貴族A氏の死因
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■ショートシナリオ
担当:成瀬丈二
対応レベル:2〜6lv
難易度:難しい
成功報酬:1 G 49 C
参加人数:15人
サポート参加人数:1人
冒険期間:09月22日〜09月28日
リプレイ公開日:2004年09月29日
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●オープニング
神聖歴999年9月。
パリより離れた別荘地帯で、別荘宅の寝室で死亡しているエルフの貴族A氏が発見された。
A氏は精霊魔法──水を使うとの事だった。
執事が死体を発見した寝室には争った形跡があり、3メートル近いロープ状の何かを水に濡らしたような痕跡が発見された。これはA氏がアイスコフィンを使った痕跡と思われる。
A氏の死因は両踵にある、1センチ間隔で何か2本の物を刺したような傷口と思われる。即死の様だった。
事件の当日、A氏は5人の旅の楽団が近くに来たからと半分押し掛けて来たのに難色を示したが、奥方がとりなしを受けて、興業を許可、それなりに楽しんだ。その楽団は死亡時には既に家を出ており、足取りは不明。
死体発見当時、別荘宅にいたのは奥方、執事、コック、それにメイド3人だったという。
執事が別荘内を綿密に調査したが、怪しい人物などはいなかったという。
いずれも、全員、既に警備の元に身柄は確保されており、残った楽団員の身柄の早急な確保が別荘地帯の警備員から、冒険者ギルドへの依頼として出された。
楽団のメンバーは以下の通り、いずれも名前は不明。
1.ノルマンのエルフのバード、30(90)才、語り部(無手)。
2.インドゥーラのパラのジプシー、13才、舞い手(無手)。
3.ビザンチンの人間のナイト、18才、警備担当(クレイモア使用)流派コナン。
4.フランクのドワーフのジプシー、28(56)才、ジャグラー(手斧使用)。
5.ノルマンのシフールのバード、19(38)才、歌い手(無手)。
ジプシーとバードは別荘宅にいた人間が黄金の光や、銀色の光に包まれる様を確認し、供述は一致している。
「と、まあ。死ぬほど面倒くさい仕事ですけど、事件の全貌を解明できたら、その方には4Gの報酬が追加されるから、そっちを狙うのも手ですね」
と、パリのギルドの受付嬢は一同に言い渡した。
「ナイト辺りが反抗して敵対行為になるかもしれませんが、その場合は是非に及ばず、との事です。
もしプロの暗殺者の事でしたら、動機は『金』で、依頼人の背景は知らないでしょうから」
「ダイイングメッセージとか無いんですか?」
との質問に、受付嬢は首を横に振る。
「即死らしいですね。もっともエルフの方ですから、毒などへの抵抗力は低いでしょうし。そんな体力無いんじゃないんですか?」
そこで見栄を切って、羊皮紙を広げる受付嬢。
「依頼を受ける方はこちらにサインを」
──さあ、冒険の幕が開いた。
●リプレイ本文
「楽団員の前で『人が殺された』、『被害者はA氏だ』の2点は話さないでもらえぬか? 楽団員が犯人なら、ボロを出すかもしれぬからな」
黒畑緑朗(ea6426)が犯人へのプラフをかけるべく、楽団を追いかける一団を前に、そう口上を切り出した。
そして、残る一同に対しても礼を崩さずに次の如く述べる。
「A氏の死因が毒かどうか、調べてもらえぬか?」
医者が調べたそうだが、かなり大量の毒を注入したらしいという裏付けが取れている。もっとも、その医者まで容疑者の一環となると、事態は意味を為さないが、さすがに部外者だけあって、その考えは外すべきだろう。
毒物を飲まされた痕跡もない。
「半ば押し掛けて来ていた楽団か‥‥事件に関係あるかどうかは本人達に聞くのが一番早いな‥‥」
言いながら、ヴィグ・カノス(ea0294)が最年少のシクル・ザーン(ea2350)の親友である、エルリック・キスリングに頼んで自分の荷物を馬に積ませて貰う。
「どうも、貴族のサロンの噂だと、奥方とA氏の関係は上手く行っていなかった、というのが定番みたいですね」
と、彼は屈強なジャイアントのマダム達から、愛玩動物のように扱われた1日を思い出す。やはり、子供が入ってくるのがもの珍しいのだろう。
「直接、A氏を殺して、利益に繋がるような人物はいなかったようです。強いて言えば、財産を受け継ぐ奥方でしょうか?」
セルフィー・リュシフール(ea1333)が後ろに乗る。年の割にはジャイアント故に体重が重いシクルとでは、彼女のような小柄なエルフが精一杯なのだろう。
「あたしはね、こう思うんだ。
1.最初に被害者が使ったアイスコフィンにかかったのは、魔法による幻覚の蛇に見せたただの紐。
2.被害者は実は蛇が大嫌い。別の蛇に噛まれたのに気が付いてショック死してしまった。
3.被害者は実は心の臓が弱かった。
4.犯人は最初は悪戯のつもりだった。
駄目駄目だね。でも、実際エルフは体力無い人多いしね。それにこれだと、どうやって、A氏の部屋まで進入できたか説明がつかないし」
途方に暮れる彼女をよそに“殴りクレリック”ノリア・カサンドラ(ea1558)はランディ・マクファーレン(ea1702)の後ろに跨り早く行こうと催促する。
「此度の依頼、私には少々似つかわしくないな。
しかし、殺害の嫌疑を、同郷の騎士にも向けられたのだ。捨て置けぬ。
推理はジィ殿たちに任せる。
智慧に富むジィ殿ならば、若輩をまとめ解決の一手を見出すと、
私は信じている。楽団の捕縛は任されよ!」
アマツ・オオトリ(ea1842)は一同への信頼を露わにすると、一声叫んだ
「では、進発!」
パリに名だたる実力者と噂の端々に昇る、エル・サーディミスト(ea1743)が来たという事は別荘内を伝わり、その閃きに関係者は期待の色を隠せなかった。
「聞いた内容は、真相究明以外に使わないって約束しますっ。信用してもらえるか判らないけど‥‥聞かせてもらえませんか?」
聞き込みもスムーズに進み、幾つかの証言が得られた。
1.A氏は騒がしいことを嫌う、寧ろ神経質な性格だった。
2.奥方はA氏の死亡と、その残した財産の処分に困っている。
2.A氏はあまり使用人と接せず、主に執事を介して命令しており、同じくエルフの執事には信頼を寄せていた。
「本当に秘密にしてくれますよね」
とのメイドの言葉にエルは元気良く言葉を返す。
「もちろんっ!」
「あの、私、奥方と執事さんが指と指を絡ませ合っている所を見ているのです。執事さんは、奥方が手に傷を負ったので、手を見ていただけ、と」
「いいえ、結構重要な証言です」
(やはり、敷地内の誰かとつながりがあれば、スムーズに出入りが出来る。語り部を勤めていたというエルフ──その線で攻められないか)
あ、頭から紫色の煙が出そう、とエルは少し横になる事にした。
“炎の老格闘魔法使い”ジィ・ジ(ea3484)の脳裏では楽団には“殺害”には関係なし、と見なし、証拠となるべく、凶器探しに回った。執事やメイド達も協力してくれるが、らしいものはない。また、まだ暖かい頃ゆえ、暖炉に火が入れられた形跡もない。残るは炊事場だが、アッシュワードの魔法で灰から聞き出しても料理や水を沸かすのに使われたものばかりであった。
そして、ジィはひとつの結論に達した。
「ふぅむ、如何にこれが凶器の灰であると言ってもそれを立証できるのは同じく、アッシュワードを使えるウィザードだけですな。もっと、客観性を持った証拠を見つけなければ──」
ティーア・グラナート(ea4210)が悩むジィに対し、自分の聞き込んできた証言から何か、良い打開策が無いか、老人の知恵を借りに来ていた。
・楽団はこの別荘にまっしぐらに来た様です。
・A氏と奥方、使用人、について知っている事はないか? と聞いたが、別荘地ゆえ、それほど深いつきあいは無かった。
・A氏が死んだと思われるのは8時頃、別荘周辺で妙な影は特に見なかった。
・A氏を最後に見たのは、8時の教会の鐘が鳴ったとき、執事が寝室に送っていった。
・A氏と奥方の寝室は別。
・執事は、何か人の足音が寝室に向かっていたため、賊ではないか、と思ってそちらに向かった。すると扉は開けられていて、中ではA氏が死んでいた。
・周りの者に物音は聞こえなかったと聞いたら、何かを聞いたような気がする。ただし、良く判らない。
・A氏以外で執事の前に寝室へ入った人はいないが、執事は怪しい人影が向かっていったようだ、と証言している。
・執事が怪しい人物を探していた間、他の人も怪しい人物を捜していた。
・楽団員が魔法を使用したのは興業中である。
・興業の内容は剣舞、弾き語り、ジャグリングが主体であった。
「そこまで、良くお調べ頂きました。感謝の極みでございます」
首尾はどう? とエルも入ってくる。残念な事に頭から煙は吐かなかったようだ。
「それが少々興味深い事がありましてな」
ジィが瞳を輝かせ、グリュンヒルダ・ウィンダム(ea3677)がそれに対し、背理を持ってくる。
「主人が自殺の機会に一座が利用された、偶然や不測が『重なった』現象ではないか。つまりアベコベにみるわけですね」
執事が動物等でも怪しければ捕まえただろうとの事で確認したが、成果は出なかった。
寝室に凍ったものが入れられた可能性も薄い。
エルが聞き出した、これらを合わせると、たまたま、旅の楽団がこの別荘だけを目指してやってきて、押し返されそうになったが、口利きで入れられた。
「ところが、パーストで過去を見ていったところ、2メートルを越す3匹の蛇が──1匹は前方から、回り込んだ左右後方から1匹づつ噛みついていた光景が見えたのです。その時、前方の1匹はアイスコフィンで封じられ、残った2匹に噛まれたA氏は即死しました。その時、扉は開いていました。
‥‥わかってみれば単純な話のようなのですが、うちの姉なら1分で解決なんでしょうが、なかなか適材適所とはいかないものです」
と彼女は溜息をついた。
ノア・キャラット(ea4340)は手を叩いた。
「やはり、気になるのは傷口ですね‥‥ 実際に見てみないことにはと執事に頼み込み、現場に通してもらい、確かにこの私の知らない、おそらく蛇のものと思われる鱗を採取しました。そして、A氏の遺体も確認しましたが、間違いなく、牙の跡です。種類までは特定できませんが、このふたつは関連性があるのが妥当です。
そして、奥方、執事、コック、メイド3人に楽団が居た時の状況や、黄金の光や、銀色の光を確認した時の状況を確認しましたが、いずれも芸の最中だったとの返答でした。 芸が行われている時、唯一部屋から退出したのはA氏以外では執事だけだったそうです」
「ところで、パラの人。どうして? あなたの大きなサックからは3つも大型の生き物の反応があるのです? 大いなる父はいかなる小さな息吹も見逃しません」
楽団に合流したところで、シクルが生命体を感知する魔力を行使した瞬間、周囲の空気は変わった。
シクルと同年代とは思えぬ冷徹な表情で、パラが切り出した。
「そうだよ、僕が犯人だよ。もっとも、連れていこうとすれば、象をも殺す、キングコブラを3匹、僕も制御できないまま、離すけどね──おかしな動きをするな!」
そのままバックパックの紐に手をかけるパラ。
「犯人をムーンアローで当てるのは良くある手だから、混乱させようと殺しを2匹同時に行わせたけどね。その手は考えていなかったな」
「別荘から出た跡、執事の手引きで部屋に入り、魔法で姿を眩ませ──確か、陽の精霊魔法には己を透明にするものがあったと聞きます。犯行を、一匹コブラを氷に封じられたものの成功させ、執事の手引きで隠れ、隠れられない時は執事が調査をしている使用人に指示を出し、隠れ場所から離れさせ──最終的には別荘から再び透明化して逃げ出し、楽団に合流する──これが私たちの考え出したトリックの全貌です」
別荘にいる一同を部屋に集め、エル達が推理を披露する。
「執事様、この別荘の一切を取り仕切っているあなただから出来た犯行でございます──それに奥方とも親しい範疇を越えていらっしゃるとか?」
「そうよ。私はあんな魔法莫迦と一生を過ごすつもりはなかった。だから、サロンで聞いた、楽団に潜入する暗殺者を雇ったのよ。だから、最初から楽団はこの別荘だけを目標として、ここに訪れたのよ。あいつを殺すために。そして、十年位したら、何食わぬ顔で忠義を尽くしてくれた執事と結婚して、悠々自適の生活を送るつもりだったのよ。冒険者がこんなに頭がまわるとは思わなかったわ」
奥方が血を吐いた方がマシといった表情で、一同を見渡し、ジィが失礼ながらと、彼女と執事に縄を打ち、衛兵達に報せに向かう。
「はっ!」
バックパックが開かれ、午睡を破られたコブラが一匹飛び出してくる。
敢えて受けて立つ荒巻美影(ea1747)。全身の闘気を奮い立たせ、コブラの短い牙を完全にシャットアウトした。
続けて飛び出すコブラを楽団員のビザンチンのナイトが受け止める。
「やはり、同じ騎士、潔白を信じてたぞ」
アマツが叫ぶ中へ飛び込んだディアルト・ヘレス(ea2181)がクルスソードの柄でパラを失神させる。
体力のなさから昏倒するパラ。
ジャイアントのシャルク・ネネルザード(ea5384)はロープで縛り上げた後、水をかけて起こされたパラに尋ねる。
「蛇はアイスコフィンで凍らせちゃったんですよね。それなのにどうして咬まれちゃったんですか」
「見ての通り3匹だったからだ」
「凍った蛇はどこへ行ったんですか」
「融けるまで、放置した。どちらにしてもあの魔法を使うだろうというのは読んでいたから融けるのに必要な時間が経つまで執事が死体を発見しない段取りになっていた」
「楽団の人が犯人だとして、どうしてAさんは殺されないといけなかったんですか」
「金だ。決まっているだろう」
その言葉にシャルクは悲しげな顔をして、この歳から人の生死をアンバランスに見続けた少年に一献の涙を手向けた。
その一方、アマツはノリアに──。
「実は貴殿の勇名を聞き及び、ジャパンの友が是非、貴殿と手合わせしたい。そうシフール書簡で伝えてきてな。
名を巴 渓、熊殺しの二つ名を持つ女の武道家だ。
準備が出来次第、イギリス経由でこちらに来るという。
もし粗暴で暑苦しい華国人が闘いを挑んできたら、構わず殴り飛ばすがよい。
殺しても構わぬ。その程度で死ぬ程、可愛げのある女でもないのでな。
ふふふ……きっと、貴殿も気に入るだろうな。では、伝えたぞ?」
と言い置きパリの街へと羽を伸ばす。
パラへの判決は死刑となり、覆らず即日実行された。
これが事件の顛末である。