこへ追い打ちをかけるのは敵役の常套手段、だが、敵のファイター陣が面白いように放り投げられていく。
三四郎の『柔』の投げ技であった。
「さあ、早く。馬車に乗せるんだ──ここは引き受けた。若者が散るべきではない」
その馬車の前で仁王立ちする三四郎。かかれるものならかかって来いとの気迫である。
そして数を押して襲いかかるファイター達。この数なら捌ききれないだろうとの読み。
三四郎の胴着が深紅に染まった。
だが──そこには、鬼の一文字を背負った男が居た。
勝てない──たとえ一対一であったとしても、そこへ絃也の声が響く。
「貴様が一番強いと言うなら、俺と戦え! 一騎打ちを所望する」
「ふん、少しは出来そうだな。だが──」
闘気と炎の両方に包まれた拳を振り上げ。
「我が奥義に敵う者などいない」
「ほらほら、今度は竜と辰を間違えるんじゃないよ」
後ろから女ウィザード、ベラの声が響く。
「誰も気づかなかったからいいだろう。受ける事は敵わず、避けきれず散れ
──ロン!」
エストが呪文の詠唱を始めた刹那──。
「待って!」
割って入るフェアラート・マルドリック(ea6904)の声!
「どうでしょう? カステーラでどうです! あなた方がカステーラを食べたくて、輸送車を襲っているなら、逆に今度は守って、その報酬として、あなた方にカステーラを渡します。どうです? あなたなら最強の用心棒になれる筈ですが。
話はきちんとつけてあります」
とりあえず、絃也が避けもできず、返す技もなく吹き飛ばされてから、返答は戻ってきた。
「う、その話乗った!」
「騙されるんじゃないよ! どうせ、こき使われて、ゴミの──」
ベラの脇腹すれすれに刃が突き立っていた。
「大人しくしろよ、このアマ‥‥パパと結婚してママになってくれるって言うなら見逃してやってもいいが‥‥答え次第では腸ブチ撒ける事になるぞ‥‥ごるぁ!」
と、本性を現したクラリスが殺気を剥き出しにしてにこやかに微笑んでいる。どのように潜入を果たしたかは、後で語ってくれる‥‥かもしれない。
「きっと僕に優しい(従順)なママになってくれるに違いないよね?」
「あんたを産んだ親の顔を見たいわ」
「ううん、パパの人間としての駄目っぷりに愛想を尽かして出ていったから顔なんて知らないんだ。こう見えてもね本当は、母親の愛に飢えているんだ僕☆
『なんて可哀想に』といえよ、この厚化粧」
この後、駆けつけた当局により、ベラが事実上の指揮官であった事が判明。
武道家は様々な駆け引きと交渉によりカステーラの護衛十年、その他の面子は金銭目当てだった為、ベラと同様──彼女ほど過酷ではないが──有罪となった。
「‥‥‥‥そういえば、幼い頃に口にしたことがあったが、あれがかすていら‥‥」
匡は目の前にある菓子に不思議なデジャブを感じた。
「とても高価な舶来の菓子と聞いたが‥‥…確か『みるく』と共に食べるが美味しいと聞いたような」
「茶もあうヨ、どうぞ両方召し上がレ〜」
と、“ななん”が一同に茶も勧め、報酬の一部である『かすてーら』を囲んで卓に座る。
甘い芳香が一同を包んだ。
「いたただきま〜す」